第5章 「生追跡!真相を探れ」
水曜夜7時。
Tテレビで2時間のスペシャル番組が放送された。
「生追跡!真相を探れ」
芙蓉美貴の出演する番組だ。
行方不明者や犯罪の容疑者を生放送の情報収集で見つけ出そうという番組だが、今特に注目されているのが芙蓉美貴とその先生の美人霊能力者コンビがその特異な能力で「人」を見つけ出すコーナーだ。
見つけ出す人は、生死を問わない・・・。
二人は今、長野県某所の森の中に居た。
すでに青いシートが現場を覆い、警察官が大勢立ち働いている。
昼過ぎ、ここで15歳の少女の遺体が見つかったのだ。
里香は帰ってきてからニュースで見た。これで今回の番組も視聴率はうなぎ登りだろう。
少女は、このみ月世間を震撼させている連続猟奇通り魔少女殺人事件の被害が恐れられていた少女だった。
1週間前から行方不明になり、一番新しい被害者と見られる。今のところ・・。
紅倉美姫の指摘により警察が現場を調べ、痕跡を発見したことにより、土を掘り起こし、少女は発見された。
紅倉美姫、べにくらみき。
それが芙蓉美貴の先生だ。同じミキで紛らわしい。
今芙蓉と紅倉は並んで青いシートを見ている。
芙蓉は黒髪、長身、黒のスーツ姿。
紅倉は、銀色の髪をしている。
赤緑色のぶどうの実のような瞳をしている。
真っ白な肌で、目鼻立ちがくっきりして、混血、ロシア辺りとのハーフを思わせる。正確なプロフィールは公表されていない。年齢は23と本人が言っている。
はやばやと白のロングコートを着込み、寒そうに腕を抱いている。
紅倉はリポーターの質問に「犯人は連続通り魔事件と同一人物である」と断言した。
スタジオ、司会者。
「これでこの3ヶ月間に5人の同年代の少女たちが同じ犯人に殺害されたことになります。
我々はご両親に依頼を受け、著名な霊能力者である紅倉美姫先生に失踪した少女の捜索をお願いしたわけですが、残念ながら、最悪の結果を迎えてしまいました。
ひと月前の番組でもこの事件を取り上げ、その時は警察OBの方に協力いただいて事件を検証し、番組をごらんの皆さんにも十分な注意を呼びかけましたが、残念ながら、それからひと月で2人の少女がまた犠牲になってしまいました。
紅倉先生」
「はい」
「今回犠牲になった少女、警察の発表では断定されていないのですが、同じ犯人の犯行と見て間違いないですか?」
「間違いありません」
「そうですか。これだけ注意が促されながらまた犠牲者の出てしまったこの事件、謎がたくさんあるわけですが、先生、今回犠牲となった少女を霊視なさって、犯人については何か分かりましたか?」
「はい。犯人は、分かっています」
「分かったんですか!?」
「はい」
「それは、すでに具体的に個人が特定できているんでしょうか?」
「はっきりと、分かっていますよ。顔も、名前も、住所も」
「そ、それではそれをここで発表していただけるでしょうか?」
「いいえ。ここで言ってしまっては、後々困ったことになるでしょう?」
スタジオゲスト(霊能力に対し否定的)
「ほんとに分かってんの?」
「ええ。警察にはすでにいくつか具体的なヒントを提出しています。名前は教えていませんが、日本の警察は優秀です、方向さえ絞り込めれば、もうすでにかなり狭い範囲で具体的な証拠を固めつつあるはずです。犯人は、必ず、この一両日中に逮捕されます」
キッチンで夕食の後片づけをしていた母がやってきた。
「あらこの人。ふう〜ん、本当かしらねえー?」
「うるさいなー」
父親が風呂から上がる音がした。
「ほら、お母さん、どうぞ、お風呂お先に〜」
「ありがとよ。でも怖いわねえ。あんたも、気を付けんのよ」
「だいじょうぶだよー。事件はぜんぶ田舎だもん」
里香は母親を追い払い、テレビに集中した。
スタジオ、アナウンサー。
「犯人逮捕はけっこうなのですが、どうでしょう、当たり障りのない範囲で犯人像を今ひとつ明らかにしてはいただけませんか?」
「犯人は男性、40代前半、独身、ちょっと太り気味で、メガネをかけています。
電車マニア
犯行は関東から中部、東北と、広範囲に渡っていますが、犯人は移動に鉄道を利用しています」
「ちょっと待ってください。それは大きなヒントですよ。しかし、犯人はそんな山奥に遺体を運んでいるわけで、それは、自動車を使わないわけにはいかないでしょう?」
芙蓉がちょっと紅倉を心配する。
「そうですね。犯人はレンタカーは使っていません。では、どんな車を使ったか?」
スタジオ、女性タレント
「タクシー・・ですかあ?」
紅倉、困る。
「えっと・・、それはさすがにありませんね。犯人は車を使って、しかもその車を現地調達しています。でもその車は見つかっていませんね?どうしてでしょう?」
「どうしてなんでしょう?」
「使った後、ちゃんと元あったところに返しておくからです」
スタジオ、ちょっと呆気にとられて、ゲストの警察関係者は渋い顔をする。
「え?すると・・、盗難車、なわけですか?犯人はその盗難車を使った後、元に返しておいた?」
「そうです。持ち主はまさか自分の車が犯罪に利用され、遺体を運んだなんて思わないでしょう?」
「すると、そういうことの出来る人間、プロの自動車泥棒が犯人ですか?」
「または鍵屋か自動車整備工・・。あら、ちょっと喋りすぎてしまいましたね。失敗しました」
