88 不意打ち
6月に入ると地区予選が始まった。スタメンは小百合の予想通りのメンバーだ。美紀は亜希の事を許しているのだろうが、きっかけがないまま今日まできてる。亜希も謝る機会を逸したままのようだ。
試合前に控えメンバーも含めて、ベンチの前で輪になって声出しをするのだ。部長の美紀が『1・2・3』と言ったらみんなで『オーッ!』と掛け声をだして気持ちを一つにする。
そのあとコート中央に集まり相手の選手の前に整列するのだ。私はその移動中にどさくさに紛れて、
「美紀。」
「何?」
「亜希が謝りたいんだって。」
二人の目が合ってる。
「ほら亜希。」
「えっ、あっ、あの…、大事な時期にチーム抜けてゴメンね。」
「わかった。わかってるって…。」
「よし仲直りね。」
「ケンカなんてしてないわよ。」
「そんな事言って美紀は…。」
「嘘嘘。ありがと真理。」
「よし、頑張って点取りますか?」
「うん。」
「そこの3人早く整列しなさい。」
審判に注意されてしまった。
「はい。すみません。」
「それでは試合を始めます。試合中はこちらが白こちらが青とコールします。それでは礼。」
昔から試合前のこの緊張感、ドキドキ感が好きだ。ふと違う事を考えた。ステージに立って、観客の前に立ったらこんな感じなのだろうか?
そんな事を考えてたらティップオフの時間だ。審判がボールを宙に放り出し、松本が競り勝って美穂がボールをキープした。マイボールでゲームがスタートしたのである。
ゲームは楽勝だった。第4ピリオドになると、美紀以外のメンバー4人が控えと代わってるくらい余裕のある点差だった。一回戦の相手としてはこんなものか…。相手のチームの3年はこれで引退だ。
「真理よくやったわね。」
「速攻で私と亜希が走らなきゃ、誰が走るの?」
「じゃなくて、試合前の話よ。」
「あっ…、その事。」
「事前に言っておいてよ。」
「そんな事言ったら素直な亜希の気持ちが出ないでしょ?」
「そうだけど。」
「でしょ。」
「ありがとう。」
「えっ?」
「感謝してる。なんか普段の時だったら、ギクシャクしてたかもしれないし。」
「よかったね。貸しにしとくよ。」
「そんな事言わないでよ。友達でしょ。」
「ん〜。だったら紅葉の豚タマスペシャルおごってね。」
「紅葉行った事あるの?」
「ない。亜希は?」
「ない。」
「平沼くんは行った事あるみたいよ。」 |