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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第29話 ターナーからぼたもち


必死の雨乞いも虚しく今はジャージに着替えてグラウンドに集合しています。さぶい!春風が冷たいよ!
寒さをなんとか和らげようと隣りで身震いをしている一郎におぶさった、さっきの仕返しじゃい!

「重いわ!」

俺の重さに耐えかねた一郎は、「おりゃあ!」とさっき俺がやった背負い投げを繰り出した。さすが帰宅部、俺とは技のキレが違うね。って俺も帰宅部だっての。

「ぐえっ!ってぇ、お前いきなり投げんじゃねぇよ!」

「じゃあ抱きつくなよ!気持ち悪ぃんだから」

「お前だってさっき俺に抱きついて来たろうよ!何だよバカ一郎が!」

俺は「っんだよ!」と立ち上がり、ジャージについた砂をほろった。と、ポンと肩を叩かれる。振り向くと満面の笑みを浮かべた高瀬が立っていた。ってなんでそんなに笑顔?

「さっきはゴメンネ」

「え、何が?」

謝られた意味がわからない。何かされたっけ?ってかなんでそんな笑ってんの。
それより杉…また忘れたけどアイツと何を話してたんだろ?笑顔なとこを見ると、スッキリしたのかな?ここは聞かない方がいいよね、さっき気を使い過ぎだって言われたし。

「萌の相手、教えてなかったよね」

「あっそうだ!ってウソじゃなかったの?」

「なんで私がウソつかなきゃいけないのさ?」

バカじゃないのぉ?と笑顔で俺の背中を軽く叩いた高瀬は、萌をチラリと見ると急に小声になった。

「佐野みたい」

「は?」

佐野みたい?それとも佐野を見たい?どっち……。

「マジでぇぇぇ!」

「ちょ、声が大きいって!」

「あっ」

口を手で覆うけどもう時既に遅し。クラスメートの「このクソ寒いのにうるっせぇ!」という視線が僕を凍らせました。ってかみんなしてヒドイ。

「うるせぇしサムいよお前」

なによ!と振り向くと、岩ぁんが寒いのを紛らわそうとしてかシャドーボクシングをしながら俺を睨んでいた。軽いフットワークが勉強になりそうだ、ってサムいってないじゃん。

「あら、岩ぁん!俺と話がしたいの?」

「だからそのアダ名やめろって言ってんだろが!」

シャドーボクシングをしたまま俺から離れていく岩ぁん。まだ庭田先生事件を根に持ってんのかしらね。
というか、勇樹ですか。あっそういえば学級委員長とか決めてたとき勇樹と萌の奴、なんか親しげに微笑み合ってたよねぇ。

しかし、これを晃には言っていいもんかね、絶対に勇樹はアイツの餌食になりそうだ。よし、これは俺の心の中にしまった方が…ムリか?

「太郎!」

「はいぃ!」

じゃあねと俺から去っていく高瀬の背中を見ながらしゃがみ込んで丸まっていると、やけに低い声が聞こえた。この地鳴りのような声は萌だね。

「何用ですか?」

声がした方へ視線をずらすと、萌も寒いらしくその場で足踏みをしながら俺を見ていた。

「先生がバトン持って来いって」

「え、なんで俺?」

「あんた体育委員でしょう」

あんたもね!
くそっ、男なら「お前も体育委員なんだから2人で行くぞ!」くらい言わないといけないのに出てこない!

「早く」

「はぁい…」

何も言えない俺の意気地無し!
萌に(ついてきてぇ)という目を見せるもあっけなくシカトされ、一人寂しくグラウンドの隅にあるボロい用具室に入りバトンを探し始めた。
ってかホコリっぽいよ、俺ってこう見えてアレルギー性鼻炎&結膜炎なんですが。

「ったく、どこにあんだよ…ぶぇっくしょん!」

鼻を垂らしつつブツブツ言いながら探していると、入口の方からガタンと音が聞こえた。な、なに?振り向いた方がいい?いや、ここは知らんぷりだ!

「え〜と、バトンバトン…」

「あの、一条君?」

「おわっ!」

肩を触られた瞬間、背筋が凍った。違う意味で寒いわ!
混乱した俺は「うわわ!」と用具室の隅に逃げようと走り出す。けどあれ、ちょっと待って。今の声、幽霊にしちゃあ随分かわいいなぁ。

「あっ勇樹?」

立っていたのは学級委員長の勇樹君でした。

「バトン見つかった?」

半分腰が抜けていた俺は勇樹に手を借り起き上がると、わざとらしく辺りを見回した。

「いや、ないのよそれが」

学級委員長だから手伝いに来てくれたらしい。嬉しいね、俺が女子なら絶対に惚れてるからね!

