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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第85話 雷の光が怖い


雨足は強さを増し雷が鳴りそうな勢いの今、私は傘に入れてもらうことも出来ずにトボトボと歩かされています。
斜め前には自分だけ傘を差して悠々と無言で歩く萌様。さっきから「傘に入れてぇ」とお願いしてるのに無視されています。

上着を頭にすっぽりと被りながら歩く俺は、彼女の後ろ姿を見るしか出来ない。
ノブ君が迎えに来てくれて一緒に帰ったハズなのに、一体どうしてこの子はここにいるんだ?

「萌さん萌さん。あなたはこの雨の中で何をしてたんですかぁ?」

「…」

そうか無視ですか。…いや、俺も言い方をマズったな。もうちょっと柔らかい表現をしてみようか。

「こっちに用事でもあった?」

「…」

そうかまた無視ですか。

全く傘に入れてくれる気配はない。こんなことなら高瀬を家まで送れば良かったわ。そしたら今ごろ雨に打たれることもなく歩いていたはずだ。

「イダッ!」

立ち止まったと思ったらいきなり傘を振り回さないで!手に当たってマジで痛い!
振り返る素振りすらなかった萌は突然、傘で俺に攻撃を仕掛けてきた。傘は差すモノで攻撃の道具じゃないよ!俺も一郎と戦ったけどさ!

「なんなの?何か腹立つことあった?」

「あんたがいること自体腹が立つ」

ひどいなオイ!?じゃあ俺の姿を発見しても無視して行けば良かっただろ!
マジでサイアクなんですけど!と小さく文句を呟いていた俺に、思い切り睨みを効かせながら萌も小さくこう呟いてきた。

「あかねから電話が来た」

「は?来てないよ?イダッ!」

「誰がバカ太郎なんかに電話するか」

っんだよそれぇ!俺に聞いたんじゃないのかよ!微妙な言い回しすんな!
しかし文句は言えず上着を被り直した俺は振り向いた萌を恐々見つめる。あかねって名前を聞いただけでビクつく俺って弱すぎる。

「あ、あかねさん何て言ってたの?」

「そばに太郎いるかって」

「はぁ?……あっ」

あかねのヤツわざわざ確認の電話を入れたのか!なんでそこまで萌に肩入れすんだよ。そんな気にするならあかねが萌と一緒に帰ればいいでしょうよ。……言えない。

「そ、それで?」

「いないって言った」

それは言っちゃダメだよ!ウソでもいいから「今、腕を組んで歩いています。だからお気になさらないで」とか言っといてよ!

「…あかね怒ってました?」

「ブン殴るって言ってた」

明日学校に行けない!今日も朝から土下座したってのに、明日もかよ!いや、土下座じゃ済まないかもしれない。回し蹴りやらヘッドバッドやらを朝から連続で喰らいそうだ!

「あかねにあんたが私と帰りたがってたって聞いて、急いで戻ったってのに…」

怒り心頭なのか、傘を持つ手が小刻みに震えてくる。また傘攻撃されたくないからいつでも逃げる用意しておかないとヤバイと思い、上着を被り直す。

「恭子と腕なんか組んで楽しく下校しやがって」

「え、ちょっ、違うって!あれは高瀬に頼まれただけで、別に楽しくなんて…」

「ニヤニヤ気持ち悪く歩きやがって」

どこから見てたのあなた!?まさか杉なんとかと遭遇した辺りから見てた?
ってかそれならその時声掛けてよ!

どうにかしないとその傘がキバを向くと勘づいた。なんとかこの場を凌がないと!

「ニヤニヤなんて…」

……あれ、ちょっと待った。なんで言い訳してんだ俺は。別に高瀬と腕組んでニヤニヤして歩いてたからって萌には関係ないじゃんかよ。そうだそうだ、男なら言ってやれだ!

「え〜っていうかぁ、アタクシが高瀬さんと腕組んで歩いてたからってぇ、あなたには関係な、ぎゃっ!」

高飛車な笑いを披露しようとする前に、また傘攻撃を喰らった。あまりの痛さに上着をポロッと落としてしまい、拾おうと屈んだ瞬間にケツを思い切り蹴られた。そして顔面から地面に突っ込んでいく俺。…泣きそう。

「何すんの?!」

傘攻撃で腕は痛いしケツは痛いし、顔面は泥まみれになるし!やっぱり上着の第三ボタンは取れてるし!

「そんなに恭子といたいならいれば!」

意味わかんねぇ!

「そんなこと言ってないんですけどぉ!」

倒れてんだから文句言う前に手ぇくらい差し伸べてくれよ!っつーかそんなこと言うなら萌だって!

