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12 アメリカの干渉

 大抵の国はダンジョンの氾濫による獣達の勢力圏の拡大への対処で手一杯な訳だが中には何らかの理由で他所の国に干渉を始める厄介な国もあった。

 アメリカは日本がロシアからカムチャツカ地方を譲渡されて領有した事が気に入らないらしく干渉を始めた。干渉と言っても要は「アメリカに売れ」とかそんな事だ。「アラスカで手一杯の筈なのに何を言ってるんだ?アラスカから日本に救援要請があったんだぞ」と言った内容を丁寧に返答したら益々いきり立って「上手くいく筈はないから渡せ」との内容の声明を出した。日本は丁寧に何度もお断りしたのだがアメリカ政府には諦める様子が無い。


「アメリカはなんで今頃になってカムチャツカの事を持ち出すんだ?日本が領有してもう一年になるのに」


「妙ですよね。アメリカはアラスカ州で手一杯の筈だ」


「カムチャツカを買う余裕なんてないだろう?大体何を対価に手に入れるつもりだ?凍結した日本の資産を返してからにしろよって話だよな」


 アメリカ軍の撤収前後に日本人は海外資産の引き揚げに入った。これは当然の事だろう。世界中で同じ事が起きていてアメリカ人も同様に海外から資産を引き揚げていた。そこでアメリカ政府は資本の流入を促進し流出を防ぐ為に外国資産の凍結を発表した。理由は市場の混乱を防ぐ為とか言っていたが要は借金を返す気は無いって事だ。日本は相互主義の原則に従ってアメリカ資産を凍結したが微々たるものだ。アメリカは未だに市場が落ち着くまではとか言いながら外国資産を凍結したままだ。


「それにしても何故でしょう?余裕がある訳でもないのに」


「それは調べる必要があるな。日本は既にカムチャツカにはどっぷり浸かっている。アメリカの要求を呑むのはアラスカと交換しろと言われても無理だ。何故かが分かれば真意が掴めて遣り様もあるかもしれん」


 カムチャツカ地方はダンジョンの攻略が順調に進みその先のマガダン州とチュクチ自治管区の領有も順調に進んでもう半年となる。日本は既に手を引ける状況には無かった。よって日本はアメリカの要請を断りつつアメリカの国内状勢を探る事にした。


「アメリカの状勢が分かりました。これはアメリカ国内の政治問題ですね」


「何が如何してカムチャツカを寄越せなんて話になるんだ?」


「以前アラスカ州政府から救援要請があったでしょう?」


「ああ、アメリカ政府から否定の声明が有った奴だな。それで?」


 日本にはアラスカ州から救援要請があったがアメリカ本国からはそれを否定する声明が出されていた。日本は動けないよな。下手に動いたら核ミサイルが飛んでくる。ダンジョンに逃げ込めば命は助かるとは言え地上は被害甚大だろう。そうなったら獣のダンジョンと対抗するのが困難だ。報復するにも核ミサイルは……ロシアから買えば良いのか。


「議会でアラスカの状勢についての突き上げがあったらしいですよ」


「??それで?」


「何故アラスカ州政府が日本に救援要請を出したかが問題になって調査したみたいです」


「何故だろう?アメリカ政府に要請すれば良い話だよな」


「どうも日本のカムチャツカの領有が順調な事が問題の様です」


「アメリカには関係ないだろう?」


「アラスカはあまり順調ではない様です。ヒグマと狼の勢力圏が順調に拡大中なんですよ」


「……それで突き上げがあったんだろう?」


「はい、それでアラスカ州政府から何故救援要請があったかと言うとカムチャッカが順調な事を嗅ぎ付けたからなんですよ」


「ベーリング海峡で原住民の行き来があるんだったかな?聞いた事が有る様な無い様な」


「それは知りませんがアラスカから逃げた可能性はあります。北では陸より海の方が安全ですから」


「そう言えば海岸沿いにカムチャツカに何人か逃げて来た話は聞いたな。アラスカからなのか?」


「とにかくそれでアメリカ政府は日本のカムチャツカの領有が順調なのを知った訳です」


「それがなんで……カムチャツカごと日本のノウハウを手に入れたいって事か?」


「それも有るでしょうが主な理由は違います」


「??良く分からんな?」


「アメリカ政府はカムチャツカで日本が順調では困るんですよ。アラスカが上手く行っていないから。何でアメリカに出来ないんだって話になるんですよ。これが国内政治的には不味い訳です」


