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今回も番外編です

テーマはタイトルに書いてある通り、父と息子の間にある確かな絆です

どうぞご覧ください

番外編
~父と息子~

埃が気管に入って思わず咽せる。まさかここまで汚れているとは思わなかった。確か最後に掃除したのは二年前……久しぶりにこのがたついた戸を開けると、そのタイミングを見計らうように埃が舞った

渡されたマスクをつけて、山中健斗やまなかけんとは家の裏にある普段まったく使わない倉の中に立ち入った

カビ臭く、辺りを見回すと蜘蛛の巣があちらこちらで張っている

これは酷い……何故こんな風になるまでほっておいたのか、母さんの面倒臭がりの結果がこれだ

挙げ句の果てに自分の子供に倉の掃除を押しつけるなんて……

もうすぐ夏休みも終わる。また新しい季節の始まりが、風の僅かな温度の差で健斗はそれを感じ取っていた

とは言ってもまだまだ暑い。残暑が苦しいこの季節に、倉の掃除とは肉体的、精神的にも辛い

しかし母親の権力には逆らえず、ぼやきながらもこういう状態にいるわけだ

この木造の倉は使わなくなった物や古い物が置かれている。言わば物置のようなものだ。以前麗奈がこの家に来るまでは現麗奈の部屋も物置として利用していたのだが、麗奈の部屋にするためにそこに置いてあった物も全てこの倉にしまったという

まず思うのは、最初から整理しとけばいいのだ。面倒臭がって後回しにするから、後が大変になる

しかもその処理を押しつけられるのは健斗なのだ

――納得いかない

しかしいつまでも愚痴っている場合ではない、多少時間がかかるだろうが、日が暮れるまでには終わらしたい

さて、何から手をつけようか……

「ヤダッ!もう埃がすっごいっ!」

健斗の後ろで目を瞑って咳き込んでいるのは、山中家の居候の身である大森麗奈おおもりれいな。能天気のネコ型娘、自己中でトラブルメーカー。でも名前の通り、その美麗は他と比べると圧倒的な差を見せつけるくらいの可愛さ。黙っていれば可愛いのに、性格に問題ありだ

「だからマスクしろっつったろ」

後ろを振り向いて呆れるように麗奈に言った。麗奈は舞う埃を手で払いながら、涙目で健斗を見る

「こんなに酷いなんて……ケホッケホッ……思わなかったんだもん」

「自業自得だナ」

「うるさいっ。第一何で私まで手伝わなきゃなんないのよ」

さっきから麗奈はそのことばっか言ってくる。健斗はため息をついた

「一つ」

人差し指で一と示す

「ここに置いてある物はお前の部屋から移した物がある。今その部屋を使ってるお前が倉の整理を手伝うのは当然の理です」

「う……」

「二つ、母さんはこの家で食わしてもらって育ててもらってるその恩を返せって言った。それはお前も同じ。だから手伝う」

「…………」

「で、もう一つは……」

「……もう一つは?」

健斗はニヤリと笑みを浮かべた

「道連れ」

「は?」

「俺が大変な目にあってるのに、お前だけのんびり家で寛いでるのも癪だからな」

そう言って踵を返すと、麗奈に背を向けて再び歩きだす。後ろで麗奈は悔しそうに地団駄を踏んだ

「何それっ!結局巻き込みたいからってこと?」

「さっきからそう言ってる」

――なんてヤツだっ!

