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第5話 挑戦、変わる勇気
第5話 挑戦、変わる勇気 P.18


……健斗は、黄色い袋ごと受け取ったスパイクをゴミ箱に捨てた……

俺にはこんなものはいらない……何故なら……俺は、すでにあるから……

健斗はとぼとぼと居間から出ていくと、母さんがふと健斗を見てきた

「あら、女の子は帰ったの〜?」

「……うん……」

健斗の元気のない声と後ろ姿に、母さんは首をかしげた

「元気ないわね〜……」


そのまま、健斗はゆっくりと階段をのぼろうとすると、ふと階段のところに誰かがいることに気が付いた

見ると、それは麗奈だった

健斗を見て、苦笑していた

健斗は何も言えず目を剃らすと、麗奈を通り越して、自分の部屋の中に入ろうとした

「け、健斗くん、あのさ――」

「うるせぇな」

健斗は振り返りもせず、自分の部屋の中に入っていく

すると麗奈は健斗の部屋に入ってこようとした

どうやら、麗奈は健斗と早川の会話を聞いていたようだった

「健斗くん。結衣ちゃんは――」

「うるせぇってっ!!部屋に入ってくんなよっ!!」

健斗がそう言い、ドアを麗奈の前でパタンと閉めた

麗奈はそのドアの前で、しばらく佇むと深くため息をついた






部屋に籠った健斗はそのままベッドにうつ伏せになった。もう何もかもがどうでもいい……

勝負のことなんて、どうだっていい……

目の前で見た初めて見た早川のあの冷たい瞳……完全に俺のことを嫌っていた

どうしてこうなったんだろう

健斗は目を瞑り、ゆっくりと思い出す

あのとき俺はただ……早川を守りたかったんだ

早川を助けたくって……つい……

そう自分では思ってた

けど素直になると、違うと思う……

あのとき、早川を守りたいとかそんなことを思うよりも……

早川が取られていくのが嫌だった

諦めようとした

早川の幸せを願おうとした

けどその想いは本当の想いじゃない

本当に好きだったから……この2年間……早川のことが……

だからさっき早川が、嬉しそうに松本絢斗のことを話してるのを見て……辛かった

早川を守りたいだの、そんな気持ちよりも……悔しかった……

あんなやつに取られるのが……すごく悔しかったんだ

だから分かってる

早川の言うとおりだ

俺は最低な人間だってことを……自分の好きな人の、想い人のことを悪く言う

それしか出来ない……卑怯な人間だってことくらい

だから早川に嫌われたのも仕方がないって思おう……

だけど……嫌われたくはない

素直になりたい……

健斗はケータイを手に持って、ゆっくりとメールをする


早川へとメールを送ろうとした


〈さっきはゴメン……俺が全部悪かったよ……スパイクありがとう……〉

健斗は一瞬躊躇ったが、すぐに送信ボタンを押した……

そして健斗はゆっくりと息を吐くと、ケータイを投げた

深くため息をついて、自分を戒めた



何をしてるんだ俺は……これじゃ、逆に嫌な男だって思われんじゃん

どう考えたって……ただ、ご機嫌を直そうとしてるだけ

もう訳が分かんねぇ……どうすりゃ……いいんだ……


健斗はうつ伏せながら早川に言われた最後の言葉を思い出した


『……山中くんなんか……大っ嫌い……』



時が経つにつれ、早川への想いが募っていく。早川の冷たい瞳が岩のように重い……

切ない……苦しかった……

どう表現したらいいかも分からない胸の中にある、嫌な感じ……

苦しい……息をするのも出来ない……

健斗は深くため息をついて、軽く泣きそうになっていた


と、するとだった


ケータイが鳴り響いた

健斗はすぐに起き上がって、ケータイを拾う

早川から……返事かなっ!?


健斗がケータイを開くと……


着信 大森麗奈



それを見て、健斗はがっかりした

早川じゃない……麗奈だ……

しかも何で?同じ家の中にいるのに、どうして電話をしてくるんだろう?

