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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第62話 初めまして、野代 太郎です


できることならば、暗くなる前にお家へ帰りたかったです。いくら春とはいえ、辺りはもう真っ暗。萌ぇ、絶対にお前と一緒に帰ってやるからな!覚悟しておけ!


誰もいない公園で、目の前には来るなりいきなり土下座を披露してくれている一郎。そしてそれを呆然と見ている俺と萌。ところで円さんはどうした?

「本当に悪かった!」

「わかったからもういいって。それより頭上げてくれない?」

「俺のせいで友情にヒビを入れてしまった。土下座で済むなら何時間でもする!」

「いや、別に謝れとか言ってないんだけど」

「ダメなんだよそれじゃ!俺が俺を許せないんだよ!」

こ、コイツ。意外に男だね。
うーむ、どうしてくれようか。素直に「じゃあ謝れ!額を地面にこすりつけて血が出るまで謝れ!」とか言う?それとも「一回殴らせろ!」で終わらす?
俺はどっちもなぁ…と思いながら萌を見た。あれ、何で一郎をガン見してるんだ?何か怒ってる?

「野代」

うわっ、ノブ君と話してる時とまるで違うトーン。低すぎて地震が起こりそうな勢いだよ。
ゆらりと萌が一郎に近付いていく。土下座している彼をどうするおつもりですか?まさか「もっと頭を下げろ!」とか言って蹴ったりしないよね?

「伊藤 円は?」

「円ちゃ…アイツは、俺にずっと頭を下げてた。間違えてごめんなさいって」

「それで?」

「俺、めちゃくちゃ腹立ったけど、付き合ったのは昨日だけだったかもしれないけど…なんか怒るに怒れなくて。だから走って逃げた」

「それで?」

「えぇ?それ、それで?…え〜っと」

「それで?」

「ちょ、萌!」

お前怖いって!なんで「それで?」しか言わないんだよ!繰り返し人形か!…なんだソレは!
萌の周囲には不気味なオーラが放たれているから容易に近付くことはできない。だから俺はできるだけ遠くから「やめてあげてぇ」と叫んでみた。

「あんた、私に何て言ったかわかってる?」

「え?俺なんか言った?」

おまっそれは反則だよ!ってか憶えてねぇの?どっちにしろお前はきっと殴られる!

「ぐえっ!」

やはりな。俺の推理は間違っていなかったわけか。
土下座を続けている一郎は萌のスーパー強いビンタを思い切り喰らった。さっきの2回のビンタを合わせてもまだこっちの方が強いと思われるスーパービンタ、鼻血も出る勢いだよ。

「いち、一郎!」

倒れた一郎に駆け寄った俺は彼を抱き上げる。うわ、鼻血出てる。萌、お前は一体どれだけの力を持っているんだ。頼むから俺にはやらないでね!

「さっきよりも数倍イテェ…」

「音でわかったよ」

「俺、秋月に何か言ったのか?」

「そうじゃない!私に何か言ったのなんてどうでもいいんだよ!」

「「えぇ?!」」

じゃあ何で殴ったのよ?なんで本気のビンタを張ったんだよ!
怒り心頭の萌を前に何も言えない俺達はビクビクしながら次の言葉を待った。

「何で太郎の言葉を信じられなかったのかって聞いてんだよ!」

言ってないよねそんなこと!一文字も言ってないよ!さっきは私に何て言ったかわかってるって言ったんでしょ?忘れないで!
とは言いつつ、何か無性に恥ずかしい気持ちでイッパイなんですけど。俺のことを気にかけてくれてる証拠ですよね。

「なんで見てんだよバカ太郎!」

「なぜぇ!」

見ちゃいけないのかよ!俺の名前を出したんだからそりゃ見ちゃうよ!
なんで怒られたのかわからない俺はそのまま無言で一郎をチラ見、でも彼は何かを必死で考えたと思ったら真剣な目つきで俺から離れ土下座を再開した。