麗奈の心の声が聞こえたような気がした。案の定、麗奈がむっとしながら健斗の足を蹴ってきた

「いたっ。何すんだよ」

「別に〜」

「にゃろ〜……」

つんっとした態度でそっぽを向く麗奈。そんな麗奈を見て舌打ちをする

こういうとこがこいつのムカつくとこだ

「それよりも、どうするの?どこから片づける?」

そう訊かれて健斗は少しの間考える素振りを見せた

「そうだな。まず大きな物から出していこう。いらない物といる物を区別してな」

「判断出来ないよ」

「明らかにもう使えなさそうなやつばっかだから大丈夫。もし分かんなかったら俺に聞け」

「分かった」

「あと軍手するの忘れんなよ。怪我するからな」

「はーい」

「マスクもな」

「分かってるよぉ」


本当に分かってるのだろうか……こいつが素直に返事をしたときは決まって何かをやらかす、と健斗はそう思っていた

麗奈は軍手、マスクをしっかりと着用した。そして……案の定……

「だぁっ!バカッ!大きいもんから運べっつったろっ!」







力を合わせたおかげで随分と大きな物を運び出すことが出来た

今はようやく一人で抱えるくらいの大きさの荷物を運んでいる最中だった

「……何これ?」

梯子に登って上の棚を整理しているときだった。麗奈が何やら埃被った冊子のようなものを見つけた

興味本位でそれを手に持って埃を手で払う。表紙を見てみると、何なのか分からない生物の絵や花、顔のある太陽やら書いてある

そして、よく見てみると題名が書いてある……

【平成○年度神乃崎幼稚園第11年期】

「アルバム?幼稚園の」

麗奈はそれが何なのか理解をして、ニヤリと笑った。そして下で頑張ってる健斗を見た

そしてそのアルバムを開くと……中には幼い顔立ちをした子供たちの写真。屈託のない笑顔で写っている

「ねぇ、健斗くん」

「ん〜?」

「これなぁ〜んだ?」

健斗にそれを示す。健斗は眉をひそめてそれを凝視した

「……知らん。捨てれば?」

「え〜?捨てちゃうの?じゃあ私もらってもいい?」

「いいんじゃない?」

健斗は全く興味なさそうに欠伸をして、再び作業に取りかかった。どうやらこれが何なのか理解していないようだ

面白くないから……もうちょっとだけ意地悪してやろう

麗奈はニヤニヤしながらページをめくった。神乃崎幼稚園の児童数はどうやらかなり少ないみたいだ。色が二つしかない……

桃色と水色だ

麗奈が通っていた幼稚園は色が五つもあったのに……何だか不思議だ

だが、そのおかげで健斗がどこにいるのかがすぐ分かる……

…………いた

今の姿からは想像もつかないくらい屈託のなく無邪気な笑顔で写っている。頬がふっくらとして、可愛い♪

「へー。健斗くんって小さいときこんなんなんだぁ。可愛い♪」

「あ?」

ようやく健斗がそれに興味を持ち始めた。麗奈は可笑しくなって笑った

麗奈はさらにページをめくっていくと、今度は遠足などの写真が写っている

健斗は写っているかと探してみると……いた

仲良さそうに三人組でカメラに向かってピースをしている。バックには連なる山がある

真ん中に写っているのが健斗。その右ではしゃいで写っているのが……恐らくヒロだ。眼鏡をかけていないが、顔の輪郭が変わっていない

そして左に写っている。短髪で見た感じ悪戯っ子なイメージがある。真っ白い歯を光らせて思いっきり笑っている

健斗とヒロは被っている帽子は水色なのに、この子だけ桃色だ。もしかしてこの子が……

「お前何見てんだよっ!」

健斗が顔を赤くして、麗奈に叫ぶ。どうやら今麗奈が何を見ているのか分かったようだ

麗奈は悪戯気に舌をチロッと出した

「健斗くんの幼稚園のアルバムー」

「やっぱり。見るなバカッ!」

健斗が下で梯子を揺らす。とことん妨害したいみたいだ。麗奈は梯子に捕まってバランスをとる

「ちょっ……やぁっ!み、見ないから、揺らさないでよー」

とてもアルバムなんか見ている状態ではない。麗奈はゆっくりと梯子を降りた







大体の荷物を倉から出して、ちょっと休憩を取ることにした。いつものように二人並んで縁側に座って、冷たいお茶と水羊羹を堪能していた

けど麗奈はそんなものよりも見つけたアルバムに見入っていた

健斗は隣で不機嫌そうにしながら水羊羹をパクリと口に運ぶ

「ったく……そんなもんどこで見つけたんだか……」

「ねぇ、何だか子供少なくない?色が二つしかない」

色が二つでも、一つの色の子供の数は十人も満たない。いろなんか分ける必要がないようにも見える

