シャープペンシルを武器にする(31/96)縦書き表示RDF


シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第31話 いい匂いは睨みの前兆


教室に戻った俺を待っていたのは晃でした。窓際一番後ろの席に座っていた彼は、一郎におんぶしてもらったままでいる俺をジッと見つめている。今は疲れと悲しさで胸がイッパイなのよ、どうか放っておいて。

「一郎、太郎の奴どしたんだ?」

どいてくださいと晃を立たせた俺はそのまま机に突っ伏す。それを不思議そうな顔で見ている晃が一郎に質問した。

制服に着替えている時も、教室に戻ろうと歩いていた時も誰も何も言ってくれなかった。言ってくれたのは勇樹とあかねだけ。悲しすぎて声も出ねぇ。

「いや、ちょっと自分を見失ってんだ。気にしないでやってくれ」

「そ、そうか?よくわかんねぇけど」

「それよりどしたんだよ?人のクラスに勝手に入って来て」

聞いてくれるな一郎。こいつが来る理由なんてひとつしかないじゃないよ。ってどうしよう、ふぁ…の相手は高瀬に聞いたけど、言っていいのかどうか。

「一郎、お前ファーストキスの相手が誰だか聞けたのか?」

「あぁそのこと?聞いた、けど両手の指が骨折するほど叩かれて玉砕した」

「マジかよ!お前なにやってんだよ」

「あっお前、俺の指は心配しないのかよ!」

「するか!めちゃくちゃ動いてんじゃねぇか!」

「あぁもううるせぇ!ケンカならどっかヨソでやれ!」

机をバンと力強く叩いた俺にビックリして停止した晃は、一郎に(何があった?)と目線で語りかける。俺がアイコンタクトの達人と知らないね?全てお見通しだよ!

「もうぉぉぉぉ!ボケボケボケぇぇ!」

ムシャクシャがてっぺんに登り詰め、一郎めがけてタックルをかます。でも彼は俺のことを受け止めてくれたんだけどね。でも許して!あなたに当たるしか方法はないの!

「いってぇ!俺はお前のことを抱き締めてやったのに!」

「うるさいうるさい!……いちろーーー!」

一郎の胸に思い切り飛びついた俺はワンワンと吠えた。ここで涙でも出ればいいんだけど、そこまで俺は演技派じゃないからね。

「わかったわかった。お前はよくやったよ」

よしよしと頭を撫でてくれる一郎君。ホントは女子に撫でてもらいたいんだけど、彼女のいない俺にはコイツしかいない。俺、お前と友達でよかったーー!…って待て!

「元はといえばお前がリレーを放棄したからこんなことになったんじゃねぇか!」

「俺のせいじゃねぇよ!がんすけだよ!」

「いいわけすんなぁ!」

萌が入って来たのにも気付かずに、このやろ!と俺達はほっぺたをつねり合った。俺がこんな気持ちになってんのはお前のせいだ!真っ赤になっても続けてやる!

「うるっさい!」

「ぐわぁ!」

いつの間にか俺達の背後に回り込んだ萌が、無防備丸出しの俺の頭を思い切り殴った。火花が散ったわ!

「萌!何すんだよ!」

「うるさいんだよ!」

「うるさいって、がんばった俺に言う言葉かよ!」

もう我慢の限界だぁ!と俺は自分の席に座った萌に突っかかった。もうこうなったら晃にお前のふぁ…の相手をぶちまけてやるか?ヤケクソじゃ!

立てぇ!と萌のイスに手を掛けようとした俺は、前にいた一郎の足に引っかかって倒れそうになり思わず萌の腕を掴んでしまった。やべっ絶対に殴られる!腐るとか言われちゃう!でも、転びたくない!

「おわわぁ!」

「ちょ…!」

萌の腕を掴んだまま倒れ込んだ俺は…やっちゃったぁ!
イスに座っていた萌を引っ張り、二人仲良く地面に倒れた。しかも、俺の上に倒れた萌をちゃっかり抱き締めてしまっている。マジでやばい!

「ごごごご、ごめんなさぁい!」

素早く萌から離れた俺は即座に土下座を開始。許してくれるはずはないのはわかってるけど、ここで「お前って、なんかいい匂いするね」とか冗談を言ってる場合じゃない!殺される!

「…」

真っ赤な顔で無言のまま立ち上がった萌は、スカートのホコリをほろうと土下座をしたままの俺を見下ろす。うっわ、目がイッてる……こんな萌と視線を合わせたら瞬間に俺の意識が飛ばされるから見ちゃダメ!

「悪気はなかったんです!ホントですぅ!」

額を地面に何度も強くぶつける俺、を冷ややかな目線で見ている高瀬。お前いつの間に戻って来たんだ?ってか見てないで助けて!一条はやる気でやったんじゃないって言ってちょうだい!
しかし高瀬にそんなことを言ってくれそうな様子はなく、隣りにいたあかねと視線を合わせる。ってあかねも何も言ってくれないの?見捨てたの?

