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第5話 挑戦、変わる勇気
第5話 挑戦、変わる勇気 P.17


「……それって本当の話?」

健斗が話し終わったあと、佐藤やヒロ……そして麗奈は驚いてるような表情を浮かべていた

それと同時に3人から哀しい雰囲気が漂ってきた

健斗はゆっくりと頷き、それ以上は何も言えなかった

「……ちょっと……びっくりだよね?あの松本さんが……」

一番ショックを受けているのは、佐藤と麗奈かもしれない。一番の友達……大好きな友達の想いを踏みにじられていると知って、どんなに怒りを感じているのだろうか?

それに麗奈は告白をされ、さらにそれを巡るような行いをされてるなんて、考えもしてなかっただろう

だから、健斗は麗奈の様子が気になっていた……

「ゴメン……麗奈……俺、こうなるなんて思ってなかったから」

麗奈は下をうつ向いたまま、何も答えなかった

その様子が健斗の心を痛めた

「お前が嫌なら、俺勝負しないからっ……勝手過ぎるよな」

麗奈は何も悪くないのに、勝手に天秤をかけられようとしている

するとヒロがふぅっとため息をついてきた

「でもさ、麗奈ちゃんがあの野郎のこと気にしなければいいんじゃない?」

確かにその通りだろう……でも……

「いや、それでも問題ないんだろうけど。勝負の目的は、俺を麗奈から手を引く……つ〜か、距離を置かせることだと思う……だから、俺が負けて、あいつの言うとおりにしたら、あいつ最低な野郎だから、麗奈にどんなことしてくんのか分かんないし……」

それでこそ、麗奈を危ない目に合わせたりしたらどうしよう……

「だから……麗奈……ワリイな……勝手に変なこと、しそうでさ」

麗奈はふと、顔を上げて健斗を見て不思議そうな表情を浮かべた

「私っ?私なんかどうでもいいよっ」

突然麗奈がそう言ってきて、健斗たちはキョトンとした

「私なんかより……結衣ちゃんだよ……」

と言ったあと、麗奈はギュッと唇を噛み締めた

「あの人に告白されたときね、私……冗談だったのかな〜って、あまり気にしてなかったんだよね?でもさ」

麗奈は悲しそうな表情を浮かべながら、ゆっくりとため息をついた

「もし、あの人が酷いこと言ってたって結衣ちゃんが知ったら……あの人が……私を本当に狙ってきてるって知ったら……結衣ちゃん、どんな顔をすんだろ……?」

健斗はそれを聞いて、しばらく黙り込んでいた

そうだ……麗奈が一番怖いのは

そこなんだよな

もし、恋愛対象が自分だということを知ったら、早川はどう思うのだろうか?

