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長期連載探偵の憂鬱

作者: ポイ宇宙

 やあ、皆さんこんにちは。私は巷で有名な超天才探偵 謎尾 界血だ。何? ご存知でないだと。毎日、新聞の一面を飾っているこの私をご存じじゃないと言うのか。もし、そのような方がいらっしゃるなら今すぐにでも洗濯用洗剤と野球の観戦チケットを餌に新聞の契約を迫ってくる新聞社の方と契約をするべきである。

うん? 今、毎日!? と思った方がいらっしゃると思うがその通りである。私は365日、毎日なにかしらの殺人事件を解決している。行く先々で必ず殺人事件が起こってしまうのだ。しかもトリックを使いアリバイ工作をして警察もお手上げの難事件ばかりである。これも悲しいかな探偵の宿命なのであろう。

 さて、本日私は温泉旅館に日帰りバスツアーに参加している先着7名様までの超お得な格安ツアーである。私は幼馴染である御佐菜 なじみと参加している。

彼女は私の行く先々に必ずついてくる助手のようなものである。たまに居ないこともあるが年間300日は大体共に行動している。そして、他の参加者5名は老夫婦と女学生2人と壮年の男性1人である。もちろん聡明な読者諸君にはもうお分かりであろうが、この参加者の中で殺人事件が起きるのである。

「きゃあああああ」

 ほら起きた。どうやら旅館の女子トイレの方からの悲鳴である。この声はなじみだな。私たち参加者が急いで女子トイレに行くと、震えているなじみがいた。

 私は思う。このなじみはいつまで泣き叫ぶのだろうかと。私が探偵業を始めてかれこれ10年経つ、確か小学校4年生のころからである。そのころからなじみは私と共に行動し、共に殺人事件に巻き込まれてきている。約3650以上もの死体を見てきているのに、この女はよくこんな初めて見たかのようなリアクションをできるものだ。私は演技だと踏んでいる。しかし、それを聞くことはできない。これは探偵の暗黙の了解の1つであるからだ。

 なじみに嫌気がさしながら私はいつものセリフを言う。

「みんな、その場から動かないで」

 と言う。5年前までなら警察に連絡をと言うのだが、最近

「なんだなんだぁどうしたぁ。ああっ殺人事件だ」

 とどこからともなく最速でいつもの馴染みの刑事の出課さんが現れるのだ。彼は私に付き纏っているストーカーであり最近警察に相談しようとしている。

 出課さんが被害者である壮年の男性の死体と現場の検証を行い、容疑者の絞り込みに移る。その間に探偵である私は色々な所を探索し、警察の鑑識が何故か見つけることのできなかった重大な手掛かりを見つけ、さらにそこからトリックを推理し犯人を見つける作業に入る。しかし、私ほどの人間になればそのような面倒な行程は必要ない。なぜなら百戦錬磨の私は一発で犯人を当てることができるからだ。と言うか、実はここだけの話なのだが、私は既にバスに乗った時点で犯人が分かっていた。長い間探偵をしすぎたせいか犯人が犯人になる前にそうだと分かってしまうのだ。たまに見た夢の中に犯人が出てくることもあった。これには流石にまいったので現在私は虹色のお薬を服用している。

 えっなんだって。なら事件が起きる前に犯人を捕まえたらいいじゃないかって? 確かにおっしゃるとおりである。私もそう思ってこの驚異的な力が身に着いた時に犯人を事件前に指摘し捕まえたことがあった。これで今日の殺人事件は終わりだなと思ったのだが、その直後すぐに別の事件が起きたのだ。さらに翌日先読みして、一日で32件の事件を事前に防いだのだが、結局はその頑張りは無意味であった。23時50分にやってやったと油断していた私の目の前を歩いていた老人がリモコン操作された車でひかれる事件が起きたのだ。このようなことが起きたので私はすこしでも犯罪者を減らすために一日一件の事件を起こすようにあえて事件発生まで犯人を見逃すようになったのだ。

 さてさて、出課さんが犯人が分からずに参っているのでさっさと犯人を言ってやるとするか。

 全員を事件現場であるトイレに集める。本当なら犯人を出課さんに告げて連行させるのが一番の良策だろう。わざわざ無関係の人間を集めて公衆の面前で犯人を言う必要がない。下手をしたら犯人が逆上して周りの無関係の人間に危害を加えてしまう可能性がある。しかし、それでは探偵の意味が無くなってしまう。誰が私の名声を挙げてくれるのだろうか。ようするに私の宣伝活動になるのだ。ただ悪を許さないという気持ちの元で動くのなら私は警察官になっているだろう。

「それで、謎尾、犯人は誰なんだ」

 といつものセリフを出課さんが言う。

「まあまあ、落ち着いて」

 私がなだめ、そして、犯人を指さす。

「犯人はあなただ」

 これが大事だ。私が指を指した先が分かりやすいように注意すべき所がある。まず、集めた人たちをできる限り隣の人から離れて立ってもらうようにする。なぜなら密集されていた場合、指さしをしても誰を指しているのか分からなくなるからだ。名前を言えばいいのだがあまりスマートではない。次に注意することは犯人を出口から遠くに立たせることである。これはご察しの通り逃亡を防ぐためだ。

「わっ私が?」

 そして、指摘された犯人は惚ける。しかし、私がワイヤーを使ったトリックを暴いていくと顔面は蒼白していき、そして膝から崩れ落ち自供する。今回の犯人は老夫婦の旦那さんであった。奥さんが旦那さんを抱きかかえ泣き始めた。なんでも娘を弄ばれた復讐が理由だそうだ。そして、夫婦はパトカーに乗って連行されていった。

「悲しい事件ね」

 なじみが私の傍らに立ち、犯人に同情するようなことを言うが、先週も同じようなセリフを聞いた気がする。もちろん毎日のことなので私の精神状態は平常なのだが、世間体を気にするため、温泉を満喫することなく私は直帰することになった。


 と言う風な一日を私は送っている。いかがだろうか名探偵の一日は。また明日も殺人事件が起きるだろう。そのためには体力を維持することが大事である。時間は23時55分。そろそろ眠ろうと思う。風呂に入り、愛用のジャージに着替える。

 気がつくと時計は12時を過ぎていた。するとどうだ突然インターホンが鳴った。こんな夜更けに誰だろう。とここで不用心に出てはいけない。探偵の第六感が告げている。事件が起きる前であると。

 防犯カメラを見るとナイフを持った男が立っている。普通の人なら怯えて警察を呼ぶところだろう。だが、私の場合は違う。毎日の出来事なのだから慣れたものである。ある程度時間が経つと男は立ち去っていく。

私は必ず一日に一件の殺人事件に遭遇する。しかし、それを事前に防ぐと別の殺人事件が起きるのはご存じだろう。先程話したばかりだ。そう、私は毎日自分が被害者になるであろう殺人事件を事前に防いでいるのだ。そして、その代わりに誰かが殺される。そういった連鎖がずっと続いているのだ。おそらく私が殺されればこの連鎖は終わるのかもしれない。しかし、私も人間である。試しに殺されるなどできるわけがない。だから私は、自分の代わりに殺された可哀そうな被害者のために事件を解決するのだ。さて、今回も私は死を免れた。明日はどんな殺人事件が起こるだろうか。

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