27 シナ人の氾濫2
「苦労してシナとアメリカのシナ人が結びつくのを防いでいたのに、何てこった」シナ人の氾濫の真相を知った日本の防衛大臣は嘆いたが起こってしまった事は元には戻らない。それで何とかしてアメリカで食い止めねばと行動を開始した。まずは同盟国カナダの防衛だ。
「北アメリカ大陸の状況説明を宜しく」
「ノーフォークから始まったシナ人の氾濫はワシントンD.C.、フィラデルフィア、ニューヨーク、ボストンと北上しカナダの国境を越えて一時はモントリオールを窺う勢いでしたが何とかアメリカ側に押し返しました」
北に向かったシナ人はアメリカグマの勢力が強いためとカナダ側の抵抗によってアメリカ側に押し返された。シナ人の浸食は急速に拡がってはいるものの幸いにも地表のみで済んでいた。侵攻中のダンジョン攻略が上手く行かない為にシナ人の勢力圏の形成が上手く行っていないのだ。ダンジョンの確保無しでアメリカグマへの対抗はまず無理だしカナダの攻略もまず無理だな。
「カナダの被害状況は?残敵処理の状況も知りたい」
「カナダでは民間人はダンジョンへ避難したので被害は外の物品の略奪が殆どですね。主に食料ですが。それと大量のアメリカ人の避難民がカナダに逃げて保護されています」
「アメリカ人の避難民?態々カナダのダンジョンに逃げ込んだのか?ダンジョンならアメリカにも在るだろうに」
アメリカのダンジョンはアメリカ政府が封鎖中のものを除くと攻略が進んでいて、獣の勢力圏の奥深くに在り攻略が難しいものや人が住むのに居住に不敵なもの等を除いては人のダンジョンとなっていた。カナダにまで逃げ込まなくても自宅近辺のダンジョンに避難すれば済む話なのだ。まぁ、幸いにしてアメリカ人の大半は忌避する事も無くダンジョンに逃げ込む事で難を逃れたらしいが。
「アメリカではまだダンジョンを忌避する人々が多く居てダンジョンに避難するのを躊躇したみたいですね」
「カナダに逃げ込んでもダンジョンに避難する事になるのになぁ」
「それで未だに揉めていてカナダで問題となっています。どうしてもダンジョンには入りたくないと。だがカナダでは獣対策を鑑みてもダンジョン抜きでの避難行動は有り得ない状況でダンジョンに避難できなければ保護は難しい」
「避難に関しては日本でも同じだよなぁ。まぁ、緊急時でもダンジョンには入らないなんて言っているのはほんの一握りだけど」
「日本で緊急時でもダンジョンには入らないなんて言っている奴等はいざとなったら入るよ。信念も何もない口先だけの奴等だからな」
奴等は自衛隊の存在が憲法違反だと国外派遣に反対していたくせにダンジョンの氾濫の時は自衛隊が自分達を守るのは当然だと公言していた。もし信念があるなら憲法違反だからと拒否するよな。そして自衛隊がダンジョンの氾濫に対するミッションに成功すれば成功したでもっと上手く遣れた筈だとか文句を付けていた。感謝もしないで文句を付けるのだけを生き甲斐とするどうしようもない輩なのだ。
「日本の話は置いといて、重要なのはシナ人の氾濫だ。それでカナダに残ったシナ人の残党は?」
「ほぼ駆逐しました。ただ森にあるアメリカグマの勢力圏に逃れた者については確認が取れていません」
元々アメリカグマは植物食傾向の強い雑食で食性の違いからかグリズリー等のヒグマよりは獰猛ではなくヒグマを避けて棲み分けていたのだが、ダンジョンの発生以降は体格が大きくなった事もあってヒグマと伍す様になっていた。ただ植物食傾向が強い事に変わりはないので捕食の為に人を襲う様な事はまずない。南米のメガネグマと同じで人がアメリカグマの縄張りに入っても悪戯に刺激しない限りは問題はないな。
「厄介だな。奥には未攻略のダンジョンも在る筈だ」
「ですが大規模な散策はアメリカグマの勢力圏との均衡を崩します。森の奥へ行くほど強い個体が増えますからね。刺激するのは不味い」
「それは望む所ではないな。……アメリカグマの勢力圏にはドローンを飛ばしてシナ人の監視を続けよう」
「了解しました」