「ってか萌もノブ君とルンルン気分で帰ってたじゃんかよ!」

「…見たの」

「え?み、見ちゃいけなかった?」

2人で堂々と仲良く歩いてたじゃんか。見ないでって言う方が無理でしょ。

まだ睨み続ける萌を横目にベチャベチャになった上着を拾い上げ、ブンブン振り回して水気を取ろうと頑張る。が、雨が降っているから無駄な努力です。

「ったく、何なのよねぇ」

もう全身ずぶ濡れだから上着を傘に使うのはヤメだ。

それにしても怒る理由が全くわからん。不機嫌はいつものことだけど、これほどまで怒りをあらわにするとは。見て見て、目が据わってるよ。今にもハイキックを繰り出してきそう。
いってぇと呟いていると、ジンワリと足が冷たくなってきた。穴が開いている所から雨がどんどんなだれ込んでんのか?凍傷になったらどうしてくれる!

「おわっ!」

ちょっ、雷ヤメて!雨はこの際だから我慢してあげるけど雷だけはヤメて!
ふと萌へ視線を向けるとさすが、全く動じている様子はない。傘を持ってジッと立っている。と、思ったらフイと身を翻した。

「…帰る」

「え、あっ待って!頼むから傘に入れて!」

「恭子に入れてもらえ」

それは無理な話!多分もう高瀬は家へ帰っているハズだ。ってかわざわざ俺のトコに来たってことは一緒に帰るって意味でしょ?なんで1人でさっさと帰ろうとすんの?

「い、一緒に帰る!」

「ヤダ」

「帰りたい!萌ちゃんと帰りたいのぉ!」

「…ヤダ」

おっ今一瞬考えたね!?よし、あともう一押しだ!一緒に帰って明日は笑顔で登校したい!何より雨を凌ぎたい!
萌の隣りに大急ぎで移動、そして傘の柄を持とうと手を伸ばす。……しかし叩き落とされる。

「ちょっ、俺が傘持つからさぁ。相合い傘で帰りましょうや」

「ヤダ!」

はっきりとした意志表示をありがとう!でもせっかくノブ君をほっぽいて俺の元へ来てくれたんだからさぁ!
頼むってぇ!を繰り返し連呼するが、萌は俺から離れようと小走りで駆けていく。

しかしながら萌さん、あなたはわかっていないようだ。傘を持ちながら走るって、意外と難しいんだよねぇ、だから俺から逃げ切れるワケねぇ!

「はいもらったぁ!」

「ちょっ…!」

泥を跳ね散らかしながら猛ダッシュで走り、後ろから傘を奪取した。ハハハ、俺から逃れようなんて3日早いわ!

「キャハハハァ!いただ、どわっしゃ!」

奪ったまでは良かったが、地面が雨で濡れて滑りやすくなっていたのを忘れていた俺は急ブレーキをかけた瞬間、転んでしまった。

「ごごご…」

マジで後頭部打った!前から突っ込んだんじゃなくて、後ろから思いっ切りいった。スケートを滑ってて頭から落ちた感じ?……説明がわかりづらくてごめんなさい。でもマジで痛いのは本当なんです。

「あんたって、ホントにバカ太郎」

頭を抱えてその場でのた打ち回っている俺に冷たい言葉が囁かれた。もう何とでも言って!でもお願い、俺にも傘を使わせて!

「傘返せ」

「いや、だから俺が持つって」

「いい、自分で持つ」

「イタッ!」

返せとばかりに蹴られた俺は、反抗するヒマも与えられずに傘を奪われた。また雨に濡れちゃうよ。

「って、アレ?」

雨が顔に当たらない。
なんだ?と座り込んだまま顔を上げると、頭上に傘があった。俺、まさか魔術でも使えるようになったの?

「あっちょっと、それじゃ萌が濡れちゃうって」

魔術なんて使えるわけがない。
ふと見るとなんと!萌が濡れないよう傘を俺に差してくれていた。そのせいで彼女は雨に当たってしまっている。
その優しさが怖い!

「早く立て」

「ごめ、ごめん」

パンツまでビショ濡れだったけど、それはもう無視。急いで立ち上がった俺は無言でいる彼女の顔をチラ見した。
あらら、顔も髪も制服も濡れちゃってるよあなた。早く家に帰ってシャワーでも浴びてグッスリ眠らないと。

「それじゃあさっさと帰りましょうか」

「お前が言うな」

傘を持てと言う代わりに蹴られた俺は、恐る恐る彼女から傘を受け取った。ってかどっちにしろ俺が持つんじゃんかよ。

「すんません…って、ちょっ萌」

また腕組んできたよこの子ったら。…まぁいいか。萌の傘はあんまりデカいヤツじゃないし、くっつかないとまた濡れそうだし。

…また胸が微妙に当たってんだけど、いいのかしらね。…き、気にするな!気にしたら負けだ!

