第四話 ザ・ブレイカーの脅威
「ガギグゲゴが使えない!?」
ストックホルム大佐の声は山びこのようにアメシスト本部内に響いた。
「すみません大佐。先日の戦闘でガギグゲゴは大きく損傷を受けました。サイエンサーの爆発を間近で受けてしまったことが原因だと思われます。」
「ドッペルゲンガー、もっと機体を慎重に扱え!…下がれ!!」
「は!」
博士は深くお辞儀をした。次郎は横の可哀想なおっさんを見ながら、人生って色々だなあ、と思った。
「次郎君、ガギグゲゴが直るまではギャギュギョに乗ってくれたまえ。無人機として作られたメカゆえに、多少は乗りづらいとは思うが、すべては平和のためだ。では、それの世話を頼んだぞ。」
そう言いながら彼は博士を指差した。二人は部屋を出た。ドッペルゲンガー博士は部屋から離れると力いっぱいに叫んでいた。
「ひ、い、き、だー!!」
サイエンサー、別名ブロッケン・モンスター。サイエンサーというのはアメシスト独自の呼び名で、ブロッケン・モンスターとは彼らが使う名前だ。今となってはほとんどがサイエンサーで通称されている。
彼らはザ・ブレイカーでつくられたモンスターだ。そのザ・ブレイカー自体は紀元前からあったとされている。情報によるとサイエンサーは化学反応によって生まれるらしいが、自然的にそれが発生する事は物理的にありえないため、誰かがサイエンサーという生物を発明したらしい。詳しい事は過去の記録がその古さ故に解読できないため、よくは分からない。受け継がれていく伝統だけが情報をつかむ鍵だ。サイエンサーははじめは竪穴式住居を壊し、古墳を破壊し、人類の繁栄を止めようとした。しかし、人間側もそれを防ぐため抵抗団体「紫外線」を設立した。この頃の戦闘はお互いに原始的であったためザ・ブレイカーは人間の勢力におされてしまった。そのためモンスターたちは戦意を失ってしまった。その上、モンスターの一人が『罪の無い人間に攻撃するのはおかしい』と言ってしまったために、9割のサイエンサーは人間に化ける能力を使い、人間と共に生活する道を選び、旅立っていった。後々紫外線は、混乱を防ぐためにサイエンサーの存在を隠すようになり、サイエンサーたちと条約(いわゆる法律)を結び、彼らと中立をはかっていた。しかし、残った悪心のサイエンサーらは活動を止めないため、紫外線は名前を変えながら常に人類の歴史に存在し続け、ストックホルムが2000年への突入を切欠に『アメシスト』として再び設立したのだった。今では、アメシストは日本全国の都市に存在するようになった。
ちなみに、ガギグゲゴがいつの時代に作られ、使われるようになったのかは永遠の謎だ。
ザ・ブレイカー自体を作り、サイエンサーを誕生させたのが何処の誰なのかも…。
中学校で、山田次郎は怯えていた。
(このままだと、僕の周りから人がいなくなってしまう。なにか、策を考えないと…)
次郎は次々とサイエンサーとして消えていく友人に恐怖を感じていた。
(いくら悪心のサイエンサーだと言っても、人態では僕の大切な友達だ。その『悪心』を消す方法は、まだ有るはずだ。)
しかし、彼はまだ子供だ。秘密組織アメシストの偵察員・戦闘員とはいえど、できることに制限があった。そんな中、彼の頭の中におかしな事が浮かんでできた。
「ガギグゲゴを破壊しろ」
そして次郎はそれを感じてしまった。
(ガギグゲゴを破壊!?)