答えは分かっていた

そして、松本絢斗があんな酷いことを言ってたと知ったら……

どちらにしても、深く傷つくと思う

だから、だから……迷っていた


「……結衣ちゃんに……嫌われちゃったら……」

麗奈がそんなこと言ってきて、健斗は胸が痛んだ

そんな寂しいこと……言わないで欲しかった……


「……麗奈ちゃん」

佐藤が下をうつ向いてる麗奈の手をそっと握った

「大丈夫だよ。結衣が麗奈ちゃんを嫌うなんて……絶対ないよ?」

「マナ……」

「心配しなくって大丈夫だよ。結衣、嫉妬とかで人を恨むような人じゃないでしょ?」

佐藤の優しい言葉に、麗奈は嬉しそうに笑ってゆっくりと頷いた

その光景を見て、ヒロが笑いながら言ってきた

「女の友情って、いいもんだな」

その言葉に、健斗はふと笑いながらゆっくりと頷いた

麗奈の不安がよく分かる

それがきっと、一番怖いんだろうってことも……

そんな麗奈を優しく気遣う佐藤は、すごく魅力があった

「……しかしなぁ〜……サッカー対決か」

ヒロは深くため息をつきながら、健斗に言ってきた

健斗は何も言えなかった……ヒロと麗奈は分かってるんだろうけど……

「ある意味で、最高で最悪な対決方法だな……」

ヒロがそんなことを言うと、佐藤が不思議そうな表情を浮かべた

「どうして?山中くんも中学のときサッカーやってたんでしょ?勝てるよきっと」

佐藤がそんなことを言ってきて健斗は静かに微笑み返した

「アホォ。そんな上手くいかねぇんだよ」

ヒロの言葉に、佐藤は不思議そうに首をかしげた

「お前……サッカー出来んのか?」

ヒロのさりげない一言に、健斗は内心かなり来ていた

……何も言い返せなかった

心臓が高鳴った……

――ドクン


「だ……」

健斗は思いっきり笑った

「大丈夫だよ。全然余裕。俺自信あっから」

健斗の表情を見て、ヒロは頭を掻いてため息をついた

「ま……あまり深く考えなくってもいっか。お前だって、どっちかってぇと、巻き込まれた方だもんな」

健斗は苦笑した

「けどさ」

ヒロが真剣な眼差しを浮かべて、健斗に言ってきた

「問題はやっぱり、早川だよな」

ヒロの言葉に、健斗、麗奈、佐藤はゆっくりと頷いた

健斗は頷くと、ヒロを見た

「麗奈ちゃんも、健斗も佐藤も……みんな辛い気にはなってんのは同じだけど、やっぱり一番傷つくのは早川だよ」

「……うん」

その通りだと思った

だって……明日には全て松本絢斗の本性が知れて、好意を抱いていた早川は失恋とともに、松本絢斗に対して深い落胆を感じるだろう……

精神的にどんなに辛いか……健斗はそれを考えると唇を噛み締めた

「遅かれ早かれ……早川には辛い現実が待ってるんだから……だったら、いっそのこと今早川にも全部話すってのも、一つの手だぞ?健斗」


ヒロの言葉に健斗はまた心臓が高鳴った

全てヒロの言う通りだと思った

……どうすれば……早川が一番傷つかないで済むのか……


………


「……何か……真中が急に真剣な顔すると気持ち悪いね」

佐藤が苦笑しながら言うと、ヒロはカチンときたらしい

「んだと〜っ!?俺だってなぁ〜?たまにはシリアスモード全開のときだってあんだよっ!!」

健斗は二人のやりとりを見て、可笑しさを感じて笑った

「……サンキュー二人とも」

健斗が言うと、ヒロと佐藤はゆっくりと健斗を見た

「みんなに話して、ちょっと気が楽になったよ」

「……そっか」

健斗は3人に笑いかけた

「俺、家に帰ったら、ちょっと色々と考えてみるよ」

健斗がそう言うと、ヒロたちはゆっくりと頷いた……

健斗はそれだけ言うと、ゆっくりとため息をつくと、空を見上げた

梅雨明けはまだまだ先の方になりそうだった











家に帰って、健斗は自分の部屋で深くため息をつきながら景色を眺めていた

結局、何も解決しない

考えても考えても……どうすりゃいいのかわからなかった

ヒロの言う通り、今日先に早川に言うべきか……そしたらきっと、すごくショックを受けると思う

けど、前もって松本絢斗を諦めてもらうことで……後々の辛い感じが減る……

けど結局は、傷つくのは同じ

何とかして、早川を傷つけさせない方法はないだろうか……

健斗は景色を見るのを止めて、ベッドに寝転がる

天井を見ながら、健斗は自分の右手を見た

あのときの早川の温もり……

すごく暖かくって、すごく心地よかった

柔らかい手が、健斗の手と重なるように……健斗の心に触れるように握ってくれた

そして健斗の不安を気遣うように悔しさいっぱいの荷物を下ろしてくれるように、優しい言葉をそっとかけてくれた



『……大丈夫だよ……大丈夫だから……山中くんは、いつもの山中くんでいればいいんだよ?優しくて……でも、意地っ張りで……いつもの山中くんでいてくれればいいから……泣きたいときは、いっぱい泣いて?』



……あの優しい言葉が、脳裏に焼き付いている

あんなに優しくて可愛いくて……あんな素晴らしい子を俺は、傷つけたくない



そんなことを考えているとだった

突然ドアがノックされて、健斗は上体を起こした

また麗奈か?と思ったら、母さんがドアを開けてきた

「健斗。あんたのお友達が来たわよ?」

それを聞いて、健斗は不思議そうな表情を浮かべた

「……友達?」

すると母さんはニヤニヤした表情になり、オバサン笑いをした

「可愛い女の子よ〜♪あんたもやるわねぇ〜?麗奈ちゃんがいるってのに……オホホ〜♪」

……可愛い女の子?

