シャープペンシルを武器にする(5/104)縦書き表示RDF


シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第5話 午後の授業は眠気と格闘


英語の授業はなんとか乗り切った。残すはあと1時限のみ。

ぐわっ眠いぃ。

昼休みに叫び過ぎて疲れた。それもこれも隣りで腕組みしながら席についてる女のせい。俺のシャーペンをボキッと折ったクセにごめんねの一言もなし。
あの後なんて言ったと思います?

「新しいの買えば?」

うるっせぇんだよ!金がねぇんだ!あったらとっとと買い換えてるわ!って言ったら絶対に殴られる。

あ〜なんか思い出したら腹が立ってきた。
一郎の頭はさっき叩かせてもらったからなぁ、いくらなんでも2度は可哀想だよね、僕って優しい。

「太郎、行かねぇの?」

え?一郎さん、あなた今なんて?いかねぇのって、殴らねぇの?って事?
いいの?私、あなたを殴っていいの?ありがとう一郎さん!

「いてぇ!何すんだよ!」

「え、だって一郎君が殴っていいって言ったじゃないか」

「誰が言うかそんな事!」

あぁ勘違いだったんだね、ごめんごめん。でも面と向かって謝るのは恥ずかしいから心の中だけで謝らせて。
俺は目をつぶった、そして一郎にごめんねの念を送る。それを見て敵と見なしたのか、一郎が持っていた教科書が俺の鼻っ面にクリーンヒット。

「イデッ!てめっ何しやがる!」

「それは俺のセリフだ!謝れよ!」

「もう謝ったって!心の中で」

「声に出せ!」

一郎との意味のない掛け合い、暇つぶしには最適だよな。

「おい、マジで早く行かねぇと遅れんぞ」

「え?どこへ行くの?」

可愛くそう呟くけど、一郎はそれを見ておぇっと吐くマネをした。
普通そこはツッコミを入れてくれるんじゃないの?おぇって、いくらなんでも悲しいぜ!
えーんえーんと言いたいところをグッと堪えて一郎を睨む、けど同じように睨まれた。

「次の授業だっつーに!化学室に行くんだよ!」

「あらそうだったかしら?」

「もういいわよ!俺一人で行くからいいわよ!」

あんた!女言葉を使うならそこは「俺」じゃなくて「私」!まだまだ甘いな一郎。
あれ?それじゃあ今俺の隣りでアホな顔したまま座ってる女性は何してるの?行かないの?

あら、いないよ。煙のように消えたよ。ってか一言もなしに行くのね。まぁその方が俺も平穏に過ごせるってことだけどさ。

「行くぞ!」

「あいよぉ!」

一郎のかけ声と共にダッシュする。化学室は3階、俺達の教室は2階。階段上がって真っ直ぐ走ればすぐ!チャイムよまだ鳴らないで!

……か、化学?次の授業は化学?

「一郎ぉ!」

俺の前を走るバカに声を掛ける。一郎は振り向くこともなく走り続けている。……無視か?

「化学って、眠いよな?」

「…」

やっぱり無視なのかー?!

「い、ち、ろ、うー!」

「うるっせぇ!黙って走れ!疲れるんだからよ!」

「ひっでぇーー!お、俺、が…こ、こん、な、ハッッヒッフ」

走りながら話すってホントに疲れるよ。息切れ起こすよね?そりゃ一郎君が無視したくなるものわかるよ、でも、俺は悲しい!

階段を一気に駆け上がり、あとは真っ直ぐ突っ切るだけ……ってあらら?目の前に見えるのは萌様?
何やってんだアイツ、廊下の真ん中でしゃがみ込んで。アリの大群でも見つけたか?……違うよね、絶対に違う。

「秋月、どした?」

一郎!そこで立ち止まっちゃうわけ?しかも声まで掛けたよ。「うるせぇ」って言われるのがオチだって。俺ならそんなことせずに一気に走り抜ける…そこまで俺は悪い奴じゃない。見たらなんかしんどそうな顔してるし。

「お腹でも壊したか?俺のエビフライ食ったから」

俺はうずくまったままの萌に嫌味を言う。いつもならここで「お前には関係ねぇ、あっちへ行け」って暴言が飛んでくるんだけど、いくら待っても来やしない。なに?マジでお腹痛いの?食べ過ぎは体に毒よぉ?

