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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第8話 おざ太郎とあかね太郎


昨日の夜、俺はあかねにメールをした。秋月邸にいたとき、あかねからメールが来ていたことに夜になって気付いたからだ。
あかねのメールの内容はこうだ。

『萌、どうよ?』

これだけ。意味が全くわからん、俺が聞きたいわ。
まぁあかねって、メールするのがあまり好きじゃないらしく、ほとんどが「いいよ」とか「わかった」しか返事してくれないし。じゃあ電話をかけてこいよ。

「どうよって何?」

ベッド…床に敷いた布団に寝転がり返信する。俺の部屋は6畳、でも机と布団しかないから意外に広い。でも、弟の部屋にはテレビがある。なんで?って思ったけど、あいつが小遣い貯めて去年買ったのを知っている。俺に貯金という言葉はない。
俺はあかねからの返信を待ちつつ、汚い天井を見上げた。クモの巣が張ってる……掃除しなくちゃ!

30分が経ってやっと返信が来た、遅いよあかね。あっでも俺もすごい時間が経ってから返信したから何も言えない。

『どうよって、どうよって事だよ』

30分待ってこれかよ!どうよって何だって聞いてんだよあかね!メールっていいんだか悪いんだかわかんねぇ!
メールが面倒臭くなり、俺は布団の上であぐらを掻くとあかねに電話を掛けた。

「プップップ…プルルルル…」

………何で出てくれない?今メールくれたでしょう?そんなに時間経ってないけど?起きて、起きてよ!
何十秒かが過ぎ、いい加減諦めて切ろうとしたときだった。

『プルルル…はい、太郎?』

「あっあかね?俺ぇ」

『何かあった?』

「それは俺のセリフだっつーに。萌がどうしたのよ?」

『あっあんた、保健室に行かなかったんでしょ?』

「行ったらもういなかったのよ」

『なんだよそれ』

「なによ」

どっちが女でどっちが男かわからない。
あかねは何か飲んでいるのか、時々プハッと息をつく。俺は一度クシャミをすると、布団に潜り込んだ。やっぱり昼間は暖かいといっても夜はまだ寒いね、風邪引いちまうわ。

「そういや何で萌のやつ具合悪かったの?聞いても教えてくれなかったんですけど」

『…いやさ、エビフライ』

エビフライ?俺が食いたかったエビフライ?あっそうだ!真さんのせいで忘れてたけど、母ちゃんにエビフライのこと聞くの忘れてた!ヒイキすんなって言うの忘れてたよ!
そんなことを考えていると、少しの間黙っていたあかねが口を開いた。

『あのエビフライ、腐ってた』

「えぇぇぇ!?マジ?マジでぇ?」

『うん、ミエリンに食あたりっぽいって言われてさぁ。嫌な予感してお母さんにすぐ電話して聞いたら、冷凍庫に入れないでずっと棚にしまっておいてたみたいで。冷凍食品だし、揚げたんだからあんたなら大丈夫でしょ?ってアホな回答もらったわ』

「マジですか」

『しかもカビ生えてたけどねって可愛く言われたし。怒る気も失せた』

お前の母ちゃんってすげぇよ、ある意味で。揚げてようがなんだろうが腐ってんのよ。しかもあかねの腹はなんだって話だよな、あんたなら大丈夫でしょって恐ろしいこと言うね。お前も苦労してんだなぁ。

『もう平謝りだよ。萌は勝手に食べたのは私だからって言ってくれたんだけどさ、もう申し訳なくて』

そう言うあかねの声に覇気がない。相当落ち込んでいらっしゃるようね。まぁ友達に腐った物食わせて平気な顔してる奴なんていないけど。

「じゃあなんで俺に保健室に行けって言ったのよ?悪いと思ってんなら一緒に来ればよかったじゃないの」

『だってあんた達いっつも一緒に帰ってるでしょ?邪魔しちゃ悪いと思ったから』

「アホぉ!邪魔してよぉぉ!」

あかねまでとんだ勘違いをしているのか。一郎も今日おかしな事言ってたし。俺と萌ってそういう風に見られてたのか?今気付いた……って遅ぇ?

