チャプター6『ディメイションは燃えている!』
「へっへへへ」
相変わらずリズム感あるステップで、ディメイションはマダンに不敵な笑みを浮かべている。
逆にマダンは険しい表情で彼を睨んで。忌々しげに発する。
「ディメイション。そうですか、あなたがあの次元の神、ディメイション」
「はっはぁ! 俺も相変わらず有名神だなぁ!」
「当然ですよ。あなたは次元の神の中でも異質中の異質。何より次元の神の中で最も数多く、強い次元の悪魔を撃破してきた強者。我が主、タキオン様もあなたと渡り鳥のクロノス、そして時の女神ラミアグレスには注意しろと忠告してましたからね」
ディメイションを指差しながらマダンが言うと、指さされた本人は後ろに後退りながら驚愕の色を浮かべて叫んだ。
「な、何いいい! た、タキオンだとぉ!」
何だ? ディメイションはタキオンと言う言葉に大きく反応を示したが。何か知っているのか?
「――って、誰だ?」
ずっこけるマダンにリョウスケ。ここにいる全員が面食らった。知らないのに何でそんな知ったかぶりなリアクションを取るんだディメイション。
一気に真面目な雰囲気がぶち壊れたぞ。
「ぐぅ、タキオン様を知らないとは、愚かしい。実に愚かしいですね。いいでしょう。説明しましょう、タキオン――」
「説明しよう。タキオンとは、次元の悪魔で最も力を持っていると言われる次元の悪魔の総大将みたいなヤツだ!」
マダンの説明を遮り、人差し指を立てて勤勉な態度で説明するディメイション――って。
「ええええ!」
知っているじゃないかディメイション!
さっきのはワザとだったのか。
心なしか、ディメイションのせいで見せどころを奪われ虚しく跪いてるマダンが、惨めに見えた。
「く、まんまとやってくれましたねディメイション! さっそく私に恥をかかす精神攻撃とは、やりますね」
攻撃だったのかアレ!
何だか悔しそうに歯軋りを立てて身を起こすマダンが馬鹿っぽく見えてきたぞ。リョウスケも呆れ顔で眺めている。
「まあ、いいでしょう。先手は取られましたが。ここからはずっと私のターンです」
力強く指差すと、マダンは身を斜めに倒し駆け出す。
凄い速さだ。ディメイションに引けを取らない瞬発力で瞬く間にショートレンジにまで詰め寄り、連続蹴りを繰り出した。
あまりに凄まじい蹴り故に、突くように放たれ続ける脚が、無数に増えてるように見える。
「へへへっ!」
しかしそんな蹴りの嵐を難なくかわすディメイション。腰から上を僅かに揺らすように動かすだけのモーションなのに、一撃もヒットしていない。そして、マダンが繰り出した、風を切り裂くような後ろ回し蹴りを跳躍して避け、その後に続けざまに放たれたハイキックを空中で左手でガードし、そのまま威力を吸収出来ずに弾き飛ばされるも。ディメイションはバウンドすることなく受け身をとり、砂埃を巻き上げて地を滑り、そして踏みとどまる。
凄い攻防戦だ、正に神と悪魔の肉弾戦。
僅か数秒の出来事なのに、俺はあまりの速さに息を呑むだけだった。
「へっへへへ。いい蹴り放つじゃねぇかマダン、だけど、まだまだだな」
不敵な笑みを崩さず、寧ろ余計ワクワクしてきたと、気持ちを顔に浮かべているディメイション。
「チッチッチ――こんなのは序の口ですよ。そろそろ本気でやります」
そして、対するマダンは、膝を上げていつでも蹴りを出せそうな構えのまま、指を振りウインクして返す。
二人共、あれほどの凄い格闘戦を行っておきながら、あれが本気じゃなかったと言うのか。
《化け物だにゃあ》
お前が言っても説得力ないぞ、ある意味でお前も化け物なんだから。
《失礼だにゃあ! てゆーか、あの二人の打撃戦何だけど、見てて凄いにゃあ。マダンの一撃一撃は、リスクが繰り出した全力波動斬と同等だったにゃ》
なに! なら、ディメイションはそんな一撃を左手であっさり防いだと言うのか?
