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AV専門店『希望』  作者: 満腹太
第一章 運命を追え
7/18

第六話 銀行強盗を追え

る水曜日の午後――


AV専門店『希望』が定休日の日、長谷川と小室は朝から買い物に出かけていた。


小室は長谷川との外出で機嫌が良かった。


午前中はウィンドショッピング中心で2人で仲良く昼食を取った。


昼食時に長谷川の引き落とし専用口座に振り込みをする事を思い出した小室は近くの銀行に向かった。


長谷川はその銀行の混雑さから小室と一時別れ銀行の向かいにある本屋にむかった。


長谷川が立ち読みしていると銀行の方が騒がしくなった。




長谷川と別れた小室は銀行の椅子に座り順番が来るのを置かれていた雑誌を読みながら待っていた。


バァーン


不意に銀行内に響く銃声


「キャ――!!」


「うるせえ!さっさと金を出せ!!」


小室が見たのは窓口の女性に銃を突き付けている覆面の男だった。


ジリリリリリリリリリリリ…


誰かが非常ボタンを押したのか大きな音が鳴り響いた。


小室は周囲を見渡すと覆面の男がまだ何人かいて客に向けて銃を突き付けていた。


「これに金を入れろ!!」


窓口の女性にカバンを投げつけた強盗は隣の窓口の前で立っていた女子高校生の腕を掴み強引に引き寄せた。


「キャ!!」


強盗は女子校生の後ろから頭に銃を突き付けながら窓口の女性に金を入れるのを急がせた。


窓口の女性は震える腕で鞄に札束を入れ、半分ほど入った所で外から無数のサイレンの音が聞こえてきた。


「おい!急げ!!」


銀行の入口付近で見張っていた強盗の1人が中にいる仲間を急がせた。


「ッチ!!」


窓口にいた強盗はお金を入れた鞄を掴むと外に向かって走り出した。


その時、鞄を抱えていた強盗がバランスを崩して倒れた。


「クソ!」


強盗が振り返った先には先ほどの女子高生が立っていた。


彼女の足が偶然引っかかった為、転んでしまったのだ。


その時、銀行の外から幾つかの銃声が聞こえ、外に逃げた強盗の仲間たちが引き返してきた。


「外は囲まれてる!!」


「クソ!こうなったら!!」


「まて、こっちには人質がいるんだ!警察は突入なんてするはずない!」


強盗団は上手く逃げるつもりだったのか失敗した今になって相談を開始した。


「おい、まずは立てこもる準備だ!男と年より子供は邪魔だ!解放だ!おら!さっさとシャッターを下ろすんだ!!」


強盗団のリーダーが指示を出すと強盗団のメンバーはそれぞれ動き出した。


強盗団のリーダーは瞬間的に考えた。


人質に男がいた場合、強盗団の隙を突いて中から制圧される可能性がある。


人質に子供がいた場合、うるさいガキに気を取られて何かミスをする可能性がある。


人質に年よりがいた場合、何らかの持病を持っていて急変し死亡した場合に後味が悪い。


そう考えたリーダーは、直ぐに実行したにすぎなかった。


強盗団は一度降り切ったシャッターを少しだけ上げ、若い女性以外を解放した。


また、強盗団のリーダーは人質がどこの誰か直ぐに判るようにと人質になった女性達の名前、住所を書いたメモを解放した人質の1人へ渡した。


人質から解放された男からメモを渡された警察は直ぐに署長へと連絡した。


人質になっているのは5人


山城 由実子


大木 香織


横田 奈々子


榎本 すみれ


小室 秀美


山城、大木、横田は銀行の行員で榎本は銃を頭に突き付けられたり、強盗に足が掛かったしていた女子高校生だった。


5人の人質は銀行のカウンターの奥、周囲を机で囲まれた場所に一か所にいるように指示された。


「これからどうなるんだろう…」


「大丈夫、絶対に助かるから」


「う…うぅ…」


「ほら泣かないで、すぐに警察が助けに来てくれるから」


不安で青い顔をした山城と横田、泣いている大木を高校生の榎本が励ましていた。


横田は不安な顔をしていたが、なんとか平静を保っていた。


小室は必ず助けが来ると信じて待っていた。




人質の名前を確認した警察官は直ぐに署長に携帯電話で連絡を取った。


「署長!榎本署長の娘さんが!!人質の中に!」


『なにぃ!!直ぐに現場に向かう!!」


小太りで背の低い榎本署長は書き掛けの書類を投げ飛ばし、現場である銀行に急いだ。


現場に到着した署長は拡声器で犯人の説得を行った。


『バカな事は止めるんだ。今なら出来るだけ減刑出来るように手を打とう。早く投降しなさい。』


『貴方達の両親は悲しんでるぞ。こんなことして稼いだお金で家族が喜ぶと思っているのか?』


など、使い古された言葉で説得をするも犯人からの応答は一切なかった。


署長の犯人説得と同時に人質の家族に連絡を取った。


それぞれの家族が心配しながら現場に到着すると、大型の警察車両のバスがあり、中で待たされることになった。


山城、大木、横田は両親が、榎本は母親が、小室は両親が既に死んでおり、たった一人の姉妹もフランスで働いていた。


そこで、関係者という事で同居人、他人から見れば同棲相手の長谷川も警察車両のバスに案内された。


バスの中で数時間待った家族達は心配疲れで眠ってしまう者もいた。


そして、静かに車両の扉が開くと榎本警察署長が入ってきた。


「大変お待たせしました。現在の状況を説明します。」


銀行強盗発生からすでに9時間が経過し、辺りは暗闇に包まれていた。


「犯人グループは最低でも5人。すでに電話回線は切られていて拡声器で説得を続けています。銀行周辺んはすでに警察で包囲し、万が一の為の救急車、消防車も待機済みです。」