「汚ねぇし、見つからないかも」

「うん、そうだね」

そんな事を話しつつ、勇樹はそこらを漁り始めた。つられて俺も再チャレンジ。
しかしいくら探しても見つかる気配はなく、飽きてしまった俺は勇樹の後ろ姿を眺めていた。と、高瀬の言葉を思い出す。う〜ん、聞いていいもんかどうか……悩んだ末、少し探りを入れてみることにした。やっぱ直接は聞けないよ、俺って純情少年なのよ。

「ねぇ、勇樹って付き合ってる人とかいる?」

「えぇ?!」

想定外の質問に驚いた優樹は、地面に転がっていた野球ボールを踏んでしまい尻もちをついてしまった。って慌て過ぎだよ!さっきの俺よかひどいコケ方したよ。

「ちょっ大丈夫か?」

「ごっごめん」

俺は勇樹にさっきのお礼とばかりに手を差し延べひょいと引っ張る。ってか軽い、高校男子の平均体重を下回ってるよこれは。

「いや、まさかそんなに驚くとは思ってなかった」

「あ、いや。…別に誰とも付き合ってないよ?」

「あ?あ、あぁ」

そう言った勇樹は目を右往左往させる。正直者ってツライよね。ってかキミは萌のふぁ…の相手なんだよね。付き合ってないの?もう別れちゃったとか?
なんて聞けるハズもなく、それから少し微妙な雰囲気の中で俺達は無言を貫いたままバトン探しを再開した。

でも結局探し物は見つからず、勇樹が先生に言ってくると用具室を後にした。そして俺は彼の後に続いて外へと出る。うわ、太陽が眩しい…ってちょっと曇ってきてる!

「一条!早く来い!」

「え?でもバトンまだ見つかってないんですけど!」

「バトンなんざもう持って来てるよ!」

そう遠くから腹の立たせる一言を言ってくれたのは体育教師の棚倉たなくら 和也先生。アダ名はもちろん「ターナー」。ぼたもちって意見もあったみたいだけど、女子からものすごい反感を買い、こっちになった。

体育の先生だけあっていい体つきをしてます。しかも若くてちょっとだけカッコいいせいで女子に人気がある。
だけどここだけの話、庭田先生を狙ってるらしい。という事を全校生徒が知っている。知らないのは庭田先生本人だけ。

トボトボとできる限り時間を稼ぎながら歩く俺は、萌と目が合った。なんか気がついたらアイツと目が合ってんだよな。と、ボーッと萌を見ていると、プイと視線を外された。あれ、俺は見ちゃいけないのかよ。

「おし!まずは背の順に並んで2列になれ!」

寒いのにカンベンしてよと、口々に文句を言うクラスメート達。しかしターナーには聞こえていない。

「はじめは体操だ!ほら間隔空けろ!あと体育委員!前に出て先導しろ!」

「えぇぇ!」

「早くしろ一条!」

なんで俺?と萌の方に顔を向けると、睨まれた。いいよわかったよ!
ぺこぺこと頭を下げ、前へ移動した俺に「お前がお手本になるんだからしっかりやれよ!」と念を押される。ターナーがやればいいんじゃんかよぉ。

「え〜っと、まずは手首の運動からいきま〜す。いっちにっさんっし……はい次は〜……手首の運動〜」

「どんだけ手首を集中的にやんだよ!」

一郎のナイスなツッコミが場を和ませる、わけもなく「真面目にやれ!」とターナーに怒鳴られた。ってかやったことないんだから仕方ないじゃない!次は何をすればいいか腕組んでないで教えてよ!

5分後、なんとか体操をクリアし「はいお疲れ!早く列に戻れ!」とターナーに背中を叩かれた。そして疲れ果てた俺は重い足取りで列に戻る。授業する前からこれじゃ先が思いやられるわ。

「よし、じゃあリレーするぞ!」

「えぇぇぇ!?」

「マジかよ!?」

「寒いから!」

「サイアクぅ!」

言いたいことを次々言うみんな。それと最後のサイアクぅは俺が言いました、もちろん女子のフリして。

「今日は天気もいいから走るには最高だろ!ちょうど2列になってるからチーム割りはこれでいこう。あとは話し合って走る順番を決めろ」

「背の順でいいんじゃないんですか?」

話し合うことすら寒くてやってられない、というみんなの視線を浴び、俺がターナーにそう提案した。けど、効果はなし。

「それじゃ一番身長の低い奴と高い奴が不公平になるだろう!」

それを言うならさっき俺、一人で前に出てやったんですけど。

「あっ先生、こっち一人足りないんですけど」

そう手を上げて叫んだのはあかね。あぁあかねと離れちゃったんだ。あの子足速いから同じ列だったら楽できたんだけどな。

「おっそうか。じゃあ俺が走る!」

気合い入ってるねターナー、さては女子にいいとこ見せようとか考えてるな?
しかしまぁ負けたからって罰ゲームがあるわけでもなし、適当に頑張ればいっかなんて思っていると、

