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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第73話 数少ないまともな友達


萌による昼食妨害もあり、俺は腹を空かせたままで午後の授業を終了させた。こりゃあ帰りに何か食って行かないとダメだ。きっと母ちゃんのことだ、父ちゃんが帰るまでメシを作る気はないだろう。

「あっ萌」

鞄を持ち上げた萌に声を掛けた。保健室を出てから全く口をきかない彼女は俺の問いかけを無視、教室を出て行った。こっちすら見てくれねぇ。

「そっか、もう一緒に帰らないんだったっけ」

毎日の習慣になってたから思わず声を掛けてしまった。でも無視はないんじゃないの?さよならくらい言ってくれてもいいと思うんですが。

「太郎さぁん、秋月さんと保健室で何があったの?」

うへへと気持ち悪い声で前の席に座る一郎が話しかけてきた。
お前のせいだろ、気づけ!

「お前が俺の弁当を勝手に食ったからこんな事態になったんだよ」

「は?俺食ってねぇよ」

「てめっ、シラ切るつもりか!」

とっくにウラは取れてんだよ!と一郎の坊主頭を平手打ちする。でも私は優しいから軽くね。

「お前がいない昼メシなんて寂しかったんだよ!」

「だったら三時限目が終わってから食うな!弁当持って保健室に来れば良かっただろうが!」

「バカ野郎!そんなことしたらお前の弁当独り占め出来ないだろ!」

「お前がバカ野郎だ!」

一郎は俺が教室へ戻ってきた途端に「おかえり!」と米粒を頬につけて笑顔を見せてきた。コイツがいつも昼食はパンだということは知っていたから、駆け寄って来た瞬間に飛び膝蹴りを喰らわせておきましたよ。こんなバカ野郎は見たことねぇ。

「一郎、ハンバーガー奢れ」

大袈裟に頭を撫でていた一郎の鞄を引ったくり、ちょっと凄んだ声を出してみる。俺は腹が減ってんだ、おかしなこと言ったら鞄は窓の外へブン投げてやる!

「む、ムリだ今日は!」

「何で?」

金がねぇとかなら絶対に許さないよ!100円くらい持ってんだろ!

「今日、美咲と…」

「美咲ちゃん?」

あれれ、美咲ちゃんてお前のこと嫌ってなかったか?兄妹仲良く買い物?ってことはいつかの香みたいに荷物持ちですか、妹に頭が上がらないとは。

「それが昨日家で風呂に入ってるとき円ちゃんから電話が来てさ。美咲が取ったんだけど、なんか二人して意気投合したみたいで…」

話しづらそうに一郎がチラチラと俺の顔を見ながら話し始める。円ちゃんて、あの円さんですか?

「俺は会う気とかなかったんだけど、美咲のヤツ勝手に会いましょうとか言いやがったみたいで」

「へぇ…そっか」

それ以上何も言えない。会うな!なんて言ったら俺はあんたの何なのさ的なカンジになるし。まぁもう一度謝りたいとか何とかだろ。

「行ってあげればいいんじゃねぇの?」

「え?そ、そぉか?」

行っていいんですか?みたいな潤んだ瞳で一郎が聞いてくる。ってか気持ち悪い。

「行けよ、行ってちゃんとケリ着けて来なさいな」

「た、たろぉぃ!」

「いちろぉ!とあぁ!」

「げべぇ!」

嬉しさのあまり飛びついてきた彼に鞄を投げつける。言うまでもなく受け取ることができず顔面キャッチした。

「いつか奢れよ!」

ちゃんと言っておかないとコイツは明日になったら全てのことを忘れている可能性がある。ここは鬼にならないと!

「お、おぉ!…リンゴジュースでいいか?」

「い、いいよ」

もういいよそれで。ハンバーガーは今度にしてやるよ。美咲ちゃんに「仲を取り持ってやったんだから何か奢れ」とか言われそうだし。同情したくなった。

「じゃ、じゃあな!」

「おぉ」

右の鼻から鼻血が出ていたけど、ここは敢えて教えないでおこう。きっと円ちゃんと美咲ちゃんの三人でいたら会話もなく無言になる、そこであの鼻血の登場だ。三人は笑い転げて会話どころじゃなくなるだろう。
俺って優しい。

「さて、じゃあ一人寂しく帰りましょうかねぇ」

へぇへぇと鞄を持ち上げると、視線に気がついた。これは、勇樹だね?

「…あっ」

やっぱりね、俺には特別な能力があるのよ。勇樹に見られるなら喜んで笑顔になる!

「ワタクシの王子ぃ!どうかなさったのぉ?!」

勇樹と一緒に帰ろう!そして塾がないなら一緒にハンバーガーを食って帰ろう!
金のことなら大丈夫、昨日母ちゃんが「晩ご飯美味しかったよ」とか言って上機嫌だったから「小遣いちょうだい」って吹っかけたら太っ腹にも二千円くれたんだ。あなたに奢って差し上げる!

「いや、あの、秋月さんとは、もう…?」

「あ?あぁ、うん」

もう…の次は予想できるけど、あえて聞かずに頷いておいた。

「秋月さん、一人で帰るのかな」

「あ〜どうでしょう。あかねは部活だし、高瀬は…またナンパされに行くだろうし、一人じゃない?」

一瞬ノブ君の顔が浮かんだけどすぐにかき消した。まぁ別に隠すつもりはないけどさ。

「それより勇樹、これから塾?」

「え?あっうん」

「…そっか」

悟った、俺は神に見放されたと。あくまで一人で帰れと言うのですね。

(そうよ、一人寂しく帰るの!そして…)

うっせぇ出てくんな天使!

