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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第47話 あか姉ちゃんは優しい姉ちゃん


萌の名前を出したあかねはスポーツバッグを俺に返してから少しの間ずっと黙りこくったまま歩き続けていた。なんかマズイこと言ったかなぁと考えるけど思い浮かばない。しかも心なしか元気のない顔してる。

「「あのさ」」

無言なんて萌といるときだけで充分だよ、と声をかけたらあかねも同じ事を考えていたのかボソッと声を出した。
やっと俺の顔を見てくれたね。

「なに?」

「あかねこそ」

別に大したことを言うつもりじゃなかったんだけど。なんで無言?とか何かしゃべってよんとか言おうとしただけだし。

「いや、萌の事なんだけど」

「またその話?なんでそんなに萌が気になるんだよ」

「気になるっていうか…」

だからなんでそこで詰まるんだ?もしかして萌とケンカとかしたか?言っておくけど俺は仲裁なんてできないからね?

「あたしが気にしてるのはあんたの言動だよ」

「俺って何か変なこと言ってた?」

全然覚えがないんだけど、俺って萌になんか言ったか?ってか言われてるのは俺じゃんかよ、バカ太郎とかバカ太郎とか。怒るなら萌を怒ってくれ。

「わかってないの?」

「ちゃんと言ってくれないとわからないっつーに。いつもみたいにはっきり言ってくれない?」

やっぱり今日のあかねはどことなく変だ、ズバズバ言ってくれない。そんなのは俺の知っている津田あかねじゃないよ!何をそんなに遠慮してんだ。

少し考えた素振りを見せたあかねが突然立ち止まった。それにつられて俺もストップ。やっと言う気になってくれたか?

「じゃあはっきり言うよ。冗談でもさっきみたいなこと、もう絶対に萌の前で言うな」

「え?何を?」

わからない顔をしている俺にイライラしてきた様子であかねは早口でまくし立てる。

「だからラブとかだよ」

「ダメじゃないってこの前言ったじゃんか」

「それにしたって他に言い方ってモノがあるでしょうが」

バカ太郎、とあかねが俺に軽くボディブローを繰り出してきた。いや軽くじゃない、重くて痛い。一体ラブの何が悪いんだってんだ?

「萌の前で言ったらダメなら、一郎とか高瀬の前ならいいわけ?」

「あんた、人の揚げ足を取るの上手だよね」

「ありがとう」

「褒めてない!」

殴られる!と、頭を引っ込めるけど…あれ、拳が飛んでこないよ。いつもならここで俺の体は地面に突っ伏してるハズなんだけど。

「あかね?」

横をチラ見してみると、手を上げたまま停止しているあかねが立っていた。殴ろうとはしていたんだね。じゃあなんで止まってんだ?

「…あれ、香?」

あかねの視線の先には同じクラスで手芸部の工藤 香がいた。しかも隣りには彼女と思わしき人物が。しかも遠目で見てもわかる、美人さん。

ちっきしょう!あいつは仲間だと思ってたのに!

「香のヤツめぇ、俺を裏切りやがったな!」

「何を裏切ったのさ?」

「俺を差し置いて彼女なんて作りやがった」

「それってただのヒガミでしょうが」

ヒガミ以外のなんでもないことくらいわかってるよ!あ〜あ、なんだよあのニヤけた顔は…俺も混ぜてぇ!

「ちょっあんたどこ行く気?」

ダッシュ!と態勢を整えたと同時にあかねに服を引っ張られた。行く所なんて決まってる!ってか今気がついたけどまだ一張羅着てたんだった!頼むから引っ張らないで!

「香の所に行くんだよ!」

「な、なんで?」

「なんか悔しいから」

「やめておきなって!今行ったら邪魔者以外の何でもないよ!」

「邪魔するつもりはないよ、ただ冷やかしてやるだけぇ」

「同じ事だっての!」

くおぉ!俺がビクともしねぇ!動けないよマジで!どんだけ力込めてんだ?あかねだって悔しくないのか?見せつけられてちくしょうとか思わないの?
いや、勝手に俺が見てるだけなんだけど。あのニヤけ面をなんとかしてやりたいって思うでしょ?

