異世界転生TSモノです。おまけに主人公が最強になっちゃうので、苦手な方はお気をつけ下さい。
「はぁ……はぁ……」
列強四国の中でも一際豊かで精霊の国と呼ばれているオルグレン王国の首都アクランド。そこからそう離れていない森の中で一人の幼い少女が木陰に一人蹲っていた。
夜、それこそ獣たちでさえも眠りについているであろうこの時間に幼い少女が外を出歩いているというのも少々おかしな話なのだが、一番おかしいのは少女の服装にあった。
大人のシャツをそのまま着たかのような服装。もとは白だったであろうその服はくすんで灰色になっており、所々が擦り切れ白い肌を覗かせる小さな穴が点々と空いている。極めつけはか細い首に巻き付けられた黒い首輪。
その身なりはもはや、おかしなどころでは済まされない。身体をしきりに震えさせ、何かに怯えているこの少女の服装は今現在の状況と合わさってかなり異常な事態となっている。
「そっちは!」
「いない! くそ、どこに逃げた!」
すぐそばで聞こえてきた足音と怒号を耳にし、呼吸と共に身体を硬直させる少女。悲鳴を上げまいと両手で口を押さえている少女のすぐそばには、オルグレン王国屈指の騎士数人と魔術士が一人少女が背にした木の向こうで右往左往している。
やがて足音と共に気配が遠ざかり、ほっとため息を吐く少女。しかし、一時の油断が仇となったのか僅かに上下した少女の肩が衣擦れの音を漏らしてしまった。
「いたぞ!」
「ばかぁああ!」
まだ近くにいた魔術士の怒号と少女が悲鳴を上げて身体を跳ねさせるのはほぼ同時だった。途端に、真っ暗だった森が魔術士の放った照明系の魔術で昼間のように明るくなる。
少女は一瞬でも気を抜いた自分と本当に僅かな音を聞き取った優秀な魔術士を恨みつつ森の中を疾走する。
しかし、後を追うのは王国屈指の精鋭たち。対して、追われるのはまだ年端もいかない少女だ。すぐに追い付かれるのは目に見えており、現に少女のすぐ後ろには彼女を捕らえようといつの間にか迫った騎士がそこにいる。
「きゃあっ!」
「があっ!?」
捕まる寸前、盛大に転げた少女の足が幸運な事に屈強な騎士サマのアゴにクリーンヒットし、何とか躱す事ができた。
思いの外威力があったのか、顎を押さえながらそのばに蹲っている騎士を背に少女は追っ手から逃がれるべく全力疾走する。
走って走って走って、やがて鬱蒼とした視界が晴れてきた途端に少女は絶望にうちひしがれたかのように走るのを止めた。
「う、そ……」
少女の目の前には先日の雨で水位が増した川が広がっていた。
心身共に疲れ果てている少女に水位が増して流れが早くなったこの川を渡りきるのは些か無理な話だった。
騎士たちもそれがわかっているのか無闇に少女に飛びつかず迅速に包囲を形成する。
「気をつけろ。この子は精霊の力を使う」
「ですが、力は押さえられているはずです」
「あんな首輪あてにできん。恐らく、服もその意味を成していないはずだ」
騎士隊隊長の言葉に一同は警戒するように低く身構えた。少女が何らかの反撃に出れば即取り押さえられるように。
川を見つめたまま呆然としていた少女がゆっくりと振り返る。緊張を張り巡らす一同に向かって、少女は真剣な表情を見せる。
このままみすみす捕まれば、まだ幼い少女のは命はそこで途絶えてしまう。それが嫌で逃げ出したというのに、これでは単に苦痛を増やしただけに過ぎない。
少女の脳裏に、10年間の記憶が蘇る。
「―――――っ!」
騎士の中の誰かが何かを叫んだが、時間がゆっくりと流れている少女にそれを理解する事はない。次第に傾いていく視界の中、満天の星空が騎士たちの姿を押し潰していく。
どぼん、という音はすぐに流れてくる轟音によって掻き消される。身体の芯まで届く水の冷たさは、平衡感覚と共に失われていく。
やがて視界が真っ暗闇に閉ざされた瞬間。少女の脳裏に遠い故郷の光景が映し出されていた。
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