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シャープペンシルを武器にする
作:Spark



第17話 キミは好かれちゃいない


事件が起こったのはそう、昼休みだった。
一郎隊長が早弁をしたために俺は彼に連れられて、今は購買という名の戦場に来ている。この黒山の人だかりはなんだ?何を狙っている?

「ちょっと買って来るからお前はここで待て」

一郎隊長はそう告げると人ごみに消えていった、そして俺は彼の背に敬礼をする。

「だ、ダメだぁ!」

一分も経たないうちに弾き飛ばされて彼は戻って来た、って早ぇ!
急げよ、俺は早く教室に戻って弁当食いたいんだから。

痛がる一郎に軽く蹴りを入れた俺は辺りを見回した。俺っていつも弁当だから購買になんて来たことなかったけど、めちゃくちゃ混むんだね、あぁ女子生徒がフッ飛ばされた…負けじと蹴った!もうマジで戦いだよこれは!

「た、太郎。俺はもうダメだぁ…後は任せ、た」

一郎は「ぐふぅ」と言って俺の前で倒れた。それを俺は敬礼したまま見下ろす。
だからぁ、そんな小芝居してる時間があったらあの女子生徒みたいに突っ込んで行けよ!俺だって行きたくねぇ。
敬礼をしたまま動かない俺を見た一郎はパパッと立ち上がり、膝についたホコリをほろった。ってかお前大丈夫じゃねぇのよ。

「てめっ、戦友が負傷したってのに無視かよ!ここは俺の為にしょうパン買って来てくれるとこでしょ?」

「自分で頑張れ。しかもお前、購買でショートパンツ買うのかよ」

「ショートパンツじゃねぇよ、しょうゆパンだよ、コゲた食パンにたっぷりとしょうゆを浸したやつ。うまいよあれ、でもいつも売れ残るんだよね。あっどうせ売れ残るんなら人がいなくなるの待てばいいのか」

気持ち悪いわ!何そのパン、聞いたことすらねぇ…てか絶対にしょっぱいだろが。
俺の冷めた視線に「食ってみろって!絶対にうまいから」と背中を押す。あなた、ただ買いに行きたくないだけしょ?

「いらねぇよ!そんな微妙なパン誰が食うか!食いたいなら自分で買って来いっての」

「ひでぇ!お前、親友が昼からの授業を受けられなくなってもいいのかよ?」

「早弁するお前が悪いんだよ」

ひでぇひでぇと連呼する一郎を背に俺は歩き出した。売れ残るならそこでずっと待ってて、私は教室で一人寂しくお弁当を食べるから。
鼻歌混じりで購買を後にしようとした時、晃が見えた……よし、見ていないことにしよう、なぜなら萌の姿も見えたから。
あいつ、まだ諦めてないんだね。萌はずっとシカト決め込んでるけど、いい加減に気付けよな。相手にされてないんだからお前。

「桃太郎!」

顔を手で覆いながら晃と萌の横を通り過ぎようとしたとき、ひく〜い声が響いた。桃太郎って、やっぱり俺の事だよねぇ。
やはりバレたか、ったくよぉお腹空いてんのに。

「何かしらぁ?」

満面の笑みを浮かべた俺に、萌の研ぎ澄まされた鉄拳が顔面に飛んで来た。避けろ俺ぇぇ!

「っぶねぇ!」

間一髪のところで正拳突きを交わした俺はそのまま戦闘態勢に入る。でもいくら萌でも女の子、殴ることなどできません。

「いきなり何すんだよ!危ないでしょうが!」

少しずつ後ずさりしながらそう言い放つ俺、にジリジリと差を詰めてくる萌。一向に距離が離れることはありません。
って晃、睨むなよ。俺はお前達の邪魔するつもりなんて全くないんだから。

「萌ちゃん!こんな奴放っておいて、2人で昼飯食おうよ!」

お前、マジでそのハイテンションなんとかしてくれぇ。ってか萌の奴、何を言ってもムダだとわかったのか黙ったままで俺を見てるよ。なによ、その目は。こいつをどうにかしろってことかい?
……ムリだけど?

「太郎ぉ!お前早くどっかに行けよ!俺達の愛の時間を邪魔するな!」

声がでけぇよお前、愛の時間って…恥ずかしいよマジで。あぁもうみんなこっち見てんじゃねぇか。見るな!俺は関係ないからね!

「言われなくても行ってあげるわよぉ!」

「金太郎!」

後ろ歩きのままその場を去ろうとしたけど、ムリっぽいかもしれません。萌ぇ、あんたがはっきり言えば……ダメだったからシカトしてんのよね。
めんどくせぇけど、後で萌の暴力を受けたくないし…。

「…晃ぁ、お前いい加減気付ってぇ。あかねにも言われたでしょ?付きまとっちゃイヤよ」

どこぞの王女のように可愛らしくそう話した俺に、晃は苦い顔を見せる。俺の言葉がわかるのならちゃっちゃとどっかに行ってよね。お弁当が私を待っているんだから。

「気持ち悪ぃ話し方すんな…ま、まさか、お前、そんな話し方をして俺の気を引こうとしてるんじゃ…」
「お前が気持ち悪ぃんだよ!」

どこをどう考えたらそんな事が思いつくんだよこのアホ!怖い想像をさせんな!
後ずさりをしている晃に向かって突進した俺は、クロスチョップを喰らわせた。モロに入ったよこれは。

「ぐわっ!」

そのまま仰向けに倒れそうになった晃は、とっさに隣りにいた萌の腕を掴む。それを俺は胸の前で手をクロスさせたまま見ていた。

あっ。

萌を巻き添えにして倒れた晃は、こともあろうに抱き締めてるよ。こいつ、転んでもタダじゃ起きないね。ってか萌、顔がよく見えないけど、相当怒ってるよ。肩が震えてるもの。逃げた方がいい?それとも手を貸した方がいいの?

(今ここで手を貸したら絶対にボケェ!って殴られる。だからここは逃げた方が正解だ)

おまっ、悪魔か?どうしたんだよお前、何か吹っ切れたみたいだね。そうだね、ここはお前の考えに賛成させていただく!

(ダメよ!今ここで逃げたとしても、後で絶対に彼女はあなたを殴る。それが秋月 萌なのよ!だからここは一発殴られるのを覚悟してでも手を差し伸べるべきよ!)

天使ぃぃ!お前も改心したのかい?なんかいいね、葛藤してるっぽいよ。しかも「殴られるがいいさ!」とか言ってないし。
でも、ここは本当に悩みどころですよ。手を貸せば「何すんだこのバカ!」って殴られる…しかも晃じゃなくて俺が。逃げたら逃げたで「お前、何で逃げたんだよ!」って、殴られる。ってかどっちを選択しても殴られるんじゃんかよ!
ちきしょう、どうせなら今ここで殴られた方がいい!悪い、悪魔ぁ!

「萌ぇぇぇ!早く、早く俺の手を取ってぇぇぇ!そして逃げるわよぉ!」

悪魔が(もうマジで知らねぇ)と俺の脳みそに正拳突きを喰らわせると寂しい背中を残して消えた。マジで悪い!でも今回は天使の意見を取り入れさせてもらいます!

俺は「はいやぁぁぁ!」と萌の返事も待たずに手を掴んだ。でもその瞬間、「俺の萌ちゃんに触るなぁ!」と萌の下から晃の声が聞こえたから脇腹に軽く蹴りを入れておいた。
よし、晃の手が緩んだ!引っ張るなら今よぉ!

「よいしょぉぉ!」

無理矢理に晃から引きはがし、萌の手を掴んだまま俺は購買にいる人だかりに逃げようと走った。絶対にここなら晃は俺達を見失うはず。
って人がいねぇ!みんな買って教室に戻っちゃったよ!

誰もいなくなった購買の前には、1人で一郎隊長がおいしいのか不明なしょうゆパン、略してしょうパンを愛おしそうに手に抱えていた、しかも3コ。お前、どんだけ食うつもり?ってか色が濃いよそれぇ!絶対にしょっぱいから!

「一郎ぉぉ!後は頼んだぁ!」

俺は走りながら一郎にラリアットを喰らわせる。

「おぼぉ!」

しょうパンが宙を舞い、倒れた一郎の顔面に落ちていった。後ろからは晃が俺達を追って来てる。一郎、頼む!

「いってぇ!お前、どわぁ!」

「ごっはぁ!」

こっちを見たまま立ち上がろうとした一郎と、萌しか見えてない晃がクラッシュした。ナイスだ俺!

「あ、晃ぁ!ちゃんと前向いて走れってんだよ!って足どけろぉぉぉ!俺の、俺のしょうパンがぁぁぁ!」

「お前こそちゃんと前見て立ち上がれ!おい、足を掴むな!」

思った通り、立ち上がった2人は言い争いをおっ始めた。そしてしょうパン1コが晃の足により破壊された。袋から飛び出しちゃってるよアレ、でも2コあるし。今度しょうパン奢ってやるからごめんよ一郎!そしてグッジョブ!