行かせて!じゃないと俺は負け組にされる!と頑張るも、さすがあかね。俺なんて比じゃない。

「やめなって!」

「放してぇ!」

全く放してくれないあかねに根負けした俺は、涙目で香を見た。幸せそうな顔してんなぁ、俺としゃべってるときなんてそんな顔したことねぇクセに。ヒガミでごめんね!

「ほら行くよ」

「くっそぉ香めぇ」

あかねにがっしりと腕を掴まれている俺はそれを振りほどくこともできず、彼女の後について歩き始めた。

なんでだ?なんで同じ歳の香とか高瀬には恋人がいて俺にはいないんだ?高2っていったらもういい歳だよね?俺が出遅れてるだけなのか?

(周りを見てみな。一郎だって彼女がいないだろ)

一郎は論外なんだよ!自分で言うのもなんだけど、俺だってソコソコは優しそうな顔してるのに。なんで誰も声を掛けてくれない?

(萌がいるからだろうが)

わかってるわ!悪魔なんかに言われなくてもわかってますよ!そうだよ、周りの奴らからは俺達は「付き合ってんでしょ?」みたいな目で見られてるんだよね。そりゃ誰からも声なんて掛けたくても掛けられないよね。

(その前に自分の顔を鏡でよく見てみな……泣けるから)

………。

「おーい、太郎!津田ぁ!」

「あぁ?」

でけぇ声だな誰だ?あっ香さん、僕に気がついてくれたんですね。ってか嬉しそうに駆け寄って来やがるな、ここは俺も笑顔で迎えた方がいいのか?いや、見せびらかしてんな!とか言った方がいいの?どうなのあかね?

「やっほ工藤」

普通に受け答えちゃったよ!俺の葛藤はどうしてくれる。ってか俺も笑顔でスポーツバッグ抱えてるけどさ。

「2人で何やってんだ?」

なんだよその勝ち誇った顔は。俺達はデートの帰り道だけど?みたいな目をするな!くっそ、俺、俺達だってぇ。

「俺達だってデートの帰りみ、ちぃ!」

「そういう事を言うなって言ったでしょうが!」

待ってましたとばかりにあかねの回し蹴りが俺の腹部にヒット…スポーツバッグがクッションになったからあまり痛みは感じない。
助かりましたよあかねバッグ!でも最後まで言わずとも俺の言いたいことがわかるとは、あかねも何かしら予知能力があると思っていいですか?

「な、なんかよくわかんないけどデートってわけじゃなさそうだな」

「ありえない!」

待て待てあかねぇ!香にまで蹴りを繰り出そうとするな!ヤツだって彼女の前で蹴られたくないだろうよ!俺が後でちゃんと叱っておくから!

落ち着いて!と俺はあかねの肩をポンポンと叩く、けどそれが逆効果を生み出すとは考えもしませんでした。

「あんたが変なこと言うからでしょうが!」

それを言われたら何も言い返すことなどできない。

すんませんと頭を下げると同時に、香の恋人と思わしき女性が俺の前に現れた。見たトコロ俺達よか歳が上っぽいな、まさか香のヤツって年上キラーか?

「香の友達?」

「あっあぁ」

女性は俺とあかねを交互に見ると、にこやかな笑顔を見せてお辞儀をしてくれた。

「初めまして、香がいつもお世話になってます」

「?はい?」

なんだこのお母さん的な挨拶は。でもお母さんにしちゃあ若すぎる。

「私、香の姉です」

「お姉さん?」

ありゃりゃこりゃベッピンさんだなぁ。香がゴツイから家族みんなゴツイのかなぁなんて思ってたけど、姉弟とはいえこんなにも違うのか?

