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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第38話 潤んだ瞳で木刀持て


萌におばさん所有の木刀を手渡された俺は現在、玄関に繋がるドアを開けようか迷っています。
ガタンって音がしてからというもの、その後は何も聞こえてこない。
もしかして泥棒は俺が来るのを待ってんのか?待ち伏せてゴン!とか?

「も、萌。お前はできるだけ向こうに行っててくんない?」

なんかあったら助けてやれるかわかんないし。でも俺の背中に張り付いて動かない萌は首をブルンブルンと横に振った。ってか勢いつけ過ぎだから。

「け、警察に電話した方がいいんじゃないの?」

うわずった声、というかビビリまくった声でそう言う萌の顔は意外にも泣きそうです。あなたにも怖いものがあるんだね、初めて知ったよ。

「ま、まだ泥棒って決まったわけじゃないんだから。ま、真さんかもしんないじゃん」

「で、でもお父さんなら居間に入って来てもいいじゃん」

「う、それは一理あるじゃん」

やっぱり泥棒と考えた方がいいのか?ってか俺もビビってるから語尾がおかしい。木刀を握る手にも力が入るわ!

「じ、じゃあひとまずこのドア開けてみるから萌は隠れててよ」

ここは男の俺がしっかりしないと。いくら萌が強いっていっても女性だし。

「し、死なないでよ」

「ヤなこと言ってくれるねぇ」

死ねって言ったり死ぬなって言ったり忙しいわ!でも今はそんな悠長な事を言ってる場合じゃない、マジで生死に関わるかもしんないんだから。


いつでも木刀を振り回せるよう準備を整え、取手に手を掛けた。心臓バクバクしすぎ!ちょっとは黙れ!…黙っちゃダメ!

「おらぁぁぁぁ!」

意を決してドアを勢いよく開けた俺は、目をつぶりながらいるかもわからない泥棒めがけて木刀を振り回す。おらおらぁ!

「あ、あれ?」

ぎゃあ!とか聞こえてこないんですけど。いないの?
恐る恐る目を開けると、やっぱり誰もいない。じゃあさっきの音はなんだ?ポルターガイスト現象だったの?

「も、萌ぇ!誰もいないよぉ!」

ちょっと恐くなった俺はまず大声を出してみた。この静けさが緊張感を増す!

「ってあれ?萌?」

居間にいるはずの萌から返事がこない。俺の大声に腰でも抜かしたか?

「萌ぇ?」

まったくの返答ゼロに疑問を持った俺がひょいとドアから顔を覗かせると、

「っぶねぇぇ!」

なんと萌が木刀を手に襲ってきた。ってかもう一本あったの?ってマジで危ない!死ぬなって言っておいてそれはないんじゃない?

「ちょ、待て待て!俺だって!」

なんとか危機一髪のところで攻撃を回避し、萌が持っている木刀を取り上げた。危ねぇ…おいおい、混乱して敵と味方の判別がつかないのか?

「あ、太郎…ど、泥棒は?」

「誰もいなかったんだよ、ってか聞こえてなかった?」

「な、なにが?」

あらら、あんなに大声出したってのに聞こえなかったのか?イッパイイッパイか?

「た、太郎」

「なにさ?」

まだ震えた声でそう言った萌は油断したスキを狙って俺から木刀を奪った、って構えるな!俺を視野に入れるな!

「あんた、今日は絶対に泊まれ」

「はいぃ?」

今のは怖いから一人にしないで!って瞳を潤ませて言うんじゃないの?あくまでも命令形?

「はいはいぃ、いますよぉん」

このまま「誰もいなかったんだし、じゃあ私帰るからぁ!」なんて言うほど俺は薄情じゃないよ。いつも一緒にいてわからない?僕は心優しき少年…。

「おわわぁ!」

またガタンっていったよ!思わず萌に抱きつこうとしちゃったじゃんか!それこそ怖いわ!