《そうにゃ。でも二人はまだまだこれからみたいだにゃあ》
じゃあ、これから行われる戦いは、より凄まじいものになるのか。
《多分そうにゃ、だから早く非難しないとヤバいかも》
とは言っても、体はボロボロだ。回復が間に合ってない。
そう思った時、リョウスケが俺に駆け寄り、体を起こしてくれた。
「リョウスケ、すまん」
「いえ、早く安全なところに移動しましょう」
肩に手を回して俺を支え、リョウスケは必至に入口まで引きずり移動する。その途中、俺はディメイションの方を見やる。
「マダン。マジでやり合う前に、ちっと訊くぜい?」
右手は腰に当て、左手でマダンを指差しディメイションは問う。
「さっきドラゴン蹴散らしてた時に出会ったんだけどよ。小さい少年少女達にな。……アイツらの親、帝国の民で全員お前に殺されたみてぇなんだ」
問い掛けているディメイションの表情は、何時になく険しく、懸念に満ち溢れていた。
顎に手を添えて、思い悩むような仕草で更に話を続ける。
「んで、ちょっと思ったんだ。何でガキンチョだけ生かしていたのかなってな。民を殺したその時、ガキンチョ達もその場にいたみたいだけど。お前はガキンチョには何もせずに、高笑いだけ残して行ったそうじゃねぇか? ちょっと興味あるんでな。訊かせてほしいのさ」
そして、喋り終えたディメイションは紫色に輝く瞳にマダンを映し出す。
暫し沈黙は続くものの、すぐにマダンの高らかな嬌笑が児玉する。その凛々しさのある声にはなまめかしさもあるのだが、しかし、共に邪悪に満ち溢れていた。
「何を訊ねるかと思いきや、そんなの決まってます。面白いからですよ」
面白いからだと?
「ふふふ、だってそうでしょう? 養ってくれる親が亡くなった子供達の、絶望していく様は、観ていると何とも滑稽ですよ。くくく――あははははははは!」
何て奴だ! 子供達が苦しんで生きる様を、コイツは、コイツは楽しんでただ観ていたのか!
「ゆ、許せない。いったい子供達を何だと思っているんだ……」
「そうですねぇ。玩具ですかね? 暇つぶしの遊び道具。ふふ、帝国を飛び回るドラゴンに、町を徘徊するリザードマン。それらに見つかって狩られる子供達の叫び声は、ホントに心が和みますね。くくははははは!」
「お、お前ぇ」
俺の隣りで、リョウスケは歯軋りを立て、血が滲み出る程に拳を握り締めていた。
「リョウスケ……」
気持ちは俺も同じだ。こんな奴に今まで殺されたみんなは弄ばれてたのかと思うと、憎くて仕方ない。
《リスク……》
家族を始め、仲間達が涙を流し死に逝く姿を、平然と眺めて楽しむコイツが、許せない。
「なる程なぁ!」
そんな中、何度かディメイションだけは両腕を組んで、目を閉じて何度も軽く頷く。そして、やれやれと首を横に振り小さく溜め息を漏らしてから、こう口にした。
「少しは、もしかしたら救いようはあるかなぁ――って思っていたがよ。駄目だな。お前からこんなこと聞かされたら。あの少年少女達の言葉を思い出したら、俺のハートが熱くなってきたぜ」
そして、彼はゆっくりと目を見開き、右手を天に、月に掲げて、力強く言い放った。
「今、願いを叶えてやるぜ少年少女達。約束通り、マダンをやっつけてやるぜい!」
感じる。強く、猛火のように燃え盛る魂。ディメイションは今、かなり怒っている。緩みなくマダンを睨み据える紫色の瞳は、美しく煌めいていた。
彼の熱い正義の意思が、心の奥にまで伝わってきた。
「ふふふ、御託はそろそろ終わりにして、始めましょうかね」
悪意に満ちた笑みを浮かべ、マダンは足を広げ姿勢を低くし、弓を放つような構えを取る。
「おうよ。ぶっ飛ばしてやるぜい」
対するディメイションは、右手を頭に載せ、左手を背中に反らしてリズム感ある動きを見せる。
そして、少し間が空いたと思った刹那。
不意を突くかのようにディメイションが最初に動いた。
『ダブルブリットフィスト!』
放たれた二つの鉄拳。
もはや俺の肉眼では捉えられない。稲妻の速さだ。しかし、マダンはいつの間にか屈んだ状態になっており、それを俺が確認したと同時にマダンの後ろの玉座が、爆発し吹き飛んだ。壁がなくなり、夜の山並みが見えた。
「ふっ、今度はこちらの番です」
そうマダンが直立してから、細い腰を軽く捻って半回転する時、ディメイションは俺達に掌を向けて防壁魔法を展開させ、彼は跳躍した。その頃にはマダンはキレのある回し蹴りを繰り出していた。何故、相手に詰め寄らずその場でそうしたのか不可解に思ったのだが。次の瞬間、俺達はその意味を理解し驚愕する。
風を斬る音が聴こえたかと思えば、部屋が、何千人も人が入ろうとスペースが有り余る広さを持つ玉座の間が、両断されたのだ。
《す……凄いにゃ。今のは回し蹴りでカマイタチを起こしたのかなにゃ?》
お前でも、何をしたのか良く解らないのか!