『それに萌に言われたんだよ。あんたが来るから迎えに来なくてもいいって』

「何よそれぇ?アイツ、俺が来る前に教室に帰ってたってのに!」

『だから萌が一人で教室に戻って来たときは驚いたよ!太郎は?って聞いても知らないって言われたし』

「ひっどぉぉい!俺ちゃんと保健室に行ったのよ?そしたらミエリンしかいないんだもん!」

『あっはははは!それでミエリンに泣きついたか?』

「わかるぅ?」

『アホ、あっもう切るよ。寝る時間だから』

「えぇ?まだ11時だよぉ?もっとお話しましょ…」
『ップ…ツーツー』

まだ喋ってるのに切りやがった。ああそうか、あいつ朝練あるもんね。夜更かしさせたら悪いか。
じゃあ俺も、と部屋の明かりを消そうとしたとき、弟の直秀がドアをノックすると、返事もしてないのに勝手に開けてきた。ノックする意味がねぇよ。

「兄ちゃん、ちょっといい?」

「なによ?」

俺とこいつは似てない。どっちかっつーと、俺は母ちゃん似でこいつは父ちゃん似。だからか、2人で歩いていてもあまり兄弟には見られない。身長もあんまり変わらないし。しかもこいつの方が男前……俺、俺だって。

「兄ちゃんのクラスに高瀬って人いる?」

直秀は布団をかぶったままの俺に気を留めることもなく、その場にしゃがみ込んだ。

「高瀬ぇ?ああいるけど…あいつはやめとけ。魔性の女だから」

「はぁ?」

「兄としてこれだけは言っておく。あいつはやめなさい」

「いや、そういうんじゃないんだけど」

「じゃあ何よ?」

「俺の友達がその人と付き合ってんだけど」

「…え?」

ちょっと待て。ってことは、今日昼に会ったあの男は……年下かよ!俺、敬語使ってなかった?しかもあいつはタメ口きいてたし!うちの制服って学ランだからわかんねぇ!上履きでわかる?…中庭にいたから外靴履いてた!そりゃわかんねぇよな!

「お前、そいつに言っておけ。兄ちゃんがよろしく言っていたとな」

俺は布団からちょっとだけ顔を出し、直秀に睨みを効かせてそう呟く。
お前の驚いた顔、ちょっと笑えるよ。

「な、なんで?」

「なんでもだ!それと、夜道歩くときは気をつけろって言っておけ」

「なんだよそれ?あいつ、兄ちゃんに何かしたのか?」

「え、別に…」

言えるか!あいつが俺にタメ口きいて、俺は敬語使いましたなんて! 

「なんでもねぇよ!もう寝るんだから帰った帰った!」

「な、なんだよ。まだ何も言ってないじゃんか」

「聞きたくないの!」

「頼むから聞いてくれよ!」

「やだよ!ロクな事じゃねぇだろ」

「なんだよ、弟が困ってるってのに」

直秀は頭から布団をかぶり直した俺に軽く蹴りを入れて部屋を出て行った。お前、仮にも俺はあんたの兄ちゃんよ?お兄様を蹴るだなんて、そんなことをしちゃいけないよ?普通のお兄さんだったら怒るよ?

それから俺は約5分後には夢の世界へと旅だった。


 ってのが昨日の出来事。


いつも通りの朝を迎えた俺は、いつものように萌が秋月邸から出て来るのを待っていた。
遅せぇ、早くしないと遅刻しちゃうじゃんか。

ぶつくさ言いながら待っていると、でっけぇ門が開いた。出て来たのは朝っぱらから不機嫌全開の萌。

「萌ぇ、もっと早く来てぇ。遅刻しちゃうってぇ」

俺が冗談混じりにそう言って歩み寄るが、萌は俺を見つめたまま、というか睨んだまま動かない。
俺、朝から何かしたっけ?って今日初めて会ったけど?

「どしたのよ?朝から機嫌悪そうね?」

「あんたの顔を見たからだよ」

ひでぇ!待っててやったってのにひでぇ!
軽く、本当に軽く萌を睨んでやったけど、それでも萌は俺を睨んだままで動かない。

「…行くよ」

ボソッと呟き、歩き始めた萌にいつもとは違う雰囲気を感じながらも俺は後に続いた。

教室に着いてからも萌の不機嫌は直らなかった。自分の机の上に鞄を乱暴に置き、足早に教室から出て行った萌に声をかけることも出来ず、俺は自分の机についた。
朝から不機嫌って、疲れない?そんなんじゃ放課後まで持ちませんよ?

「おざ太郎!」

「おざ」ってのは「おはようございます」の略、お前しか使ってねぇんだよ一郎。ってか『おざ太郎』ってなんか嫌な響きだよ。

「朝っぱらから秋月となんかあったの?めちゃくちゃ不機嫌そうな顔してたけど」

何をやらかしたんだよコイツ〜と俺の肩に何度か正拳突きを喰らわせてくる。説明すんのメンドイわ。

「あいつの不機嫌は昔からでしょぉよ」

「あっそうか、そうだそうだ」

一郎!そこは「そうか?」くらい言えよ!会話終わっちゃったじゃんかよ!お前の取り柄は何でもないことでも大袈裟にすることだろうが!
おい!納得して自分の席につくんじゃねぇよ!