(やっぱり帰るって言ったらどうだい?お前は弱いんだからカッコつけてる場合じゃないだろ)

てめっ悪魔ぁ。久々の登場だから気合いがいつもとは違うね。ってか弱いって何よ。一応がんばってんだよ?それにオネエ言葉を連呼しても俺は男だ、やる時はやる!

「うわわわ!」

またまたガタンっていったよ!なんだよマジで!

「た、太郎…!」

「え?なに?……あっ」

あまりの恐さに思わず抱きついちゃってるよ。弱い男だ俺は!って早く逃げて!木刀に襲われる!

「あわわわ!ご、ごめん!体が勝手にぃ!」

「…」

恐さ最高潮に達している萌は俺を怒ることもできずに、ひたすら木刀を構えている。そ、そこまでビビらなくても。

「おっかしいねぇ、誰もいなかったんだけどな」

人はいなかったけど、音はしたんだよねぇ。仕方がない、ヤケクソでいくか?いつまでもビビってたら泥棒の思うツボかもしんないし、それに木刀2本あるし……関係ないし。

「お、俺行くわ」

木刀を握り締めている萌に、泥棒に聞こえないようにと耳打ちする。いつもの萌なら「近い!死ね!」とか言うけど今は決して言わない、ってか言う余裕がないと見た。

「え、行くってどこに?」

「どこって決まってんじゃんか、げん…」

玄関にって言おうとして言葉に詰まりました。
あれ、なんで目の前に高瀬がいる?いや、ちょっと表現がおかしいか。でもしょうがない、だって高瀬の得意技である腕を軽く引っ張りアンド潤んだ瞳を見せている萌がいたんだから。そりゃ間違うわな。ってなんで?

「ちょっ、なんで泣いてんのよ?」

「お、置いて行くな!」

「あぶっ!」

いつ置いて行くって言ったよ!一言だって言った記憶は…さっきは高瀬が泊まると思ってたから言ったの!
このっ思い切り木刀を振り下ろしやがってぇ。俺だったからよかったものの、一郎なら交わすこともできずに血ヘド吐くわ!

「置いて行くなら殴る!」

「ど、どこも行かないってぇ!」

ってもう殴ってんじゃんかよ!袖は引っ張るわ、ローキックは喰らわすわ、あんた威勢が良すぎ!

「ちょっと見てくるだけだっつーに!」

こんなに恐がりだったのかコイツは。日頃のうっぷんを晴らすなら弱ってる今しかなさそうだけど、それを実行したら後が怖い。

「ちょっ、見てくるだけ、見てくるだけだから!放してぇ!」

いつまでも腕を引っ張ってんじゃないよ!しかももう潤んだ目をしてない、睨んでる。

「わ、私も行く!」

「なんで?いいから待っててよ」

「絶対に逃げる」

「逃げないって!俺を信じろ!」

「…わ、わかった」

あかねだったら「ムリ!」って即答されてたな。それにしても萌のヤツ、ないことに素直だね、明日は暴風雨か?

「じゃちょっと行ってくるわ」

無言で頷く萌を背中にやっぱりビビっている俺は、恐る恐るもう一度玄関へ続くドアに手をかけた。

やっぱり誰もいないよ。……っておわわわわ!

「おわわわわわ!」

玄関の擦りガラスから誰か見てるよ!泥棒参上だよ!

「もももも、もぉぉぉ!」

萌って言葉が出てこないぃぃ!腰抜けてるよ俺!

「もぉえぇぇ!もぉぉぉえぇぇぁ!」

なんで来てくれないんだよ!また木刀構えて待ってんのか?幼馴染みに危機が迫ってんだよ!

ピンポーン

泥棒のクセにチャイム鳴らしたぁ!なんで?家に誰かいるか確かめる為か?突入する気マンマンか?

「い、いますよぉ!いるから帰ってぇ!」

ドアも開けずに腰を抜かしたままの俺は大声でそう叫ぶ。ダメだ、帰る素振りを見せてくれない!めっちゃ家の中を見ようと必死だよ!

ピンポーン

「だからいるからぁ!帰ってってばぁ!」

泣くよ泣いちゃうよ!萌は助けに来てくれないし、入って来られたら俺が戦うしかないぃ!

