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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第88話 頭隠して尻隠さず


溜め息を連続で吐きながら歩き続けて早13分、秋月邸が見えてきた。
あぁデカい、まずデカい。雨は晴れていたので俺はボケッと秋月邸を見上げた。こんだけデカけりゃ泥棒もお邪魔したくなるよな。
と、門が開いた。ゴゴゴって音が近所迷惑、俺の絶叫なんてかわいいモンだ。

「……萌?」

門が開ききった後、私服姿の萌が飛び出して来た。それに従い当たり前のように電柱に隠れる。同時に朝の1コマを思い出してしまった。

「アイツ、何してんだ?」

用事があって出て来た、というよりは慌てて飛び出してきたっつーカンジだな。ヤバいな、このまま電柱に隠れてたら見つかりそう。肩とか電柱から飛び出してるし。だからといって出て行って見つかって睨まれて殴られるのもなぁ。

(出て行くのよ!)

あっ天使か久しぶり。よし、このまま隠れることにしておこう。天使よアドバイスをありがとう。

(頭隠して尻隠さず!見つかって拳がめり込むほど顔面に重い一発を喰らうがいい!)

アドバイスでも何でもねぇよ。

「あれ?…ノブ君?」

天使を軽くあしらい出来るだけ電柱から体がはみ出さないよう必死に頑張っていると、秋月邸から萌に続いてノブ君も出て来た。そして道路の真ん中に立ち続ける萌の真正面に立った彼は何だかんだと話しかける。
うぅん、遠くにいるから途切れ途切れでしか会話が聞こえてこねぇ。それにめっちゃ深刻そうな顔してんな2人とも。あぁもう出るに出れなくなった。

あーだこーだと言い争いなのかはどうかは知らないが、ノブ君は身振り手振りで話続ける。

「…どうしよ、帰りたいのに」

いつまでもここにいても仕方ないよなぁ。あの2人は自分達の世界に入ってるっぽいし、忍び足で行けば気づかれないだろ。

ソロソロと足音がしないように電柱から離れてみる。おっしゃ、バレてねぇ!このまま突っ走れば大丈夫!
行け行け!とカラの紙袋を握り締めて走り出す。と、ノブ君の声がはっきりと聞こえてきた。

「萌以外に考えられないんだ!」

ギャヒー……。
あまりの大声にその場で固まった俺は思わず2人の方へ視線を移した。そしてまた固まった。

「マジか…!?」

萌がノブ君にしっかりと抱き締められているのが見えた。驚いたような慌てたような表情で彼女は今の俺と同じように固まっている。
ってか公衆の面前で何やってんだよ。

「の、ノブ君放して!」

「…」

ホントにやめて!と叫ぶもノブ君は萌の背中に手を回したまま全く動かない。そしてまだ固まっている俺は2人に見える位置に突っ立ってんのに隠れようとも走り去ろうともしないで事の行方をジッと見つめてしまっている。

「お願いだから!」

「…わかった」

萌のこれ以上続けるならやっちまうよ!と言っているような大声に観念したか、ノブ君はやっと手を緩めた。そして少なからずホッとしたのか、萌は恐る恐るノブ君を見上げようと顔を…………あっ。

「!」

バチンなんてカワイイ音じゃなく、ドゴッという効果音が辺りに響き渡った。なぜかって、萌が渾身の力を込めてノブ君の左頬をブッ叩いたから。あれは手の平じゃなくて手首がアゴに当たった音だな、よく殴られるからわかるんだよね。あれってマジで痛いよ、脳しんとう起こすよ。

なぜ殴られたかと言いますと、離れたと思ったら次の瞬間、2人の顔が近づいたから。というかノブ君が近づいた、と言った方がいいかな。とにかくノブ君は今しかねぇと思ったのか萌のふぁ…じゃなかった、あ〜何回目かはわからないけど唇を奪おうと試みたらしい。そして手首パンチを喰らってのけぞった。

……で、奪われたの?見えなかったんだけど。

「ご、ごめん…」

「…」

頬を抑えて謝るノブ君を必死の形相で睨む萌はまさに鬼の一歩手前。

「…」

何の言葉もないまま数秒が過ぎた。だけど萌はまだノブ君をガン見したまま動く気配がない。彼は彼で俯いて動かない。俺は俺で固まったまま。
めっちゃ出づらいんですが。ってか俺が見えてないの2人とも?いいだけ電柱からはみ出てるよ?

「き、今日は…帰るから」

「…」

無言という種目で萌に張り合おうなんてのは到底ムリな話だったね。アイツにとって無言は通常攻撃でしかない、必殺技は他にある。
萌が何も言わないと心に決めたと思い込んだノブ君は恐る恐るそう呟いたのが聞こえた。

「ゴメンな」

「…」

萌はもはや何も話す気はないらしい。小さく頷いただけで終わらせた。それを確認したノブ君はもう一度頭を下げると俺がいる場所とは反対方向へ歩き去って行く。
しかしノブ君が歩いて行った方を見ようともしない萌はまだジッとその場に立ち尽くしている。

ヤッバイなぁ、やっぱりさっさと家に駆け込めば良かったと後悔している俺に今までで最高の試練が舞い降りた。

こんなときに限ってケータイ鳴るんじゃねぇよぉぉぉ!しかも着信音最大だしぃぃ!…しかもあかねだしぃぃ!

バカバカぁぁ!と叫びながらケータイを取り出した俺は、それを全力でどこかへブン投げたい衝動に駆られた。

「…た、太郎?!」

ほらバレた!

「あ、や、やっほぉ…」

いつもの俺なら猛ダッシュで逃げるトコだけど、萌の眼力によりそれは不可能に近いです。
やっほぉ、なんて言いながら近づいて行ったはいいけどそれから何も思いつかない。ケータイはまた着信が来ないように電源を切ったから少しは安心だとしても、マジで何て話しかけていいかわからん。いっそこのまま固まっていたい。

「あ、あのぉ…」

尻込みしてるよ俺!頑張って!

「なに」

もうなにコレ、なんで俺があわわしなきゃいけないんだよ。

「もしかして…見たの」

ジト目で俺を睨んでいた萌はそう言うと俺の足を踏みつけた。ってか指先だけ踏むのヤメて!出来れば全体を踏んで!

「え…、あ、み、見てしまいました。あっでも見ようとして見たわけじゃなく!」

「…」

って、いくら言っても言い訳にしかなんないか。それに俺が優しい言葉を掛けようが何をしようが萌の心が晴れるわけでもないだろうし、ここは敢えて自分らしくいってみますか。

「ノブ君を追いかけなくてもいいのん?」

「いい」

「でも、ぐわっ!」

いいの?と言おうとして息が詰まった。どうして連続で俺の胸に向かってヘッドバッドを喰らわせてくんの?

ただ睨んで足を踏んでいただけとすっかり油断していた俺は、萌にタックルを喰らうなんて予想していなかった。マジで胸が痛い!
ちょちょいぃぃ!と叫ぼうとしたが何度もヘッドバッドを喰らわせてくるため、息も出来ず文句を言うことができない。

お気に入りのパーカーを引きちぎる勢いで掴み引っ張ってきた萌は、少しは気が晴れたのかそれから顔を上げることなく俯いてしまった。
黙りこくった萌の頭頂部を見ながら、少し前の出来事を思い返してみる。

ここまで意気消沈してるってことは、やっぱり萌のヤツ奪われてしまったのか?でも手首パンチ繰り出してたしなぁ。動体視力は人間以上だから奪われてはいない…と思うんだけど。
少し落ち着いたかなと勝手に思い込んだ俺は萌の頭を見たまま質問することにした。

「あ、あのさ…ノブ君に…」

ちょい待ち、別に確認を取らなくても良くね?いやいや、こんなときは好奇心を発揮させた方がいい。萌だって俺に気を使ってもらいたくないだろうし。

「いや、あ〜えっと、ふぁ…じゃなくてセカンド…サード?やっぱり…奪われちゃった?」

「…」

「おごっ!」

全神経をおでこに集中させたヘッドバッドがまたも胸へヒット、もう大ダメージ。俺も言い方は悪かったと思うけどさ、攻撃で返事しないでよ。

「…知ってどうすんの」

質問に質問で返してくれた萌は全く顔を上げない。

「え?いや、俺って実は好奇心旺盛だからさ…」

そうだよバカ!考えてモノを言えよ俺!「だから何」って言われたらどうすんだよ!

「だから何」

やっぱ言ったよ!もうどうすんだよ!
あ〜え〜としか言えず、顔を伏せたまま俺から離れた萌を直視できないでいた。そうだよ、聞いてどうすんだってな。

そうだ、話題を変えてしまおう!