この壁の向こう側にいるのに……

健斗は深くため息をついてから、ゆっくりと電話に出た


「……もしもし」

健斗が言うと、電話の奥からかそれとも壁の向こう側からか、麗奈の声がした

「やっほ〜♪」

麗奈の意気揚々な声に健斗は苛つき、つい声を大きくした

「っんだよ……何で電話してくんだよ?話があんなら来ればいいだろ?」

「だって……入ってくるなって言ったの健斗くんじゃん」

健斗はそれを聞いて、深くため息をついた

「何か用?悪いけど切るぞ」

「……何イライラしてんの?」

健斗はそれを聞いて、カチンときた

「はっ?別にイラついてないし。バカにしてんのかよ」

すると麗奈の声がだんだん怒りを帯びているのが分かった

「イラついてんじゃん。バカになんかしてないよ」

「うっせぇっ!!イラついてねぇっつってんだろっ!!」

健斗が怒鳴ると、麗奈も健斗に負けずにと怒鳴ってきた

「はぁっ!?あのねぇ、結衣ちゃんに嫌われてイラついてんのは分かってるけど、人に八つ当たりしないでよっ!!そういうのって最っ低だよっ!!」

健斗はそれを聞いて、完全にキレた

「うるせぇっ!!!」

健斗が大きな声で怒鳴ると、麗奈はしばらく黙り込んだ……

健斗は息を荒らしていた

マジでむかついた

いきなり電話してきて人のことバカにしやがって……


すると、麗奈は何も言わずに……電話を切った


途切れた音をしばらく聞いて健斗はケータイを耳から離して、ケータイをまた投げた

イライラした……

そう、麗奈の言うとおりだった

早川に嫌われたのを、麗奈は知っている

麗奈は会話を訊いてたんだ

何を言おうとしてたのかは知らないけど……話を聞く気にはなれなかった

「クソッ……」

健斗はベッドを思いっきり殴り、下をうつ向いた……

時計の針の音だけがうるさく聞こえた……









それから何時間が経過しただろうか……しばらく経つと、頭が冷えてきた

気分が落ち着いてきた……健斗はチラッと時計を見ると、いつの間にか夜の11時半になっていた……

健斗はそれを見たあと、壁を見た

この壁の向こう側に……麗奈はいるんだ

頭を冷やしたから、今は冷静に考えることが出来る

それは早川に嫌われたという事実を、ちゃんと理解したとともに……麗奈に対して、悪いことをしたということにも気づいた

健斗は黙りながらゆっくりと窓から麗奈の部屋を見た

麗奈の部屋はまだ明かりがついている

窓も開いていた

「……麗奈」

呼んでみたが、返事は返ってこない

明かりをつけたまま寝てしまったのか……さすがにそれはないとは思うけど…


健斗は深くため息をついたあと、ゆっくりと投げたケータイを見た


本当に……麗奈に八つ当たりしたな……悪いことをした

だから……今のうちに謝っておきたかった

健斗はケータイをゆっくりと拾い、着信履歴を見た

そして麗奈に電話をかけてみる


プルルルルル……プルルルルル……プルルルルル……


するとだった

麗奈は電話に出てくれた

出てくれないのかと思ってたから、少し安心した

「もしもし……」

麗奈のやけに冷たい声が、健斗の耳に響いた

それは、早川と同じような感じだった

健斗はゆっくりと前を向いた

「……麗奈?」

「うん」

健斗はちょっと躊躇いながらも、ため息をついてから言った

「その……さっきはワリイ……八つ当たりしちゃって……本当に……ゴメン」

とりあえず健斗は謝ってみた

麗奈は何も言ってこなかった

「……ワリイ……嫌いになったよな、俺なんか……最低だもんな……じゃあ――」

健斗が電話を切ろうとしたとき、麗奈の笑い声が聞こえた

「気持ち、落ち着いた?」

「……え?」

麗奈の言葉に健斗は静かに耳を傾けた

「……分かってるから……何も言わなくていいよ?」

「……麗奈……」


たった麗奈の一言に、健斗は安心させられた

麗奈のたった一言に、健斗は少し心が救われた

健斗はゆっくりと微笑んだ

「……サンキュー」

「えへへ♪」

麗奈の可愛らしい笑い声に、健斗は胸をなでおろした

しばらく二人は黙り込んでいた

健斗も何を言ったらいいのか分からなくって、少し戸惑っていた

「結衣ちゃんに」

麗奈がふと言ってきた

「結衣ちゃんに何もらったの?」

「あ、あぁ……スパイク。と、脛当て」

「そっか。それ使って明日やるんだ」

健斗はそれをきいて少し笑った

「まさか。俺のは自分のがあるから……」

「スパイク、捨てたんじゃないの?」

健斗はそれを聞いて、ゆっくりと頷いた

「うん。“自分の”はな……」

麗奈は不思議そうな表情を浮かべているのか、何も言ってこなかった

「“翔の”が……まだあるから」

麗奈はそれを聞いて、「あっ」と言った

「……あの、古いスパイク?」

そう、麗奈もこの家にやってきた日に見た、あの古いスパイク……

それは翔が生前使っていた、大切なスパイクだった

健斗はそれを、大事に保管していた

今も、机の下にある……


健斗は麗奈にふと笑った

「ハハ。でも、それも使わないかも」

「……どうして?」

健斗はしばらく黙り込むと、ゆっくりと答えた

「……考えたんだけどさ……俺、あいつと勝負する意味なんてねぇよ」

健斗はため息をついたあと、続けた

「今日……早川の反応みて分かった……早川、本当にあいつのこと好きなんだぜ?」

健斗は無理するように笑って言った

「あいつ……とんでもないろくでなしだけどさ……早川があいつを好きなんだから……もういいよ。俺はただ……早川が取られるのが嫌だっただけ……あの子を守りたいとか、そんなの……そんなには思ってなんかいないよ……」


胸の中の想いを麗奈に話す

麗奈は何も言わなかった

何も言ってはこなかった

呆れているのか?