榎本の説明は続いた。


「明日の7時に指揮権は本庁に移ります。おそらく突入の為の前処置だと思います。」


「そんな!」


「娘は!娘はどうなるんだ!?」


「早く娘を助けて下さい!!」


人質の家族がそれぞれに言うが榎本署長は反論したかったが耐えていた。


「…私の娘も中にいるんです。助けたいのは私も同じです。今は状況が硬直しています。相手の出方や中の状況が分かれば…」


榎本署長は悔しそうに涙を堪えながら言った。


「…それなら、『なんでも屋』は?」


50代の男性、大木の父親が提案した。


「『なんでも屋』か…、どこにいるかもわからないが、探してみようか…」


署長の呟きにこたえる人がいた。


「あ、知ってますよ。『なんでも屋』の場所。」


そう答えたのは20代の若い男性だった。


「それなら、すぐに連れて行ってくれ!今直ぐに!」


署長は男性をパトカーに強引に乗せるとサイレンを鳴らしながらAV専門店『希望』へと向かった。




「ここに『なんでも屋』がいるのか…」


署長はパトカーを駐車場に止めマンションを見上げた。


マンションの入口の掲示板には1枚の張り紙があった。


『201号室 AV専門店『希望』朝11時からオープン!! 水曜定休日』


と大きな文字でシンプルに書かれていた。


「この店です。」


男性は署長が見ていた紙を指さした。


「フン!アダルト専門店か、不埒な!」


署長は顔を顰めながら先を行く男性の後ろをついて行った。


階段を昇り2階の1部屋目


そこにAV専門店『希望』がある。


扉には可愛い子猫や子犬の写真があり、最近では小室の提案で動物の人形も仕入れていた。


普段なら『開店中』の看板があるが、今日は水曜日で定休日だった為、裏返しの『準備中』の表示になっていた。


看板には「御用なら携帯に」と携帯番号が書かれていた。


「番号は…」


署長が電話を掛けると後ろにいた男性の携帯電話が鳴った。


「もしもし」


男性は後ろ向きになり携帯に出た。


『もしもし』


「あー、私は警察署の署長の榎本だ。『なんでも屋』で間違いないか?」


『…ええ、間違いありません。』


「頼みたい事がある。」


『あー、今ちょっと人と会っているんですが…」


「そんな事よりこっちの用件が重要だ!!」


『…わかりました。』


電話の男はそう言うと電話が切れた。


その時、署長の後ろにいた男に肩を叩かれた。


「榎本署長。ようこそ、なんでも屋『希望』へ。部屋の模様替えの手伝いからホストのヘルプまで何でもしますよ。」


榎本署長を案内したのが、長谷川だった。


「な!き、貴様!!」


「あー、申し訳ありません。ここでは何ですから中で話を聞きましょう。」


長谷川はドアを開けると署長を事務所に案内した。


「署長、こちらへ。」


長谷川は署長を連れ事務所で話を聞き始めた。


「わかっていると思うが、銀行の中の情報が欲しい。」


「はい。」


長谷川が事務所に置かれているパソコンの電源を入れ暫く操作すると銀行内にある監視カメラの映像が映った。


「こ、これは!」


「あー、依頼された通りの現在立て籠り事件が起きている現場のライブ映像です。あ、警察には秘密でお願いします。って、警察署長でしたね。」


そこには床に座らされた5人と囲むように椅子に座っている3人が映し出されていた。


