気がついた、というのが分かったのは感覚があったからだ。
突如として全身に痛みを感じたのだ。
目を開けたと分かるのだが、視界には何もない。
ただ、真っ暗な闇が当たり一面を覆っている。
何かで視界を覆われているため、何も見えない。
次に気がついたのが五体を動かす事だったが、何故か動かない。
感覚だけを頼りにして推測してみる。
両手は手首の所に違和感を感じる。
かなりきつく縛られているようで、痛い。
両足をばたつかせようとするが、足首から太腿にかけて全く動かない。
何かで留められているようだ。
体を跳ねようとするが、何かで縛られているらしく、満足には動けない。
そして最後に気づいたのが声を出す事。
だが声を出せないのは愚か、口を動かす事すら出来ない。
まさに拘束状態という言葉がお似合いだ。
お尻の部分の感覚からして、椅子の様なものに縛り付けられているのだろう。
だが、一つだけ自由なところがあった。
耳だ。
何故だか周りの音は聞こえる。
自分がもがくと、そのもがいたときの音が確かに聞こえるのだ。
人間は五感を制御されたとき、使える感覚だけが敏感になる。
これは本当らしい。
聴覚だけが嫌に優れている。
今なら10m先のひそひそ話も聞けそうだ。
などと考えているうちに、何か音が聞こえた。
鍵で扉を開ける音だ。
それが終わると、扉が開く音が聞こえた。
鉄製の扉だ。
その後に続くのは、何かが倒れたドサッという音。
そして扉が閉まる音。
静寂――。
少しして、床を何かが引きずる音が聞こえてきた。
微かだが、音は大きくなっている。
段々と恐怖を感じるようになってきた。
毛穴が開いて出てきた冷や汗が妙に冷たくなるのを感じて、風に当たっているというのが分かる。
その間にも引きずる音は大きくなっていく。
そしてついにその音は自分の目の前辺りで止まった。
感覚で分かる。
自分の目の前に何かがいる。
得体の知れない何かが。
それはいつ襲ってくるかも分からない。
人間か、あるいは猛獣か、あるいは……
考えているうちに、その『気配』は自分の周りを一周した。
音でも分かった。
恐怖が募る。
息が荒くなるが、呼吸をするのが困難なため、苦しい。
気配はたまに凄く近くに来る。
その度に恐怖はより一層強くなる。
自分の目の前に、何があるのか。
それに対する恐怖心が恐ろしい程あったが、同時にそれが何なのかという好奇心も沸いてくる。
見たくはないが見てみたい。
そんな矛盾した気持ちで、もどかしさを感じた。
気配は自分の周りをランダムで動いている。
見えないだけに恐怖心は半端ではない。
額から出た汗が、目を覆う何かに染み込む。
布か何かだろうか。
気配はたまに動きを止めることがある。
しかし、何も言わないし何もしてこない。
ただただ自分の周りを回っている。
それが妙に恐ろしいのだ。
とうとう耐え切れなくなり、力いっぱい暴れる事を決心した。
両手を千切れんばかりに振り回す。
すると、案外簡単に両手は自由になった。
両手を使い、脚と体を縛るものを取り外す。
両手が使えるという事にこれほどの喜びを感じた事はない。
そして、口を覆うさるぐつわのようなものを取り外し、苦しかった呼吸を満足のいくまでする。
深呼吸して、とうとう最後に目を覆う布のようなものに手を掛けた。
そして、取り外して目の前の気配を認識しようとした。
目を開けたその瞬間、一瞬だけ視界が広がった。
しかしその瞬間に何か衝撃が体を襲い、今度は瞼によって視界を閉ざされてしまった。
目が覚めると、自室のベッドで横になっていた。
少しの間混乱状態だったが、何があったかは全て覚えている。
拘束されてて扉が開いて何かが入ってきて怖くて暴れて目を開けて何かを見て……
あれ?
あの時見たものは……一体なんだったの?
それだけは……どうしても思い出せなかった。 |