まさか……とは思って、健斗はゆっくりと部屋を出て一階へと向かった

玄関を覗き込むように見てみると、健斗は胸が高鳴った

そこには早川が、健斗を待って立っていた

どうして……しかも夜に……

こんなタイミングに……

健斗はちょっと戸惑ってからゆっくりと早川の元に歩いた

すると健斗に気が付いた早川は、にっこりと微笑んできた

「山中くん、こんばんわ。ゴメンなさい、こんな夜に……」

健斗もゆっくりと笑って言った

「いや……全然平気。えっと……麗奈、じゃないんだよね?」

健斗が訊くと、早川はゆっくりと頷いた

「うん。今日も山中くんに用があって……私松本さんから聞いたんだけど、山中くん、明日サッカー部の入部テストやるんでしょ?」

「えっ?」

健斗はちょっと戸惑ってからふと頭の中で整理した。そうか……あの野郎……早川にはそう言っておいたのか……

健斗はそれを聞いて少し胸が痛んだ

ゆっくりと頷くと、さらに胸が痛んだ

早川を騙しているようで、すごく嫌だった……

でもそれは……早川のためにもなるのか……

何故あいつは正直に早川に話さないのか……

それは早川に自分のイメージを崩させないため……さらに怒りが湧いてきた

「あのね、それで私……松本さんからこれ預かってきたの」

と言って早川は黄色いビニール袋に入った何かを健斗に渡してきた。健斗はそれを受け取ると、ゆっくりと確認した

それを見たとき、健斗はさらに怒りが湧いてきた

「……スパイクと……脛当て一式……」

それは健斗をバカにしてるのか……それとも挑戦状なのか……健斗にはそう感じた

スパイクなんか渡してきやがって……あの野郎……

「……どうかした?」

早川が心配するように健斗の顔を覗き込むように言ってきた

健斗はそれを見ると少し戸惑った

「ああ、ううん。わざわざサンキュー早川」

健斗がそう言うと早川はにっこりと微笑んだ

「よかったね?山中くんならきっと受かるよ。ただ松本さん、全力でやるから覚悟しろ〜って言ってたよ?」

と言いながら、早川はクスクスと笑った

健斗は複雑な気持ちで笑えなかった

覚悟……か……

「松本さん、いい人でしょ?前委員会でね、山中くんのこと話したら、山中くんのこと結構気に入ったみたいなの。だから頑張ってね?」

健斗はゆっくりと頷いた

「松本さん……きっと山中くんも気に入ると思うよ?だって凄く優しくってね、頼りがいもあるし……サッカー部のキャプテンなんだもん。だから山中くん絶対受かってね!私応援してるから」

健斗はそれを聞いてる最中、何も言えなかった……辛かった……また涙が溢れそうになって……早川が見られなかった

何も知らない早川が、可哀想だった

ある一つの想いが頭の中を巡っている……


「……サンキュー……明日……頑張るから……」

健斗がそう言うと、早川はにっこりと笑って頷いた

「じゃあ、私帰るね?明日頑張ってね?お邪魔しました」

と言って帰ろうとする早川……健斗はそれを見て……咄嗟に、身体が動いてしまった

早川の、細くて白い腕を……健斗は掴んだ

早川は振り返り、驚きの表情を浮かべて健斗を見ていた

少し頬を赤らめている……

「や、山中くん?」

健斗は黙って、腕を離しはしなかった

「どうしたの?」

驚きと困惑で早川は戸惑っていた。健斗はゆっくりと……呟くように言った

「……そんなに……好き?」

「……え?」

健斗は早川の顔が見れなかった。だから、そのまま続けた

「あいつのこと……そんなに好きなの?……諦められない?」

「……山中くん?」

早川は真剣な表情になって、健斗を見つめた

そして、早川を傷つけたくない一心で……早川を助けたい一心で……早川にとっては、怒りを感じるようなことを言ってしまった……

「あいつのこと……好きになっても……いいことなんて何もないよ……」

「……何……言ってるの?」

健斗は声量をあげた

「あいつを好きになっちゃダメだっ!!あいつは……あいつは早川なんて……」

「やめて……っ!!」

健斗が言いかけている途中に、早川がそう言ってきた

健斗はそれを聞いてビクッとして、早川を見た

早川は、健斗を睨み付けるように見ていた

「どうして……どうして山中くんがそんなこと言えるの?山中くんはあの人のこと何も知らないくせに……あの人のことを酷く言わないでっ!!」

早川の怒鳴り声に、健斗は気押されていた

「な、何も知らないのは早川なんだって!!あいつは早川のことなんて、何とも思ってないんだよっ!!あいつは早川を――」

「やめてよっ!!」

健斗はまた黙り込んでしまった

早川の目には涙が浮かんでいた

それは健斗を憎むような目だった

健斗を見損なったような……早川らしくない……冷たい瞳だった……


「……酷いよ山中くん……山中くんって、そういう人だったんだ……」

心が痛んだ……

どうして?

どうして俺が……俺はただ……早川を……

「俺は……ただ……」

「離してっ!!」

早川は健斗の手を振りほどき、健斗を冷たい目で睨み付けた

「山中くん何か……大っ嫌い……」



血の気が引いていった……早川に……早川に言われた冷たい……響き……

健斗は何も言い返せず、早川を見つめていた

早川はそう言うと、健斗から離れ、走って家の戸を開けて帰ってしまった

健斗は一人、玄関で呆然とたたずんでいた……何も考えることができなかった……

何も考えたくなかった……


大嫌い……


そう

嫌われてしまった……

早川に、冷たい瞳で睨まれ……俺は……


どうして?


どうしてこうなるんだ……

俺はただ……


ただ……



早川を……守りたいだけなのに……



健斗は怒りを感じることもできなかった……

ただ目の前に感じた早川の冷たい怒り……

そして喪失感を……一人感じていた




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