どくんどくん2 〜あの空の向こう〜(4/23)縦書き表示RDF


どくんどくん2 〜あの空の向こう〜
作: reY



第4話(取り戻した『絆』)


大雪が積もった日から1週間が経った。

僕と話したユキのお父さんは、

「8割答えは決まった」と、帰り際に言ってくれた。

その8割は、家族とやり直すことだと僕は勝手に理解した。


ユキは、その日からご機嫌で僕にますます惚れちゃったらしい。


「ハルってどうしてそんなにすごいの?本当にスーパーマンみたいだよ。私達が何言っても聞いてくれなかったお父さんなのに。不思議な関係だね〜ハルとお父さんって。」

僕の為にプリンを焼いてくれているユキは、大好きなエプロン姿で僕に微笑む。

そんなかわいい顔したら・・・また後ろから抱き付いちゃうぞ!!

「僕は、自分の気持ち伝えただけだよ。お父さんは、ユキやお母さんは自分に気を使ってると思ってたんだろうな。どんなお父さんでもいいって言うユキの言葉を、ユキの本音だと思えなかったんじゃないかな。お父さんを心配して無理してそう言ってくれてると思ったんじゃないかって僕は思う。僕は、家族じゃないし正直な意見しか言わないだけなんだけど、それがお父さんは気持ち良いのかな・・。」

「ねぇ、家族じゃないって言った?あと何年かしたら、家族になるかもしれないんだよ!」

プ〜っとふくれてみせるユキ。

「そうだな。早くなりたいよ、家族に。もう今でもお父さんって呼んでるけどね。」

「そうなの〜〜??2人の会話聞いてみたい!!ハルにはいくら感謝してもしきれないくらいにお世話になってばっかりだね。ハルのおかげで今回も、良い方向へ向かいそうだよ。」

あつあつプリンを僕の前に置いて、エプロンをはずす姿に愛しさが込み上げる。

「感謝なんていらないよ。自分の為にしただけ。笑ってるユキが好きだから。ユキに幸せになってほしいだけ。」

隣に座ったユキが優しく僕の頬に触れた。

「大好きだよ、ハル。このままずっと一緒にいてね。」


そのまま、あつあつプリンが冷めちゃうまで僕らは愛し合った。

何度唇を重ねても、何度抱き合っても変わらないこの新鮮な気持ち。


その日の夕方から、ユキの家でお父さんの退院祝いをすることになった。

そのことを聞いて、お父さんの決意が固まったことがわかった。

良い方の決意だってこともわかった。


しっかりと手をつなぎ、ユキの家へと向かう僕ら。

最近は、ユキの手を握っただけで体調がわかるようになった。

ユキも同じように、僕のことわかってくれる。

 「アレ?緊張してる?」とか「疲れちゃった?」とか。

手の感触でわかる僕とユキ。

ねぇ、神様。この世にこんなにぴったりな相手って他にいないよね?

