表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/38

22 シナ人の乱、オーストラリアにて

 日本政府はオーストラリア政府とニュージーランド政府に接触して支援を開始した。シナ人のテロに対抗する為だ。接触した時点での状況はと言うと……オーストラリアには早々に自衛隊を投入することが決まった。テロリストの強化人達が自動小銃等の携帯兵器で軒並み武装していたのだ。話が違うぞ!オーストラリアではアメリカよりも銃規制が強化されていて入手が困難だった筈なのに。念のためニュージーランドにも自衛隊を早々に投入したがこちらのテロリストの武装は貧弱なものだった。ニュージーランドは日本並みに銃規制が厳しくて銃器の入手が難しい。その所為かな?




 日本はダンジョン攻略に武装した強化人の部隊を初めて投入する事となった。相手が武装しているのだからこれは仕方がない。テロリストは武装していると言っても正規の軍事訓練を受けてはいない様で戦いはこちらの有利に進んだ。こうして部隊はシナ人のダンジョンの攻略を着々と進め、シナ人を排除していたのだが……


「何かおかしくないかこのシナ人のダンジョン」


「何が?普通のダンジョンじゃないか」


「だから普通すぎるだろう?これでは日本にあるうちらのダンジョンとあまり変わらない」


「ああ、言われてみればオーストラリアには日本からダンジョン関連の情報はまだ伝わっていない筈だな」


「このシナ人のダンジョンの中には海の層まである。だが聞いた話だとオーストラリア政府はダンジョンの開拓にはあまり熱心じゃない」


「俺もそう聞いてる。それに普通は外の環境の延長でダンジョンを開拓するよな」


「その筈だ。俺は日本に無関係のダンジョンで人造の海を見たのは初めてだ」


 オーストラリアでシナ人のダンジョンを攻略中の部隊は違和感を感じていた。シナ人のダンジョンが二種類あるのだ。一方は日本並みに開拓された人のダンジョンでもう一方はこれまで国外で見た事のある程度の人のダンジョンだ。特に海なんて日本が技術を流した国以外で見るのは初めてだ。自衛隊はフィリピン、マレーシア、インドネシア、ニューギニアと周って現地人のダンジョンに招かれているがそれなりに開拓されたダンジョンでも外部環境からかけ離れた環境には成っていなかった。作物や家畜が育ちやすい環境を保っていただけだった。


「シナ人の弾薬等の軍事物資の補給ルートは掴めたか?」


「不明です。オーストラリア軍の備蓄は無事でした。生産工場が襲われた事実もありません」


「すると自前で工場を持つか他国から流れているかだな」


「工場を自前で持って秘匿しておくのは難しいですよ?」


 既存の工場を利用するにせよ。新規に工場を建てるにせよ。目立ちすぎる。材料の調達も必要だし従業員も必要だからな。


「では他国から手に入れている事になるな。だが何処から如何やってだ?」


「奴等に海路や空路が利用できるとは思えませんが?」


「……するとダンジョンだな。如何やったかは分からんがアメリカのダンジョンと繋がっているのだろう。武器がアメリカ製だし、ダンジョンの様相への違和感もそのせいだな。アメリカからダンジョン関連の技術が漏れているんだ」


「……それは不味くないですか?アメリカにはシナ人が大勢いますよ?」


「二千万人以上だ。アメリカにはシナ人の強化人が二千万人以上いる。オーストラリアのダンジョン外の総人口と大差ないな。時間が経てば更に増える筈だ」


「ニュージーランドだったら今頃は国が乗っ取られていましたね」


「オーストラリアだって危ない。相手は強化人だからな」


「日本だけで大丈夫ですか?」


「単独でやれんことはないが、他の計画が確実に遅れるな」


「単独で進めるのと他所を巻き込むのとどちらが日本に有利ですかね?」


「そんなことは政治家の連中が判断するさ」


「……ちょっと嫌な考えが頭に浮かんだのですが」


「何だ?」


「オーストラリアとアメリカのシナ人のダンジョンがどうやったかは分からないけど繋がっているのですよね?」


「まだ推測だがな」


「シナ大陸のシナ人のダンジョンとも繋がったらどうなると思います?」


「……それはシナ人が三大陸を自由に行き来できる様になると言うことだな」


「そうですよね」


 シナ人が三大陸を自由に行き来する。これはシナの争乱が三大陸全土に拡がる可能性を示すものだ。シナから大勢の強化されたシナ人がアメリカとオーストラリアに流れ込む。新たなダンジョン関連の技術を手に入れたシナ人がユーラシアで獣達の勢力圏を封じながらその勢力圏を拡げる。そうしてシナ人の争乱に巻き込まれる世界。