別の監視カメラの映像に切り替えると1人は少しだけ開いているシャッターの脇で外を伺っている1人、2階への階段を監視しているのが1名。


それぞれの手には散弾銃のような両手持ちの銃が握られていた。


「う~む。これなら突入の…いや、しかし、人質の安全が最優先か…」


署長は長谷川の冗談を聞き流し何やら考えこんだ。


「…何でも屋なら、この状況で人質を助けることは出来ると思うか?」


署長は長谷川に訪ねた。


「そうですね。警察官の人数、作業効率、作戦伝導率、また、動作能力知を考慮して…。犯人全員無傷での確保なら人質に死者がでる可能性があります。人質を無傷で助けるなら犯人に死者がでる可能性があります。人質、犯人とも無事に終わらせるなら…」


「終わらせるなら?」


「…そうですね、自分なら可能ですね。」


「ほう…警察よりも自分が優秀と言いたいのかね?」


署長は睨みつけるように長谷川を見た。


「違います。警察は犯人にも怪我人が出た場合、いろいろ問題が起きますよね?きっとそれで上手く動けない状況があると思うんですよ。自分ならそんな状況でも人命最優先で動けますし、署長さえ目を瞑ってもらえれば人質に怪我なく救えます。」


「…そうか、それなら頼む!人質全員を無事に助けてほしい!!」


「その依頼、確かに承りました。」



深夜3時


長谷川は黒い服と黒いマスクをして銀行の壁をよじ登っていた。


銀行の隣のビルとの間は3メートルほどあるが、銀行側の壁は滑りやすい素材を使い凹凸のない登れない壁になっていた。


そこをゴキブリのように登る黒服の男、長谷川である。


超電導ジェネレーターを起動した彼の体から水蒸気と蒼い光のスパークを発しながら壁に指を強引に突き刺しながら登って行っていた。


3階のトイレの小窓が開いていたので長谷川はその窓から滑り込むように内部に侵入した。


音もなく床に降り立ち周囲を警戒するが、誰も長谷川の存在に気が付いていなかった。


長谷川はそこで監視カメラにアクセスし、強盗のいる場所を確認した。


人質のそばに2人、外への出入口付近に1人、2階の仮眠室に2人。


いや、仮眠室の男が1人、部屋から出てトイレに入った。


長谷川は気配を殺しながら男が入ったトイレに向かった。


トイレに入ると男は個室に入っていた。


長谷川は男が個室の扉を開いて出てきた瞬間、眼前の覆面男に驚くその男の口を手で塞ぎ腹を殴って気絶させた。


その倒れた男の両手を持っていたロープで後ろ側で拘束し、口を着ていた服で塞いだ。


長谷川が次に向かったのは仮眠室で寝ていた男だった。


ドアをゆっくり開き中を窺うと寝息が聞こえた。


長谷川はゆっくり中に入り男に近づき顔を覗くと、男の目が開いた。


「お、おまえ!!」


長谷川はつい寝ている男の顎を殴ってしまった。


殴った瞬間、拳に伝わったのは何かが砕ける感触だった。


ハッと気が付いた長谷川が男を見ると口と顎から血を流し気絶していた。


長谷川は男を拘束し1階へと向かった。


1階には3人の強盗がいた。


それぞれには散弾銃が握られ人質に向けられていた。


長谷川は階段のそばで監視カメラの映像を見て1階の様子を伺っていた。


それぞれが動く気配は無く時間はすでに朝の4時近くになっていた。


(このままだと太陽が上がるな…。やるなら今のうちか…)


