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第5話 挑戦、変わる勇気
第5話 挑戦、変わる勇気 P.11


……次に目の前がはっきり見えたのは……見慣れた天井だった

そして、頬に激しい激痛と、さらにもっと辛い激痛が腹に感じて、頭がガンガンして、身体が熱かった……

「……つっ……」

苦しくって息を荒くしていた。ここはどこだろう?俺は寝ているのか?

でもどこで……健斗はゆっくりと起き上がろうとしたが、まったく身体が動かなかった

骨が折れてるわけじゃないけど……身体が自由に聞かなかった

と、するとだった

「山中くん」

ふとあの大好きで甘い優しい声に、健斗は耳を傾けた

「山中くん……」

ふと呼ばれて、健斗はゆっくりと声のする方を見た

そこには……早川が深刻な表情を浮かべて健斗を見ていた

早川が……何で?

健斗は軽く咳をした

寒い……


「大丈夫?寒い?」

と言いながら、早川は健斗にゆっくりと布団を直してくれた

「ゲホッ……早川?」

早川はゆっくりと微笑むとほっとするように胸を撫で下ろした

「よかった……大丈夫山中くん」

健斗は頷けず、また天井を見上げた

頭がぼーっとしていた

「ここ……どこ?」

健斗が静かにそう言うと、早川は静かに行言った

「山中くんのお家。山中くん、中庭の草むらで倒れてたんだよ?」

健斗はそれを聞いて、何も言わなかった……そうだった……

あの松本絢斗に、暴行を受けて……それから記憶がなかった

そしてここは、紛れもなく健斗の部屋だった

やっと頭が回ってきた

「お医者さんの話だと、山中くん……激痛による軽いショック状態になってたって。それに長時間雨に濡れてたから、風邪もこじらしちゃったって」

「……そっ……か……ゲホッ……ゲホッ……」

健斗が咳をすると、早川はゆっくりと背中を擦ってくれた

「大丈夫?今、麗奈ちゃんが暖かいもの作ってるから……」

「うん……ありがとう……」

確かに……熱っぽい……今はそっちの方が辛かった

頬にはまだ痛みを感じるけど、丁寧にガーゼで処置されていた。お腹にも多分包帯が巻かれている。それにしても、おなかが本当に痛い……

「あのね、おなかのことなんだけど。内臓は平気……ただ……」

早川は少し戸惑ったような表情を見せた

「強い衝撃を受けて、内臓の一部が少し内出血しててしばらくは痛みがとれないって。でも、安静にしてれば平気らしいから」

「……そっか……ありがとう」

すると自分の胸の中から、小さな電子音が聞こえた

どうやら体温計のようだった

健斗はゆっくりと手を動かしてその体温計を取り出した

「貸して」

早川は健斗から体温計を受け取ると、ゆっくりとそれを確認した

「……38℃3分か……熱あるね……」

「そっか……」
「寒くない?」

「あぁ……平気……ありがとう」

健斗はふぅっと息を吐くと目を閉じた

それと同時に頭の中に浮かんでくるのは、あの松本絢斗の憎たらしい顔だった

何が早川の幸せだよ……何が……何が……

悔しかった……大好きな早川の想いを踏みにじったやつを……何も出来ずにボコボコにされて、こうやって早川の看病を受けてるなんて……

情けなくって悔しくて……自分が嫌になった

「……早川……」

「ん?」

「ゴメン……」

健斗がそう言ったのを、早川はクスクスと笑いながら言った

「謝らないでよ。別に気にしてないから」

と言って、健斗の額に乗せている濡れタオルを取って、もう一度冷やしまた健斗の額の上に乗せた

「ゴメン……」

「大丈夫だって。これくらい気にしないで」

けど、健斗は謝った

「ゴメン……俺……ゴメン……」

「山中くん?」

「ゴメン……俺……俺……」

健斗は次第に悔しくって涙が溢れてきた

見せたくない涙だった。だから健斗は早川に見られぬよう、寝返りをうった。本当に悔しかったんだ……何もできなかった。謝らせることさえもできなかった……

俺は……弱い……

早川をバカにするやつが、あそこにいるのに……何も出来ないなんて……

「……ゴベン……エッグ……クソッ……クソッ……」

必死に涙を堪えようとしたけど、あふれでてくる感情を抑えることはできなかった……

悔しかった

すると泣いている健斗を見て、早川はふと優しい笑顔になるとゆっくりと健斗の右手を握ってきた

「……大丈夫だよ……大丈夫だから……山中くんは、いつもの山中くんでいればいいんだよ?優しくて……けど意地っ張りで……いつもの山中くんにいてくれればいいから……泣きたいときは、いっぱい泣いて?」