きっとこの世にユキだけだよね。


ユキにとっても、僕だけだよね。


だから・・お願い。神様・・・!!どうかいじわるしないでね。

僕ら2人のこと温かく見守っていてくたさい。




「いらっしゃい!!ハル君。この家に来るの久しぶりよね?いつもユキのことありがとね。」

相変わらず若くてお美しいお母様。

女の子はお母さんに似るって言うから、ユキの将来も安心だ。

素敵なマダムになってくれることだろう。


「おおぉぉ!!!!ハルっぺ生きてたか?正月以来だな。」

いつもハイテンションな僕の理想の男性、水野さん。

幸せ太りって周りのみんなに言われるだけあって、確かにお腹も出てきた。

水野さんの横で笑っているのは、奥さんのみずきさん。

僕もユキも大好きで憧れているこの夫婦。


「ユキちゃん、久しぶりね。相変わらず、仲良しね。また、家にも遊びにきてね。」

みずきさんは、水野さんから僕らのこと全部聞いてるので、少し恥ずかしい。

あの温泉宿での初めてのエッチのことも・・・。

全部事細かに話したと水野さんはニヤリと笑ったっけ。

「ねぇ、みずきさん。赤ちゃんそろそろ?」

「そうね。そろそろ欲しいねって話してるんだけど本当に作るって言っちゃうと暴走するから怖くて・・・。どこにいても襲われそう!!」

「はははは!!それ言えてる!猿並みのエロですからね、水野さんは。僕もよく講習を受けましたよ。」

猿よりエロかもしれない水野さんだけど、面白いことを言いながらも大事なことをちゃんと教えてくれる人なんだ。

「おいおい!ハルっぺ。猿ってなんだよ。お前だってエロエロ星人じゃね〜か!!」

僕の首をつかんで、頭グリグリしてくる。

懐かしいな。

病院でのリハビリを思い出す。


動かない足、思うように歩けない歯がゆさの中、水野さんとの時間は僕に勇気をくれた。

太陽みたいな存在だった。

泣きたいときも、いつも隣にいて、バカなことばっか言って僕を笑わせてくれた。


「ゆうじと大野君も来れるって!!さっき電話あったんだ。」

いつものように遅れてきたシンが大声で叫ぶ。

「やった〜〜!!!」

みんなの顔に花が咲いた。

「あ、あと・・・ユミちゃんももう来るってさ。」

小声でつぶやくシンのお尻にキックしてやった。

「良かったな!!」




ユキのお母さんが作ってくれたからあげをほおばりながら、久しぶりの再会を楽しむ僕達。

お父さんは、散歩に出かけたまままだ戻ってこない。


『ピンポーン』


玄関のドアの向こうに懐かしい笑顔があった。


「ハル君、元気だった?なかなか会えなくて僕寂しかったよ!!」

ゆうじが元気いっぱいに笑った。

ゆうじに抱きつきたいくらいに嬉しかった。

車椅子を押す手つきも慣れた大野君は、一段と大人っぽくなってた。

「大野君、髪染めたんだ!なんか芸能人って感じじゃん!!」

「あ〜〜!ほんとだ。かっこいい!!全然雰囲気変わったね。」

「背も伸びた?成長期遅くね〜?」


2人とも、頑張ってるんだな。

顔見たらわかる。

昔とは全然違う目をしている。

自信と希望に満ち溢れたキラキラした瞳。


「僕、彼女できたんです!事務所のバイトに来てた人で・・・。」

照れながらの大野君の爆弾発言にみんなからの質問攻め。

「えぇ〜〜〜〜?まじで??」

「写真見せて!!」

「すごくきれいな人だよ。大野君とお似合いなんだ。」

ゆうじがニヤニヤしながら、大野君を見上げた。

「今日は新曲聞いてもらいたいんだ。ユキちゃんのお父さんどこ?」

「あ〜、散歩行ってる。もう帰ってくる頃かな。」


その時、玄関のドアが開いた。

「遅くなって悪かったね。ちょっと寄り道をしてしまって・・・。これみんなで食べて!」

お父さんは、これまたお洒落そうな店のケーキを買ってきてくれた。

そして、僕にウインクをしてくれた。

親譲りだったのか・・・あのユキのウインクのセクシーさも・・・。



「じゃあ、始めますか!!ユキちゃんのお父さんお帰りなさいパーティー!!!」

水野さんの掛け声で乾杯した。もちろん全員アイスティーで。


久しぶりに見るシンとユミちゃんの姿。

見ていてホッとする2人だって改めて感じた。


クールなユキのお兄さんは離れたソファに腰掛けていた。

ちゃんと話したことがなかった僕は、少しびびりながらも近づいた。

「あの、隣座っていいですか?」

「あ・・ああ。もちろん!」

笑うと別人のように優しく、穏やかな表情になる。

お兄さんも、苦労してきたんだよな。いろんな想いで今日の日を迎えていることだろう。

「君が説得してくれたんだって?親父のこと。」

「説得なんてそんな・・。」

真っ直ぐな目はユキに似ている。

「ありがとな。俺はともかく、ユキと母にとってはこれが一番良かったんだ。」

お兄さんは、アイスティーの氷を手でクルクルと回した。

「お兄さんは・・・」

僕は、チラっとお父さん方に視線を移した。


「俺はもう諦めてた。親父が変わることなんて最初から期待してなかったよ。だから、離婚って言われても悲しくはなかった。やっぱり、俺らを捨てるんだなって思った。でも、考え直してくれて、泣きながら謝った。その姿見てると・・・なんか、今までのことが全部嘘だったようなそんな気持ちになった。これが血のつながりなのかな。」

お兄さんの気持ちは痛いほどよくわかる。

期待しても期待してもいつも裏切られてきて、もう期待することをやめてしまってたんだ。


「俺も医者目指してるんだ。一緒にゆうじ君を立たせてやりたいな!!」

僕は深々と頭を下げて、お兄さんと握手をした。


「新曲ができました。一番最初にみんなに聴いてもらいたかった。まだまだ練り直してるとこなんだけど聞いてください。『絆』です!!」


部屋の明かりを少し暗くして、みんなが座った。

泣かないようにしようと思えば思うほど、いつも泣いてしまう歌声。


♪雪が舞い降りる寒い夜

窓に映る笑顔  何度も迷い、苦しんで、見失った愛

世界に一人のあなたのぬくもり いつも求めてた

追いかけてもつかめないその背中に何度も叫んだ

やりなおすこと それは むずかしいことじゃない

ただ見つめて 声をきき 歌おう

あなたが去ったあの夜を 忘れない

もうどこにもいかないで そばにいて たった一人のあなた

ルルル〜  ルルルルル〜

いままで流した涙の数  超えていこう

いままでの孤独 ぬぐい去ろう

これから 失いかけた絆探して 歩き出そう


やっと見つけた安らぎの場所

ここから始めよう この世に生まれた奇跡感じて  ♪



僕は抑えきれない涙がGパンに染み込むのを感じた。

隣では、お兄さんも泣いていた。


みんなの顔、見回した。

そこにいる全ての人が涙を流していた。

ゆうじと大野君の歌が、誰の為の歌であるか、みんなが理解した。


お父さんは、ただただ下を向いてハンカチで顔を抑えていた。

お母さんは台所の奥で声を殺して泣いていた。


拍手がいつまでも続いた。

初めてゆうじの歌を聞いたあの夜のように。












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