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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第68話 不幸のラブレター


昨日は最悪でした。ノブ君が帰って来たのはハニワから約一時間後。結局二時間くらい戻って来なかったよあのお方は。理由を聞けば、

「道に迷っちゃって」

とのこと。なんで迷うのよ!
萌は萌で俺には絶対に向けないであろう笑顔で「心配してたんだよ」なんて言いやがるし。心配してたのは俺でしょうが!ノブ君の名前を出してもいなかったじゃんかよあんた!
その後は冷めたピッツァを三人で会話もなく食べたけど、久しぶりのピッツァもただのビザに成り下がったのは言うまでもない。

そして翌朝、キズはあかねの予想を裏切り腫れは見事に引いていた。バンソーコーなんて僕には似合わないと勘違いして全て取り除いたよ。だから安心してね、未来の奥さん(誰かはまだ知らないけど)。




時は過ぎて今は杉なんとかの家の前に来ています。隣りには早起きをしたからか不機嫌アクセルベタ踏みの萌。
ピザを食べ終えた頃に母ちゃんと父ちゃんが帰って来たから、萌とノブ君とはそのままバイバイした。きっとノブ君と秋月邸に戻った後、会話が弾み過ぎて夜更かししたんでしょうね。
冷めているからかあまり食べない萌達を気遣って一枚半くらいピザを食べた俺はその後は速攻で眠りについたから眠気はゼロ。


「ま、まさか兄ちゃんも杉原のこと心配してるは思わなかったよ」

「好きで心配してんじゃねぇよ」

笑顔で「おはよう」と言ったのにも関わらず、萌に内心ビビっている直秀がオドオドしながらそう言ってきた。ってか萌に話かけることができないからって俺と話そうとすんな。
質問に正直に答えた俺は、杉なんとかの家が金持ちと言ってた割に普通の住宅なのに驚きを隠せない。

「ここが杉原の家?」

これは僕ではなく直秀へ向けた質問です。ちゃんと疑問形だし、すぐにわかるって?

「う、うん。も、萌ちゃんゴメンね、朝から付き合わせて」

「気にしないでいいよそんなの」

なぜそんなに俺と直秀じゃ扱いが違うんだ?まさか昨日母ちゃんが言ったこと真に受けてんの?直秀には美奈さんというお前も知っている計算高い女の子がいるんだよ?諦めなさい。

「ジロジロ見るな。朝から気分悪い」

「なっ」

なんてことを!朝から気分が悪いのは俺だよ!

「ってか直秀、さっさとピンポンしろよ!いい加減にしねぇと遅刻しちゃうって!」

憂さ晴らしの為、直秀に八つ当たりしたことをお許しください。
ってかピンポンて、チャイムとか他に言いようがあったろうけど、朝だからまだ頭がうまく回らないんだよ。気にしないでね。

「に、兄ちゃん押してよ」

「なんでよ?」

「いや、実は会いづらくて」

「なんでよ?」

「いや、実は昨日他の友達と代わる代わる電話したんだけど、そのうちの1人がお前が悪いんだから仕方ねぇじゃんよとか言い出してさ。それから何回電話しても着信拒否されて」

「…その友達の名前は?」

「え、なんで?」

「そいつと親友になりたい」

「今はそんな話してないだろ!」

「っだ!」

ずっと無言で俺と直秀の会話を聞いていた萌が口…足を出した。踏まれたよ、しかも踏んだ後にグリグリしてきた。痛みが増すわ!それもこれも全て目の前でオロオロしてる直秀が悪い!

「もういいからちゃっちゃと押せよ!」

足の痛みに耐えかね、八つ当たりと思われても仕方ないキックを直秀へ繰り出す。

「いってぇ!何すんだよ!」

「早く押せよ!」

「わかったよ!」

兄である僕を本気で睨んだ彼はヤケクソでピンポンした。兄を尊敬していないことがよくわかる。

「あっすいません一条ですけど」

『はい?』

杉なんとかの母親と思われる女性とインターホン越しに何か話している直秀は、唇が乾燥しまくりで歯ぐきに引っ付いている。緊張しまくりバレバレ。
それにしても、杉なんとかって金持ちなんだよなぁ。見るからに豪邸を想像してたんだけど、萌の家と比較しちゃいけないってか。