テロテロテロティン。

この場面でマヌケな着メロ、俺のだよ!ってか出られる状況じゃねぇ!

テロテロテロティン…テロテロテロティン…テロ……。

「うるっせぇぇ!いい加減に諦めて切れやぁ!」

携帯電話にツッコミを入れるという悲しい出来事をなんとか克服し、泥棒の挙動を気にしながらも電話を手に取った。

「あっ、いち、一郎?」

こんな時に緊張感ゼロの男と会話なんてしたくねぇ!でも出ないとこのマヌケな着メロが鳴り続ける。って電源とか切ればいいのか……出るよ!

「は、はい?」

『あっお前、早く出ろよな!切っちゃうとこだよ!』

「切れよ!今はお前とアホな会話してる場合じゃねぇんだよ!」

『なんだよそれ!おい、ちょっと早く開けてくれ』

「だから!……あれ、おい今なんて言った?」

俺の耳が正常ならば、早く開けてくれって聞こえたけど?

『早く開けてくれってんだよ、寒いんだから』

「お前どこにいんだよ!」

『秋月邸?』

「…ボケェェェ!」

お前かよ!散々引っ張っておいてこのオチか!面白くもなんともねぇよボケェ!

「何しに来たんだよ!帰れ!帰ってくれ!」

ドアは絶対に開けてやらないよ!萌(というか俺)をここまでビビらせやがって、寒空の下で1人寂しくハンヴァーガーの舞いでも踊ってろ!

『せっかく来てやったのにそりゃねぇだろ?高瀬に言われて来たんだよ。早く開けてくれって』

「何を言われたんだよ。俺を恐がらせろってか?」

『違うっての。ってか早く開けてって!寒いんだって!』

ちくしょう、一郎のせいで寿命が何年か縮んじゃったよ。コイツなんかにビビらされたなんて信じたくない。ってか会いたくねぇ。今アイツの顔見たら絶対に殴りかかりそう。

「た、太郎…?」

一郎とケンカしていると、ついさっきまで俺の言葉なんて聞こえてなかった萌が、ドアから顔を出して俺の名を呼んだ。
ってか出すなら体全部出して!顔だけしか見えなくて怖いから!

「だ、誰?」

ゆっくりと近付いて来た萌に、俺は携帯電話を持っている手とは反対の手でドアを指差した。

「?…っ!」

ドアに張り付いている一郎を見た萌さん、動きません。あっそうか、まだ一郎って言ってなかったんだったね。

『早く開けろって!寒い!』

「はいはいぃ」

電話越しに一郎がそう叫ぶ、るっせ!やっとこ腰にも力が入るし、開けてやるか。そして殴ってやろう。

どっこいせぇと立ち上がった俺は固まったままでいる萌の横をすり抜けると、玄関のドアを開けようと手を伸ばした。

「な、なんで開けようとしてんだ!」

息を吹き返した萌がドアノブに手をかけた俺の腕を掴んだ。って焦点合ってないよ!しかも両手で掴みかかってきた!

「えっ?なんでって…ちょっ、ちょちょちょおぉ!」

タックルしてくんなぁ!腕をヒネるなぁ!

「いだだだ!ちょっと!」

「お前は泥棒の味方か!」

「味方じゃないって!一郎なんだよアレ!」

「はぁ?」

「いだだっ。だから、あの気味悪いヤツは一郎なんだよ」

「野代?」

わかったらいい加減に手を放せ!マジ痛いから!

「な、なんで野代がいんの?」

「俺に聞かないでよぉ。ひ、ひとまず開けるよ?」

「…わかった、殴る」

殴るのは止めないけど、木刀で殴るのはやめてあげてね?

「はいはいっと…あれ?」

「…………あっ」

ドアを開けた俺は、思わず木刀を振り上げてしまった。

「だ、誰だてめぇぇぇ!!」

目の前に立っていたのは一郎のアホではありませんでした。いたのはサングラスを掛けてマスクを着用した男性、って一郎はいずこに?