紅倉は指をビシッとカメラ・・ではなく収音マイクを持つADに向け、芙蓉にカメラに向け直され、テレビを見ているであろう犯人向けて宣言した。
「分かったでしょう?あなたはもう逃げられませんよ。あなたは罪もない少女たちを殺めた報いを受けるのです。覚悟しておきなさい」
・・・紅倉はちょっと呆けたところがある。それもいたしかたなく、不思議な色をした瞳はほとんど物が見えない。
代わりに、
別のものが見える、
らしい・・・。
番組が終わり、9時になった。
里香は迷っていた。
芙蓉にもらった名刺を鼻の前でヒラヒラさせた。バラの香りが漂う。
ケータイの番号が手書きで記してある。よほど特別の人にしか知らせないのだろう。
電話をしたい。話を聞いてもらいたい。この胸のモヤモヤをぶちまけ、スッキリさせたい。
瑞穂から連絡はなかった。気になるが、電話をするのも怖い。
まさか望が死んだら・・・、そうしたら連絡網が回ってくるだろう。
きっと、だいじょうぶだったの・・だ・ろう・・・・・・。
芙蓉に電話をして、もし望のケガが自分のせいだと言われたら・・・、
立ち直れる自信がない。
芙蓉は今長野だ。
里香はさんざん迷って・・、けっきょく電話はしなかった。
夜中。
里香は何か悪夢を見て目を覚ました。
胸がドキドキ鳴って、全身がじっとり汗ばんでいる。
枕元の時計を見ると2時だった。
・・丑三つ時。
のどが渇いたと思って体を動かそうとすると、動かなかった。
金縛り。
暗闇に目が慣れてざらざらした視界の中に部屋の様子が浮かび上がった。
胸がドキドキ鳴り、呼吸がヒッヒッと乱れる。
・・・・・・・・部屋の隅に誰かいた。
二人。
ガサリと動いて里香に向かって歩いてきた。
ガサ、ガサ、ガサ。
里香は息を飲み、恐怖で涙が溢れた。
ガサ、ガサ。
不自然にギクシャクした動きをする二人は、二人とも、形が、崩れていた。
人間の形が、壊れていた。
いいいいいいいいいい・・・・い・・・・
二人は呻いて、里香に手を伸ばしてきた。
一人は女。
一人は男、老人。
「いいいい、ひひひ・・、しししし・・・・・」
壊れたあごで必死に何か言おうとする。
「ししししし・・死にたく・・なか・・った・・・・」
老人が折れた脚で体を支えきれず、ドサッと里香の上に倒れ込んできた。ひいっ。
「死にたく・・なかった・・・」
老人は悔しそうに顔を歪めると里香の顔を触ってきた。ぬるっとした感触。里香はもう恐怖で精神が硬直しきっていた。
無様な老人を見下ろして、女は、笑った。
けらけらけらけらけら。
「死ね、死ね、死ね。みんな死んじゃえ」
けらけらけらけらけら。
女は、笑うたび顔がいびつにずれた。
黒髪。
電車の、あの女だ、と里香は思った。
「あんたも、死になさい」
恐ろしい顔で里香を睨んだかと思うと、グシャン、と潰れて、崩れ落ちた。
けらけらけらけら、けらけらけらけら。
調子の狂った笑い声だけがベッドの下から聞こえてくる。
「死にたくなかった、死にたくなかった」
泣きながら恨めしそうにしつこく顔を触ってくる老人に、里香は猛烈に突き飛ばしたい衝動に駆られた。
あんたなんか、知らない!
老人の動きが止まり、ゴロンと転がって、落ちた。
「恨むぞ・・あんたを、恨むぞお・・・」
知らない知らない知らない!あんたなんか知らない!
狂った笑いとしつこい恨み節。里香は大声を上げて耳を塞ぎたかった。
!
・・・・・・・・・・
布団の中に、何かいた。
冷たい感触が里香の太ももから腹に這い上がり、それは確かな感触をもって、胸に這い上がり、頭をもたげた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
少女だった。自分と同じくらいの年齢の。
黒く汚れた顔に、大きく開いた目の白目だけが異様に白く感じられた。
少女は間近にじっと里香を見つめ、ギュッと結んでいた口を開いた。
ドッと、
生臭い黒い血が溢れた。
「きゃあああああああああっっっ!!!!」
里香は大声で悲鳴を上げてベッドの上に飛び起きた。
頭を抱えて喚き続け、喚き続け、やがて驚いた両親が駆けつけた。
「里香、おい里香!しっかりしろ」
父親に強く肩を揺すぶられ、母親に頭を撫でられて、里香はヒックヒックとしゃくり上げた。
「お父さん・・お母さん・・うう・・もう・・いやあああ〜・・」
明るい電灯。どっと温かい安心感が流れ込み、パニックは収まった。しかし恐怖は去らない。
電話が鳴った。
「こんな夜中にいったい誰だ?」
父親は怒りながらダイニングに向かった。
じきにいぶかしそうな顔で父親は受話器を持って戻ってきた。
「おまえにだ」
受け取り、里香は受話器を耳に当てた。
「もしもし・・」
『芙蓉です』
里香はパアッと明るい光が差す思いがした。
「芙蓉さん!」
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜』
芙蓉は里香の耳に何やら聞いたことのない言語の呪文を唱えた。
呪文は里香の耳の奥から脳髄に侵入していく。
『・・・。これで今夜はもうだいじょうぶでしょう』
「芙蓉さん!」
『明日、時間を見て会いに行きます。先生もいっしょですから、どうぞ安心してください』
「先生・・、紅倉先生も!?」
『ええ。ですから安心してお休みなさい』
里香の胸に強い希望がいだかれた。 |