「それにしても厄介だな。アメリカ国内はもっとシナ人が溢れているんだろう?」
「ええ、ご存知の様にノーフォークのダンジョンがシナと繋がっていますから」
シナ人から地表を奪還するまでは可能だろうがシナ人のダンジョンを奪いシナ人を駆逐するのは不可能かな。オーストラリアにおけるシナ人の乱では裏に居たのがアメリカの二千万人程のシナ人だから追い出す事もできた。だがノーフォークにあるシナ人のダンジョンはシナ大陸に繋がっていてそこには億単位のシナ人が控えている。このダンジョンを奪うのはまず無理だろうな。シナ人の勢力圏の拡大を防げれば良い所だろう。それにしても何でアメリカ人はシナ人と組もうとするかなぁ。
カナダはアメリカからのシナ人の浸食を何とか防いでいた。シナ人のテロリストの侵入を防ぐ為の体制を敷いていてそれが役に立った。想定外の数が押し寄せて手間取ったが日本の協力もあってシナ人をアメリカ側に押し返す事に成功した。だが防衛には成功したもののカナダの危機感は大きかった。アメリカではまだシナ人の氾濫が収まる様子が無いのだ。そこで臨時の北極海会議を招集し諸国に協力を要請した。
「アメリカでは表面上はチャイニーズの侵攻が止まり膠着状態にある。しかしながらチャイニーズのダンジョンに対する攻勢は強まっており守るのがやっとの状況だ」
「人が足りないのだな」
「チャイナには共産党支配下だけでも最低で五億人はいるものと推定されている。アメリカも同程度の人はいる筈だが?」
「だがそれではダンジョンが在って防衛有利にしてもチャイニーズを殲滅するには足りんな」
「日本が介入すれば良いではないか。もうチャイナと対抗可能な人口になっているのだろう?」
「それが駄目なんだ。カナダの防衛を名目に一度介入したのだが失敗した。それで分かった事だがアメリカ人のチャイニーズに対する憎悪と恐怖は予想以上に深い。その所為でアジア人の日本人では救援に向かっても味方とは見做されない。チャイニーズと見做されて行き成り銃撃されるんだ」
日本はカナダに侵攻したシナ人を撃退した後でカナダの防衛を名目にしてシナ人の氾濫の拡大を防ぐべくアメリカへ介入した。この時にアメリカへは一方的に通知したのみで了承をとってはいない。隣の家の火事から類焼を防ぐのに隣の家人の了承を待っていたら自分の家が焼けてしまう。それで事後承諾で構わないと判断した。火事を起こしたのはアメリカなのだから責任はアメリカ側にあるのだ。
だが日本のアメリカへの介入は初動で躓いた。アメリカではシナ人に対する憎悪と恐怖が強くてアジア人に対しては問答無用で銃撃してきたりする。助けようとしても逃げ回り保護したら恐怖で泣き叫ぶ。まぁ、これは仕方がない。シナ人の乱が終息するかしないかでこのシナ人の氾濫だ。アメリカ人が恐怖に駆られるのは無理もない。だがこれでは日本人はアメリカ国内で真面な作戦行動がとれない。
「アメリカはそんなに酷いのか」
「そうなんだ。太平洋の島々に避難していたアジア系のアメリカ人に聞いてはいたんだがこれほどとは思わなかった。今回のシナ人の氾濫がシナ人に対する憎悪と恐怖に更なる拍車を掛けている。アジア人の占有するダンジョンでは勢力圏の防衛に専念して打って出ないそうだ。味方側に撃たれては叶わんからな」
「では日本は太平洋の島々にしか介入しないのか」
「ああ、日本はアメリカ本土への介入からは手を引く。アメリカ本土への介入はロシアとヨーロッパ諸国で進めてくれ」
「では日本は如何動くつもりだ」
「日本は防衛に専念する。具体的にはチャイニーズが侵攻する惧れのある地域の防衛だな。カナダ、アラスカ、オーストラリアそれと繋ぎが付けれればメキシコ。大西洋の監視もするから海から陸への援護ぐらいは要請があれば受けるよ」
「已むを得んな。これ以上チャイニーズの跳梁を放置する訳にも行かないし」
「ではその方向で」
会議で北アメリカ大陸に浸食中のシナ人の駆逐を名目に諸国によるアメリカへの介入が決定した。日本はアジア人に対するアメリカ国内での反発が強い為に周辺国の防衛に専念するとなった。前面に出るのは反発の少ないロシアとヨーロッパ諸国だ。オーストラリアとニュージーランドにはまだそんな余裕はないしチリとアルゼンチンは南極の開発で手一杯だ。