「……俺はこれ以上この件は考えたくない」


「そうですね。情報を上げて後は上の判断に任せましょう」


 日本政府はアメリカとオーストラリアから上がった情報から両国のシナ人の乱が繋がっていると判断した。これは早々に潰さないと大変な事になる。シナ人は世界中にいるのだ。現在おとなしくしているシナ人も状況次第ではどう動くか分からない。アメリカのシナ人の多くもテロを起こすまでは普通に暮らしていたのだ。




 日本政府はシナ人の乱を北極海会議の緊急議題として会議の開催を要請した。


「報告書の資料にもありますようにアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドにてほぼ同時期にシナ人の乱が発生しました。問題はアメリカとオーストラリアのダンジョンが繋がっている可能性が高いことです。アメリカにはシナ人が二千万人以上いましたがシナ人の乱事態はテロとして潰されました。ですがその残党の動向は現在不明です。我々はこの不明のシナ人達がオーストラリアに潜伏中と考え、緊急支援を要請します」


「日本だけでは対処不能なのか?」


 オーストラリアとニュージーランドでの権益は魅力だが南極のダンジョンも攻略優先で進めたから開拓がまだ不充分だし人を回す余裕はないのだが……それに出来ればシナ人とは関わりたくないんだよな。


「時間を掛ければ可能です。ですが時間を掛けたくはないのです」


「急ぐ理由は?」


「シナ人がシナ大陸に逃亡する可能性を潰す為です。シナ人のテロリストをここで殲滅する必要がある。あなた方はシナ大陸のシナ人がダンジョンを通じて世界中に拡がることを望みますか?」


 億単位のシナ人が北アメリカとオーストラリアに流れ込んだら如何なるか……これはシナの争乱が世界中に拡がるって事だ。ダンジョン関連の技術がシナ大陸のシナ人の手に渡ったらどうなるか……これはシナ人に対する防波堤となっている獣達の勢力圏の威力が相対的に弱まるって事だ。

 この状況を理解した各国の動きは速かった。此処で食い止めないと自国にシナ人が流れ込むかもしれないのだ。少なくとも人口を増やして対抗可能となるまでは現状を維持しないと自国の崩壊に繋がる。特にヨーロッパにとってはEUが移民に開放していた時期にシナ人の移民も受け入れていたので他所事ではなかった。もし彼等がシナと繋がったら?日本にしてもヨーロッパを通じて北極や南極にシナ人が流れ込んできたらと考えると他所事ではない。台湾も状勢次第では……

 各国は極地のダンジョン開拓に回す予定の人員をかなり削ってオーストラリアとニュージーランドに注ぎ込む事となった。自国にシナ人が流れ込む悪夢よりはマシだ。一応はオーストラリアとニュージーランドに許可を得ているが事後承諾に近い形だ。幸いと言うか両国の政府はこの時点ではダンジョンの重要性をあまり認識していなくて左程抵抗は無かった。シナ人の駆除を優先した事もあるかな?まぁ、気付いた時には後の祭りだな。いずれにせよシナ人の支配よりはマシな筈だ。各国はオーストラリアとニュージーランドの救援を名目にシナ人のダンジョンを攻略しながら南極大陸の攻略に近い形でこの地のダンジョンの攻略を進めた。






 日本の介入でシナ人と半島人は混乱していた。アメリカから拠点を移し、武器の移送も完了して各地に隠匿した。後は暫く潜伏して人を増やしてから一気にオーストラリアを乗っ取る目算でいたのが日本の介入で崩れてしまった。


