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2―48.貫く衝撃
 その瞬間の出来事を、哭士は捉えられずにいた。目の前に立っていた友禅の姿が一瞬にして消えた。
 同時に、響き渡る轟音に振り返ると、コンクリートが放射線状にひび割れ、その中心に友禅が沈んでいた。
「が……っ!」
 苦しげな表情に、起き上がる力は残っていない。レキを逃さんと伸ばした腕は、そのまま静かに地面へと落ちる。

「……!」
 認めざるを得ない、圧倒的な力の差。本気を出したレキにとってみれば、ここに居る狗鬼らを仕留めるのは、赤子の手をひねるよりも容易いことなのだろう。
「……お前は、一体」
 狗鬼の力は血筋で決まる。それは哭士も理解していた。力の強い狗鬼が生まれる家、早池峰家。それも、幼い頃から聞かされてきた。
 そんな早池峰の名を持つ狗鬼すら凌駕する、目の前の男。
「先に、申し上げたはずです。私は本家の使用人、と」
 折れた足に手を置き、哭士は無言でレキを見つめた。
「……このお答えでは、満足できないようで?」
 レキは、動かなくなった友禅をそのままに、哭士の目の前につかつかと歩み寄った。
「私は【神】の力を与えられたもの。そして、あなた方狗鬼の『原点』です」
 言葉と同時にレキが消える。


「!!」
 次にレキが現れたときには、長身の哭士の体がいとも簡単に吹き飛んでいた。
 折れた足で体の自由が利かない。だが、哭士の視線の先に捉えた、一人の人物の姿が在った。






――色把!

 このままでは、倒れこんでいる色把と衝突する。
 咄嗟に哭士は体を捻り、色把に手を伸ばした。着地の瞬間、哭士は強かに体を地に打ちつける。強い衝撃は、哭士の体を一度跳ね上げさせた。
 地面を転がり、ようやく身体が止まる。ズキズキと痛む体。首をもたげ、腕の中の色把を見やる。気を失っていた色把であったが、哭士が叩きつけられる直前に抱きとめたことで、怪我を負わずに済んだようだ。
「他人を庇っている場合ではないと思いますが」

 瞬間、レキが現れる。もはや息もつかせずに一気に仕留めるつもりのようだ。
 自身の胸に収まる体温。哭士は向かってくるレキの拳から色把をかばうように背中を向ける。

 同時に襲い来る重い一撃。





 瓦礫が溜まっている場所へと、哭士の身体は叩きつけられた。
「!!」
 瞬間、背中から胸へ、重い一撃が貫き、息が詰まる。
 突如起きた出来事に、哭士の思考と呼吸が停止した。




 哭士の視界で捉えているのは、抱きとめている色把の頭。



 そして、自らの胸から突き出している赤黒い、鉄屑。



 痛みなど、感じる余裕など無かった。体がひくひくと痙攣する。生ぬるい感触が、胸から腕、足を伝ってくる。胸元はすでに真紅に染まっている。
 言葉を発しようと開いた口からは、大量の赤い液体が溢れ出た。
 ぱた、ぱた、と血の落ちる音。色把の衣服が赤く染まっていく。
「……心ノ臓を貫かれても、まだ生きているとは……。流石に、早池峰の血を持つ狗鬼は違う」
 感心したようなレキの声が聞こえる。目は霞み、もはやレキの姿は捉えられない。
 何とか支えていた頭が、重い。目は虚ろに、呼吸は浅くなっていく。

――スベテヲ オワリニシマショウ

 もはや、声も音としか捉えなくなった哭士の意識。だが、僅かな抵抗か、色把を抱きとめている腕に僅かに力が入る。色把が纏っている衣服が、小さく音を上げた。





 空気を切り裂く銃声が響き渡ったのは、ほぼ同時のことであった。







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