「太郎!」

一郎の頭を叩こうと手を上げたとき、教室のドアを勢いよく開けたあかねが俺の元へスッ飛んで来た。ってかダッシュしすぎ!タックルでもかますつもりかよ!

「ど、どしたのよ?」

「あんた、聞いた?」

「何を?」

「恭子、彼氏にフラれたんだって!」

「えぇぇぇ…で、俺はどんなリアクションをしたらいいの?」

はっきり言ってどーでもいい話なんですけど。別に高瀬が彼氏にフラれたからと言って、「やったー!これで高瀬は俺のもの!」なんて思ったりは絶対にしないし。どしてあかねはそんなに慌ててるわけ?

可愛く首を傾げた俺に、深い溜め息をついたあかねは萌の席に座った。

「どんなって…だから、なんでフラれたか、あんた知ってる?」

「いいえ、知らないわぁ。教えていただけますぅ?」

「それがさ…」

「うんうん」

あかねが俺の耳に顔を近づける、俺は目をつぶり言葉を待つ……けど何も言ってこない。何?何のパフォーマンス?

「あかねぇ?」

俺があかねの方へ顔を向けると、なんと一郎の顔がそこにあった。一郎も目をつぶり、あかねの言葉を今か今かと待っている。
うん、この坊主頭がそそるのよ……ってそうじゃねぇ!

「一郎!てめぇ何してやがる!」

「え?なんだよ?俺だって聞きたいじゃんか」

「いや、一郎には悪いんだけど、太郎だけに聞いて欲しいんだよね」

「え…」

一時停止する一郎、を同情の眼差しで見つめる俺。一郎、悪いな。

「なによ!いいわよいいわよ!勝手にすればぁ!この、あかね太郎がぁ!」

あかね太郎って何よ?さっきは『おざ太郎』だっただろうがよ。俺の呼び名が増えるね。金太郎でしょ、桃太郎でしょ…嬉しくねぇよ!

一郎は「うえぇぇん!」と大声で叫びながら教室を出て行った。朝から元気だね?

「で、どしたのよ?一郎に聞かれちゃマズイのかしら?」

「あんたもどうかって考えたんだけどさ」

「なによソレ?」

「でも太郎だし」

意味がわからないよあかねちゃん。頭の悪い俺にわかるよう説明してくんないか?ほら考えてないで!

「実はさぁ、恭子をフッた奴が萌と見合いするから別れてって言ったみたい」

「…」

「…」

何も言葉が出ません。ってそれじゃあ萌の見合い相手は高瀬の元カレってこと?あいつ、金持ちのボンボンだったのか?見えねぇよ、昨日見た限りじゃお父さんは平社員って感じだったけど?

呆然とする俺を見ているあかね、やっぱり知らなかったんだねって顔してるよ。知らないよ!

「マジ、ですか?」

人知れず小声になった俺はあかねに顔を近づけて質問した。いい匂い、ありがとう。

「マジです…どうしますか、あかね太郎さん?」

「どうしましょうか、あかね太郎さん…」

どうするって、どうするもなにも、どうにもならないんじゃないっすか?俺達の手には負えませんよ。

「それ、高瀬から聞いたんだよねぇ?」

「うん、あんたからの電話を切った後にきた。泣いてたよあの子」

「魔性の女の目にも涙ってやつですか?」

それを聞いたあかねさん、しかめっ面を見せています。なんだ?なんでそんなに困った顔をしているの?頷けないでいるだけ?

「いや、それがさ、ちょっと違うんだよね」

「どういう事?」

「恭子ってさ、自分から相手を振ることはあっても振られたことってないみたいなんだわ。だから相当落ち込んでるっぽい」

「あぁ…」

言われてみたらそうかもしれないねぇ、高瀬ってそういう女性だもの。
うんうんと頷いていると、あっと何か思い出したあかねが立ち上がる。

「ちょっとあんた、萌は?」

「え?さっき出て行ったけど?」

「なんで引き留めておかないんだよ!このボケ太郎!」

あかね太郎の次はボケ太郎かいぃ!もう呼び名を増やさんでいいわ混乱するから!

あかねは「ボケェ!」と昨日の真さんを思い出させるようにそう叫ぶと、一郎と同じく教室を慌てて出て行った。俺はというと、ボケッと窓の外を眺めている。あぁ今日もいい天気でよかったね。












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