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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第2話 先生の真意がわからない


まだ学級委員長の戦いは終わっていない。しかも俺と一郎はまだ抱き合ったままだ。

「マジで怖い」

萌の冷たい言葉が俺に突き刺さる。が、いちいち気にしていたら体がもたない。
こいつのこの言動は今に始まったことじゃない。もう慣れ……でもやっぱり悲しい。

「それでは、どうしましょうか」

笑顔でそう話し始めた先生、僕達の事スルーしてますよね?抱き合おうが何をしてようが伊藤センセーは完全スルー。ちょっとは興味を持ってくださいませ。

「あの、僕、立候補、します…」

緊張しているのか、それともただ単に元気がないのか。窓際一番前の席に座る佐野 勇樹がおずおずと手を上げた。

た、たくましいぞ勇樹!去年から学級委員長をしているだけのことはある!あっ別に強制的にさせたわけじゃないよ?去年も自分から手を上げてたし。でも去年の副委員長は萌。
勇樹かわいそうだったよな、あれこれ指示されてさ。どっちが学級委員長?って思ってました。でも口には出せませんでした、はい。

「佐野君、本当にいいのですか?」

え、何でそんなこと言うんですか先生!先生は生徒のやる気を削いじゃダメですよ!反対意見を述べようと手を伸ばすと、前に座る坊主頭が立ち上がった。

「先生!僕は勇樹の勇気に拍手を送ります!」

きっと一郎のバカは気づいていない。ゆうきのゆうきって…。冗談で言ってないにしても、笑えない。
勇樹は一郎にありがとう、と微笑んだ。
気付け、気付くんだ勇樹!この男はただ学級委員長がやりたくないだけなんだよ!

「それでは委員長は佐野君にお願いしましょうか。いいですか?」

拍手が勇樹に向けられ、それに照れている。初々しいったらありゃしないよ。お前それでも高校2年生なのってくらいに幼い顔してるし。
しかしそんな勇樹の勇気に感謝しつつ、あとは副委員長だ。まぁ女子がやるんだし、適当こいていいか。
そんなことを考えていると、ニヤニヤした顔でまたも一郎が手を上げる。あんた、これ以上の恥を掻いてどうしたいの?

「去年の延長、ってことで秋月さん、どうすかぁ?」

「…殴るよ」

勢いに任せた一郎の提案は一言で退けられた。まぁそうだわな、たとえ萌がやろうと思っていても「はい」なんてあいつは絶対に言わない。今言ったら一郎に従ったことになるからだ。どんだけヒネくれてんだよこの女。しかも殴るって、女性が吐く言葉じゃないだろ。普通は「はたく」とかでしょう?
って男も使っちゃいけないか。

「先生?あたし、やってもいいですよ?」

そう言って手を上げたのは、萌の隣りに座る、津田つだ あかね。
俺と同じ中学だった、まぁ仲がいい女子の一人だ。そして自動的に萌とも知り合いになる。しかも2人は親友、だそうです。そういえばこいつ中学の頃は空手部の主将してたよな。

「あかねぇ!ナイスファイト!責任感の強い子って素敵よ!」

俺はヨッ!と拍手を送る。それに続いて他の生徒達も拍手を始めた。あかねはドーモドーモと頭をぺこぺこ下げる。髪も短いしサバサバしてて男っぽい奴だけど、黙っていれば可愛いのよねこの子。

「だからなんで女言葉使ってんのよ。怖いって言ってるでしょうが」

萌の非常に冷たい目線。でも負けないもんね!

「あらぁ萌さん、あなたもしかして〜、副委員長やろうとか思ってたわけぇ?」

「だからマジで怖いっての!黙れ!消えて!」

き、消えて……。

「ちょっと!消えてはないでしょうよ!仮にも人よ?わたし人なのよ?酷いわぁ!」

ヨヨヨと大袈裟に泣く真似を見せる。みんなは笑ってくれたけど、当の本人に笑みは全く見えない。これってちょっと、やばいですよね?