 日本がカムチャツカ領有を順調に進めている事が問題だったらしい。アメリカ政府は国内でアラスカの状勢が上手く行っていない事について突き上げられていて様々なデータを出して言い逃れていたのだ。此処で日本がアラスカに準ずる地域を順調に領有して勢力圏として保持する事に成功したら立場を失うらしい。まぁ、アラスカを放置気味にしたのは分からないでもない。あの広い土地の六十五%は国有地でダンジョン発生前の人口は七十万人程だ。いざとなったら住民を避難させれば良いとでも考えていたのだろうな。


「日本はアメリカの国内政治に巻き込まれたって事か?日本に裏取引でもして秘かにノウハウの支援を要請するならまだしも完全に舐めているよな」


「そうですね。自分達の落ち度を消すとともにノウハウを掠め取ってアラスカの復興でもぶち上げようとしたのではないですか?それで奴等は政治的なポイントを稼げます。日本を舐めてますよね」


「なら遠慮する必要は無いな」


 日本政府はロシア政府と共同声明を出してこれは二国間で正式に合意に至った事柄なので第三国は口出し無用だとアメリカに通達した。と同時に日本のカムチャツカ地方の領有が順調に進んでいる事の詳細な情報をアラスカ州政府を通してアメリカ国内に流した。日本は既にロシアとの協約に準拠してカムチャツカ地方に隣接するチュクチ自治管区とマガダン州も領有して保護下に置いていたのだ。此処まで来て手を引く訳には行かなかった。余りにも馬鹿らしいのでアメリカ政府には配慮する必要も感じなかった。アメリカ国内では政府を糾弾する火の手が上がり日本への干渉は取り敢えずは収まった。


「アメリカは何とかなりそうだな」


「アメリカの一部の政府関係者は日本を恨んでいる様ですがね」


「逆恨みだろう?日本がカムチャツカから手を引くのは無理だったんだ。アメリカの馬鹿な要求が招いた事なんだからどうしようもないよ」


「でも五年前ならアメリカの要求は通っていたでしょう?その感覚が抜けていないんですよあちらは」


「五年前ならロシアから日本へ領土を譲渡なんて話は無かったよ。それに当時はアメリカ軍も駐留していた」


「そうですね。ダンジョンの所為で明らかに世界状勢は変わった。核兵器の脅しも以前ほどは効かないし、諸国も戦争をしている余裕なんてない筈です。でも頭の中はそれほど変わっていない。特にアメリカはそうです。頭の中は覇権国家の時のままだ。強化人の社会進出も一番遅れている」


「強化人の進出については半島が一番だろう?未だにボス争いが止まないがトップは強化人だ」


「ああはなりたくないですよね」


「当たり前だ。半島では一般人は奴隷状態らしい。古代国家に逆戻りだ」


「日本では表には出ていませんが強化人の人口の方が既に多い。ダンジョンに籠っているから目に付いていないだけですよね。彼等が外の政治にあまり興味が無い御蔭で表向きは変わっていないけど日本でも既に力関係は逆転していますよ」


「皆気付いているよ。信じたくない者はいるかもしれんが今更どうしようもない。ダンジョンを排除不能な限りはこの状況に順応するしかないんだ。順応できない国は亡びる。順応できない人も滅びる。この状況の中で足掻いて生き延びるしかないんだよ。半島みたいな順応は御免だがな」


「アメリカはあまり順応出来ていなさそうですが」


「厄介だよな。外面が強いだけに厄介だ。軍事力はトップだしダンジョン抜きで人口も多い。クリスチャンの政治的な力が強いせいか日本ほどダンジョンの活用が進んでいない感じだな」


 暫くするとアラスカ州政府が独立を宣言してアメリカ合衆国から離脱したため日本はその独立を承認した。そしてアラスカ政府から正式な支援要請が有ったので支援を開始した。アメリカでは憲法上は州には独立する権利があるのでアメリカ政府はアラスカ政府を非難する事はせずに日本を非難し始めた。アメリカの分裂を誘ったとかそんな感じだ。日本政府とアラスカ政府は直ちに共同声明を出した。「アラスカはこのままではあと二、三年で完全にグリズリーと狼のものとなり人はその中で隠れ住むことになる。アメリカ合衆国政府はアラスカ州政府の再三の訴えにも拘らずそれを放置した。アラスカの独立は人を守る為であり、日本の支援も人を守る為のものである。それを怠ったアメリカ合衆国政府にはこの独立に関する何事に対しても非難する資格はない。非難されるべきは此処まで放置したアメリカ合衆国政府である」共同声明の効果かアメリカ国内における政府に対する糾弾が増し日本への非難は一旦治まった。


「アラスカ支援は順調に進んでいるのか?」


「ロシアからは一年遅れですが何とかなるでしょう。この一年で狼対策もノウハウが溜まっていますし」


 日本とアラスカは協約を結びそれに準拠する形で日本は支援を進めた。アラスカに対する日本の支援は基本的にロシアに行ったものと同じだな。対価として譲渡されたのはアリューシャン列島とアラスカ半島なんだが元々あまり人が住んではいないのでダンジョンを攻略してはいるものの外は自然状態で放置したまま。こんな所貰っても戦争になったら守り切れんよな。


「それにしてもアリューシャン列島とアラスカ半島を貰ってもなぁ」


「ねぇ、まんま自然公園ですよね。ダンジョンの御蔭で自然破壊はせずに居住する事も可能ですからダンジョンの攻略は進めていますが日本で喜んでいるのは生物学者ぐらいですよ、きっと」


「アメリカ政府は何も手を付けていなかったって本当?」


「ええ、島の住民の一部がダンジョン内に畑を作っていただけです」


「アラスカ州全体がそんな感じなの?」


「そうでしょうね。でなければ日本に救援を求めてはいないと思いますよ」


「ふ~ん。勿体ないよな。あれだけ広ければダンジョンを利用すればいくらでも人が住めるのに。ダンジョンを利用すれば自然破壊もしなくて済むし。問題なのは獣達との縄張り争いだけだ」


「それが一番の問題ですよ。アラスカが独立した原因ではないですか」


「でも日本並みにダンジョンを活用していればアラスカはこの四年で人口が二千万人以上になっていてもおかしくはないんだよ?ダンジョン時間で百六十年だからね」


「確か五百万人程ですよ。まぁ、ダンジョン内も日本の様には開拓されていないしこれでも多いぐらいでは?元が七十万人ですから」


 アラスカは寒い環境の所為かダンジョンの発生時からダンジョンに住み着いた人もいたのだがダンジョン人口は五百万人程らしい。白人の割合が多い事もあってダンジョンに対する忌避感が強かったのかもしれないな。そして広いこともあって人のダンジョンの所在地もバラバラであまり繋がりも無く在り纏まりに欠けていた。ダンジョン内部の開拓も寒冷地の農業、牧畜で日本の様に湖を造ったり海を造ったりまではしていなかった。まぁ、これは外にあるものを態々造ろうとはしないか。でもこれからは何でも節操なく造る様になるのだ。ロシアでもそうなっているからきっとそうなる。そうして食生活が大幅に変わって人口も増えて獣達のダンジョンに対抗して行く事となるのだ。


「この件は世界から見たら日本がアメリカの一角を崩した様に見えるんだろうな。そんな気は無いのに」


「私が思うにアメリカが凍結中の日本の資産からしたらこんなものでは全然足りませんよ。凍結中の資産を理由にアラスカ全土を領有したのならともかくアリューシャン列島とアラスカ半島のみですよ」


「資産凍結の件があるからアメリカに味方する国が少ないのは行幸だな」


 中国共産党政府と半島の亡命政府が「侵略だ」と日本を非難していたが他は静かなものだ。


「今更ドル資産が戻っても使い道は無いですけどね」


「アメリカとアラスカの揉め事は如何なった?」


「アラスカの六十五%が国有地だった問題ですか?さあ?日本にもクレームが来てましたよね」


「日本はアメリカとアラスカで決着が付かない限りは対処のしようが無いんだ。アラスカから日本へ正式に譲渡された土地だからな」


「まあ、そうでしょうね」


「アメリカではダンジョンは見つけた奴のものだそうだからダンジョンの占有自体は進めても問題ない筈なんだけど如何なんだろうな。まぁ、今更後には引かないけどな」


 アラスカ政府は当然の事ながらアメリカには一切の権利が無いとする立場だ。グリズリーや狼の勢力圏の拡大を放置し住民の生存圏を脅かした事で国としての管理責任を放棄したものとしてアメリカはアラスカに対する主権を失ったとしていた。そして所有権を主張するのであれば管理義務を怠った事に対する損害と今後起こるであろう損害について補償せよと公式に表明していた。実際の所、放置していたら大半の人がアラスカから追い出される事となっていただろうな。