「そりゃそうだろ」

「私が通ってた幼稚園は色が五つあったよ?」

健斗は麗奈からそれを聞くと驚いたかのように目を見開いた

「そんなに?東京はすごいな」

「そのときは横浜でした」

「あ、そう……」

「ねぇ、何で?」
健斗は水羊羹を噛みながら冷たいお茶を啜る

「ん~……前にも言った通り、過疎化が原因なんじゃない?」

「過疎化?」

「あぁ。特に十年前なんか子供どころか人口そのものが減少してた時期だって、父さんが言ってたなぁ」

「へぇ」

「それからここ十年間、人口は少しずつ増えているよ神乃崎は。家みたいに郷戻りをする世代が増えたみたい」

まぁ、それでもやっぱり人は少ない方なんだけどな

と健斗は付け加えて言った

「……ねぇ、この子ってもしかして」

麗奈はあの三人組の写真の左の子を指し示した。健斗はそれを見るとしばらくそれをじっと見てから、苦笑いをした

「うん……それ、翔だよ」
やっぱり……

「翔とは地域のサッカークラブで知り合ったんだ。その写真は多分、そんぐらいのときだよ」

翔と同じ幼稚園だと知ったのは地域のサッカークラブに翔が入ってきたときだった

何故だか分からないが、いつの間にかそのときから健斗、翔、ヒロの三人組でいっしょにいるようになっていた

「そっかぁ……アルバムはまだ残ってたんだな」

「どういうこと?」

麗奈が不思議そうに聞いた。すると健斗はしばらく空を仰いだ

健斗が話すのを麗奈は少しの間待った

「……小学校と中学校のアルバムは、もうない」

「え?何で?」

「燃やしたから」

健斗の言葉を聞いて麗奈は胸の中を針で刺されたような感覚を覚えた

翔が死んでから数日後、閉じこもりがちになっていた健斗はアルバムや写真を全てかき集めて、全て燃やして埋めた

思い出を残すのが辛かったからである。翔が写っている写真を見ると、罪悪感に苛まれて気がおかしくなりそうになった

だから無くしたかった。全てを無かったことにしたかったのだ

けどそれは無駄なことだった。思い出は消えることない。色褪せることない。頭の中に、心の中に鮮明に残っている。それがすごく残酷なことだった……

ふと空を見上げると、掌に暖かな温もりを感じた。横を見ると、麗奈が健斗の掌の上に自分の手を重ねていた。アルバムを抱き、じっと前を見ている

「何だよ」

健斗は可笑しそうに笑った

「……ごめん」

何に対してのごめんだったのだろうか。麗奈自身も分からなかった。ただ、何だかその言葉がすっと口から出た

健斗はちょっと驚いていたが、やがてクスッと笑う。麗奈はそれを見ると心の中に安堵感が宿り、手をすっと引いた。そして再びアルバムを開いた


ページを捲るとまたもや興味深い項目が目に入った

【将来の夢】とかかれたページ。将来の夢について作文を書いたのだ

麗奈は気になって健斗の作文を探した

「健斗くんの将来の夢は何かなぁ~」

捲って捲って……名前のところに見つけた。ぐちゃぐちゃな文字だが、確かに平仮名で【やまなかけんと】と書いてある。タイトルは【ぼくのゆめ】

ここでまた麗奈は可笑しそうに吹き出した。やまなかけんとの【や】の文字が崩れているし、【の】の文字に至っては逆だ

「健斗くん平仮名書けなかったんだね」

可笑しくなって次第に腹を抱えて笑い出す。健斗は照れくさそうに「うるせー」とぼやいた

汚くてぐちゃぐちゃな文字……だけどなんとか読み取ることが出来る




ぼくにはゆめがあります。それはぼくのだいすきなサッカープレイヤーになることです。

「今思えばサッカープレイヤーって普通になれるんだよな。サッカーやればプレイヤーなんだから」

と言って健斗は可笑しそうに笑った。恐らくそのときにどこかで【プレイヤー】という言葉を聞いたのだ

それをプロの選手という意味と勘違いして調子こいて書いてしまったのだろう




でもぼくはただのサッカープレイヤーにはなりたくありません。ぼくはだれにもなれないサッカープレイヤーになりたいです。


「へ~……格好いいじゃん。誰にもなれないようなサッカー選手?」

麗奈は茶化すように健斗に言った。健斗は照れくさそうに鼻先をポリポリと掻いた

「多分それ……父さんの影響だよ。確かね……」

「お父さんの?」

健斗は小さく頷いた。そして呑気に冷たいお茶をすする







健斗が本格的にサッカーを始めたのは幼稚園卒業してからだ

それまでは地域のサッカークラブで4歳のときから混じって遊んでいたに過ぎない

だが、健斗は小さいときからサッカーが大好きだった