(お前も直秀とは似てない。雲泥の差)

てめっ、俺と直秀は似てるわ!と、思い込んでるわ!
泣き出しそうな俺を横目に、姉弟なんだぁと呟いたあかねは香が重そうな荷物を持っているのを発見した。

「工藤は買い物?」

「あぁいや、荷物持ち」

すげぇよ香!キミは手先が器用プラス力持ちなんだね!ってか絶対に柔道部とか格闘系の部活やってそうなのに手芸部とは。

「それじゃまた学校で」

「お、おぉ」

笑顔で俺達を背に歩き出した香を見て思った。きっとアイツはシスコンだ、ってか俺だってあんなにキレーな姉ちゃんがいたらシスコンにもなるって。香が羨ましい。

「太郎、どうかした?」

「香って、幸せ者だよねぇ」

「は?」

キミは男のロマンがわかってないねぇ。キレーな姉ちゃんってのは憧れの的だよ。そうか、香のヤツは「俺の姉ちゃんベッピンさん」って言いたいが為に俺達に声を掛けたのか?…いいなぁ。
と、横をふと見るとあかねがよくわからない顔で俺を見ている。そういやあかねにも弟と妹がいたな。

……あかね、あかね姉ちゃん。

「あか姉ちゃん」

「あんた何が言いたいのさ?」

俺もよくわからん。ただ省略してみたかっただけです。だから変な生き物を見るような目で見ないでくれ。

「何でもないわよ!行くわよあかね!」

「何で突然オネェ言葉になんの?」

「気持ちだけでもお姉さん」

「だから意味がわかんないって」

いいから気にせず行くよ!と俺はスポーツバッグを抱えて歩き出した。出来ることならこのまま誰にも出会うことなくあかねを家まで送りたい。
同じクラスのヤツらに会ったら「デートか?」とか冷やかされて、調子に乗った俺が「デートの真っ最中だから話しかけんな!」とか言ってキレたあかねに殴られそう。
俺は言いたいことを言ってしまう悪い癖があるんです。

「明日も日曜で休みなのに朝練あんの?」

「あるよ。太郎も見に来る?」

俺が行って何の得があるのよ。やることないからってあかねの勇姿をジッと見てたら「見過ぎ!」って怒鳴られること間違いナシでしょ。
俺もなんか部活とかやってりゃよかったかなぁ。そしたら今ごろ黄色い声援が…俺ってそういう風にしか物事を考えられないのか!最悪だよ俺は!

(やっと気付いたか)

消えろ悪魔!


悪魔と心の中でケンカを繰り広げていると、いつの間にやらあかね家に到着してしまった。彼女の父ちゃんは単身赴任中だから、津田家の父親はあかねになっている。

「わざわざ送ってくれてありがとね」

「あかねの為ならエンヤコラだって」

「だから…」
「はいはいすいません!もうそのようなことは言いません!」

やっべぇ、俺って12分前の事を忘れてるよ。おかしな事を言うなって言われたばっかだってのに、俺って成長しねぇな。

「じゃあね」

「あいよ」

スポーツバッグを渡してバイバイと手を振っていると、玄関のドアを開けたあかねが突然俺の方へ振り向いた。
なんだ?愛の告白とかする気…だからそれは違うって俺のバカ!

「どした?」

「萌の事、もっと大切にしてやんなきゃダメだよ」

「はいぃ?そんなことを言うなら俺を大切にしてぇ!って待てあかね!」

「またねー」

コラァ!と玄関に走るも時既に遅し。あかねにバッタリとドアを閉められ、しかもカギまで掛けられた。言い逃げかあかね!


トボトボと家路への道を歩いている途中、あか姉ちゃんの言葉を思い出した。
萌を大切にしろだってぇ?見ててわかるでしょ、俺は誠心誠意を尽くしてますよ?ってか萌が俺を大切にしろってんだよ。顔合わせても無愛想だし、何を言っても「あっそ」とか人の話を聞く素振りすらないし。バカ太郎とか言うし。

何なのよ一体。




















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