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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第20話 寄り道にはハンバーガー


午後は嬉しいことに晃君がA組に来ることは一度もありませんでした。お陰で今は平穏無事に放課後をむかえています。
アイツはバスケ部だから下校時に出くわす事もないし、ちゃっちゃと家に帰りますか!

「萌ぇ、帰るよぉ」

いつものように一緒に帰るべく隣りにいる萌に声を掛けた。あっ晃って俺達が一緒に帰ってんの知ってんだよな、でもそれについてアイツは何も言ってこない…やっぱアイツってちょっと変だよね。一緒に帰るなんてぇ!って言われた事もないよ、中学から萌と一緒に帰ってんの知ってんのに。

あれこれ考えていた俺はふと見ると、萌はまだ立ち上がらず何か悩んでいるのか下を向いたまま動かないでいた。
すいません、早く帰りたいんですが。

「どうかしたの?帰らないのぉ?」

「…帰る」

え、何で不機嫌なの?俺なんかしたっけなぁ。ドアだって授業が始まる前に直したし、できるだけ萌に話しかけないようにもしたつもり、だし。

「何してんの、帰るよ」

気がつくと萌はすでに教室のドアの前に立っていた、歩くの速いよあなた。

「待ってぇん」

そう言った俺の言葉も聞かず歩き始めた萌、やはり不機嫌ですね。でも敢えて理由は聞かないわ。

「…太郎」

階段を全て下り終えた時、萌が低く小さい声で俺を呼んだ。聞き取れなかったけど太郎の前に金か桃をつけたよね。
ここは聞こえなかったふりした方が賢明かな?でもそしたら無視してると思われて蹴られるかしら。

(無視はよくねぇ、わよ。ちゃんと返事をするべきだ、わよ)

女か男かはっきりしろよ!お前悪魔だろ?なんかわざとそういう言い方してないかい?

(やめておいた方がいいわ、彼女は今とってもご機嫌ナナメよ。何か言ったら次の瞬間、あなたの顔は勇樹のように腫れることになるわ)

あら、天使さんあんたマトモな事言うね。少し前まで二人とも逆のこと言ってたのに、偉い偉い。
さて、どっちの意見に賛成しようかしらね、なんてゆっくり考えていると、

「無視すんな!」

殴られた。しかも振り向いた勢いに任せた鞄で。

「ったいわぁ!何すんのぉ!?」

鞄が目に入った!充血しちゃう。
右目を押さえた俺に構うことなく萌は歩みを止めない。ごめんとまでは言わない、せめて悪ぃくらい言ってちょうだい。

「ってか話しかけてきたのに何も言わないのかよぉ!」

「あんたが無視したからでしょうが」

だからって有無も言わさず鞄で殴るかフツー。しかも無視したわけじゃないよ、考えてただけです。

「何よ?言ってちょうだい」

俺の言葉を無視したまま萌はそれから無言を貫き、気がつくと俺達は下駄箱に来ていた。
あぁ、今日も暗い気持ちで帰路に着かなくちゃいけないのかなぁ、ツライわ。靴を履き替える手にも力が入らん。

「萌!」

外靴を履き、さぁ帰ろうという時にお声が掛かりました。
この甲高い声は高瀬だね、なんかイヤな予感がすんだけど。

「今日ナンパされに行くって言ったじゃん!なに帰ろうとしてんのさぁ。それに一条、あんた聞いてたんでしょ?」

聞いていたさ、ただ本気にしてなかっただけです。ってマジですか? ホントに俺を置いて行く気?

「ほら行くよ!」

「ま、マジ?!」

そりゃ萌も思わずそう言っちゃうよ、ってあなたも本気にしてなかったのね。

「マジもマジだよ。行くよ!」

高瀬は萌の返事も聞かずに手を引っ張ると走って行ってしまった。そして俺は置いてけぼり…嬉しいなぁ。

さぁて、それじゃあゆっくりと帰りましょうかねぇ、とトボトボ歩いていると、目の前に親衛隊隊長の岩村くんが一人で帰っています。
さあどうする?一人は寂しいから声を掛けて一緒に帰る?

「岩ぁぁん!」

いわんとはコイツのあだ名、俺が命名しました。でも本人はイヤみたいで、その名を呼んでも振り向いてくれない。でもみんなガンちゃんって呼ぶんだよ?ありきたりじゃないのよ。

「岩ぁん、あんた人が呼んでるんだから立ち止まりなさいよねぇ」

岩んの隣りに走り寄るけど、彼はズンズンと突き進む。なんだよなんだよ、なんで無視するのよ。

「岩ぁん?」

「その気味悪い呼び名やめろや!なんで語尾がわぁんて伸びるんだよ!」

今さらかよ!ってか一年くらい前からこのアダ名で呼んでいるんですけどね。やっぱりあれか、さっきの庭田先生事件が尾を引いているんだね。

「じゃあ一緒に帰ろうよ」

「じゃあの意味がわかんねぇんだよ」

岩んは一緒に帰りたくないのか、早歩きが小走りに変わっていく。俺を置いて行かないでぇ!