「あっ俺の萌ちゃぁぁん!い、一郎、いい加減足を離せぇ!」

「俺のしょうパァァァン!」

走り去るとき、晃と一郎の悲痛な叫びが聞こえた。でも立ち止まっちゃダメぇ!いけるとこまで行くのよ!


気がつくと俺達は教室の前に立っていました。しかも萌と手をつないだまま……殴られる、よねぇ。
気付かれないようそっと、そして素早く手を離した俺は、恐る恐る萌の顔を見た。やっぱり怒って、ますか?

「あぁ、疲れた…」

あれ、肩で息してるだけで別に怒ってなさそうだね。あぁそうか、走り疲れて俺がお前の手を繋いでいたことすらわかってないのね?それともあなたの手に神経が行き渡っていないだけかい?それはないよね。

「俺も疲れたわ、ってかお腹空いた…」

俺も肩で息をしつつ、教室に入ろうと歩き出す。と、萌に袖を引っ張られた。やっべ、やっぱり手を掴んでたことわかってたのか。

「な、何でございましょうか…?」

ゆっくりと振り返った俺は萌の顔を見れません、きっと般若に見えるから。

「ご、ごめんなさいぃ!」

萌が口を開きかけた瞬間、素早く何度も頭を下げる。これで許してくれるなんて思ってない、でも俺はあなたを助けたんだよ、そこを考慮して行動してね?

「何で謝ってんの?」

「え…」

意外にも萌の顔は普通、でした。怒ってないの?怒りに満ち溢れた顔で俺を睨みつけてると思ったのですが。

「悪かったね、走らせて。あと野代も」

あ、謝られたぁぁぁ!ありえねぇ!ありえないってぇぇぇ!お前、昼に何を食った?また腐ったエビフライを食ったのか!
でも、ここでそんなことを言ったら「人がせっかく素直に謝ってんのに!」って殴られるよね。だから今のこの気持ちは心にしまっておきましょう。

「い、いやぁ。困った人を助けるのは当然でし」

語尾がおかしいから俺!そこは「当然だし」だよね?めちゃくちゃ動揺してんのバレバレじゃんか!
俺はやははー、と微妙な笑いを浮かべる。萌、怒ってなさそうだけど笑ってもいないよ。心の中が読める能力がほしい!

「あっ萌。あんたどこに行ってたのさ」

教室からひょっこりと顔を出したのはあかねでした。さっきお前があそこにいたらきっと晃はボコボコにされてまたもや入院を余儀なくされてたね。くわばらくわばら。

「宮田から逃げてきた」

疲れた様子でそう呟いた萌は、俺をチラリと見ると教室へ戻って行った。
ってか俺、殴られなくて済んだよ。すげぇよ天使!ありがとう!

(ちっ)

舌打ちかいぃ!こいつやっぱり改心してねぇよ!お前のこと見直したのにひでぇ。俺のこの純粋な気持ちを返せ!
…マジで腹減った。

ぐうぐうと鳴るお腹を押さえつつ、教室に入ろうとドアを開けた。

「太郎ぉぉ!」

階段の方から地鳴りのような声が聞こえる。一郎か?晃は追っ払ってくれたんだろうね?
振り返るのも面倒くさかったけど、さっきの行動を謝ろうと振り向いた。

「さっきは悪かっ…一郎ぉぉぉ!」

あかねに殴られて青くなった右目周辺はさておき、お前、何をどうしたら両っ鼻から鼻血が出せんだよ?
さては晃に殴られた…顔面に足跡がついてるよ、蹴られたね。

「晃の奴ひでぇんだよ!俺のしょうパンを踏みつぶしておきながら蹴ったんだよ!俺のこの顔を蹴ったんだからぁ!」

俺のことには一言も触れない一郎に感謝。お前は同時に二つのことを考えるのはムリな人だからね、俺よりも晃に腹が立ってるんだね。

「そいつはひでぇ!俺が後で怒っておくから、今は一緒にしょうパンを食おう!」

「ありがとう太郎!やっぱりお前は親友だぁ!一郎太郎サイコー!」

ホントにこいつ、さっきの出来事を忘れてんじゃないの?俺が元凶だってのに。悪いな晃、全てお前のせいになっているよ。
って一郎ぉぉ!2コのうちの1コ、半分なくなってるよ!ってか走りながら食って来たんかい!口の周りが黒くなってるよ!やっぱしょっぱいんでしょ?





















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