へたっぴだったけどボールに触れて、ボールを追いかけることが好きだった

環境が環境だということもあるけどゲームや漫画などより、そっちの方が好きだった

でも5歳のある日ふとしたきっかけで変わった

ある日の夕食。テレビでJリーグ戦を見ていた

健斗はご飯を食べながら、テレビに食い入るように見る。ある選手の姿が、健斗にきっかけを与えた


日本代表、中田英寿なかたひでとし。背番号7番をつけた青い勇姿に幼い健斗の心は奪われた

圧倒的な差を見せつけるテクニカル、そしてダイナミックなプレー。健斗はそんな中田英寿に憧れを抱くようになった

それがきっかけで健斗はサッカーに対する気持ちが変わった

僅か5歳の少年だったが、その心には火が灯ったのだ

――いつか僕も、中田英寿のようにあの場所に立つんだ


でもまだ当時の健斗は本格的にサッカーをすることを許してもらえなかった

たった一個上の人は本格的にサッカークラブで指導してもらってるのに、自分は混じれない

当然邪魔になってしまうからだ……たった一個しか年の差は離れていないのに……






「でも俺、やっぱり本格的にサッカーやりたくってさ。近くの公園でいっつもボール蹴ってた。でも何やればいいのか分かんなかったんだよな……とりあえず壁に向かってボール蹴ってただけでさ」




そんな幼い健斗の心境の変化に気がついたのが、父さんだった

サッカー番組を食い入るように見たり、毎日公園でボールを蹴っている。そんな健斗を見て感じたのだという


ある日、父さんが仕事から帰ってきた。健斗はその日たまたまやっていた日本代表のサッカーの試合を見ていたときだった

『健斗』

呼びかけると、父さんはビジネスバッグから何かを取り出した

『これ、やってみるか』

それはサッカー初心者のための本だった。イラストや写真、漫画などで健斗の年でもどんな練習をすればいいのか分かる、基礎的なメニューが書かれている本だった

もちろん、健斗はそれをもらったとき……テレビそっちのけで飛び跳ねるくらい嬉しかった


それから休みの日とか、その本に書いてあることを懸命になって練習した

そしてその傍らに父さんがいた

インサイドキックの蹴り方を自らやって見せた。父さんはサッカーをやったことないから、健斗と同様サッカー初心者だったけど、同じようにサッカーの本を見て、それを覚えて健斗に教えてくれた

インサイドキックで何回も父さんとパスをした。ボールの止め方などの練習も付き合ってくれた

端から見ればそんなもの、ただの子供の遊びに過ぎなかったのだが、健斗は真剣そのものだった。だから父さんも真剣に健斗に付き合ってくれた


一番最初にサッカーを教えてくれたのは……父さんだったのだ


父さんがいるから、ちょっと暗くなっても付き合ってくれて、帰りは自転車に乗せてもらった

そしてその日練習が終わって日が沈みかけていた夕暮れ、父さんの後ろにしがみついて自転車に乗っていたときに父さんが言ってきた

『健斗は大きくなったら何になりたいんだ?』

健斗は迷うことなく言った

『ぼくねぇ、大きくなったらサッカー選手になるんだ。中田みたいなスーパープレイヤーになりたいの』

『ほぉ~。そりゃ大したもんだ~』

『うんっ!ねぇお父さん、僕、中田みたいになれるかなぁ?』

健斗は父さんがすぐに【健斗ならなれるさ】と言ってくれるのを期待していた

だけど父さんは健斗が思ったのとは違うことを言った

『どうだろ?父さんには分からないよ』

『僕……なれない?』

やっぱりいくら頑張っても中田のようになるのは無理なのか。父さんに否定されたみたいで幼い健斗は少しショックだった

『分からない。父さんは健斗じゃないんだ。なれるかなれないかはお前にしか分からないよ』

よく分からなくって健斗は首を傾げた

『でもな……父さんは中田みたいになるんじゃなくて、自分だけっていうサッカー選手になって欲しい』

父さんはそう言ってからさらに続けたい


『誰にもなることのできないようなサッカー選手になって欲しい』


ちょっとまだ難しいか、と父さんは自嘲気味に笑った


確かにちょっと難しくて健斗には分かりにくいという部分があった。だけど、その本質の意味は幼い健斗にも……なんとなく分かることが出来た

『うんっ!ちょっと分かるような気がする』

『そっか』







「だからそんときに思ったんだよなぁ。誰かみたいになろうとするんじゃなくって、誰にもなれない俺は俺だって……まぁ、ちょっと上手く言えないんだけど……そんな感じかな?」

麗奈は健斗の話を静かに聞いていた。照れくさそうに笑う健斗のその表情に、何故か幼いころの健斗を見た。純粋にサッカーを好きでいれたあの頃の健斗を……

麗奈は再びアルバムに目を落とす

汚くてぐちゃぐちゃな文字だが、その文字にははっきりとした意志が込められているような気がした

それから麗奈は空を見上げる

「いいなぁ……」

「え?」

麗奈はそう呟くと小さく笑った

「何だか親子なんだなぁって……そんな思い出があるなんて、何だか素敵」

「そ、そんな大袈裟なもんじゃねぇよ」

健斗は照れくさそうにそっぽ向いた。麗奈はそんな健斗の仕草を見てクスッと笑った。それからちょっと寂しそうにため息をついた

「私も、お父さんとそんな思い出があったらいいのにな。あるのはお母さんとのばっかだ」

そんな麗奈の言葉が健斗の胸の中に響いた。麗奈のお父さんの達也は仕事が忙しくって、幼いころの麗奈に構ってあげることが出来なかったのかもしれない

こんな風に寂しく笑う麗奈の頭を健斗はポンッと叩くと立ち上がった

「じゃあこれから作ればいいんだよ」

「え?」

立ち上がって、麗奈を見る。麗奈は不思議そうな顔を浮かべていた

「これから。お前のお父さんとそういう思い出をつくっていけよ。ただ……本音で語り合っていけばいいんだから」

健斗は言ってから何だか照れくさくなって、わざとらしく背中を伸ばした

「さぁってっ!休憩はおしまいっ!日が暮れる前には終わらせるぞ」

そう言って倉の方に歩き出す。麗奈はしばらく健斗のことを見つめた

これから作っていけばいい……か……

その言葉が胸に響く。健斗らしい言い方だ

でも……本当にそのとおりだと思う

麗奈は胸の中に暖かい何かを感じた。嬉しそうにアルバムをギュッと抱きしめる。空を仰げば、心地よい晴天の空だった




その夜……

「健斗~!ちょっと来てくれっ~」

胡座をかいている父さんが健斗を呼ぶと、居間に健斗が入ってきた

麗奈は母さんの夕飯の片付けの手伝いをしていた

「何?」

いつもの白いTシャツに半ズボン姿の父さんに訊ねる。父さんはため息をつきながら、目を細めて肩を自分で叩いた

「ちょっと肩揉んでくれんか?」

「いいよ。いくらで?」

「時給10円」

「安すぎる」

「嫌なら今日の出張先で買ってきた土産やらんからな」

「にゃろ~……」

健斗は渋々言うと父さんの背中に回って、その肩を掴み、ゆっくりともみほぐしていく。気持ちよさそうに父さんは大きな息を吐く

「おぉ……おぉ……気持ちいいぞ~」

大人ではない健斗には分からない、その気持ちよさ。だが、今日の健斗だって倉の整理で疲れているのだ……風呂に入ったら疲れなんて吹っ飛んだけど

「……お前、手のひらでかくなったなぁ」

「父さんは肩が凝ってきたね」

「もう年だからなぁ。そろそろ定年かな」

「まだそんな年じゃないでしょ……っと」

健斗がより力を加えて、肩を揉みほぐしていく。髪の毛は随分白髪が増えたようだ。そしてその後ろ姿は何だか以前より小さくなった……だけど……


やっぱり……何だか適わないなぁ……


「……あんま無理すんなよ……」

「ん?何か言ったか?」

「な、何でもないっ」


そんな光景を麗奈はお皿をかたしながら見ていた。最後に言った健斗の言葉も、麗奈はちゃんと聞き取っていた。クスッと笑った

意地張っちゃって……


でも何だかこうして見ると……



やっぱり二人は……親子なんだなぁって思う……



End




ありがとうございました

この物語を書こうと思ったのは、とあるCMを見たのがきっかけでした

そのCMの内容が何だか昔の自分の思い出とそっくりだったので、昔を思い出しながら今回の話を書きました


そう、今回の~父と息子~の物語は思いっきりまんまで、僕の父さんに言われたことを書いています

誰かになりたい、誰かになろうとする

そんな目標、願望は当然素晴らしいこと……

だけど父さんが教えてくれたのは……

誰にもなれない自分になることだと、そう教えてくれました

今でもそのとおりだと思っています

そして仕事から帰ってきて疲れている父さんは、最近白髪が増えました。見る背中も、何だか幼いときに感じていた頃よりちっぽけに見えてしまう……

でもそれでも、やはり父さんは父さんでいつまで経っての一生追い越すことの出来ない、大きな存在なのかもしれません


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