「すいません、調子に乗りました」

「じゃあ大人しくしてな」

「…はい」

あなた本当に女の子?聞きたいけれど聞いたら萌の握り締めた拳が俺を襲うだろう。だからここは黙って席につく、それが最善策なのよ。

「え〜と、津田さん?本当にいいんですか?」

だからぁ!なぜ先生はそうやって人のやる気を……。

「強制的になったのでは、学校生活だって楽しくなくなるでしょうから。本当にやりたいと思っていますか?」

せ、先生……あなたって人は。

「先生!俺、俺、先生のこと誤解してましたぁ!」

俺がそう叫ぼうとしたとき、一郎が俺が考えていたのと同じ言葉を叫び伊藤先生に抱きついた。本当に俺とあいつって、同じ脳みそ、いや、同じ遺伝子を持ってるんじゃないのか?と疑ってしまう。

「野代!」

先生の胸で泣いている一郎に対して、萌が声を荒げる。

「あんたのせいでとっと終わらないでしょうが!席に戻れ!」

「はいぃ!」

背筋を伸ばし全速力で自分の席に戻る一郎を眺めつつ、そんなアホさ加減に笑いを堪える。しかしそれを萌に見られていたのには気がつかなかった。

「なに笑ってんの」

「いえ、スミマセン」

俺にまで飛び火かよ!睨まないでいただけます?僕は子鹿ですよ?俺は涙をありったけ瞳に溜めつつ、怯えた表情をわざと見せた。

「あぁ?見てんな」

怖い、怖いよ萌さん。いいや、怖いを通り越して恐ろしいわ!こんな人と隣りの席だなんて。今度の席替えはいつだろうか、あぁでもこの窓際は最高なんだけどなぁ。

そんなこんなで学級委員長と副委員長はあっさりと決まってしまった。
勇樹とあかねが先生の代わりに他の役員を決めることになり、前に出た。

「それじゃあ、役員を決めたいと思います。希望がある人は手を上げてください」

勇樹が顔を真っ赤にさせながらそう告げた。勇樹君、そんなに緊張するならばなぜ学級委員長に立候補したの?まさか、萌が睨んだ、とか?俺はチラリと勇樹と萌を交互に見た。

萌は笑顔で勇樹を見ている。あれ?睨んでないよこの方。ってか笑顔を見せていますが?勇樹も勇樹でチラチラと萌を見ては照れ臭そうに笑ってやがるし。も、もしやこれは!?

「だから見るなって言ってんでしょうが!」

「えぇ!?すすすすいませぇん!」

いつの間に気付いたのか、萌が勇樹に見せていたそれとは全く違うとってもいい、恐ろしい顔を俺に向けて叫んだ。
な、何よこの差は?

それに伊藤センセー!ここは「秋月さん、女子がそんな言葉を使ってはいけませんよ」ってちょっとくらい叱咤してもよろしくないですか?
………なんで笑顔なの?こんなにも恐ろしい目に遭っているというのに、どうして笑顔を僕に向けていらっしゃるの?

「ちょっと、萌!続かないから!」

壇上に上がったあかねが呆れ顔でそう叫ぶ。悪ぃ、と一言言った後、もう一度俺をギロリと睨んできた。
わりぃって、それって男が言う言葉ですよ?

「それじゃあ…」

「はいはい!ちょっといいですかー!」

誰よりも大きく、そして甲高い声が教室に響いた。このクラスって、静かに何かをすることってできないのよね。

「なに恭子?まったく、ホームルーム終わっちゃうよ」

またもやあかねが呆れた声を出した。本当にそうよね。うんうん。

「なに頷いてんの?怖い」

「お前さん、俺が頷いただけで怖いのかい?」

「わかりきってること聞くな」

酷いわぁ!って言いたいけれど、多分言ったら殴られるよね。まださっき蹴られたキズが痛むし。それにあかねに怒られそうだからここは一歩、いや百歩譲って差し上げよう。

「この役員も2人ずつ決めんでしょ?ならこれも男と女でやらない?」

その提案に男子は、「おぉ!」と賛同するが、女子は「……」。

微妙みたいね。でもそれちょっとヒドくないですか?去年も同じクラスだったんだよ?仲良くなってるって思っているのは僕ら男子だけですか?それって寂しいじゃないですか!
よし!ここは「賛成だ!」って言ってやろう!……あっ待てよ?俺が言わずとも、

「賛成だー!」

やっぱりね。思った通り俺の前に座っている考えなしの男の子が言ってくれたよ。一郎!女子の白い目線は全てお前に任せた!
困惑している他女子をスルーし、立ち上がったままで高瀬は伊藤先生へ憂いの瞳を見せつける。

「いいでしょ伊藤センセー!」

「皆さんがいいのなら私は何も言いませんよ」

イヨッ!さすが我らの先生だ!
去年は違う先生が担任で、伊藤先生は歴史の先生ってだけであんまり深く考えてなかったけど、いい先生に間違いないです!今年からよろしくお願いしますよ!