早川は理由を聞こうとはしなかった……けど健斗に諭すようにそう言ってくれた

すごく嬉しくって溢れる涙が止まらなかった

ありがとうが言いきれない……本当に嬉しくて、悔しい気持ちがさらに溢れでてきた

こんなに優しくて、可愛くて、素晴らしい女の子をバカにするあいつが……すごく憎かった……

こんなに優しいのに……

どうしてあんなことが言えたのか……わからなかった……

「……グスッ……ありがとう……」

健斗は涙を見せたくなかったから、早川とは違う方向を向いたままだった

するとだった……


「……健斗く〜ん!?生きてますかぁ〜!?」
この深刻な雰囲気に現れた魔の女の子……

健斗はゆっくりと振り返った

するとそんな健斗を見た麗奈は可笑しそうに笑いながら言ってきた

「あれ〜?男の子が女の子の前で泣いてるんだ?情けないなぁ〜……」

「……ヒッグ……うるせぇ……ヒッグ……」

麗奈の憎まれ口に健斗は苛立ち、絶対涙を止めてやろうとした

「でも結構ピンピンしてるね?はい、店長特製のミルクティー♪飲むと元気になれるよ?」

健斗は頑張って起き上がるとそれを静かに受け取った

「サンキュ……」

健斗はゆっくりとそれを口につけ、少しずつ飲み始めた……確かに美味い

ほんのちょっとだったけど、元気が湧いてきた

そんな健斗を見ると、早川はゆっくりと立ち上がって微笑みながら言ってきた

「じゃあ〜、私そろそろ帰るね?」

早川がそう言うと、麗奈は残念そうな表情を浮かべた

「え〜……もっといてくれてもいいんだよ?紅茶飲む?」

すると早川はゆっくりと首を横に振った

「ううん。山中くんも病気だし……また今度来るよ」

そういうと早川はにっこりと健斗に微笑みかけた

「じゃあ、早く元気になってね?」

健斗もその笑顔に癒されるかのように、にっこりと微笑んだ

「あ……あぁ。ありがとう早川……また今度」

そう笑うと早川はゆっくりと部屋から出ていった。麗奈もその見送りに、部屋を出ていった

一人になった健斗は、ふぅっとため息をつくと……ミルクティーを口にした

早川……本当に優しくっていい子だよなぁ……

あんな良い子なのに……どうしてあんな風に酷いことが言えるのだろうか?

でも健斗は早川にかけてもらった優しい言葉で幸せな気分だった

俺はいつもの俺でいろ……か……

くぅ〜……本当に優しい!!マジで大好きだわ!!

しかも看病までしてもらって……この濡れタオルも優しく置いてもらったし……

しかもしかも……手まで握ってもらっちゃった!!

健斗はその温もりを思い出すとはしゃぎたくなってしまった

その度に腹に激痛が走ったから、動けないけど

健斗は自分の傍に置いてあったケータイを取った

時間は4時ちょっと過ぎ……そしてメールが2件……

健斗はメールを見ると、それはヒロと佐藤からだった


ヒロ――生きてるか?

佐藤――山中くん、大丈夫?(汗)(汗)


二人とも、スゲーいい友達だと思う

たった1行で一言だったけど、健斗にとっては充分嬉しかった

返事を返そうかと思ったけど、でもあとででいいや

健斗はゆっくりとケータイを置くと、ミルクティーを飲む

するとだった

またドアが開き、麗奈が入ってきた

「麗奈……早川は?」

麗奈に訊くと、麗奈は沈んだ声で答えた

「帰ったよ……」

「……そっか……あ、悪かったな?心配……かけて……なんか色々大変だったみたいだな……」

けど麗奈は何も答えなかった。健斗の傍で静かに座ると、ただ黙り込んでいた

いつの間にか麗奈は服も着替えている

……俺は?