長谷川は動かない状況に一石を投じた。


まずは周囲から銀行を照らしているスポットライトの電源と建物内の電源、シャッターの操作パネルを掌握した。


長谷川は呼吸を整え、考えていた策を実行に移した。


壁を叩きドンと音を上げた。


「!!」


「おい!」


「上にはあいつらが…」


強盗は誰も場所を動かなかった。


長谷川はもう一度壁をたたいた。


「おい、今の…」


「ちょっと見て来る。」


「ああ、気をつけろよ。」


長谷川の予想通り、人質を見ていた2人のうち1人が長谷川が潜む階段に歩いてきた。


強盗が階段まであと2メートルという所で建物内の防火シャッターが降り警察のスポットライトが消えた。


「!!」


「な、なんだ!」


「くそ!!」


3人の強盗は一瞬だが人質からシャッターの方へと気を取られた。


その瞬間、建物の電気が消えた。


長谷川は真っ暗になった店内で視界を熱量センサーに切り替え階段に近づいていた男の銃を軽く掴み殴り飛ばした。


男は床を滑るように飛ばされ、長谷川の手には銃が残った。


銃を握りつぶしながら次の人質の近くにいる男に走って近づいた。


男の銃を叩き落とし殴り倒すと今度は机の上に音を立てて倒れた。


「な、なんだ!何が!!」


最後に、入口にいる男を見ると長谷川の方に銃を向けていたが、同士撃ちを避けたいのか撃つ気配はなかった。


長谷川は銃を掴み奪い取ると男の腹を蹴り飛ばした


男は入口のガラスを突き破りシャッターを壊して道路まで転がって行った。


そして、店内と警察のスポットライトの電源が回復した。




銀行の正面にいた榎本警察署長は急に消えた照明に驚きながらも『なんでも屋』が起こしたものとすぐに理解した。


長谷川が銀行に入る前に署長に言った言葉を思い出した。


「何が起きても慌てずに静かに見守って下さい。犯人が出てきたら逮捕してください。」


静かに心を落ち着かせる為に何度か深呼吸をしていると、ガラスの割れる音とシャッターの壊れる音が聞こえた。


何かが地面を転がる音が聞こえた直ぐあとに銀行と警察のスポットライトが回復し点灯した。


そして、目の前の道路に転がる男が1人。


「うゥ…」


スポットライトが男を照らしているが、動く気配はなかった。


「「「「…」」」」


唖然とする警察官の中で、警察署長が叫んだ。


「た、逮捕――!!」


4人の警察管が男のそばに近寄ると強盗が口から血を噴き出している事に気が付いた。


「きゅ、救急車!!」


その叫び声で救急隊員が担架を持って近づくと暴れる強盗は担架に乗せ救急車で運ばれて行った。


そして、銀行の中から人質だった山城、大木、横田の行員3人が出てきた。


3人が警察に保護された瞬間、銀行内から銃声が響いてきた。




人質を助けた長谷川は人質5人の手足を縛るビニール紐をハサミで切ると人質たちは倒れている強盗を見ずに行員の3人は走って外に出て行った。


「…来てくれると信じてた。」


小室は覆面をしている長谷川に向かってほほ笑んだ。


「依頼があれば何でもする。それが『なんでも屋』だ。今回は人質の無傷での救助が依頼された内容。あとは、秀美さんとその子が警察で保護されれば依頼達成さ。」


長谷川が覆面越しでも微笑んでいるのが小室にはわかった。


「あ、あの…」


小室の後ろにいた女子高生、榎本すみれが何か言いたそうにモジモジしていた。


その時、榎本の後ろにある警備室のドアが開き、銃を持った男が現れた。


「えっ?」


そのドアの音で振り返った榎本が見たものは銃を自分に向けている男の睨む顔と銃声が聞こえた。


銃の音で咄嗟に目を瞑った榎本だったが、銃弾は榎本に届くことはなかった。


榎本は恐る恐る目を開けると長谷川が榎本と強盗の間でに立ち銃弾を防ぐ壁になっていた。


「大丈夫?怪我はない?」


長谷川は眼を瞑っている榎本の首が縦に振られるのを見ると、唖然としている強盗の銃を壊すように殴り飛ばした。


「さあ!早く脱出だ!急げ!急げ!!」


長谷川は声を上げて2人の女性を外に追い出した。


長谷川は撃たれた散弾を避けたり防いだりはしていなかった。


榎本を庇った為に撃たれた背中には散弾が当たり肉を抉るが数秒で傷が塞がった。