けど健斗は少し期待をしていた。自分でも気付かず、麗奈に優しい言葉をかけてもらえることに……

「……そっか」

健斗は麗奈の一声を聞いて、ちょっと困った

「そっか……ってそんだけかよ」

「え?だって健斗くんがそう思うんなら、別にいいんじゃない?」

健斗は何も言い返せなかった


「大体さ、明日やる勝負事態が……くだらないもん。健斗くんがそう思うんなら、別にいいんじゃない?」

健斗は深くため息をついた

しばらく沈黙が続く……麗奈のあっさりとした答えに、何も言えなかった

「……ただ、健斗くんがそれで本当に納得出来るんならね」

「……え……」

突然、麗奈がふとそういってきて、健斗はまた耳を傾けた

「結衣ちゃんが松本さんのことが好きなのと同じように、健斗も本当に好きなんでしょ?結衣ちゃんのこと」

麗奈はそういうと、笑ってきた

「だったら、それで本当に納得出来るわけないよね?」

健斗は何も言えなかった……麗奈の言葉が、凄く重かった

「……もっとワガママになっていいんだよ?」

麗奈は静かにそう言ってきた。健斗はそれに、反応して、麗奈の言葉一つ一つを聞いていた

「ワガママになっていいんだよ?好きな人を奪ってやるって思うことが、最低なことかな?」

健斗はそれを聞いて、しばらく考えた

好きな人を……奪いたい

そう、本当の気持ちは……松本絢斗から早川を奪いたかった

でもそれは早川に対して、よくない行為だから……早川の幸せを願おうと思った

「俺は……翔のこと……」

「そんなこと関係ないよ」

麗奈はゆっくりと続けた

「そんなこと関係ない……健斗くんは考え過ぎだよ……気持ちは分かるけど」

「……考え過ぎかな……」

麗奈は多分頷いたんだろうと思う

静かに言ってきた

「翔くんを健斗くんのせいで死んじゃったってのは、本当かもしれないけど……だからって健斗くんが遠慮することはないと思う」

「けど……俺はやっぱり、忘れられないよ」

健斗がそう言うと、麗奈はまたしばらく黙り込んだ

「俺、分かんねぇよ……色んなこと考えちゃって……そんな簡単に……見切りつけられねぇよ」

健斗は深くため息をついた

「俺は……ヒーローじゃないし。本当は、サッカーなんて……今出来るかも分かんねぇよ」

健斗は少し涙声になっている自分に気が付いた

なんとか抑えようとした

「怖いんだよ……全部が……」

健斗は静かにに続けた

もう一つ胸に秘めていた想い……

「サッカーなんて……出来ねぇよ……ボールに触っただけで……翔のこと思い出しちゃって……本当に怖いんだ。足が震えて……そんな簡単に行かねぇよ……」

そう

もう一つ胸に秘めていた想いとは……

未だにサッカーが怖いということだった

サッカーをやると、ボールに触れると……翔を思い出して、足が震える

それは決して、軽いものじゃない

あの、あのときの哀しい気持ちが恐ろしい……怖いのだ

色んな不安を思い出す……大袈裟なのかもしれないけど……怖いんだ

「松本絢斗と勝負なんか出来ねぇよ……早川にも嫌われたくねぇよ……全部が……全部が怖い……」


ギュッと目を瞑り、ケータイを握り締めていた

何もかもが怖かった