健斗は自分の恰好を見てみた

着替えてる……誰が?着替えさせた……

健斗はすこし嫌な予感がして、麗奈に恐る恐る訊いてみた

「あ……あのさ、俺……着替えてるんだけど……誰が着替えさせてくれた?」

麗奈はしばらく黙り込んでいた。その沈黙が、健斗の嫌な予感を増幅させた

「ま、まさか……お前?じゃなくて……は、ははは……早……」

「ヒロくんが……手伝ってくれた。頭や顔も……」

健斗はそれを聞いて、ほっとした

そっかヒロが……めちゃくちゃ安心した

迷惑かけちゃったなぁ……あとで電話入れとくか……

「そっか……ならいいや……サンキューな」

健斗はそう言うとミルクティーをまた口に入れた

が、何だか麗奈の様子が可笑しかった

ずっと落ち込んだように黙り込んで、さっきまでの元気良さがまったく無くなっていた

「……麗奈?」

「……もしかして……健斗くん倒れてたのって……こういうことを予測してたから?」

「……は?」

麗奈はうつ向いたまま怒鳴るように言ってきた

「あんなところでバカみたいに倒れててっ!!怪我して風邪引いてっ!!全部、みんなを騒がせたかったからっ!?」

「……な、何言ってんだよ……そんなわけないじゃん……」

久しぶりに見た、麗奈の怒った口調……でもどうして怒っているのかがまったくわからなかった……

「だったらっ!!さっきまで結衣ちゃんとイチャイチャしてっ!!それがしたかったから、こうなること予測してっ……あんなところでバカみたいに倒れてたんでしょっ!!」

「はっ!?おい……ふざけるのもいい加減にしろよ」

健斗は手にもったカップを置いて、今度は麗奈に対して怒りを感じていた

「誰が好き好んであんなところで倒れるかよ……訳分かんねぇよ……」

「だってっ!!今はこうして元気だし……結衣ちゃんとイチャイチャしたかったんでしょっ!!」

「ちげぇよバカッ!!何訳の分かんねぇ言いがかりつけてんだよっ!!そんなにムカつくなら、俺のことほっとけばよかっただろっ!!大体俺はなぁ――」

するとだった

突然麗奈が、立ち上がって飛び込むように健斗のことを抱きしめてきた

またもや突然の出来事に健斗はしばらく思考が止まった

「……えっ……お、おい……」

健斗は戸惑いながらも、顔を赤くして麗奈を見た

麗奈は腕を首の後ろに回して、この前より大胆に抱きしめてきた

何が何だか分からなくって……それでも気持ちが高鳴って……どうすればいいのかわからなかった

「れ、麗奈?」

「……ほっとけるわけないじゃんっ……」

「え……?」

麗奈は泣いていた

涙を流して、嗚咽をもらして、本当に泣いていた

「すごく……心配したんだからっ……健斗くんが倒れてて……すごく……すごく怖かったんだからっ……」

「……麗奈……」

麗奈は震える手で、さらに健斗を強く抱きしめてきた

「……本当に怖かったんだよ……健斗くん……運ばれてるときも……全然動かなかったから……だから私……」

麗奈のさっきの妙なハイテンション……あれは、不安や心配が一気に無くなって、強がっていたということが分かった

「私……健斗くんが……いなくなっちゃうような気がして……すごく……すごく怖かったんだからっ……」

胸の高鳴りがおさまらなかった

ダメだ……この感じ……麗奈は……ただの家族……

そう……ただの家族なんだから……

でも……でも俺……


泣いている麗奈を、健斗は……ゆっくりと抱きしめ返した

胸が締め付けられる思いだった……


麗奈の狭い肩に触れ……柔らかい髪を抱き……静かに抱きしめ返した

「……ゴメン……」

麗奈に対して出てきた第一声は、この言葉だった

謝りながら、健斗は強く麗奈を抱きしめ返した

「ゴメン麗奈……心配かけて……本当にゴメン……ゴメンな」

麗奈はずっと泣いていた。そんな麗奈がすごく愛しく思えた

早川とは違う妙な感覚……何だろう……この感じ……

ただ、ずっとこうしていたかった……麗奈の温もりを感じたいから……こうやって抱きしめていたかった

すると麗奈は、ゆっくりと顔を上げて健斗を見つめた

「……もう……二度と……こんな心配……かけないでね……」

クチャクチャになった麗奈の泣き顔は必死に強くみせようとしていた

そんな麗奈が素直に可愛いと思えたんだ……

本当に可愛いくて、すごく愛しくかった……

健斗は微笑みながらゆっくりと頷いた

「うん……約束するから……」

またギュッと抱きしめてあげた

麗奈がこんなに心配してくれることが素直に嬉しかった……

本当に嬉しくって……

麗奈もしばらくの間嬉しそうに健斗に身を預けていた

頬を赤く染めて、健斗の温もりを感じるように……健斗の胸に顔を埋めていた


しばらくこうしていたら、麗奈がふとクスッ笑ってきた

「健斗くん……苦しい……」

健斗はそう言われて、ゆっくりと麗奈を離した

恥ずかしそうにすぐに麗奈からプイッと目を剃らした

そんな健斗を見た麗奈はまたクスッと笑うと、ゆっくりと立ち上がった

「食欲ある?何か……作ろっか?」

健斗にそう言ってきて、健斗はゆっくりと頷いた

「あ……うん……」

「じゃあ……」

麗奈も顔を赤らめながら、ゆっくりと部屋から出ていった

麗奈が出ていったあと、健斗は気が抜けたように息を吐くとまたベッドに寝た

まだ、麗奈を抱きしめてしまった感覚が残っていた

麗奈に感じてしまったあの想いは……消えてはなかった

家族以上の関係になってしまいそうだった……

危なかった……



ふと天井を見ながら、松本絢斗のことを思い出した

麗奈を狙っている松本絢斗……

このとき健斗は……素直に麗奈をあんなやつに取られたくない……

そして、早川に謝らせたい……

後悔をするよりも、そっちへの思いが強くなっていた




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