「…す」

「え?」

ポツリと言った萌に視線を戻すけど、何を言われたかわからない。なんて言った?コロスって言ったのかまさか。
土下座をしている俺に一歩、また一歩と近付いてくる萌を見てヤバイと感じたのか、あかねが彼女の前に立ちはだかってくれた。できるならもっと早くお願い!

「も、萌!太郎も悪気はなかったって言ってるんだから…いや、ごめん。何でもないデス」

おいやぁぁ!がんばってよあかね!

(ギブ)

アイコンタクトでギブアップしないでぇ!萌にデコピンでも喰らわせて気を逸らして!その間に逃げさせていただくから!

(ギブ)

あのあかねがここまでギブを連呼するとは、もはや誰の手にも負えないのか。いや、一人いる。勇樹ぃぃ!どこにいる?
俺は涙目で勇樹を探す、もどこにも見当たらない。さっきの岩ぁんのバトン攻撃が効いて保健室へ行ったのか?お前がいないと俺も保健室へ直行することになるよぉ!ってマジで俺って人に頼りすぎだよ!

「ゆる、許してぇ…!」

自分でなんとかしようと思ったけどムリだ、萌の目を見たら呪われそうになった。血の気が引いていくのがわかった俺はなんとか静まってもらおうと考える……得策なし!

「コロス!」

「やっぱりいぃぃ?!」

「も、萌!」

手を振りかざして俺を殴りつけようとした萌を止めてくれたのは、なんと高瀬さんでした。ありがとう!あなたは何もしてくれないと勝手に決めつけてたよ!あなたの勇気に感謝感激!

「ちょ、ちょっと待って!」

「なに!」

まだ手を振り上げたままの萌は、高瀬のことを睨んだ。それに少し怯んだ高瀬が後ずさりする。お前が後ずさりするなんて、よっぽどなのか!

「恥ずかしいのはわかるけど恋人同士なんだし!」

「はいぃぃ?!お、おま…何を?」

言葉がうまく続かない!思いもよらない高瀬の言葉に俺は口をパクパクと動かすしかできない。すると一郎が足の甲をさすりながら近付いてきた。なんでさすってんの?あっ俺がさっき踏んだからか。

「ちょっと高瀬ちゃん、それは違うって。こいつは山下と付き合ってんだからそれはないよ」

「ぼ、ボケェ!お前まで何言ってんだよ!ってかお前が口を挟むとロクなことがありゃしねぇ!」

その言葉に一郎は照れてんじゃねぇと俺を睨む。って何で俺が睨まれなきゃいけないんだよ!っつか照れてる場合じゃねぇし!

「変なこと言うんじゃないよ!このバカ一郎!」

土下座したままで一郎の足を殴りつける。俺は別に気にしないけど八重子に悪いでしょうが!

「イデッ!本当のこと言われたからってキレんじゃねぇよ!」

「何が本当のことだ!ウソ言ってんじゃないわよ!こう見えて私は一郎さん一筋なんだから!」

頭が混乱し過ぎておかしな事を口走っちゃってるよ!何が悲しくてコイツ一筋にならなきゃいけないんだ!

「き、気持ちの悪い事言うんじゃないわよ!俺は…私だって太郎さん一筋なんだからぁ!」

土下座をしている俺に抱きついてくる一郎を優しく抱擁する……コントにしても気持ち悪い!

「…」

俺達のコントを見ても真っ赤な顔のままでいた萌だったが、呆れたのか上げていた手を下ろしてくれた。よ、よかったぁ、これで普通に帰れる、よね?
一息ついた俺はどっこらせと立ち上がろうとして片膝をつく。と同時に反省の色がない一郎がとんでもないことを言いやがった。

「あれ、お前って山下と付き合ってるクセに秋月も狙ってんのか?そして俺までも!」

「怖いこと言うな!誰も狙ってねぇよ!」

お前がおかしな事言うから萌だけじゃなくて他の女子にも白い目で見られてんだろが!俺はどんだけプレイボーイ?…自分で言ってて恥ずかしいわ。

「だって太郎、さっき山下と親密そうに話してたじゃんよ!ね〜秋月さぁん!」

パタパタと走り寄ってきた一郎に、有無を言わせず萌が蹴りを食らわす。怒りは鎮火してはいないようです。倒れた一郎が俺に潤んだ瞳を見せるが、いらんことを言う奴を助ける余裕などないわ!