ロシアとヨーロッパ諸国によるアメリカへの介入が始まった。カナダからアメリカに侵入しシナ人を駆逐しながら南へと向かうのだ。最終的にはノーフォークにあるシナ人のダンジョンを攻略してアメリカ大陸からシナ勢力を排除するのが目標だ。
「チャイニーズの駆逐は順調に進んで居ります。バーモンド州とメーン州は攻略を終了しニューヨーク州も残りは沿岸部のみです」
シナ人は地表を席巻してはいたがダンジョンはノーフォークのものしか攻略できておらず補給線が伸び切っていた為に抵抗も弱く、介入後の駆逐は順調に進んでいた。
「西の状勢は?」
「西はアメリカグマの勢力が強い所為かチャイニーズが以前からあまり侵攻しておらず現在も変わりはありません」
「そうかでは西はアメリカ側に任せて問題はないな」
「はい。我々が西側へ侵攻する必要はないと判断しています。チャーニーズの侵攻は沿岸沿いにボストンまで来てアメリカグマを避けながら北のモントリオールへと向かっていました。我々はそれを順調に駆逐しています」
「では計画通りこのまま沿岸沿いに南へと進んで良いのだな」
「はい。ニューヨークを越えてボルティモアまではアメリカ側と話が付いてます。そこより先は状勢次第ですが」
「流石に首都までこちらが制してはアメリカ政府の面子が保てんだろうな。だが南からのアメリカ軍の進行は順調なのか?」
「ダラムまでは順調だったようですがその辺りから明らかに進行が遅くなっています。チャイニーズの拠点がノーフォークなので抵抗が強いのでしょう」
「ノーフォーク以外のダンジョンはアメリカ人が制しているのだろう?ならノーフォークを直接攻撃する手も可能ではないか。ダンジョンが繋がっているんだからな」
「アメリカ軍はダンジョンを使っての訓練すら行った事が無いんですよ。まだ中の住人との連携を上手く取れてはいない模様です」
「……では先にワシントンD.C.を攻略しては如何だ。北のチャイニーズを分断できるしダンジョンを使う経験も積めて一石二鳥だ」
「ノーフォークに近づく程チャイニーズの勢力が強いのですよ?そう事が上手く運ぶとは思えませんが」
「次のアメリカ側との打ち合わせの時に一応提案しておけ。上手く運べばこちらが楽になる」
地表はシナ人で溢れているが幸いにもシナ人のダンジョンはノーフォークにしかない。シナ人は移動にも補給にもダンジョンを利用出来ていないのだ。それでシナ人の補給線は伸び切ってしまっていた。
現状でカナダからの介入が順調に進んでいるのはノーフォークから遠くてシナ人の補給が上手く行っていない所為だ。アメリカ軍の反撃が順調に進んでいるのもシナ人の補給が上手く行っていない所為だな。此処でアメリカ軍がダンジョンを上手く使い熟すだけで地表での戦いは圧倒的に有利となる。国内のダンジョンが在る場所であればアメリカ軍は何処にでも行ける様になるのだからな。移動も補給も自由自在だ。
中国共産党の王主席は焦っていた。順調に進んでいたアメリカへの侵攻が南は戦線が膠着し北はカナダからの介入で戦線が後退していた。全てダンジョン攻略が上手く進んでいない為だ。
「習同志、アメリカのダンジョン攻略はどうなっている」
「ダンジョンは防衛側が圧倒的に有利です。ダンジョンの主が人や熊では攻略は難しいかと」
「そんな事は分かっておる。だが我らは中国の覇権争いでダンジョンの取り合いをしてきた。アメリカで何もしてこなかった奴等より有利な筈ではないか」
「アメリカ人がダンジョンの取り合いをしてこなかった訳ではありません。アメリカ人は熊や狼等の猛獣の攻撃を凌いで勢力圏を維持してきたのですよ」
「だが対人では我らの方が優れている筈だ。違うか?」
「調査しましたがそれは違います」
「何故だ。アメリカは内戦状態には無い。奴等は人のダンジョンを攻略した事は無いのだろう?」
「それがそうではありませんでした」
「如何ゆう事だ」
「アメリカでは以前に中国系のアメリカ人がワシントン州の独立を画策しテロ騒ぎを起こしており内戦に近い状況に陥っています。そのテロリスト駆逐の為に無数の人のダンジョンを攻略している模様です」
「……その中国系の奴等とは繋ぎをつけれるか」
「潜伏中で何処にいるかもわかりません」
「何としても繋ぎをつけろ。そいつらを配下にしてダンジョンを乗っ取ろう。そうすれば今よりもアメリカに食い込める」
王主席はアメリカに移住したシナ人とその子孫を配下にしてそのダンジョンを乗っ取る事を決めた。
アメリカ各地にあるダンジョンに潜むシナ人のテロリストは中国共産党勢力のアメリカへの侵攻を知って対策を協議していた。
「で、如何する?」
「奴等が暴れている限りこちらへの圧力が減るから俺は様子見だな」
「奴等と接触して共同戦線を張るのは如何だ?」
「共同戦線だ?考えが甘いぞ。力に差があり過ぎるだろ。乗っ取られるのが落ちだ」
「だがこのままでは少しづづ削られて我らは衰退の一途を辿る。これは起死回生のチャンスだ」
「衰退を加速する危険の方が大きくはないか?」
「リスクを取らないと挽回は出来んぞ」
「リスクを取るか。俺達はそれで独立を画策して失敗したんだよな」
「俺は共産党とだけは組まない。親父はあそこから逃げてアメリカに来たんだ」
「俺も奴等と組むのは御免だ。いい様に使われてダンジョンを盗られるだけだ」
「俺は半島の連中みたいにはなりたくないな」
半島人はシナ人の乱においてシナ人に擦り寄ってアメリカやオーストラリアで暴虐の限りを尽くしてきたのだが現在はシナ人からさえ見捨てられていた。オーストラリアで事が失敗に終わった時には少し前まで敵対し蔑んでいた日本人に尻尾を振って「シナ人に騙されてー」とか「シナ人に強制されてー」とか喚いて被害者の如く振舞っていたがそんな事が通用する筈もなく殲滅されていた。最後まで自分達は被害者だと喚いていた。シナ人と一緒にアメリカに逃げた者が少しは居た筈だがその後の消息は定かでない。
「奴等に目が向いている間に人を増やそう。前の蜂起の時は人数が少なすぎた」
「オーストラリアはあと一歩だったぞ」
「ああ、それが一番悔やまれる。もっと前にオーストラリアと繋がっているのを知っていればなぁ。今頃はオーストラリアは我らのものだったのに」
アメリカのシナ人が競争相手のいないオーストラリアのダンジョンの攻略を秘かに進めていたら、そして充分に人口を増やしてからオーストラリアの乗っ取りを謀っていたら、それは成功していた可能性が高い。日本が気付いた時には手に負えなくなっていただろう。
「まぁ、昔の事を悔やんでも仕方がない。重要なのはこれから如何するかだ」
「何をするにせよ人が少なくては成功は覚束ない。このまま生き残りを図るにせよ。共産党と組むにせよ。せめて二億人は欲しいな」
「二億人か……では暫くは息を潜めて人口を増やす事に専念するか」
「なんだ。それではこれまでと変わらないじゃないか」
「まぁ、そうだな。違うのは奴等がノーフォークを占拠した事でこちらへの圧力が減った事だ。俺達はこれを利用して力を付けよう」
中国共産党の王主席が配下にしようと目論んでいたシナ人のテロリストはそれを嫌がり益々潜伏する様になった。シナ人を目の敵にして探していた者達はノーフォークでシナ人の氾濫が起きた事でそちらへの対処を優先する様になった。潜在する脅威より目前の脅威への対処が優先するのは当然だな。
シナ人の氾濫が始まって地表でのシナ人の侵攻が異様に順調だったのは抵抗らしい抵抗が無かった為だ。アメリカの多数者である白人はダンジョンを忌避する傾向にあって地表には強化人の影が薄く、その少ない強化人は民間人の安全を優先し避難に徹していた。それに加えてシナ人の侵攻は避難民の群れと重なっていて軍は手を出し難かった。国内で自国民を巻き込む攻撃を行うのは流石に躊躇われた様だ。避難民がダンジョンを忌避せずにダンジョンに避難していればこのような事態にはならなかった。シナ人の浸食が此処まで拡がる事は無かっただろうな。