「岩ぁん!」

後に続いていると、小走りが全力疾走に変わる。俺って、そんなに嫌われているのかい。いいよ勝手に行っちゃえよ!
俺が歩くのをやめても岩んは全力疾走のまま校門を出て行った。…一人で帰るからいいよ。


寂しい背中を見せながら校門を出た俺は、今日は寄り道でもしようかと家とは反対方向に体を向ける。あっあの小さくてかわいい背中は、

「勇樹ぃぃ!」

お前は俺とは家が反対方向にあるんだね!今日の俺はキミの家までついて行く覚悟で行くよ!
俺は満面の笑みを見せ、彼の元へと走り寄る……まだ顔、腫れているね。

「ごめんな勇樹、俺のせいでケガさせて」

「だ、大丈夫だよ、僕が勝手にやったことだけら…から」

もうまともに話せるんだと思ったら語尾が惜しい!言い直さなくてもいいよ!
しかしそんなことを気にも留めずにアハハと笑ってくれる勇樹に感謝の意を表したい俺は、近くのハンバーガー屋に連れて行くことを決めた。もちろん勇樹の意見は却下です。ってか塾とか通ってないよね?俺と一緒に寄り道してくれるよな!

「勇樹、あそこでハンバーガー食おう!」

そういや、一郎のバカに弁当半分食われたから腹減ってたんだった。家に帰れば焼きそばくらいはあるかもしれないけど、今は中より洋な気分ですので、お付き合いをお願いします。

「ハンバーガー?いいよ、今日は塾もないし」

行ってんのぉ?あんた、大学に進学するつもりですね。俺もお前くらいに勉強熱心になってたら今ごろ萌とは別の高校に通っていたかもしんないねぇ。でもこの高校って俺の家から歩いて徒歩20分、それに惹かれてしまった。

「じゃあ行こう!行って友情を深めよう!」

勇樹の肩を掴んだ俺は元気良く歩き出した。ってこいつ、細い!腕とかちょっと力を入れようもんならポキッといきますよこれ。この体格であのあかねに勝負を挑んだのかキミは、マジで尊敬するよ。

「あれ、秋月さんは?」

俺の隣りにいるはずの姿が見えなかった勇樹はそう言うと辺りをキョロキョロと見回した。俺と萌が一緒に帰ってるの知ってんの?ってそりゃそうか、一年の頃から俺達一緒に帰ってるの見てるし知ってて当然だよね。でも今は萌ではなく俺を見てぇぇ!っておかしい俺!

「萌なら高瀬とナンパされに行った。そして男どもを殴りに行った」

「な、殴るの?」

冗談ですよ冗談。って95パーセントくらいは合ってると思うんだけどね。ナンパされてもあの子がそいつと付き合ったことなんて一度もありゃしませんよ。

ここで一つ昔話を聞いていただきたい。

高校一年生の頃の事です。腹を下した太郎は風邪の諸症状だと感づき、学校を早退しましたとさ。だから帰りはもちろん萌一人。太郎は自分の家でグーグー眠っていました。
するとどうしたことでしょう、突然携帯が鳴り響いたのです。誰だ?と見ると、『鬼娘』と表示されていました。萌だと確信した太郎は、このまま気がつかないフリをして寝ようと携帯電話をブン投げました。
そして2分後、またもや電話が鳴り始めました。太郎はお腹が痛くてそれどころじゃないんですが、と思いました。そしてまた無視しようと布団をかぶったその時です。

「明日、俺どうなるかなぁ」

イヤな考えが頭をよぎり、立ち上がった太郎は投げた携帯電話を拾うと萌に電話を掛けました。

『すぐに来い、ップーップー…』

場所も告げずに切れた電話に、あたふたするしか道はありません。するともう一度着信が鳴ったので急いで出ました。

『ハンバーガー、ップーップー…』

またもや場所を聞くことに失敗をしてしまいました。しかしそこで太郎は素晴らしい推理を披露することになるのです。

「ハンバーガー屋だ!」

はっきり言って推理でも何でもありませんでした。
太郎はパジャマの上からパーカーを羽織り、高校の近くにあるハンバーガー屋に自転車で向かいました。

約5分後、店の前に萌の姿を見つけた太郎は、彼女の腕を掴んでいる見知らぬ男性に声を掛けました。

「どいてどいてぇぇ!風邪の菌がうつるよぉ!」

驚いた男性は掴んでいた萌の腕を離しました、と同時に彼女に殴られました。太郎はそのまま自転車を降りることもなくその場を去りました。

ありがとうございました。



という訳なんですよ。アイツがナンパされて無事に(男が)帰ってきたことなんてありゃしません。でもそんなことを言おうもんなら勇樹は「後を追いかけた方がよくない?」っていうよね。だから言わない。俺達の大切な時間を邪魔されたくねぇ。
…大切な時間って、晃みたいなこと言っちゃたよ。

「萌達の事は気にしないで。さぁ行こう!すぐ行こう!」

「あ、うん」

微妙な微笑みを見せる勇樹の肩を掴んだまま、俺はハンバーガー屋へ歩き出した。あっそういや勇樹と2人でハンバーガーとか食いに行くの初めてじゃなかったっけ、なんか新鮮でいいねぇ。萌はハンバーガーあんまり好きじゃないみたいで、学校の帰りに食いに行ったことなんてない。初めてのおつかい気分です!