あのときの早川の冷たい瞳……翔を殺してしまったという罪悪感……松本絢斗と勝負して、早川が傷つくこと……早川が、松本絢斗に取られること……サッカーのトラウマ……

怖かった……

全部が全部……

何もかもが……

だから、冷静にはいられなかった

だから、早川に思い立った行動をしてしまった

麗奈が、奪ってやろうとする気持ちが最低だとは思わないと言ってくれた

でも健斗は、早川の気持ちを一度引き裂いたことがある

それを考えると、やっぱり自分は罪悪感を感じる

そんな自分に怖くなる……

分からない……わからなかった……


どうすればいい?

見切りをつけられない自分……忘れられない自分……弱い自分……情けない自分……

こんな自分を……









「じゃあ……健斗くんが変わればいいんだよ」

麗奈がふとそう言ってきて健斗は目を開いて、ゆっくりと聞いた

変わる?

俺が……変わる?

「健斗くんが、変わればいいんじゃない?」

「か、簡単に言うなよ……」

「簡単じゃないよ」

麗奈の言葉を、健斗はよく理解できなかった

「顔とか髪とか体型とか、そういう表面は簡単に変われるけど……“自身”を変えるのは簡単じゃないよ?」

「……何が言いたいんだよ。意味が分かんねぇ」

「健斗くんが“自身”を変えればいいんじゃないかってこと」

それがよくわからなかった……ただ、健斗は麗奈にため息をつくとゆっくりと言った

「けど……やっぱり怖くて……無理だよ。俺には出来ねぇよ」

健斗がそういうと麗奈は静かに笑ってきた

「そうだね。不安で怖いのは分かってる」

そして麗奈は、ゆっくりと……健斗に語りかけるように言ってきた



「変わるために必要なのは、やっぱり“勇気”……なんじゃないかな」



変わるために必要なのは……

それは……

健斗は理解ができなかった……勇気?
勇気って……何だろう……

覚悟のことだろうか……勇気とは何だ?

健斗は何も言い返せなかった

それは麗奈の言葉をよく理解出来ないからでもあり、勇気とは何なのか……分からかったから

健斗は何も言い返せなかった

すると麗奈はゆっくりと笑っていた

「健斗くんには、まだ勇気が足りないだけだよ」

「……そんな、綺麗事みたいのなんて聞きたくねぇよ」

そう麗奈の言ってることは全部綺麗事だと思う

ドラマや映画の主人公のようとは違う

これは現実だ

勇気とか、実感なんか湧かなかった

「……そっか……ふぁぁぁぁ〜」

麗奈が大きな欠伸をしてきた

「まっ、私が言いたいのはここまでだから……私眠いから寝るね?お休み〜」

「えっ?お、おいちょっとま――」
すると麗奈は本当に電話を切りやがった

健斗は切れた通信音をしばらく聞いていた

そしてダランと腕を下ろすとゆっくりとケータイを机の上に置いた

変わるために必要なのは……勇気?

勇気って……何だよ……

理解が出来ない

そんなドラマみたいなこと言われたって

健斗は時計に目をやると、すでに12時を回っていた

健斗はゆっくりと電気を消して、うつ伏せになった

麗奈と話した内容……そして早川の冷たい瞳……明日のことを考えながら、眠りに落ちた……



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