「私は一条なんかと付き合ってないよ!ターナーの耳に入ったらどうするのさ!」

倒れた一郎にトドメの一発を繰り出そうとしていた萌の動きがピタリと止まった。ってか今言ったの、八重子ちゃんか?俺なんかって、微妙に突き刺さる一言を言ってくれるな。

やめてよ!と萌に足蹴にされている一郎に詰め寄った八重子はそばにいた俺の事も睨んでくる。いや、俺は被害者なんですけども。

「そ、そーだよ!八重と太郎が付き合ってるわけないって!だって太郎には萌が…」
「あぁかぁねぇ!」

さっきまでアイコンタクトしか使ってなかったのに何で今になってそんなこと言うの!もうこれ以上は萌の気に触る発言を控えてぇ!なんで俺と萌が付き合わなきゃいけないんだ!見ててわかるでしょ、俺ははっきり言ってコイツの付き人みたいなもんよ?悪くいえば下僕。ってか晃の前でそんなん言わないで!

「あっおっまっ…」

ほら見てみなさい!あまりのショックに瞬きすら忘れてこっちを見てるよ!

「あ、晃ぁ!気をしっかり持て!あかねはウソ言ってんだ!ウソあかねなんだよ!」

「ウソあかねって言うな!」

晃の肩に手を置いた俺はブンブンと体を揺する、とウソあかねのかかと落としが俺の左肩を襲った…肩外れるわ!

「痛いぃ!あんたスカート着用してんだからせめてローキックにしなさいよ!丸見えよ!」

「う、裏切り者ぉぉぉ!」

「何が!?」

かかと落としを食らった俺に一郎が悔し涙を流しながらそう叫んだ。俺、お前の何を裏切った?ってかお前ももうしゃべるな!

「あかねにまで手を出そうだなんて!お前ってヤツは!」

「それは違う!俺は見たくて見たわけじゃないよ、不可抗力だって!ってか見えてないから!」

「…見たくて見たわけじゃないぃ?」

え、なんかマズイこと言ったか?なんでそんな目が据わってんだよ!力がある分萌よか怖い!
あかねの前でオロオロしているしかない俺は、一郎に視線を移すもケッと外された。さっきのお返しかい!

「えあ…あの、あかね、さん?」

「あたしだってねぇ……あんたなんかに見せたくないわぁ!」

「ギブギブ!許して!待って止まって!ぐおっ!」

俺の腹に連打で正拳突きを浴びせてくるあかねは、もう誰の言葉も耳に入らないくらいにキレている。さ、さすが空手部…萌の正拳突きとは比べ物にならねぇよ。

「ぐっ…」

お腹を押さえた俺はガクッと両膝をつく。息できね……。

「あっご、ごめん太郎!ちょっとやり過ぎた!」

ちょっとじゃないわ!やり過ぎもいいとこだよ!でも、よくわからんけどあかねをここまで怒らせたのは俺だから強いことは言えない。
おーけぇよ…とOKじゃない確率100パーであかねに笑顔を向ける。いいの、いつものあかねさんに戻ってくれただけで私は嬉しいのよ。

「…太郎」

「あっ、はいぃ?」

立ち上がれないでいる俺は、まだ顔がほのかに赤い萌に顔を向けた。でも名前を呼んだはいいけど何も言ってくれない、俺と会話すらしたくないってか?

「え、萌さん?」

「…何でもない!」

えぇぇぇ!?じゃあなんで名前を呼んだのよ?待ってた俺はどうすりゃいいのさ、しかもまた怒鳴られたし。

バカ太郎!と言い残した萌は軽く俺を蹴ると教室を出ようと歩き出した。軽くねぇ、強烈な一撃だ。

「あっ萌ちゃん待って!」

出て行こうとする萌の後について晃も追いかけて行く。そして残されたのは土下座した俺と萌に蹴られて痛がる一郎。

「ちゃんと謝るんだよ?」

額の汗を拭っていた俺にあかねが小さな声で呟いた。謝るったって、一応謝ったんだけども…あれじゃダメだったの?

「みんな勘違いしまくりなんだよ…」

一郎も高瀬もあかねだって、このクラスは勘違い野郎の集まりだ!でも八重子には悪い事した(一郎が)。萌が帰って来る前にもっかい謝っとくか。

「あっ八重子」

自分の席に戻ろうとした八重子の背中に声を掛けた、けど振り向いてくれない。やっぱ怒ってるよね、一郎!お前も痛がってないで謝れ!

「野代!変なこと言いふらさないでよ!」

振り向かないままで八重子は一郎に怒鳴った。でも声をかけた俺には無視。

「へぇへぇ。ターナーに何か言われたら太郎は萌一筋だって言っとくよ〜」

それはやめて!一郎だけじゃなくて俺が萌に殴られるから!ってかターナーが何を言ってくるってんだよ、ターナーは庭田先生一筋なんだから。
そう思っていた俺の頭の中を見透かしたのか、八重子がチラッと俺を見た。ってかまた睨まれた。できるならさっきみたいに潤んだ瞳で見つめてもらった方が…。







ネット小説ランキング>現代コミカル部門>「シャープペンシルを武器にする」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
小説の匣





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう