86 不器用な男1
「深谷入ってよ。」
「そんな…。」
「大介が言うと強要してるみたいに聞こえるよ。」
橋本くんの名前は大介というらしい。
「深谷に入ってもらった方が花があるだろ。有名人だし客も集まるかもしんねぇじゃん。」
「客寄せパンダじゃないんだけど!」
「あっ真理気分悪くしないでね。大介って口が悪くて。」
「大介バイト戻りなよ。」
「悪かったな口悪くて。深谷。」
「何?」
「マジ考えておいてよ。」
橋本くんはそう言って出ていってしまった。
「ゴメンね真理。」
「何が?」
「実際真理がメインでいたら、お客集まるかなって思ってたのは事実なの…。」
「あぁパンダの話?」
「でも真理の声いいなって思ったのは本当だから。」
「ありがとう。」
「だから少し考えておいて。」
あまりいい返事はしなかった。ヒロがマジメに働いているのに、自分だけ青春してるみたいで気が引けていたのだ。帰り道、自宅まで歩くのも気が重たかった。たぶんボーカルやってみたいという気持ちが出てきたからかもしれない。
帰り途中にあるお好み焼き屋『紅葉』から、うちの学生が4人出てきたのがわかった。デカイ男子達だ。
「おう深谷。」
すれ違い様に声をかけられた。また昔のクラスメイトか?
「誰?」
「俺。平沼だよ。」
平沼?亜希の近所の平沼くん?よく見たら全員男子バスケ部。デカイはずだ。
「わりぃ先行ってて。」
「おう。」
他の3人は駅に向かって歩いていった。
「何、お好み焼き?家帰ってご飯食べないの?」
「食べるよ。別腹さ。」
「何それ?女の子じゃないんだから。」
「それより亜希復活してよかったな。」
「そうだね。」
「感謝しろよ。」
「何であんたに?」
「俺がおじさんに頼んだんだよ。」
「おじさん…?」
「隣同士だからな。生まれた時から知り合いだ。」
「お隣りさんなんだ。」
「そう。でさ…、」
「何?」
「最近亜希と長谷川仲悪いだろ?」
「よく亜希の事わかってるね。」
「まぁ…、何が原因か知らないけど、深谷が上手く仲とってやれないの?」
「言われなくてもやってるつもりだけど…。」
「そうか…。」
「男と違って、女って難しいの。」
「女になった事ないからわからないけど頼むよ。」
こっちだってなりたくて女になったわけじゃない。
「わかった。」
「頼んだ。」
「平沼くん。」
「ん?」
「平沼くんって亜希の事好きなの?」
「なっ、なんだよそれ?」 明らかに動揺したのがわかった。
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