骨はアダマンチウム複合素材で出来ている為、散弾では傷一つ付けることもできなかった。


長谷川は人質を無事救出し終えこのまま逃走するつもりだったが、榎本に手を掴まれ警察官のいる場所まで連れていかれた。


「覆面!!犯人か!」


長谷川を強盗の1人と間違えた警察に榎本すみれが叫んだ。


「違うわ!私たちを助けてくれたのよ!!それに銃で撃たれたの!早く救急車を!!」


榎本が叫ぶと救急隊員が担架を持って現れた。


「病院に行きます。乗ってください。」


救急隊員が長谷川を担架に乗せようとするが、長谷川はこれを拒んだ。


「大丈夫、弾は全て防弾服に防がれ怪我はありません。」


長谷川は上着を脱ぎ上半身裸になるが傷一つ付いていなかった。


上半身裸で黒い覆面の長谷川は少し恥ずかしかったか、少しだけ見える顔は赤くなっていた。


「ホントだ、怪我してない。」


榎本は散弾を受けたと思われる長谷川の背中を撫でながら呟いた。


「わかりました。」


そう言って救急隊員は下がって行った。


「それでは貴方の話を聞かせてもらっていいですか?」


警察官が周りを囲み、長谷川の逃げ場がなくなっていた。


「いや、その必要はない。彼はここで帰って貰って構わない。」


その言葉を発したのは警察署長の榎本だった。


「は?しかし…」


「いいんだ。彼を自由にさせるんだ。」


長谷川の周囲を囲んでいた警察官はそれぞれの持ち場に戻った。


「ありがとう。人質は全員無事。強盗は全員逮捕された。本当にありがとう。」


署長は頭を下げて礼を言った。


「それが依頼された内容ですから。『なんでも屋』は何でもしますよ。今回の請求書は後日郵送しますので期限内にお支払いをお願いします。」 


「…ああ、出来るだけ安くしてくれ小遣い制なんでな。」


「ふふふ、分りました。今後とも御贔屓に。」


長谷川は服を着ると銀行を後にした。


人質の5人は一応警察病院で1日検査入院したが異常なしということで金曜日の午後に退院する事が出来た。


強盗の6人はそれぞれが軽くはない怪我をしていた。


一番酷いのは救急車で運ばれた入口付近にいた男で内蔵破裂で予断を許さない状況になった時もあったが、無事に生還する事が出来た。


長谷川は帰宅するとすぐに風呂場で1人で背中に埋まった散弾を取り除く作業に悪戦苦闘し数時間で全ての散弾を取り終えた。


翌日のAV専門店『希望』は通常通りに営業した。


久しぶりの1人営業で少し寂しく感じたが、夕方に来た宮本家族で気分を紛らわす事が出来た。




「長谷川さ――ん、また来たよ。」


AV専門店『希望』のドアが開くと同時に店内に元気な声が響いた。


「いらっしゃいませ。今日のおススメはこれです。」


長谷川はレジの後ろにある棚から新作のDVDを取り出した。


「今朝入った新作です。子犬が初めて散歩に行くシリーズです。」


最近よく店に来る榎本すみれは数分間悩んだ末、購入した。


購入後、レジの棚を整理している小室と榎本がなにやら話をしていたが、長谷川は気にせずに伝票整理の続きを始めた。



「こんにちわ。」


榎本は棚整理している小室に話しかけた。


「…いらっしゃいませ。最近よく来ますね?」


「はい、彼に興味ありますから。」


榎本は伝票整理している長谷川をチラリと見て、頬を少し紅く染めた。


「…彼、鈍感よ?事情があって一緒に住んでるけど、手を出してこないわよ。」


「同棲してるんですか!?」


榎本が声をあげた。


「まぁ、ね。同じ家で生活してるけど、私の事を女として見ているのか時々疑問に思うわ。」


小室は溜息を付きながらつぶやいた。


「そんな事ないですよ!素敵ですよ!」


「あ、ありがとう。」


小室は榎本の言葉に少しだけ腰が引けた。


「それじゃあ、私たちは恋のライバルですね。」


「そうね。」


「負けませんから」


「あら、私が勝わよ。」


「「ふふふふふ」」


長谷川を巡る女の戦いが始まりを告げた。



かも?



「あー、あの2人仲が良いな。」


長谷川は、そんな2人の関係を仲が良いと勘違いした。

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