第21話:電話
推理小説を読み始めると、周りのことは一切目に入らず、自分だけの世界に埋没する。
それは工藤新一の頃からのコナンの楽しみの一つであった。
この日もジョディとの電話を終えた後はトイレに立つことすらせず、ただただ読み進めていた。
そしてどのくらいの時間が経ったのか自分でも分からなくなっていたときに、不意にポケットに入れた携帯電話のバイブ機能が振動した。
至福の時間に水を差されたことで、ちょっとした苛立ちを覚えつつも、画面を開いてみると電話番号とともに[毛利小五郎]と表示されていた。
「おじさん、どうしたの?」
「あぁ、今蘭にも連絡したんだが、今日は仕事で帰りが遅くなる。だから晩飯は二人で食べて構わん。それじゃ、よろしくな」
小五郎は要件だけを簡潔に伝えると、すぐに切ってしまった。
仕事か……。
今朝はそんなことは言ってなかったから、昼に急遽入ったのか。
ま、それかどうせきれいなお姉さんと一緒に食事でもするんだろ。
そう深く考えることもなく、ふと外に目をやると、空は夕闇に染まり、時計に目を移すと17時半を指していた。
すると、再び携帯電話に着信があり、今度は蘭からだった。
「あっ、コナンくん。今お父さんから電話があったんだけど……」
「うん、僕にもあったよ。帰りが遅くなるってことでしょ」
「そうなんだけど、実は私もお母さんのところにちょっと用事があるから、遅くなっちゃうのよ……。一人で大丈夫?」
申し訳なさそうな声で蘭が心配する。
「大丈夫だよ。また博士のところにいってくるから。だから心配しないで」
そう答えると蘭は安心したようで、なるべく早く帰るからと言って電話を切った。
コナンはまたかと思いつつ、この前のようにいきなり訪れると、灰原に嫌味を言われるのが目に見えていたので、念のため電話を入れることにした。
しかし、コール音が鳴り続けるだけで、結局は留守番電話になってしまったが、大した用件でもないので、メッセージを入れることなく切ることにした。
そして、部屋の電気を消し、戸締まりをして博士の家へと向かった。
「君は……博士のところの……」
そう声をかけられた灰原は顔から一気に血の気が引き、足が震えだした。
恐る恐る振り返ってみると、そこには背が高く、髪を茶色に染めた若者が立っていた。
……沖矢昴……。
東都大の院生で、以前住んでいたアパートが火事にあい、現在は工藤宅で暮らしている。
しかし灰原にしてみれば、時折組織の気配を感じることもあり、今一信用しきれていない人物でもある。
このスーパーに入った瞬間に感じた組織の気配は、この男のものだったのか。
そう考えた灰原であったが、あまりの恐怖故にただ立ち尽くすだけで、体を動かすことができない。
丁度そのとき、携帯電話の着信を知らせるバイブ機能が振動したが、それを手にする余裕などあるはずもない。
「買い物かい?」
と言いつつ、沖矢は灰原の後ろへと並んだ。
その様子からは、組織の人間が裏切り者を狙っているというような雰囲気は伺えなかったが、それでも灰原の警戒心が解けたわけではない。
ようやくレジの順番が回り代金を支払うと、灰原は逃げるようにスーパーを後にした。
途中後ろを振り返る余裕もなく、気がつけば博士の家が見えるところまで来ていた。
そして家の前にコナンが立っているのを見つけ、慌てて駆け寄った。
「よぉ、携帯にも出ねぇでどこいってたんだ?」
工藤くんに本当のことは言わない方がいい。
そんな考えが咄嗟に頭を過り、ただ一言、買い物よとだけ答え、二人は家の中へと入っていった。
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