「あ〜……ゴホン」

マズいマズい、緊張してるよ俺。何をわざとらしい咳してんだ。さっき高瀬にも腕組まれただろ、いい加減に慣れろ!そんなんじゃ恋人が出来た時、カッコ良く決められないぞ!

「え〜……コホン」

咳が小さくなっただけ!濁点が消えただけだから!って何で自分にツッコンでんだ!寂しいわ!

「さっきから気持ち悪い」

ドギマギしながら歩いていると、右太ももにヒザ蹴りを喰らった。
どうしてあなたはそんなにいつも通りに振る舞えるの?もしかしてこういうことに慣れてたりすんのかしら。

…ノブ君で慣れてる?

「…」

きゃぁぁぁ!もう無言に耐えられない!叫びたい!暴れたい!

「いだっ!ちょっと腕痛いよ萌ぇ」

爪を立てないで、と言おうとして横を向くと、萌は表情を固めたまま歩き続けている。
まさかと思うが、萌も緊張とかしてんの?

チラリ、またチラリと萌を見つめて歩く。
あかねに電話をもらって急いで戻ったって言ってたけど、なんでだ?別にそんなの無視してノブ君と帰ればよかったのに。

しかしここは一応カタチだけでもお礼は言っといた方が無難か?

「あっと、萌?」

「…」

よし、無視だな。こっち見てないスキにお礼を言ってしまおう。見られたら言いづらくなる。

「あ〜えっと…わざわざ俺の為にこの雨の中、傘も差さずに一生懸命がんばって走って、そんでもって俺の姿を捜してくれて…」

「長い」

あっそうですか。実は俺も今そう思ってたんですよ、奇遇ですね。

「顔も長いと話も長いか」

俺って面長?

「いや、そうじゃなくてさ。来てくれてありがとう」

「…」

ふぅ、ちゃんと言えて良かった。萌のペースに捕まったら言いたいことも言えなくなるトコだ。

よかったよかったぁ、なんて言いながら歩き続けていると不意にケータイが鳴り出した。そして青ざめる。

「…あかねかよ」

液晶には『親友』の二文字が。この子はどうしてこう人の面倒を自ら買って出ようとすんだろうねぇ。絶対に「あんた、今萌といないの?」って電話だと思うし。あっ出ていいんだ、だって萌は俺の隣りにいるんだし……………と、隣り?

「…」

やっべぇぇぇ!萌の隣りに陣取っちゃってるよ!いつも斜め後ろなのにぃ!いかん、いきなり緊張してきたぁ!

「出れば」

ケータイが鳴り続ける中、萌はこっちも見ずに小さく呟く。

「……も、もしもし?」

出るしかないよね。出なかったら土下座の時間が長引くだけ。

『あっあんた、今どこ?』

「い、今?そりゃあ…萌といますよ?」

『ウソつくな!』

「ウソじゃないってぇ!真実だから!」

勝手に決めつけないで!俺は今までウソをついてことなんて……一度や二度あるけど。

『じゃあ萌出してよ』

じゃあって、そんなに俺を信じられないのか。いいよいいよ、出してあげるよ!驚いて声が出なくなっても知らないからね!
何?という顔でいる萌にケータイを差し出した俺は「津田 あかねさん」とそれを手渡す。
頼む萌、ずっと一緒にいるってことをアピールして!

「もしもし?うん、さっきまで恭子と一緒に…」
「ストップ萌さん!」

どうしていらないことまで言うのよあなたは!明日の土下座を回避できそうだったのに!
返して!もういいから返して!とケータイを奪おうと襲いかかるも足を踏まれて撃沈した。

「うん、恭子は帰ったよ」

足の甲の痛みに苦しんでいると、隣りからヤケに明るい声が聞こえてくる。なんでいきなり笑顔になってんだよあんた。俺に攻撃して気が晴れたのか?



「あかねは部活終わったの?あぁまだ?そういえばさ……」

俺を無視して萌はあかねと楽しく電話を続ける。その間も立ち止まって彼女に傘を差し続ける。ってか歩こうよ!立ち止まらないで歩いてよ!ボケッと突っ立ってたら雷が落ちるよ?

「ね、ねぇ萌?歩こうよ」

「そうそう、それでね…」

こんな近くにいてスルーかよ!もうこうなりゃ引っ張って行くけど許してよ!

「わっ!触るな!」

「ぐえっ!」

電話に夢中でいる萌の腕を引っ張った瞬間にボディブローを喰らう。拳がみぞおちにめり込んだんですけど。
しかし俺が苦しんでいる様をあかねと楽しくお喋りしながら見ていた萌は、フンと鼻を鳴らす。

「腐る」

久しぶりの腐る…久しぶりでもなんでも悲しいモノは悲しいね。でも負けない!

「いいから!このままこんなトコにいて雷が当たったらヤダ!」

「太郎にしか当たらないからいい」

なんで俺だけ!?
















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