それはとんでもない考えだった。
(確かに、ガギグゲゴを破壊すればサイエンサーは死なずに済む。でも、そうすると日本、いや世界が…)
したくもない想像だった。平和を保つか、友人を助けるか。彼は平和を優先せざるを得なかった。
(ガギグゲゴを壊すのは簡単なことだ。前の戦いで壊れた部分を再起不能にすれば、済むことだ。だが、一度なくなった平和は二度と取り戻せなくなる。だから僕は…)
その時、背中を誰かに押された。同学年の中でも不良に大きく値する森だった。
「廊下でつっ立てんなよ、アホ!」
そう言って彼は立ち去った。次郎はその衝撃で転んでしまった。運悪く、ちょうど移動教室の授業が次にあったため、彼は筆箱を持っていてそれを吹っ飛ばした。それに加えて偶然筆箱が開いていたらしく、中の文房具他も吹っ飛んだ。
(…あいつは廊下で立たないのかよ…)
次郎は文房具を拾い上げた。そして目の前に誰かが立っているのが見えた。
「またハデにぶちまけたなぁ、山田。」
それは隣のクラスの担任の松永先生だった。彼はその鍛えられた腕で一緒に物を拾ってくれた。
「じゃ、先生はこれから出張があるんだ。今度から平面で転ばない訓練をよくしとけよ。」
彼もまたすぐに去っていった。次郎は筆箱の中身を拾い残しがないかよく見てみた。
(全部あるよな…。まったく、酷い奴だ。)
そして彼は、筆箱の中に前回の残ったリトマス紙を入れておいたのを見て思い出した。
(このリトマス紙もあまり役にたたなそうだから、後で処分しとくか。…ん!?)
リトマス紙は未使用のはずなのにわずかに色が濃くなっていた。くっきりと指の形で。
(あの人も…サイエンサーだったのか!)
次郎はある作戦を思いついた。それは、極めて危険な作戦だった。
松永は出張の理由で学校から出た。次郎はそれを尾行していた。
(敵の本拠地に潜入して、親玉となんとか交渉すれば、友人は死なない!)
それが彼のマニフェストだった。
しかし、1分もしないうちに彼はターゲットを見失ってしまった。
(…あれ?気づかれたのか?)
その時、背後の誰かに口に何かをあてられた。
「だ、誰だ!これは…」
「夢を見れる薬さ。しばらく眠ってな。」
次郎は睡眠薬の影響でその場で眠ってしまった。
「ここは…何処だ!?」
次郎は暗闇の中で目を覚ました。そこは洞窟のようなところだった。具体的にどの地域の何処というのは全く分からなかった。一つ確実にいえることは、彼のいる場所は鉄格子がはめられていて、自由に出入りができそうにないという事だった。彼は囚われたのだ。
「ミイラ取りがミイラになった、ということか…いや、なんか意味違う気がする。まぁ、そんな事どうでもいいや。何か出る方法は…」
ここはおそらくサイエンサーらの基地だろう。少年は鉄格子をゆすってみた。しかし、多少は錆びているものの、はずす事は不可能に近かった。
「まだだ!」
彼はGウォッチを思い出した。Gウォッチは第一話で登場した、緊急シグナル用の時計だ。だが、彼がいくらボタンを押しても、何の反応もしなかった。
「お決まりのパターンですか…。あーあ、買い溜めしといたガン○ラ、作っておけばよかったな。」
彼は作戦を思いついた事と、未作成のガン○ラを悔やんだ。だが、それはまだ早かった。
「まだ手はあるぜ、少年。」
牢の外に一人の少年が立っていた。彼は日本人に見えたが、瞳は青かった。少年は持っていた鍵で牢から出させてくれた。
「一つ断っておく。君を眠らせたのは、俺だよ。」
次郎とあまり年のかわらないようにみえるその少年は、やぶから棒にそう言ってきた。それを聞くなり、次郎の頭に怒りが上ってきた。
「おまえ、俺に一体何の恨みがあって…!」
「ま、待て。これには訳があるんだ。それより、早くここから逃げよう。俺の名はジョン・ブラウン、イギリスの対サイエンサー組織、『トパーズ』の一人だ。」
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