第五話 脱出
「俺はサイエンサー退治のため、トパーズで偵察員をしていた。君と同じようにね。三年前、トパーズはイギリスのザ・ブレイカーの本拠地を叩く作戦を決行した。しかし、作戦は失敗。仲間はみなその場所から脱出することができたが、人数あわせのために呼ばれた俺はまだ未熟だったために一人そこに取り残され、さっきまでの君と同じ扱いさ。」
走りながらジョン・ブラウンという名の少年は、誤解を解くためにそう説明した。
「それから俺はサイエンサーたちにたらい回しにされて、色々なところに行った。おかげで世界一周旅行の思い出ができたよ。」
「そして最終的にたどり着いたのがここだったのか?」
次郎の質問にジョンは軽くうなずいた。
「俺は、何でもするから殺すのだけは勘弁してくれと頼んだ。そしたら、奴らは人間の拘束員に任命したんだ。」
彼はずらずらと話したが、次郎はまだ怒りを覚えていた。
「人類を裏切ることに罪悪感を感じなかったのか!?」
「感じたさ!出来ればやりたくはなかった。だから俺は人を捕らえるたびに、こうやって逃がしている。その時に俺はドサクサに隠れて一緒に逃げるのが毎度の計画だ。」
「でも、いつも失敗してしまう、と…」
「…いうわけだ。どうもタイミングが悪くてな。」
二人の考えははようやく固まった。
「俺は山田次郎、アメシストの偵察員及び戦闘員をやっている。さぁ、早いとこ出ちまおう。」
二人の少年は全速力で走った。
〔全モンスターに命令する。二人の人間が脱走を謀っている。直ちに捕まえろ!〕
基地内に放送が流れた。
「さすがに見られたか…。」
「当たり前だ!ここには500人以上のサイエンサーがいるんだぞ。」
どのくらい走っただろうか。次郎の目に文字が飛び込んできた。
《ザ・ブレイカー第04基地司令官室》
それは部屋名のプレートだった。そこは次郎が交渉を求めている相手がいる場所だった。
「僕はここに用がある。ジョンは先に逃げてくれ。」
ジョンは彼を引き止めなかった。
「…健闘を祈る。必ずまた外で会おう。」
それはその日基地内で聞いた最後の人間の言葉であろう。彼は走っていった。
(頼むぞ、俺の運気!)
次郎は部屋の扉を開けた。
扉の中の部屋は、洞窟とは思えないくらいきれいで清潔だった。そこはまるでお金持ちの豪邸のようだった。運よく、部屋には警備のサイエンサーはいないらしく、いかにも偉そうなサイエンサーが一人豪華な椅子に座っているだけだった。
「よくここに入る勇気があったな。褒めてやろう。」
司令官のサイエンサーはそう言った。あまり短気ではないようだ。
「僕はあなたを殺しにここに来た訳ではありません。お話がしたいのです。」
「…よかろう。」
次郎とサイエンサーとの交渉が始まった。
「単刀直入に聞きます。悪心のサイエンサーを良心のサイエンサーに変える方法はあるのですか?」
「…何が言いたいのだ、貴様は?」
次郎はこれまでの怒りを話した。
「僕が初めてサイエンサー、いや、元態のサイエンサーを見たのはたった5日ほど前でした。そのサイエンサーは僕の友達のはずでした。しかし、彼の姿は怪物に変わった。僕は怯えた。それから彼は我がアメシストによって粉砕された。それはこれからも何度でも起こると思います。僕は友をこれ以上失いたくないのです。教えてください。」
相手のサイエンサーは極めて冷静だった。
「それは無理な質問だ。悪心のブロッケン・モンスターと良心のブロッケン・モンスターは種類の違いではない。だからワクチンを接種したところで、変わるという訳ではない。問題は彼らの心の中身だ。」
ブロッケン・モンスターとはすなわちサイエンサーの事だ。次郎は質問を変えてみた。
「では…変態を不可にする方法は?」
「…あるよ。」
次郎の一番期待していた言葉が発しられた。
「不変薬という薬がある。その薬の感染力はとても強力で、一度開いた空間でビンの蓋を開けてしまうと、一日で世界中のブロッケン・モンスターが影響を受けることになる。」
次郎は急いだ。
「その薬が欲しいのです。何処にあるのですか?」
「ここには無い。それは…おまえを殺してからだ!!」
サイエンサーの手から触手のような物が伸びた触手は次郎の首へまわった。彼はそれを振り払った。
「…いつか必ずそれを…手に入れて見せるぞ!平和のために、友人のために!!」
少年は部屋から出た。サイエンサーは長く伸びた触手を縮めていた。
(あの少年は必ず不変薬を探しに来る。…その前に始末だ!)
「ジョン、待っていてくれたのか?」
彼は例の部屋のすぐ近くで跳びかかるサイエンサーと格闘をしていた。と、いうより、彼はサイエンサーよりはるかに強く、喧嘩より虐待のほうが意味としては近かった。
「俺だけ帰ったら、アメシストの人たちに一生偏見されるからな。」
二人は再び走り始めた。
「この先が出口だ。急げ!!」
前方にかすかに光が見えた。光との距離がどんどん近くなた。
「うぉら!!」
「てぃ!!」
彼らは勢いで外への扉を破った。そこには誰かが立っていた。
「は、博士!?」
それはドッペルゲンガーだった。
「急いでこれに乗れ!君もだ!!」
博士の近くに偵察艇ギャギュギョが着陸させてあった。3人は即刻それに乗った。
「トパーズの隊員175、ジョン・ブラウン。無事帰還ご苦労だった。」
3人は無事アメシスト本部に到着していた。
「僕は仲間を裏切り続けた悪い男です。すべて次郎君のおかげですよ。」
ジョンはそう返事した。
「大佐、どうして居場所が分かったんですか?Gウォッチは使えなかったのですが…。」
「サイエンサーの基地は複雑でな。壁がマジックミラーのようになっているんだ。」
彼が言いたいのは、中からは信号を発信できないが、外からの探索は可能だという事だろう。
「それから、報告があります。僕は司令官のサイエンサーと話をしたのですが、不変薬というサイエンサーの変態能力を止める薬があるそうなのですが…ご存知で?」
ストックホルムは少しの時間黙ってから、答えた。
「…一度か二度、風の噂で聞いた事がある。だが、誰かが作った嘘話だと思い、アメシストとしてはいつも聞き流していた。特に確信するための証拠が無いため、うかつに敵基地へ侵入して犠牲者をだすことは出来ないからな。…やはり存在していたのか…。」
「その噂では、それは何処にあるのですか?」
彼はまた口を閉じた。そしてまた話し始めた。
「はっきりした場所はよく分からないが、一番の可能性は…」
二人の少年と一人のおっさんはツバを飲んだ。
「…東京都だ!」
彼らの真の戦いが、今始まる。 |