「萌ぇ?杉なんとかってお坊っちゃんなんだよね?」

「私に聞くな、近づくな」

「…」

ひでぇ、もうひでぇしか思いつかない。
青ざめた顔の俺を無視して萌は真っ直ぐ前を見ている。ふと視線を落とすとスカートが目に入った。あれ、破れた跡すらないよ。…新しいの買ったのね?さすが金持ち、制服が何着もあって羨ましいね。俺なんてもう袖がボロボロになってんのに。

「見てんな」

「あっすいませぇん 」

何で後ろにいる俺が見てるってわかんだよ!特別な目でも付いてんの?

「直秀?どう?」

後ろも見ずに俺を蹴った萌が彼の肩に手を置いた。不意に弁慶の泣き所を蹴られた俺はあまりの痛さにしゃがみ込む。てめっ後で覚えおけぇ!

「朝方に一回戻って来たらしいんだけど、少し前にまた出て行ったって」

ばつが悪そうにそう言った直秀は、後頭部にある寝グセをガシガシと手でとかした。行き場のない怒りが込み上げているのが見てとれる。
こんな時に「ゲームでも買いに行ったんじゃねぇの?」なんて言ったらどうなるものか。きっと直秀と萌のコンビネーションが俺を襲う。

「もう学校に行ってんじゃないの?あと15分足らずで遅刻決定だし」

まぁ、ここは当たり障りのない発言をしておけば大丈夫でしょ。杉なんとかの為に遅刻なんてしたくないし。

「えぇ?兄ちゃん早くそれ言ってよ!」

「え?」

「頭悪すぎだから!」

「てめぇ!それがお兄様に向かって言う言葉か!」

「萌ちゃんゴメン!行こ!」

「待てぇぇ!」

直秀は俺の手、ではなく萌の可憐な手をギュッと握り走り出した。ってかもう少しで遅刻だよって教えてあげたのに頭悪いとか言うかフツー。「ありがとうお兄様」でいいんじゃないの?

その前にさっきまで萌にビクビク怯えてたクセに、なんで萌の手をギュッと掴んでんだよ!この矛盾野郎が!…できることなら俺と手を繋いで!

「負けるかぁ!」

くっそぉぉ!絶対に直秀達よりも先に校門をくぐってやるんだから!一人で走る悦びを思い知れ!

「いだだだ!」

我も忘れて走り出した途端、体の節々が痛み出してきた。昨日散々殴られて、その後に萌にまで体当たり(2回)を喰らったんだからそりゃ痛いわ。でも負けない!

「はいはいはいぃ!」

手を繋いでるから思うように走ることが出来ない2人を簡単に追い抜き、昨日の夜あかねに助けてもらった路地に入った。絶対に負けないよ!

「あっ太郎!」

「あぁ!?」

必死の形相で走っていると背後から名前を呼ばれた気がした。ってか一定のリズムで息してんだから声を掛けないで!返事に困る!

「お、おはよう!それと昨日はマジでゴメン!」

声の主は一郎だった。彼は走りながら両手を合わせて俺に謝ってくる。って器用だな!

「おぅ一郎!お前はいつも通りに寝坊かッヒッハッフッ」

やっぱり息しづれぇ!
直秀達のように仲良くお手繋いでなんてガラじゃないから俺達は並んで走りつづけた。このっ微妙に前を走りやがる!そんな底力があるなら岩ぁんと走ったときに出して欲しかった。

「後ろにッヒ、いるのッハ、直秀と、ッハ、秋月?」

お前も全力疾走してんのかよ!そりゃ言葉も続かんわな。…なら話しかけるな。

「おぉ、ッハッヒッフッフッ」

走りながら喋るのがこれほどまでにツラいとは!しかもなぜかお互い競い合うように前を譲らない。ごめんと思ってるならば俺に前を走らせろ!