「本当に悪かった!最初、円ちゃんに『あなたって秋月 萌と付き合っていたのよね?』って言われて、違うよって言ったら『あなた一条 太郎でしょう?』って。それでてっきり俺…。本当に悪かった!頭に血が昇り過ぎて殴っちまった!お前は何も悪くないのに!」

「…まぁ、頭に血が昇ってたのは見ててわかったけど」

「ごめん!本当にごめん!」

そう言って一郎は何度も地面とおでこをぶつけて謝った。もういいって、と彼の肩に手を置いてやめさせようとしても何度も謝ってくる。

「も、もういいって!もうわかったから!」

「いやダメだ!」

なんで?俺がいいって言ってんだよ?素直に「ありがとう」でいいんじゃないの?
額が石で切れたのか、血が滲んでいる。ちょ、マジで、マジでもういいってぇ!

「もういいって!血が出てるし!」

「殴ってくれ!気が済むまで殴ってくれ!」

「なんでだよ!殴る理由なんてないだろが!」

殴る殴らないでこれほどまでに大声を張り上げることができる俺達って、ある意味すごいね。もう仲が良いんだか悪いんだか。

「太郎!殴ってくれぇ!」

「うるっせぇ!……あ」

あまりにしつこいから殴っちゃったじゃんか。

俺の怒りの鉄拳が一郎の左頬に入った。そしてそのまま勢いよく地面に倒れる。ってかそこまで力を入れたつもりはなかったんだけど。

「ぐぅ…やっぱイテェ…」

鼻血は出てないものの(萌にビンタ張られた時にすでに鼻血は出てたけど)とっても痛かったらしく微妙に涙目になりながらもそう一郎は言った。

でもちょっと考えてみると、そりゃ間違ってもムリないか。そんな意味不明なこと言われたら頭もこんがらがるって。
まぁそれなら…と言おうとした俺を止めたのは萌様でございました。

「あんた、そんなので謝った気になってんの?」

マジでこえぇ!なんでそこまで一郎を窮地に追い込ませようとするんだ?何がそんなに気にくわなかったの?

「も、萌、もういいんだって。一郎も反省してるみたいだし」

なんとか怒りを静めてもらおうと、一生懸命に笑顔を作ってそう萌に言った。このままだと絶対に萌はまたスーパービンタを喰らわせようとこっちに近付いてくる。でも、手を振り上げると思ったらそうじゃなく、真っ赤な顔をした彼女は大声でこう叫んだ。

「…バカ野代太郎!」

野代 太郎って名前になっちゃった。うん、悪くないかもしれないねぇ。
あぁもう私なに言ってんだよ!と自分に対して怒りが込み上げた萌は持っていた鞄を地面に投げつける。それを俺と一郎はひぃっと体を硬直させながら見た。

「もういい勝手にしろ!帰る!」

「え、ちょっと萌!」

話してたくない!と大声でそう叫んだ彼女は俺を思い切り睨むとのしのしと公園を後にしようと歩き出した。ってか待って!一人じゃ怖い…そうじゃなくて暗い夜道、女性を一人で帰すわけにいかないんだって!

「あ、一郎また明日な!」

「え、あ、うん。…マジでごめん!」

「あぁもういいよ。お前の気持ちはちゃんと受け取ったから。お互い女性には気をつけような」

俺はあかねになりきって、ちょっと上から目線で一郎の坊主頭をポンポンと叩いた。俺の言葉をジッと聞いていた一郎は鼻血を拭こうともしないから「しわくちゃでいいなら使え」とハンカチを差し出した。洗わなくていいからそのままゴミ箱へポイしてくれて構わないよ。

「ありがとう!ちゃんと洗って返すから!」

「捨てて!」

ちゃんと洗ってアイロンかけて返す〜!と一郎の言葉を背に俺は走り出した。だって、だって萌のヤツ、俺を置いてガンガン歩いて行くんだから!









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