《ディメイションがとっさにバリアを張ってなかったらボク達スパっていってたにゃよ! スパって!》
あの微妙な腰の身振りだけで、こうなる予感をしていたのか。凄すぎる。
レベルが違う。神と悪魔の戦いは、これほど高いのか!
瓦礫が崩れ落ちる中、俺は空にいるディメイションを見上げ。彼の凄さを改めて実感する。しかし、マダンの攻撃はまだ始まったばかりだった。
「ふふふ、今のは小手調べ。まだまだ行きますよ。それそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれえぇぇ!」
「な、何!」
《にゃあ! 嘘!》
「れ、連射出来るのかあの技!」
左足を軸に、マダンは空高くまでいるディメイションにあの蹴りを放った。数十メートルはマダンから離れているにも関わらず、蹴りの風切り音が無数に聴こえる。
回し蹴りから、かかと落とし。上、中、下段、前蹴りとランダムに動きは統一されない。その多彩な蹴りの連携モーションは、次第に目に見えるスピードを超えていく。
早過ぎる。まるで、竜巻だ。マダンの動きを言い表すなら、そうとしか言いようが無い。空中にいるディメイションは大丈夫なのか!
「へへへ、遅いぜぇ!」
ディメイションも凄い。空中三回転ひねりや体を丸め前転したり、宙返りながら落下して行くが、全く直撃を受けていない。つまり、全てあのカマイタチをかわしている訳だ。
『受けな、イオン・バースト!』
ジャケットを大きく開いて胸をさらけ出し、必殺の光を放つ。当然マダン目掛け閃光は突き進む。
「ふっ、そんな単調な攻撃!」
直撃するかと思いきや、マダンも背中からコウモリと似た翼を展開させて飛び上がり、ギリギリで避ける。そして紅い閃光は地面を貫く。マダンのいた場所には、ぽっかりと大きな穴が出来ていた。
その頃にはディメイションは着地していたが、空にいるマダンに目を向けて険しい顔を作る。
俺達も追って見上げると、空では満月を背にマダンが右手を上に翳し、妖しげな笑みを浮かべていた。蒼天のように青くつぶらな瞳は、今となっては狂喜で濁っていた。
「ふふふ、足手まといがいると、苦労するでしょう?」
翳している手の平の上に、魔力が集まり始めて行き、徐々に、それも急速に膨張する。
「この帝国ごと、吹き飛ばしてあげますよ。あははははは!」
後ろの満月を覆う程に膨張した黒い魔力の塊を、マダンはこちらに目掛けて投げつけた。
《や、ヤバいにゃあ! あれ、帝国どころか山脈も、この辺一帯を完全に吹き飛ばせるにゃあ!》
「何だと!」
マズいじゃないか。帝国にはまだ子供達がいる。俺やリョウスケもいる。逃げられるのはディメイションだけだ。
このままだと、みんな死ぬ。
「仕方ねぇ。コイツは使う気はなかったんだが……。切り札を使うしかないな」
「え、切り札?」
訝しげにリョウスケが訊ねると、ディメイションは小さく頷いてから正面に手を差し出す。すると手前に、黄金に輝く滑らかな丸みのある棍棒が現れた。
「そ、それって!」
驚愕するリョウスケを尻目に、ディメイションは棍棒をマダンに向けて言い放った。
『ディメイション・バット!』
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