ザバアアン……
うねる大波、荒れる日本海。
海を見下ろす高い崖は飛び下りたなら死ぬだろう。もし助かってもこの辺に海岸は無く崖ばかり、海から上がる事は出来ない。
この切り立った崖にたどり着くまでの道の看板には、
『この先危険』
『命大切に!!』
など自殺制止をほのめかす言葉が書いてある。
荒れる海、強い風、空は濁ったような灰色の曇り空。
ザア…ン……
また一際大きな波が崖を打つ。
こんな自殺名所と思しき場所には当然、人っ子一人いないはず。
しかし、死のうというのか一つの人影が死への道を歩くように慎重に崖先へ向かう。
「『父さん、母さん、」
風に吹かれながら、その崖上を歩くのはセーラー服の高校か中学生くらいの少女。
「…先立つ不孝をお許し下さい』………えーと…」
眼下に遠い水面を敷き、少女は手元の紙を見ながら何事か呟いていた。
「えー何コレいかにも遺書っぽい……やめやめ!」
事実彼女の手元の紙には『遺書』と書いてあり、遺書のつもりなのだが何かが気に入らないらしい。
「先立つ不孝ってとこから既に。あっ父さん母さんからもうベタかなーー…」
やおらポケットからシャープペンシルを取り出す。
「違うの考えよっと!!んーーと…名前先にして――……」
シャープペンシル付属の消しゴムにて以前の文章を消し、遺書の内容を書きかえ始める少女。
「いややっぱりこの自殺名所選んだ理由とか」
あーでもないこーでもないと少女は遺書を推敲する。
「……………んーあっそーーだ」
何かを思いついては書き込む。
ついに顔を上げて嬉しそうに笑う少女は言った。
「で・き・たーー――――☆☆かくにんしよっ」
ドバンと高波の打ちつける音を背後に、少女は長々と時間をかけて作り上げた遺書を読みあげる。
「『人生短き十七年……早くも私に天の迎え……それは私の顔をした天使――いや悪魔か?――――父母に対し許しがたい行為と思えど私はいく……』…………うっま!!!!」
少女は目を光らせた。何故か拳を握る。
「やっべぇちょっとあたし文才あんじゃね!?何この遺書、文章超かっこいい!えっぜって売れる!!」
高々と遺書を掲げて笑う少女はくるりと踵を返す。
「この才能埋もらしちゃなんねーー――!!あ、もう死んでる場合じゃねーーし!!よっしゃ出版社行こ!!」
遺書を掲げたまま輝いた顔で少女は元来た道を引きかえしたのだった。
【完】
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