「そういやお前、マジで学級委員長やりたかった?もしや俺と一郎を助けてくれただけなのん?」

「え、違うよ。本当にやりたかったんらよ、だよ」

なんで語尾だけ失敗するんだ?しかもちゃんと言い直せてるし、もしや俺を笑わせてくれようとしてるのか?ってかその前にそんな腫れた顔でハンバーガーにかぶりつくことが可能なのか?もしやまたも俺を悲しませまいと…。

「ゆ、勇樹。お前、ハンバーガー好き?ってか食える?」

「好きだよ?あっそれに新発売のギョーザバーガー食べてみたかったんだ」

ぎ、ギョーザ…?聞いたことねえ。ギョーザなんて作ったら店中ニラの香りで一杯になるんじゃないの?おいしいのかそれは。ってまだ食べたことがないんだったね、俺は普通にハンバーガーを食べさせていただくよ。


店にたどり着いた俺は、勇樹には座っていてもらおうと席を探した。おっあの窓際なんていーんじゃない?俺って窓際が好きねぇ。

「勇樹、俺が買ってくるからそこに座っといて」

「わかった」

勇樹を優しい目で見守った俺は、適度に込んでいるカウンターへと近寄った。さて、勇樹はギョーザバーガーだし、俺は何にしようかしら?あっ何飲むか聞くの忘れてたよ…俺と同じウーロン茶でいっか。

「すいません、ギョーザバーガー…セット一つと、ハンバーガーセット一つ」

ここは誠意を見せるためにもセットを頼もう、そして勇樹にありがとうと伝えよう。
できあがるまで俺はカウンターの横に移動すると、狭い店内を見ていた。あーあ、どこもかしこもカップルカップルって。お前ら違うとこに行けよな!男2人で来た俺達が空しいだろうが!

「お待たせいたしました!」

元気のいい(そしてかわいい)店員さんに「ありがとう!」と伝え、俺は勇樹の待つ席へと急いだ。冷めてしまってはギョーザバーガーがおいしくなくなるわ!急いで!

「遅れてごめん!さぁお食べ!」

「え?セット?」

「そうよ!セット&セットよ!わたくしのオゴリ!お食べになって!」

なんでオゴリ?という顔を見せている勇樹。気付いてくれ、俺の感謝の気持ちに!そして冷めないうちに召し上がれぇ!
俺は財布を取り出しそうになった勇樹を制し、先に食べた方がこいつも食べやすいだろうとハンバーガーにがっついた。

「あ、ありがとう!」

まぁ、なんてかわいらしい笑顔でしょう。これじゃあ萌もつられて笑顔を見せるわね。ってか一郎にもなんか奢ってやった方がいいか、あいつもあかねに殴られてるし。あっオレンジジュース奢ったからいいか?
それにしてもやっぱりギョーザの匂いが店内に広がっているねぇ。俺もそれにしようかと思ったんだけど手が出なかった、普通のやつ頼んじゃったよ。

おいしいと食べる勇樹、うめぇと食べる俺。2人の時間はあっという間に過ぎてしまうもの。って俺、またもや気持ち悪い。

「ギョーザバーガーうまかった?」

「おいしかったよ!今度一条君も食べてみなよ」

「え…そ、そうねぇ。今度、食べてみるわ」

そうしなよ!と笑顔を見せてくれた勇樹はウーロン茶をグイと飲み干した。あらら俺達ったら1時間もここにいたの?会話が広がる広がる!

「あっもう帰らないと」

外が暗くなっていることに気がついた勇樹が腕時計に目を落とすとポツリと呟いた。自分のことしか話さない一郎とは違って勇樹の話は面白かったからもっと喋っていたかったけど、たしかお前は電車通学だったね。じゃあお開きにしましょうか、と俺は立ち上がった。

「あっ」

ゴミを捨てた俺はふと窓の外を見ると、萌と高瀬が店の前をスタスタと通って行ったのが見えてしまった。あれ、あの子達こんなとこで何してんだ?ナンパされに行ったんだよねたしか。

おかしいねぇと2人が去った方を見ていると男が2人、萌と高瀬の後を追うように歩いて行った。追われてる、にしちゃあアイツら歩いてるし。なんだ?何が起こった?























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