「あっ一条君」

ガックリ肩を落とした俺が可哀想に見えたのか、勇樹は慌てて話題を変えようと辺りを見回した。大丈夫、独りは慣れてるから…。

「ぼ、僕…秋月さんに」

「うん?秋月さんにぃ?」

「…こ」
「ちょっと待ったぁ!」

みんながいる前でそれを言ったらダメだよ!晃が飛んで来たらどうする。周りのことも考えないと!

「ちょっと、廊下へ行きましょうか王子!」

「えっ、う、うん」

俺の必死な訴えにたじろいだ勇樹の腕を引っ張り教室を出る。




「い、一条君?」

廊下に出て晃がいないことを素早く確認し、ホッと胸をなで下ろす。デカイ声で萌の名前なんて言ったら必ずアイツは飛んでくる。

「こ、小声でお願いねぇ」

「う、うん。実は今日、秋月さんに」

啖呵たんかを切った?」

「ち、違うよ!」

あっそっか。勇樹がそんなことするわけない。俺はなんというアホなことを!許して王子様!

「これは内緒にして欲しいんだけど、三時限目が終わってすぐ秋月さんに一条君のこと聞いたんだ」

「俺のこと?あっ」

俺を心配してくれたのね?もう勇樹ったら萌になんて聞かないで直接来てくれたら良かったのに!

「イビキを掻いて寝てるから大丈夫って言われたんだけど」

勇樹にそういうこと言うなよ萌ぇ!もしかしたらお見舞いだって何か食い物なり持って来てくれてたかもしれないのに。…俺のバカ!自分の利益しか頭にないのか!

「口ではそう言ってたけど、すごく心配してるみたいだったよ」

「え〜、マジで?」

信じられない…手とか握られてたけど、俺がイビキ掻いて寝てたから腹立って握り潰そうとしただけだと思うし。

「それで…一条君の話をしてる秋月さんを見て思ったんだ。やっぱりダメなんだって」

「ちょっ、ちょっと王子?いや、勇樹?」

何だ、何を言う気なんだ?思いっ切り予想はつくけど、それ以上は口に出さないで!

「秋月さんはやっぱり一条君が好きみたいだね」

「ちょい待ちぃ!」

言って良い事と良い事……違う、悪い事があるよ!
あの子は自分のせいで俺がケガしたと思ったから保健室に来てくれただけだって、それ以上でも以下でもないよ!

「勇樹、あのね?」

ちゃんと言わないと勇樹は信じてくれないと思い、俺は彼の肩に手を置いた。勝手に話を進めてはいけないよ。

「萌は」
「一条君は鈍感なんだろうね」

「え?」

そう呟いた勇樹は真っ直ぐに俺を見た。睨んではいないが、強い意志を持った目だった。

「秋月さんに告白をするって一条君に言ってから、ずっと考えてたんだ。…でも宣言したは良いけど勇気が出なくて」

段々と勇樹の顔がしかめっ面に変化していく。何か悔しいのか、時折キュッと下唇を噛み締める仕草も見せた。
俺はというと、勇樹の肩に手を置いたまま鈍感と言われて固まっています。

「ケータイの番号も知ってたし、いくらでもチャンスはあったんだ。でも、やっぱりダメなんだ」

「だ、ダメって?」

「一条君がボールに当たって保健室に連れて行かれたとき、ずっとキミの手を握ってたんだよ彼女。津田さんも野代君もいたのに、そんなのお構いなしで」

「う、ウッソだぁ」

「ホントだよ」

うっ一筋も曇りのないまなこで見ないで。でもあの鬼娘がそんな女性的な行動を取るかね?

「使えないヤツだ」

とかって倒れている俺に一回くらい蹴りを入れてもおかしくないんだけど。

「秋月さんは本気で心配してたよ。ただ恥ずかしくて一条君には素直にそう言えないだけで」

なぜ男の勇樹がそこまで萌の心がわかるんだ?俺にはさっぱりわからない。萌の、というか女性の考えなんて全く。あかねとはアイコンタクト出来るけど。

「そこまでわかるモンなの?」

その問いに少し照れ笑いを見せた勇樹は顔を上げてしっかりと俺を見据えた。

「好きだからわかるんだ」

は、恥ずかしいぃ!でも堂々と言ってのける勇樹がちょっと羨ましい!

「そ、そぉ?」

「うん」

う〜ん、勇樹がウソをつくような子じゃないのは俺が保証するけど。萌が俺を、ってちと強引じゃないか?考えてみてよ、普段のアイツを。どう見ても好きなヤツに対する仕打ちとは思えないよ?

「あっそれじゃ」

「あっちょっと勇樹!ひとつ質問が!」

頼むから言ったモン勝ちしないで!
笑顔のまま階段を下りようとした勇樹を引き止めた。これを聞かないわけにいかない。

「たか…Tさんの情報によると、萌のふぁ…の相手は勇樹だって聞いたんですが」

「てぃ?ふぁ?」

どうやら勇樹は暗号に気がつかないみたいだ。でもまだ他の生徒もいるし、はっきりとは言いにくい。

「あ、と、とりあえず玄関に行きましょうか」

「?…うん?」

なんだろうと一生懸命考えてくれる勇樹を背に歩き始めた。外に出た方がいい、絶対にいい。










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