73 代役
午後の練習前に美紀が合宿所へと戻ってきた。
「真理起きてたんだ…。」
「どこ行ってたの?」
「教官室。亜希の親から連絡あって、本人から連絡あったってさ。」
「そう…。」
この会話に何人かの子達が反応し、そのあとの会話も聞き逃さないようにこちらを向いている。
「合宿中は亜希抜きでやるから真理頑張ってね。」
「そりゃまぁ…。」
「そうじゃなくて、こんな大事な時期にチームを離れて、なんか私も許せなくって…。」
「えっ?私も…?」
「さっき先生も『亜希をスタメンから外す。』って、言ってて…。」
「…。でも亜希がいないとバランス悪くならない?」
「だから真理が…。」
「私が何?」
「誰かが穴埋めないと…。」
「私?」
身長も亜希より低いし、スタミナも全然無い。かと言って、亜希の代わりに頼りになりそうな選手は…。『私にはつとまらない。』と言える状況じゃなかった。このチームは選手層が薄いのだ。
「他のみんなにも頑張ってもらわないと困るからね。」
と、起きてる子達を見渡しながら言っている。
合宿最終日の4日目。この日は、最悪なことに急遽練習試合となり、午前中で打ち上げの予定が夕方まで延びる結果となった。
みんなの疲労もピークな事もあり、格下相手にそうとう苦戦した。期待の新人松本に至っては、全然走れてなかった。でも苦戦の理由は、疲労というより亜希の抜けた穴が大きかったのかもしれない。
彼女の声出しは、チームを鼓舞し、盛り上げ、そして元気をくれるのだ。プレー以上に大きく貢献している。それが今日はない…。美紀のようにプレーで引っ張るタイプとは対象的な存在だ。それに得点パターンの亜希のカットインからの美紀へのパスが無い。これが無いだけで、目には見えないが他にも影響が出てるのは間違いないのだ。
亜希の代わりにスモールフォワードのポジションで出ていたのは真下だ。真下は身長こそ亜紀と同じだが、試合では自分のプレーだけで精一杯だった。途中、貴代を私に、松本を新井に、典子を美穂へと選手を交代したが、流れは変わらなかった。
「帰りに甘いもの食べ行かない?」
「いいよ。貴代と美紀は?」
「貴代はバイト行った。」
「バイト?」
「6時からってだって。美紀は教官室で話してる。」
「じゃ待たなきゃ。それにしても貴代はすごいな。」
「真理甘いもの持ってない?」
「無い。典子は?」
「無い。」
「だよね。」 |