「き、キェェェェ!」

「う、うわ!」

俺の耳をつんざく程の叫びが功を奏したか、男は驚いて尻持ちをついた。今だ、萌よ行けぇ!

「…」

さっきみたいに木刀を振り回せよ!なんで固まってんだよ!

「も、あっキェェェェ!」

やばい!泥棒が逃げる!ってか逃げてくれた方がいいのか?いや、今は何も考えずに振り回せぇ!

「キェェェェ!」

「なん、なんなんだぁ!」

白目を向いたままで俺が男に突っ込んでいくと、「うわあぁぁ」と情けない声を出して逃げてくれた。たす、助かった?

「はっひっはっふっ…」

叫び過ぎて息切れ起こしたよ。ってか萌、見てないで参戦してく…。

「た、太郎!」

「いでぇ!」

突然大声を出した萌が…ななななんと僕に抱きついてきたぁぁぁ!うん、いい匂いがする……ってそれどころじゃない!

「あわ、うわ、もわ」

もうしどろもどろですよ!慣れてないのよこういうの!

(彼女は怯えているわ。ここは抱き締め返してあげなさいな)

て、天使。やっぱそう思う?めちゃくちゃ恐がってるみたいだし、ここは安心させる為にも…。

(そして殴られるがいいさ!)

やっぱりそれかぃぃぃ!

「あっも、萌ぇ?」

「…」

な、泣いちゃってるよ。俺が泣かせたんじゃないよね?違うよね?

「も、もう大丈夫だよん?」

俺はゆっくりと泣いている萌の肩に手を伸ばし……。

「うわぁぁぁ!」

もう少しで手が届いたのになんだよ!と横を見ると、一郎のアホがいた。って登場すんの遅い!

「おまっ、お前ら、何してんだよ!」

何って、あっ見られた?テヘッ……って、はず、恥ずかしいぃぃ!

「う、うるせっ!あっち行け!」

説明してもコイツは静かに聞いてくれないよね。ここは木刀で脅して帰ってもらいましょうか。ってか萌!いい加減に手を放してください!

「裏切り者ぉぉぉ!俺を差し置いて、見せびらかしてんじゃねぇ!」

「誰が見せびらかすか!ってかお前もうどっか行け!帰って!」

「ああそうですか!俺は邪魔者ですか!」

なんでそんなに怒ってんだよお前。羨ましいのか?

「高瀬に呼ばれてわざわざ来てやったのに、お前らはこの寒空の下でぬくぬくですか!?もうジュースとか奢ってやらないからな!」

ジュースなんていらんわ!その前にうるっせぇんだよ!ご近所さんに迷惑だろがよ。

「ジュースなんていらねぇよ」

「あぁそうでござんすか!勝手にしろ!そして凍え死んでしま、ぐえぇ!」

「うるさい!」

いつの間にか俺から離れた萌が走り出し、一郎にジャンプキックを喰らわせた。木刀で襲いかからなくてよかった。危なく救急車を呼ぶところだよ。

「いででぇ……」

なんか可哀相になってきた。見てよあの顔、さっきの萌みたいに瞳を潤ませてこっちを見てるよ。かわいくないけど可哀相!

「一郎!ごめぇぇん!」

「触るなぁ!」

「ええぇぇ!?」

せっかく俺が助けてやろうとしたのに拒否された!お前は俺に助けてほしかったんじゃないの?だから目を潤ませたんでしょ?

「俺はこれから一匹狼として暮らす!太郎なんかの世話にはならん!」

宣言する必要があるのかそれは。しかも一匹狼って意味をよく理解してないんだろねコイツは。

「お望み通り帰ってやるさ!じゃあなお粗末太郎!」

「誰がお粗末だボケ!意味がわかんね……ちょっ最後まで話を…」

お粗末様ぁぁ!と一郎は走り去ってしまった。意味が、まったく意味がわからんよ一郎。

「け、警察に連絡する」

疲れ果てた萌がボソッと呟いた。「あいぃ」と答えた俺は、今日だけで体重が何キロか減った、ような気がしてなりません。







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