5 真理の母親
「どうだろう…?」
「でも…。」
「栗原だっているし平気だって!もしかしたら、大学だって通えるかもしれないよ!」
「…。」
「本当に俺になんか返さなくていいからさ。」
「それは別だよ。ところで幸太はなんて?」
「まだ話してない。言ったら飛び付くから、聞くのは愛子のあとだよ。」
「本人がやると言えば…。」
「よし決まり。あとで店に寄越してよ。」
「わかった…。」
「正さんはもう熊本帰ったの?」
「うん。」
「正さんも大変だな…。」
健二の兄貴は、全国チェーンのバイク販売店の店長で、今は熊本の販売店にいる。49日にはまた来るらしい。
「おはようマスター!」
ん…?耳を疑った。『進藤さん』じゃなく『マスター!』と呼んだ。
「今日からマスターって呼んでもいいですか?」
「もう呼んでるじゃないか…。」
「それって、OKって意味ですか?」
頷いてやった。
「やった!」
「なんで変えたの?」
「だって私の事『真理』って呼んでくれる男の人なんて他にいないから…、だからさん付けじゃないのがよくて!」
「幸太だって呼んでるだろ!」
「幸太は別。兄弟みたいでしょ。」
「男には変わりない。」
「そうだけど…。マスターは幸太のお母さんも名前で呼んでるよね?」
「健二が…、幸太の親父が呼んでるの聞いてたら、自然とそうなった。」
「ふ〜ん。」
「真理だって、『幸太』って呼んでるだろ。」
「まぁ…。」
「始めは『こーちゃん』で『幸太兄ちゃん』だったよなぁ。」
「そんなの覚えてないよ…。そんな昔から私の事知ってるの?」
「まぁ…。真理が小さい頃に、愛子のとこに預かってもらってて…、」
「うん。」
「俺も社会人になった頃で、健二のとこに、ただメシ食いに行ってたから覚えてるよ。」
「ふ〜ん。」
「お母さん連絡あるのか?」
「あれは男狂いだよ。」
「そんな言い方するな。」
「本当の事だから…。」
真理が産まれた半年後に父親は亡くなった。
年の差夫婦で20才離れてた。
その後、お母さんと一緒に日本に戻ってきて、元の家に住みだした。まだ40半ばのお母さんは、父親が残した財産をホストに貢ぎ、あげくホストの子を宿ってしまったのである。そしてそのホストと暮すため引越たのだ。始めは一緒に暮らしてたが、新しい父親とうまくいかず、中学になると真理は、古い自宅に一人住むようになったのだ。
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