「…っせぇ」

「え?なになに?」

俺と一郎が耳を近づける。…せぇ…せぇ、せぃやぁ!とか?

「うるっせぇんだよ!」

えぇ?!そんな苦しそうな顔して暴言吐けるの?せっかく人が心配してあげているというのにこの子はまったく。
一郎は仰け反ったまま動かない、そして顔は顔面蒼白。お前、もういい加減に慣れたらどうよ?

「あっ一郎太郎!」

はい?と振り向くとあかねさん、またの名を女神、がこちらへ駆け寄って来た。急いでいるねぇ、お前も遅刻組?

「あかねさん?どうなさったの?早くしないと遅れるよ?ダッシュダッシュぅ!」

「急いで急いでぇ!」

俺と一郎が次々にそう言うが、あかねは俺達を一瞬キッと睨んだだけだった。
あれ、どうかした?いつもなら「はいよぉ!」って乗ってくれるのに。

「それどころじゃないんだって!萌!大丈夫?」

「大丈夫、じゃない。こいつら、うるさい……」

なんだかとても辛そうだ。どしたどした?お前がこんなに苦しそうな顔を見せるのはあれだ、あのとき以来だ。
小学5年の時に、腐ったミカンを俺と一緒に食ったとき以来だ。あの時は俺も苦労したよ。

「保健室行こう?!タケちゃんには言ったから!」

タケちゃん、本名は竹口たけぐち 泰久やすひさ先生。名前はカッコ良さそうだけど、おじいちゃん先生。でも、いい先生。でも、タケちゃんの授業は眠くなる。

「タケちゃん、ちゃんと聞いてたか?いつも明後日の方向見てるけど」

ふぇ〜とタケちゃんのモノマネをした俺に、あかねは構ってられないと全くこっちを見てくれない。悲しいって。

「わかったって言ってたから多分大丈夫でしょ?まだ職員室にいたし他の先生も聞いてたから」

まだ化学室には来てないみたいだな、よしよし。それじゃあ萌の事はあかねに任せて俺達はゆっくり歩いて向かいましょう。

「ちょ、お前らぁ!」

そう叫んだのは萌、じゃなくてあかね。あかねって萌と違ってそういう男言葉使ってもおかしくないんだよね、聞き慣れてるし。それに何より怖くない。

「どした?あかねもどこか痛いのかい?」

紳士的な顔(ってどんな顔?)でカッコ良く振り向くと、あかねの必死の形相が目に入った。

「そうじゃなくてっ、あんた達女子を見捨てて逃げんの?」

「逃げるって、ひどい言われようですなぁ太郎さん?」

突然一郎がお年寄りな言葉を使う。俺もそれに乗れってか?いいでしょう!

「ええ、ええ。ワシ等は優しいジイさん共ですじゃ」

「優しいジジイ共!萌を保健室に連れて行くから手伝え!」

優しいジジイ、尊敬の言葉なのかなんなのかわからない。って手伝うだって?ムリです。だって、

「…やだ。一郎太郎なんかに触られたら腐る」

ねっ?思った通りだよ、手伝いたいけどムリだって。だから知らぬ存ぜぬで去ろうとしたのに。しかも一郎までも腐るなんて言われたよ。でも本人は笑ったまま動かない、あっその顔は諦めてんのか。

「私達に触れたら腐るわよ?それでも手伝ってもいいわけぇ?」

俺は悲しさを隠してそうおどける、悲しいよやっぱり。腐るだよ腐る、ってかお前俺のこと蹴ったりしてたじゃないかよ。見たところあなたの足はまだ腐っていないけど?

「萌!あんたこんな時に何言ってんだよ?あたし一人じゃムリだって!保健室は一階にあるんだから!」

「…タケちゃんに頼む」

「タケちゃんを殺す気か!」

思った事が口に出てしまいました。あの痩せこけたタケちゃんがお前を連れて3階から1階まで降りられると思っているの?保健室に着いた瞬間、お前じゃなくてタケちゃんがベッドに眠ることになるわ!

