木目
天井の木目が人の顔に見えて仕方がない。たまに建物の窓や、ちょっとした家具のネジ等の組み合わせが顔に見えるのと同じだ。
布団に入り、約十分程、電球のぼんやりとしたオレンジ色に照らされた木目を見ながら、「あの木目ははたして男なのか、女なのか…」と、割とどうでもいい事を考える。あの力強さを放つ目は男の様な気もするが、あの口の色っぽさは女である。
自分でも呆れる事に頭を使っていると、いつしか眠気が襲い、うとうとする頭で、
「君はどっちなんだい?」
と尋ねる私に、木目は、
「女よ」
と答えた。木目は女だったのだ。
「そうか…君は女だったのか…」
答えのわかった私は、気持ちよく夢の世界へと旅立った。
「しかし、一体どこへ行ったんですかねぇ…」
部屋の住人である男が行方を絶って五日、男の部屋を、男の勤める会社の上司とアパートの大家が訪れていた。
「急に行方をくらますとは…。真面目な奴だったんですけどね…」
全く訳がわからないと、上司は頭を掻く。そんな上司を他所に、大家は天井の一点を見つめていた。
「どうかしたんですか?」
「いや、ほら、あそこの木目、いなくなったこの部屋の男に似てるなあと…。まるで誰かが寄り添ってる様な…」