「っくっそぉぉ!…ッヒッヒッホ!」





朝から汗だくになりながらも遅刻は回避できた。俺達が到着してから5分ほど遅れた直秀達もギリギリセーフ。ってゆっくり来たよアイツ等!一生懸命に走って来るんじゃなかった。

「朝からマジで疲れた…」

肩で息をしまくりで玄関へたどり着いた俺は、まだ昨日のことで悩んでいそうな一郎の頭を軽く叩く。もういいって言ったのに、意外にクソ真面目なのかしら?何年も友達やってるけどこういう一郎を見たのは初めてです。

え〜っと、3番のゲタ箱はっと。まだ慣れないんだよね、新しい場所だから。

「あれ?なんだコレ」

ゲタ箱を開けて外靴を乱暴に投げ入れようとした止まった。目の前に手紙と思しき物体が見えるけど、ここここれってまさか、

ラヴレター?(by晃)

おいおいおいおいおいぃぃぃぃ!マジですかぁぁぁぁ!苦節16年とちょっと、生まれて初めてなんですけどぉぉぉ!

(決闘の申し込みかもしんねぇぞ)

ちょ、今取り込んでるから。それに悪魔の囁きなんて聞こえないよ。だいたい男がピンクの封筒に決闘状なんて入れるか。
悪魔を無視して手紙を取り出そうとした瞬間、お呼びじゃないのに天使降臨。

(秋月 萌にバレる前に鞄にしまいなさい!)

え?なんでよ?

(彼女に見られたら奪い取られて破られるのがオチよ!後からこっそり見ても罰は当たらないわ)

おぉ天使!お前に賛成だよ!そうだよね、悪魔人なんかに見られたら面白半分で奪われて破られるに決まってる!ありがとう!

(1人でニヤニヤしながら見てるときに誰かにその現場を目撃されて冷めた視線を送られるがいいさ!)

そうきたか!ってかコソコソ見るなら家に帰ってから見るわ !

「あれ、差出人が書いてねぇ」

封筒のどこを見ても名前とかは書かれていない。気になる気になる!出来るなら今すぐ開封したい。

「太郎?どした?」

既に上靴に履き替えた一郎が縮こまってウロウロしている俺に駆け寄って来る。しかも何気に赤ら顔。今はこっちに来ないでぇ。

「な、何でもないわ。お気になさらないでぇ」

ウホホとセレブ的な笑顔を見せ、なんとか誤魔化すことに成功したと思い込んだ瞬間、衝撃を受けた。

「いでっ!」

上靴を履こうとかがんだとき、誰かにケツを蹴られた。そして顔面から突っ伏す。ってか『誰か』じゃない!萌しかいねぇ!

「笑ってんな。怖い」

俺が置いてけぼりしたからなのかどうかはわからないけど、彼女の不機嫌は先ほどとは比べようもない程だった。微かに肩で息をしている彼女は俺が何を言おうとも怒りを静める様子はなさそうです。
しかし今の僕には暴力なんて通じないよ。

「笑ったからと言ってあなたに迷惑をかけたつもりはございませんことよ」

「…」

「っど!」

まだ倒れたままだった俺の背中を踏みつけた萌はついでに微妙に鞄アタックまで喰らわせた。だけどダメージゼロ!

「何コレ」

やっぱり一郎にはなれない。ダメージはゼロじゃないよ。
息が詰まり、か弱く咳をしていると萌が小さく呟き何かを拾い上げた。俺の心配よりも落とし物に気を取られるな!

「わっ!ちょ、それ俺の!」

いつの間にかラブレター落ちてたよ。ってマジマジ見るな!

「あんたが書いたわけ?」

「まさか!一条 太郎様へって書いてんでしょうよ!何が悲しくて自分自身にラブレターなんか書かなきゃいけないんだよ!」

「…」

あっ、言っちゃった!

いや、自慢したわけじゃないよ?ってかお前だってよくもらうじゃんか。俺も今日からキミの仲間入りしたんだよ。

「どうせ不幸の手紙だろ」

「ピンクの封筒に不幸はない!返して!」

ズイと手を差し出して返してと凄む俺は萌の次の行動が読めない。えっ、ちょっ何で自分の鞄に入れるの?あなたがもらったラブレターじゃないよ、俺宛ての手紙なんだけど。

「没収」

「なぜ?」

「有り得ないから」

「意味わかんねぇ!それに没収って、あなたにそんな権限ないでしょうよ!」

「ある」

「ない!」

「ある」

「ない!」

くっそ、こんなんじゃいつまで経っても終わりは来ねぇ。今は一刻も早く萌という名の独裁者から手紙を奪い返さなければ!