「あっ言い忘れてたけど、負けた方は罰として用具室の掃除してもらうから」

「「「えぇぇ!?」」」

「うるさい!お前らはこうでもしないと真剣にやらないだろ!」

やってらんねぇ!とブーブー言っていると、誰かに背中を殴られた。本気殴りだね、マジで痛い。

「一条!絶対勝つぞ!」

「へ?」

「ターナーに負けてたまるか!」

気合い充分でシャドーボクシングを始めたのは岩ぁん。なんでそんな闘志を燃やしてんのって聞こうとしてやめた。そういえばコイツって庭田先生の親衛隊だったね、そりゃあターナーには負けられないよね。でも勝ったからって庭田先生とお近づきになれるとは限らないよ。

「あっあと男子と女子で交互に走るから、最初は男子からな!」

ターナーが最後にそう付け加えると、あかねのチームへ走って行った。

「じゃあアンカーは太郎」

ターナーが向こうのチームに合流したのを見計らった萌が、心のまったくこもっていない声で勝手に決めた。

「じゃあって何さ!俺が体育委員なんだからワタクシの独断と偏見で決めさせてよ!」

「私も体育委員だけど?」

「…はい、どうぞぉ」

何度も言わせてもらうけど、それなら一緒に前に出て体操してくれよな!

「って俺、足そんな速くないよ?」

「抜かされたら殴る」

「気合い入れてがんばります!」

「それで、岩村はサッカー部だからトップバッターで」

「きたきたぁ!俺に任せろぉ!」

シャドーボクシングにも熱が入る岩ぁんは「おりゃぁ!」となぜか俺の顔をめがけて拳を寸止めしてくる。ってかてっきりボクシング部かと思ったよ。
それから萌の独断と偏見によって走る順番が次々に決められていった。

「萌は何番目に走んのさ?」

いつまで経っても自分の名前を言わない萌に、俺は同じチームになった勇樹の背中におぶさってそう呟いた。あたかも勇樹が言ったように仕向けました。

「私は監督だから走らない」

「それはダメぇ!一人減るじゃんか」

「あんたが2回走ればいいだろ」

「あ、秋月さん。走ろうよ」

あまりにも理不尽な態度にそれは…、と勇樹が意義を唱えてくれた。

「…わかった」

なんだよ、俺の意見にはブータレて勇樹が言うと素直になんのかよぉ。
結局みんなの一致団結により、萌は俺の前に走ることになった。…そして俺は睨まれた。




「おし!全員順番は決まったな!それじゃ5分したらやるから各自準備しとけ!」

既にウォーミングアップをしているターナーはそう言うと「ちょっと一周してくる!」とグラウンドを回り始めた。けど誰もついていくヤツはいない。あなただけ気合いが入ってるね。
クネクネと手首を回していると、敵の大将であるあかねが近付いてくる。なんだ?敵状視察か?

「ねぇ、アンカー誰?こっちはターナーなんだけど」

「え、マジ?ズル〜イ」

「俺がアンカーしないで誰がやるんだ!ってきかないんだよ」

「子どもか!」

「そっちは誰さ?」

「…俺です」

「マジで?がんばってよ!」

あれ、なんでこっちを応援してんだよ。大将がそんなんでいいのかい。

「あかねぇ、あなたなんかあったの?」

「こっちの順番、ターナーが勝手に全部決めちゃったんだよ。あたしはターナーの前だし」

「マジか?じゃあ萌と対決だね」

「萌なの?」

「うん」

「あの子ああ見えて足速いからねぇ…って恭子に聞いた?」

そう言ったあかねは、チラリと勇樹と何やら楽しげに話をしている萌を見た。あのさ、そんなあからさまな態度じゃまた萌に気付かれるよ?

「聞いたぁ〜。聞いて驚けぇ!…勇樹なんだって」

「マジ!?」

「ちょっ、声大きいからぁぁ!」

それじゃさっきの俺とまったく同じぃ!やっべぇ!と2人でそっと萌の方へ視線を移すと……よかった、勇樹との話に夢中で気がついてないよ。

「よぉし走るぞ!準備しろ!」

ってかまだ5分も経ってないから!











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