「何で小日本の奴等が此処にいる。そんな兆候は何処にも無かっただろう?」


「支配下においたこちらの同胞にも聞きましたが小日本の奴等は移民の数も少なく問題としておりませんでした」


 この時点でオーストラリアでテロを始めた所謂同胞のシナ人達はアメリカから来たシナ人達に制圧されていた。


「では何故奴等が此処にいる」


「オーストラリア政府が小日本に救援を求めたのでしょう」


「だが海路も空路も使えないだろう?」


「奴等を侮ってはなりません。何らかの小賢しい手を思いついたのでしょう」


「そうだな。奴等には何度も痛い目に遭っていたな。では早々に奴等を潰せ」


「お任せを」


 ところが日本の介入から暫らくするとヨーロッパとロシアの介入が始まった。正規軍が投入され都市や町のシナ人は徐々に排除されていった。同時にその周辺のシナ人のダンジョンも攻略されていった。


「何でこうなった。奴等は如何遣って来たんだ。北の端と地球の裏側の奴等が……何故だ?」


「小日本の奴等が我等を恐れて呼び寄せたのでしょうな。ダンジョンを使えば可能です」






 諸国がオーストラリアに軍事介入して半年ほどでオーストラリア沿岸部のダンジョンはほぼ制圧してシナ人を内陸に封じ込めた。シナ人がダンジョンを使ってアメリカに逃げ込む可能性はあるがシナに逃がすよりはましだ。この間にオーストラリア人にもダンジョンの攻略方法や開拓方法等の技術を教授してダンジョンの攻略を進めて貰った。自衛隊はシナ人が島伝いにシナに辿り着いたらたいへんだからと未だに周辺海域を哨戒していた。


「奴隷の開放状況はあまり芳しくはないな」


「ああ、洗脳されているからな。虐殺があっても生存者は洗脳されていて真面に話も出来ない。俺達に負けて退却したから殺されても仕方がないとまで言っていた」


 シナ人のダンジョンを攻略する際に奴隷状態にある人々の開放も行っているのだが拉致されてから既にダンジョン時間で三十年以上の歳月が経っていて三世代目が産まれていた。拉致された一世代目はダンジョンの外を覚えている筈なのだが殆ど生き残ってはいなかった。更に二世代目以降は洗脳されていて悲惨な状況からシナ人達が助け出したことになっていた。前線に立たされることは当たり前でこちらが助けようとしていても相手にとっては恐怖でしかなかった様だ。シナ人はこちらの事は無い事無い事吹き込んでいた様で保護してからも恐怖からか萎縮していた。日本人は特に酷く言われていた様で保護した先からオーストラリア政府に引き渡すしか手が無かった。


「このまま進めても奴隷の解放には上手く繋がりそうにないな」


「シナ人に奴隷とダンジョンを放棄させてアメリカへの撤収を促すしかない」


「降伏してきたシナ人と同じ扱いか」


 日本は降伏してきたシナ人に対してはチップを腹腔内に挿入していてダンジョンを使ってアメリカに行ける者についてはアメリカに追放していた。こちらに戻ったら死ぬよと脅してだ。チップからは信号が出ているだけで戻っても識別が可能なだけだが戻った奴は確認できていない。


「追い詰めてシナ大陸に行かれるよりはマシだ。捕虜になったシナ人を使って奴隷の解放とこの大陸のダンジョンの放棄を要求しよう」


「降伏は求めないのか?」


「降伏されたらこちらが困る。奴等が何人いるか知っているだろう?何処で養うんだ?下手に捕まえたら裁判も面倒だぞ。だからアメリカに逃げて欲しいんだ」


「確かにこのまま争いを続けて殺し続けるのも面倒だな」


 日本はオーストラリアに介入している各国と協議し、シナ人がアメリカに逃げ出す様に促す事を決定した。このままシナ人のダンジョンの攻略に億単位で人をつぎ込めば潰す事は可能だが時間も手間もかかる。元々アメリカ人のテロリストなのだからアメリカ人に対処して貰おう。それが筋だ。多少オーストラリア籍の者達も混ざるかもしれないがその辺りはお互い様だ。


 




 気が付くとシナ人は完全に劣勢となっていた。


「この大陸の半分でも切り取って独立することは今から可能か?」


「今からでは些か手遅れかと……」


「奴等の求めるものはなんだ。交渉で何とかならんのか」


「奴等の要求は奴隷の解放とこの大陸のダンジョンの放棄で変わっておりません」


「そんな事が出来るか!死ぬも同然ではないか。……待てよ。奴等はこの大陸のと言ったのか?」


「そうです。そして奴等は我々がアメリカから来たのを知っています」


「アメリカへ戻れと仄めかしているのだな」


「そう思われます。奴等もこれ以上戦いが続くのは望んでいないのですよ」


「撤収は可能か?」


「我々だけであれば何とか」


「ならば我々は此処のダンジョンを放棄してアメリカに撤収するとしようか。残りのダンジョンはオーストラリアの同胞のものだ。我々の知ったことではない」


 ダンジョンさえ残して置けば戻る機会もある………筈だよな?


「奴隷は如何しますか?」


「奴隷は選別して残りは奴隷解放の要求があったことを伝えて鮮族の奴等に呉れてやれ。後の事は鮮族の奴等に任せよう」


 アメリカのダンジョンに余裕はないから不要な奴隷を養う余裕はない。


「分かりました。奴隷は必要数だけ残し、残りは鮮族に廻します」


「そうだ鮮族の奴等には撤収の殿も任せようか」


「まぁ、鮮族の奴等もアメリカにはダンジョンが在る筈ですから問題はないでしょう。ただ奴等はこちらの思う様には動きませんよ?今迄奴等に任せて上手くいった覚えがありません」


「それは奴等の問題だ。知ったことではない。お前はアメリカに上手く撤収する事だけを考えろ」


「分かりました」


「では俺は先にアメリカに戻るとしよう。後は任せた」


「えっ………」


 シナ人が我先にアメリカへと逃げ始めた。予想外だったのはシナ人の奴隷と半島人が争い始めた事だ。双方が相手の事を格下だと考えていたらしい。シナ人は半島人に奴隷の事を任せて撤収を開始したのだが半島人は何を思ったかシナ人の奴隷を虐待し始めた。奴隷のくせに生意気だとかが理由らしいのだがシナ人の奴隷だった者達は半島人を格下だと思っているからそのまま争いに移行した。趨勢はあっと言う間に定まった。奴隷とは言え最前線で戦っていた者達に何もせず命令していただけの者達が敵う筈もなく半島人はアメリカに逃げ始めた。人数的には半島人が圧倒していた筈なのだが……

 シナ人と半島人はその殆どがアメリカに逃げてしまった。日本と諸国の部隊は主のいなくなったダンジョンを攻略している所だ。奴隷を開放する事が目的の一つだったのだが多くの元奴隷達が半島人との争いを続ける為にアメリカに渡って行った。残った元奴隷達とはオーストラリア政府が交渉中なのだが幾つかのダンジョンを彼等の物と認める事で落ち着きそうだ。シナ人と半島人?奴等は未だに排除対象で元奴隷の者達が率先して排除している。








 アメリカの強化人の勢力にはアメリカとオーストラリアのダンジョンが繋がっている事のみ情報を流しておいた。アメリカからの情報によるとダンジョンの氾濫前にアメリカより安全な所としてオーストラリアとニュージーランドに逃げたシナ人が居たそうだ。その中にダンジョンに入ったことのあるシナ人が居たのだろう。それでアメリカとオーストラリアのダンジョンが繋がったのだ。オーストラリアのダンジョンの様子から見るに繋がったのは今回の騒動が始まった後だ。そうでなければワシントン州には手を出さずオーストラリアの占領に専念していたに違いない。もしそうなっていたらオーストラリアの救援は格段に難しかっただろうな。

 アメリカではオーストラリアから戻ったシナ人と半島人が問題となっていた。アメリカの現状を何も知らずに向かった元奴隷達は向こうでシナ人と半島人を血眼になって捜し出しては駆除していた者達と合流したらしい。元奴隷達はアメリカで縁者と会って真実を知り、殆どの者は洗脳が解けて今ではシナ人と半島人の駆除に精を出している様だな。浚われていた者達が少数ながらも戻ったことでシナ人と半島人の行状がアメリカ中のダンジョンに広まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