「賛成!賛成!」

一郎が踊り出した。それに続いてなぜか高瀬 恭子も立ち上がると踊り始める。これが世に言うバカップルってやつですかね?あぁ違うか。高瀬は前に彼氏がいるって言ってたし、しかも街で会えば必ず違う男性に変わっている。これも世に言う魔性の女ってやつですか?

「「賛成!賛成!」」

一郎!お前はただ女子と交流してぇだけでしょうよ!?……まぁ僕も?僕もそれなりには、ねぇ?

「ってダメェ!俺はんたーい!」

悪寒が背筋を凍らせた。今気付けてよかった!決まった後に気付いていたら、俺の一年間は終わっていた!ナイスだ俺!

「何だよ太郎?いい提案じゃねぇか」

「そうよ何でよ?」

一郎と高瀬が口々に不満を漏らす。一郎、お前、わかっちゃいねぇ!
俺は一郎の首根っこを掴むと、耳をそばだてた。

「一郎君、いいですか?もし仮に男女のペアで役員しましょうって話になるとします。するとどうなりますか?」

「最高だろ?」

「お前考えろよ!いいか、萌は今年副委員長になってないんだよ?いいんですか?あなた、あの子とペアになってもいいんですか?」

「それは…困ります!」

「それじゃあ断固として反対しましょう!」

「オーケェイです!」

一緒に息を吸い込み、俺達は顔を上げた。

「「はんたーーー…いぃ!?」」

あえて言わせてください。最後の「いぃ?」は俺だけが言いました。あかねさんが黒板にサラサラと、(体育委員、一条、秋月)と書いていたからです。一郎はあらら〜とした顔を俺に見せている。お前、絶対に後で殴ってやるんだからね!

「はいはいはい!質問、質問させて!なぜ!なぜ僕が体育委員に?って手を上げてすらいないんですけどぉ!」

やばいやばいばやいばいや!最後なんかおかしいけど気にすんな!この女と同じ委員なんてやったら今年一年はもう終わったも同然だ!それだけは断固として阻止しなければならない!

「え?秋月さんがそう言ったんだけど…?」

勇樹くーん、君はどうしてそんなに素直な優しい子なのぉ?って萌の野郎!何をそんな口からでまかせを!

「ふんっ」

ふんって……。それだけデスか?勝手に僕を体育委員に指名しておきながら、「ふんっ」ですか?

「萌ぇぇ!お前、今日という今日は許さないわよ!」

「かかって来い!このオカマ野郎!」

「誰がオカマじゃあ!」

「あんたでしょうが!毎日毎日怖いんだよその喋り方!」

「怖いのならば同じ役員やるなんて言うんじゃねぇわよ!大人しく副委員長やればいいだろうよ!」

「あんたに指図されたくないんだよ!」

「お前、お前なんてなぁ…」

やっぱり言葉のレパートリー少なすぎ、悲しすぎ。はっそうよ!これしかないわ!

「やっぱりお前が副委員長やりなさいよ!勇樹だってその方が嬉しいでしょうよ!?ねぇ勇樹…?あれ?」

なぜそんなに真っ赤な顔を?何かマズイ事言った?ってあれ?なんで萌まで顔赤くしているの?恥ずかしいことでもあったの?

「あ、あんた……!言っていいことと悪いことが、あるだろうが!」

結局、俺は萌に思い切り殴られ、意識を飛ばした。その間に俺の体育委員は決定し、最悪の一年を過ごすことになる。

って伊藤センセェ……先生さっきこう言ってませんでした?強制的になったのでは学校生活が楽しくなくなるって、言ってましたよね?僕はなんなんですか?僕の学校生活が楽しくなくなっても、先生はいいんですかぁ?

ってその前に、さっき先生「委員長は一条君か野代君に頼みましょう」って、あっさり言ってのけたじゃないですか……僕のこと、嫌いなんですか?














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