「うるさい、お前に関係ない…」

「あっそあっそあっっっそぉぉ!もう勝手におし!私は知らないよ!」

なんだよもう!人がちょっとだけ、1ミリだけ(タケちゃんを)心配してあげたっていうのに!

「ちょっ太郎!」

「だってこのお嬢様は俺に触られたら腐るって言ってんだよ?触れることもなくこいつを保健室へ連れて行けるような魔法、俺にはない!」

「魔法じゃなくていいから!肩貸してあげてよ!」

「…」

「……」

なんで無言なんだよ、なんか言えよこいつ。「お願いします」とまではいかなくても、「・・・頼む」くらい言えるでしょうよ?

「…何、見てんのよ」

むっかぁ、肩を貸してあげようと思ったけど……一郎に頼もうかな。あいつなら女子に触れられるって大喜びするだろうよ。まぁ相手が萌だから「勘弁してぇ!」って絶叫すると思うけど……って!

「…おいぃぃぃ!一郎ぉぉぉ!」

いねぇ!あの野郎一人で逃げやがった!親友を置いて行くとはひどい!ホントに「一郎太郎」のコンビを解消したくなるっつーの!
・・・・ええぇい!

「もう仕方ないわぁ!こうなりゃヤケよ!」

「さ、触るなぁ!」

「きゃぁぁあ!」

と、俺は叫んだ。
ちょっと腕を掴んだだけで萌の右拳が俺の左頬を襲ったから。そ、そんなに僕に触れられるのがイヤなの?僕がそんなに嫌いなの?
ってお前、口の中切ったじゃねぇか!もう少し加減して殴れよ!

「もう動くな萌!太郎!なんでもいいから連れてくよ!」

「アイアイサァー!…痛いぃぃ!」

俺はヤケクソで萌の肩を担ぎ、ほっぺたをつねられ殴られつつも、あかねと息を合わせるように階段を駆け下りた。途中でタケちゃんに会う、けど本人は明後日の方を見てる。気付いてくれてもいいんじゃない?「がんばれ」くらい言ってくれてもいいんじゃないか?

「後はこの角、左で走れぇ!」

「オーケィあかねぇ!」

あかねと息ぴったりのコンビネーション、一郎よりも息が合うよ。俺が女だったら絶対にあかねと親友になれる!今は?今だって親友さ!だって俺にエビフライをくれるぐらいだもんね!

「あかねぇ!」

「なにさぁ?!」

「エビフライちょうだぁぁい!」

「わけわかんないんだよ!それに耳元でうるっさい!」

思わず本音が出ちゃったとき、萌にそう怒鳴られた。耳元でって仕方ないでしょぉ?あなたの肩を担いで走ってんだからさぁ。


「とうちゃーーく!」

俺が保健室のドアを強引に開けてなだれ込むように中に入る。俺とあかねの息はもう絶え絶え。そりゃそうだ、あれだけ走って、しかもお喋りしながら。

「ミエリーン!重症患者を連れて来たぜぇ!」

遠藤 美枝、通称ミエリン。かわいいおばちゃん保健師さん。俺もよくお腹が痛いと言ってはここでミエリンと時間を潰す。ただのサボリだって?ええそうですよ。

「あらら!あんた達そんな重症患者を走らせたのかい?とにかくベッドに寝かせて!」

「あかね!後は頼んだ!」

「えっちょ、太郎?」

「トイレ我慢してんのぉ!」

俺は見たんだ、ミエリンがベッドに寝かせてって言った瞬間、萌の恐ろしいほどの睨みが俺に注いだ。「早く消えろ!」って目だよあれは。だから消えます、どろん。

化学の授業に萌は出席しませんでした。
あかねが少し遅れて来たけど、萌のことは聞けませんでした。しかもタケちゃん、俺を遅刻扱いにしました。すれ違ったよね?萌を連れて行くときすれ違ったのに!やっぱり明後日の方を見てんたんじゃねぇかよ!














ネット小説ランキング>現代コミカル部門>「シャープペンシルを武器にする」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
小説の匣





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう