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第9話 女性とケンカはできないの
「あの、一条君?」

窓の外を眺めていた俺の背後から声が聞こえた。このか細い声は振り向かなくてもわかる、学級委員長の勇樹君ですね。
いつも君は元気があるんだかないんだかわからない声を出すねぇ。でも、そこがまたいい!

「おっはようございまする、学級委員長殿!」

敬礼をして元気にそう挨拶をしたけど、勇樹は何かモジモジしている。何?俺に告白する気?ちょっと、こんな所で恥ずかしいわぁ!

「あの、秋月、さんは?」

あっそうですか、僕のことではなく秋月さんのことですか。僕は知りませんよ、あかねさんか一郎さんに聞いてください。

「知らないわぁ、そのうち来るんじゃない?」

「…そっか」

え、なにその反応。俺って悪者みたい。なんでこっちをジッと見てる?何か言うのを待ってんの?何も言わないよ?
勇樹は何も言わない俺にシビレを切らしたのか、あたりをチラチラと見ながら小声で話しかけてくる。

「…あの、一条君は」

「はい?」

モジモジモジモジ。

男ならはっきり言えぇぇい!

「あの…」

「たろぉーーーーう!!」

「な、なんだ!?いでぇ!」

大声に驚いた俺はイスから落ちた、ケツ打ったじゃねぇか!いってぇな!朝っぱらからダメージを喰らわすな!

教室中を見渡しても声の主が見つからない。ここにはいない、ってことは窓の外か?

「あぁ!?」

窓を勢いよく開けて下を覗き見た。中庭にはアホが一人立っている、そしてこっちを見ながら、

「たうぉーーーーーいぃぃ!」

と叫んでいる。もうそれは俺の名前じゃねぇ!勝手に作んな!母ちゃんに謝れ!
一郎は俺の顔を見ると、手を元気よく振ってくる。お前、そこで何をしてる?

「うるっせぇな!なんだよ!」

一郎に負けじと俺も大声を張り上げる。全校生徒がなんだなんだ?と窓を開けて見てきた。は、恥ずかしい!恥ずかしいよ一郎!俺はお前と違って恥じらいというものがあるのよ!

「こっちにこぉぉぉい!」

「イヤだぁぁぁ!」

ピシャリと窓を閉めた俺は倒れたままのイスを戻し元の場所に座った。勇樹はあたふたしながら俺を見ている。お前が慌てることはないんじゃない?

「行かなくてもいいの?」

「いいのいいの。あいつ、俺とあかねにハブられていじけてるだけだから」

「ハブ?」

「そうハブ」

意味がわかっていないみたいね。説明すんのもめんどいなぁ。
なんて思っていると、高瀬が教室へ入って来た。そして俺をすごい目つきで睨んでくる。
俺、なんでこう睨まれること多いんだろう、何もしてないのに。俺ってそういう星の下に生まれたの?

「一条!」

走り寄ってきた高瀬は俺の机をものすごい力で叩いた。と同時に俺の胸ぐらを掴み、立ち上がらせる。
こ、こいつ。思ってたよりも力があるな。

「お、おはよう高瀬ぇ」

「おはようじゃないんだよ!」

やっぱりこれって、あかねが言ってたことと関係あるんだよね?そうじゃなかったら、こんなに泣きはらした目で俺を睨むわけがない。
高瀬の胸ぐらを掴む手が少しだけ震えていて、自分でもどうしていいかわかんねって感じだった。

「萌は!?」

「も、萌ぇ?」

「隠してると殴るよ!」

なんて言おうか悩んでいると、眠りについていた天使が俺の脳裏に勝手に出てきた。ってこの前出てきたときよりちょっと化粧が濃いんですけど、あなたの身に何が起こったの?

(言っておやり!あんたの元カレと一緒にいるって、言ってやるがいいさ!そして殴られるがいいさ!)

あんた、それはもう悪魔のセリフでしょ?なんで立場が逆転してんだよ!
って悪魔!もういい加減出て来いやぁ!いつまでいじけてんだよ!

(…どうでもいいわ)

おぃぃぃぃ!敵前逃亡かよ!出て来いよ、俺を助けるつもりで来いよ!今回はお前の言葉を信じるから!

(…知らねぇって言え)

それだけぇ!?お前、悪魔でしょぉ?そんなんでいいの?そんなやっつけ仕事でいいわけ?ねぇ悪魔さん!

(うるせぇ!こっちだってなんだかんだ忙しいんだよ!)

なんだかんだってなんだよ!頼むよ!女のケンカなんて見たくねぇんだ!頼むから助けてぇ!

(…ワタシ、ワカラナイ)

なんでカタコトぉ!?お前、仮にも俺の頭に住んでる悪魔でしょ?なんとか言えよ!

「なんとか言え!」

えぇぇ!?高瀬、お前、俺の頭の中を読んだのか?って違うか、俺が無言を貫いてるから怒っているだけなのね!
ジッと見られても困るよ!見つめられてるのならまだしも、睨まれてるし!

「し、知らない」

悪魔!俺、お前を信じるよ!だから、だから助けてくれぇ!

(ねむっ)

ボケェェェ!寝てる場合じゃねぇんだよ!起きろやコラァ!

(知らないって言え)

だからそれは今言っただろうが!お前何を聞いてたんだよ!

(うるせぇ…って言え)

それは俺に言いたい言葉だろうが!?もういいよ!お前に頼んだ俺がバカだったよ!天使に頼むからいいよ!

(殴られるがいいさ!)

お前は一体何がしたいんだよ!俺が殴られる様を見たいだけじゃねぇのかよ!お前も消えろぉ!

「一条!」

「はいぃぃぃ!」

高瀬の顔が見る見るうちに紅潮していく。我慢の限界か?
もう天使も悪魔もアテにならねぇ!こうなったら、隣りで呆然と高瀬を見てる勇樹!お前学級委員長だろ?助けてくれよ!

「…」

無言かよ!なんか言ってすらくれねぇのか!って、俺と同じくビビってるだけかよ!
お前、お前だって男だろぉ!

「た、高瀬ぇ…」

「何よ!」

く、苦しい。息がうまくできないよ。俺、何も悪くないのに。絶対に俺の顔、鬱血うっけつしてるよねこれは。

「俺、本当に、何も知らないんです…」

苦しいながらもそう小さく呟くと、諦めたのか手を離してくれた。ってこいつ、ヘタに怒らすと怖いわ。男の俺が窒息させられそうになるとは。

赤くなった首をさすっていると、高瀬の目からポロポロと何かがこぼれ落ちた。こ、これって世に言う、涙ってやつ、ですよね?なんか、俺が泣かせてるみたいでめちゃくちゃ心が痛むんですが。

どうしよう!と勇樹に目で合図を送る。が、勇樹は勇樹で一点をボンヤリと見ている。って失神?お前、立ったまま失神するなんて器用な奴ですねぇ!って違高瀬が泣いてるのが珍しいだけか!

「あ、た、高瀬さん…これ…」

勇樹がポケットからキレイに折りたたまれたハンカチを差し出した。さすが学級委員長!俺なんて一週間前に持たされたハンカチがポケットに入ってるから出せないよ、しわくちゃだから!

「…ありがとう」

小声で感謝の気持ちを伝えた高瀬はハンカチを受け取ると、そのまま声を上げて泣き始めてしまった。
お前、そんな泣くほど悔しいんだね。かける言葉も見つからないよ。

「たか、高瀬?」

って俺のバカ野郎!かける言葉もないって言ったクセに何を言おうとしてんだよ!あぁほら、高瀬がこっち向いてるじゃねぇか!なんか言えよこの野郎!

「あの、さ。お前の、彼氏の事なんだけど…」

うわわわわ!高瀬の瞳から涙が溢れてるぅ!どうしようどうしよう!一郎ならここで一発変な踊りをかましてるところだけど、恥ずかしくて俺はそんなことはできん!

あわわと俺と勇樹が慌てていると、あかねが教室から戻ってきた、そして俺の前で泣いている高瀬を見て驚き、突進して来た。

「たろぉぉぉぉ!」

「ひいぃぃぃぃ!」

そのままタックルされた俺は、壁に取り付けてある暖房器具に頭を打った。
マジで、マジで痛いよ。チカチカと星が俺の目の前でキレイに光ってる。掴めそうで掴めない…。

「あんた、恭子泣かしてタダで済むと思うな!」

俺に馬乗りになり、殴ろうと手を上げるあかね。
ち、違う!誤解だよあかねぇ!いや、泣かせたのは俺かもしんないけど、原因は俺じゃない!

「つ、津田さん!」

勇樹!勇気あるよあんた!空手部の期待の星であるあかねの腕を掴むなんて!

あっやっぱムリだったか、ふっ飛ばされたよ。ってヤベェ!殴られる!俺、女とケンカなんてしたくねぇ!かといってこのまま殴られたくもねぇ!

(殴り合いだよ!殴り合い!殺るか殺られるか、高みの見物をさせてもらうわ!)

うるっせぇんだよ天使のボケェ!てめぇ消えろって言わなかったか!?俺、言ったよね?消えろって言っただろうが!

(殴り殴られるがいいさ!)

いい加減黙れこのバカ天使が!悪魔!いるなら出てこい!そしてお前が天使と殴り合いをやれぇ!

(…ねむっ)

お前も消えろぉぉぉ!

根性を決めて俺は目をつぶった。絶対に痛いよね。
でもここであかねをふっ飛ばすなんてこと、俺にはできん!腐っても男、俺は男なんだよ!って俺の方が弱いからだろうって?いや、俺だって!

「あ、あかね!」

高瀬がそう叫んだ。うっすら目を開けると、高瀬があかねの腕をしっかりと掴んでいた。た、助かった。俺、一時限目から保健室で眠らなくてもいいんだ。

「違うの!一条は、何もしてないよ!」

早くそれを言ってほしかったよ!早く助けてほしかったわぁん!でもありがとう高瀬ぇぇぇ!

「じゃあなんであんた泣いてんのよ!こいつが何か言ったからでしょ!?」

「あ、あかねぇ!俺が、俺がそんな奴に見えるかぁ!」

「見えるわこのボケ太郎!」

「えぇぇぇ!」

俺って、俺ってそんな奴なの?
あっなんだか泣けてきた。俺も高瀬みたいに泣いちゃうよ?それでもいい?勇樹君、僕にもハンカチを貸してくれるよね?
ってあかねの奴、頭に血が昇って正気を失ってるよこの目は。周りが見えてない証拠だよ。

「たうぃぃぃぃ!」

一郎の野郎、まだ叫んでるよ。もう朝のホームルーム始まるってのに。しかも「たうぃ」って誰だよ!俺は太郎だこの馬鹿一郎!

まだ馬乗りになったままのあかねは動こうとしない、しかも周りの奴も動かない。でもそれは賢明な判断ですよ、あかねに勝てる奴はこの学校にはいない、男だって後ずさりするよ。

「あかね!もういいから!」

「で、でも」

あかねは高瀬の切なる願いを聞き入れ、やっとのことで俺を解放してくれた。ホッと胸を撫で下ろしたとき、萌が教室に戻ってきた。

…まだ、ホッとはできないよねぇ。

「ちゃうぉぉ!」

それ誰のこと言ってんだよ!いい加減戻って来いやぁ!















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