「でもさぁ、ノブ君のこと好きだったんだよね?いくらなんでも手首パンチ喰らわせなくても、ぐぼっ!」

心臓が痛い!離れたと思ったらまた突進してきやがった!ってパーカー破れる!引っ張り過ぎだから!

「わかっ、わかった!ゴメンなさいもう言いません!だからヤメてぇ!」

これ以上は素材が伸びるって!このパーカーは去年のクリスマスに一郎からもらった大切な宝物なんだから!

「っぜぇ、っぜぇ…」

そんな息切らすほどヘッドバッド喰らわせて楽しいか?っておでこ赤くなっちゃってるよ?

バカ最悪!と罵られた俺から離れ、萌は真っ赤なおでこを継続させて睨みつけてくる。
俺が奪おうとしたわけじゃないのに何で?ってかノブ君だから手首パンチだけで終わったんだろうな。俺だったら手首パンチどころかそれよりヒドい仕打ちされそう。

その前に奪ってやろうなんて思っちゃいないよ!

萌が手首パンチを喰らわせるくらい嫌悪感を抱いたってことはやっぱりノブ君はふぁ…の相手じゃなかったのか。それにしても好きだった人に対して手首パンチとは、お主もやるよのう。

テットロティン…テットロティン。

ケータイの電源切ったハズなんだけどぉ!

慌ててケータイを取り出した俺は『親友』の二文字に一瞬、(まさか早希ちゃんのケータイ番号を教えてくれる為に?)と思ったが、目の前に萌がいると知ったら絶対に教えてくれそうにないと悟る。

「出ないの」

「え?いや、出るよ?出ますとも!」

元気に答えたはいいけどボタンを押す勇気が出ない。いつまで鳴ってんだよ!諦めて切ってよあかねぇ!

出るなら早く出ろな目で睨む萌を横目に、頼むから切れてと願い続けながらケータイのボタンに手をかけた。

「…も、もしもし?」

『プーップー…』

切れてくれてありがとう!

「あららぁ切れちゃったわぁ。もぉ仕方ないわねぇ」

モォホホぉと一応は困った顔をしてからケータイをパーカーのポケットへとねじ込む。ってポケット破れてるじゃんか!糸がほつれてボロボロだよ!

「かけ直さないの?」

なんつーことを!いつもなら何も言ってこないのに!なんで今に限って優しい言葉を吐いてんだ!

「い、いいんだよ。……んなことよかなんで外に出て来たの?」

うまく話題を変えることに成功したよ。俺ってこういう才能ばっかりが開花してる気がするね。

「…」

俺の質問はやっぱりスルーされた。まぁ答えたくないならそれでいいけどさぁ。

「今日泊めて」

突拍子のない発言サンキュー!ってかいきなりだなオイ!
ハァ!?と固まって何も言えなくなっている俺のわき腹を軽く小突いた萌は、いいよって言ってもないのに勝手に一条家へ歩き出す。

ノブ君がイヤで秋月邸にいたくないって言うならおかしい。だってもう秋月邸にはいないんだからな。ってことは、やっぱり真さんのヤツ何かやらかしやがったな。

「もしやノブ君と政略結婚させられそうになった?」

「…」

図星だね?……真さん、ノブ君のこと生理的にムリって言ってなかったっけ?どんな風の吹き回しだ?
まぁでも真さんだからな。どうせノブ君の親父に何か言われたんだろ。杉なんとかの二の舞にならないことを祈る。

「反対運動の為に俺の家に泊まるってかい?」

「…そう。だから泊めろ」

せめて『泊めて』でお願い!

それにしても萌は相手に苦労しそうにないねぇ。いつだって『私、結婚したい!』って叫べば金持ちの男共がわんさか集まるでしょう。羨ましいったらありゃしねぇ。…今すぐ秋月 太郎子になりたい。この際だから萌の妹で我慢して差し上げる。

ヒヒヒと笑みを浮かべている間にも萌は一条家に近づいて行く。晩飯あるかわからないよ?

「あっ待って!泊めてあげるから秋月家の養女にしてぇ!」

「は?消えろ」

「ヒドいわぁお姉様ぁん!」

「マジで消えろ!」

うるせぇ!と萌の回し蹴りが俺の腹部へ……傘にヒットした。ホネとかボキボキだよもう!







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