「わか、わかった!わかったから返してくれ!それは世界で一番大切なモノなんだよ!」

「ヤダ」

くぉぉ、人が下手に出てりゃ好き勝手なことを!まさか嫉妬?俺がラブレターをもらったことに対して嫉妬してるわけ?

ハイ有り得ない!

「不幸の手紙に500円」

「一郎てめぇ!」

俺がラブレターをもらったことに気がついた一郎が柱に体半分を隠しながらそう小さく呟いた。ってか誰と賭けるつもりだよ、萌は絶対にノッてこないと思うけど。

(決闘状に500メガ)

てめぇか悪魔ぁぁ!口を挟むんじゃねぇ!しかもメガって金の単位じゃねぇし!

「おっお願い返して!」

「ヤダ」

「こっの!」

ヤダヤダヤダってこんちくしょうが!繰り返し人形再来だよ!

いくら土下座して頭を床へ打ちつけても萌は鞄に俺宛てのラブレターを入れたまま『ヤダ』を連呼。ラブレターが欲しいなら俺が今度書いてあげるから!

「あ、萌おはよ」

泣き出しそうになっている俺の背後から女神の美声が響いた。この清潔感溢れる声はあかねだな。ってか土下座してる人をスルーして萌に挨拶しないで。

「あっおはよ」

「って太郎、あんた何してんの?みんなのジャマになってるよ」

「助けてあかね!」

「な、なに?」

俺を救えるのはキミしかいない。ナイスタイミングで現れたのも何かの縁だ、頼む!

急いで立ち上がり、あかねの両腕を掴もうと手を伸ばす。が、彼女の手刀がそれを阻んだ。ってか本気で俺のか弱い手を叩き落としたよね。おトイレ行ってからちゃんと手は洗ってるから心配しないで!

「萌が俺の大事なモノを奪って返してくれないんだよ」

「お前のじゃない」

「俺のでしょうよ!宛名見たよね?一条 太郎ってこの学校に一人しかいないよね?」

「お前はバカ太郎だ」

「バカなんて名字の奴いないっつーに!」

鞄をギリギリと握り締めている萌は蹴りを入れようとする気マンマン。目が怖い、危ない目つきをするな!
俺と萌が無言で睨み合っていると、何かヤバイ時に声を掛けちゃったなぁという顔であかねが助け船を出そうと頑張ってくれた。

「よ、よく分かんないけど、返してあげ…」

「…」

(ギブ)

なぜ?そこまで言ったんだから最後まで自信を持って!

(ごめんギブ)

謝罪がプラスされた!

「あっ、あたし、部室に忘れモノしたかも…」

ウソがバレバレだよあかねぇ!どれだけ目を泳がせばいいんだよ!正直者、ウソをつくべからずだ!

「さ、先に教室に行ってて〜」

アハハ〜と手を振ったあかねは俺や萌を見ようとせず、回れ右をすると脱兎の如くその場を離れた。足速すぎ!

あのあかねをあれほど震え上がらせるとは、萌恐るべし!

「…あっちょ、萌ぇ!行く前に返してぇ!」

あかねが去った方向を何秒かの間だけ見送り、ふと前に視線を戻すと萌が階段に足を掛けている。足音とか聞こえなかったんですけどぉ!

「まっ待って萌ぇ!返してってぇ!」

「ヤダ」

ズンズンと我が道を歩く彼女に触らないよう何とか説得を試みるけど効果ナシ。怒りを増幅させただけだった。

何でそこまで怒ってんのか全くわからん。自分だってちょくちょくラブレターなるものを貰ってんじゃんかよ。俺はそれについて何か言ったことなんてないんですが。

「ちょ、マジで返してってぇ!」

慌てた俺は教室のドアに手を掛けた彼女の肩に思わず手を添えてしまった。い、今は緊急時だから仕方ないよね?

「腐る!」

振り向き様の鞄アタックが俺の右頬をとらえた。








更新が遅れてしまい、本当に申し訳ございません!






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