「憲法に保障されている以上はアラスカの独立は認めるしかないでしょう。連邦政府の保有する土地についてはアラスカ州内の土地なので独立を認める以上はアラスカの領土であることに間違いはない筈です。ただ何処の所有かで揉めている訳です。アラスカは連邦政府の管理義務違反を所有権の放棄と捉えて所有権は移転したとの立場ですね」


「ああ、何もしていないからな。獣達と対抗するのにダンジョンを攻略していないなんてありえないよ。アメリカ本土ではしているのだろう?」


「ええ、あまり積極的とは言えませんがダンジョンを攻略してはいる様ですよ。強化人に好きにさせている感じですかね」


「アラスカもそんな感じだからな。アメリカ本土のダンジョンとは繋がってはいないのだろう?」


「確かに繋がってはいませんね。ダンジョンなしでも防衛には自信があるのでしょう」


「ん~確かに銃火器の充実と言えばアメリカの右に出る国はないだろうな。それで何とかなるなら他所がとやかく言う話ではない」


「少なくともアラスカは何ともならないからこうなったんですよ?アメリカ本土も上手く行っている気はしませんね。格差が激しそうだし二極化している可能性はありますよ」


「如何言うことだ?」


「表沙汰にはなっていないけどアラスカの様になっている所とアメリカ政府を代表とする強いアメリカを体現している所とです。金を持っている所と持っていない所の二極化ですよ」


「アラスカは金を持っていない方だな。資源はある筈なんだが」


「アメリカ政府もその辺りは考えていて軍を適度に配置していましたよ。でもダンジョンの利用には積極的ではなかった。ダンジョンを積極的に利用しようとしていたのはアラスカ州政府ですね。だけど人とノウハウが足りていなかった。と言った感じですか」


「アメリカ連邦政府は金持ちでアラスカ州政府は貧乏人だな。確かに二極化している。連邦政府は貧乏人達には好きにさせて生き延びればそれで良いと言った感じか。アラスカは州全体がそんな対象でこうなった訳だな」


「金がある奴は逃げ出していますからね。別にアラスカに居る必要は無い。時々プライベートジェットにでも乗って遣ってきて指示を与えていれば良い」


「残された方は堪らんな。カナダもこんな感じなのか?グリーンランドは?」


「アラスカ政府を通しての情報ですがカナダはアラスカと似た状況です。ただアラスカよりは人口が多い分だけ余裕が有ります。どちらかと言うとロシアに近い感じです。笑えたのは中国人と半島人が潮が引く様に居なくなったって話です」


「何処に消えたんだ。まぁ、予想は付くが」


「逃亡先はアメリカです。ダンジョンの氾濫以降に違法合法問わずあらゆる伝手を使って逃げ出した様ですよ」


「そうか、奴等は国に対する帰属意識は薄いからな。奴等にとって国は良い暮らしをするための道具に過ぎん。そもそもカナダにだってそんな感じで移民したんだろうしな」


「グリーンランドは植生が貧弱で陸生動物が少ないんです。それに見合って陸上ではダンジョン内も貧弱な様でたいした被害が有りません」


「地上でダンジョンが氾濫しようにも出来ない程なのか」


「ええ、海は豊かなんですけどね。陸に籠る限りは何とかなります」


 グリーンランドの自然に住む陸生動物は哺乳類が七種類のみ、爬虫類や両生類に至っては存在すらしていない。寒すぎるのだ。でも人がダンジョンを利用すれば億単位で人が住めるはずだ。


「ま、日本からはグリーンランドは北極海の向こう側だ。余り気にする必要もないかな」


「アラスカの状勢次第ではカナダからも支援要請があると思いますが?」


「それはもう秘かに受けている。君の班はアラスカに注力してくれ。アラスカ半島から先のダンジョンの攻略は進めているか?」


「まだ進めていません。自領を優先してますから」


「まぁ当然だな」


 アラスカとの取り決めでアラスカ半島から先のダンジョンの攻略も進める事となっていた。日本領となる訳ではないがダンジョン内には干渉せずダンジョンを自治区扱いするらしい。日本人をグリズリーや狼への牽制に使わないと国を維持できないと判断している訳だ。

 日本人はアラスカ政府と結んだ協約に従ってベーリング海沿いに西へ北へとダンジョンの攻略を進めた。

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