チャプター2『ヒートアップするアホ達』
朝、目を覚ました俺達は簡単な支度を済ませ、山脈を下山するため出発する。ちなみに、ディメイションは既に起きていて、体をカクカクと動かし奇妙な体操をしていた。リョウスケいわくロボットダンスと言う踊りだそうだが、実に興味深い踊りだった。
機会があれば教えてもらおうと思う。
さて、今俺達は歩み進め帝国が見える所まで来ていた。
「これが帝国……大きいですね」
「ああ……」
見下ろしながら呟くリョウスケに、俺は頷く。
マグネリア帝国は、山脈と海に囲まれた帝国。この地形は戦略上でも強固な守りになっている。帝国の外には転移魔法を防ぐ防壁魔法が施されており、帝国の者しか、それも門から入らないと行けない。彼らと来る前は、俺は軍を率いてこの地へ向かう筈だった。リザードマンの軍勢にさえ阻まれなければこんな形には……いや、寧ろ軍を率いてこの山脈に来ていたら、それこそ相手に居場所を知らせ、罠を仕掛けられていただろう。
次元の神と言う強力な友達がいる今が、一番ベストなのかもしれないな。
ディメイションを見やり俺は思った。
「へへっ!」
そんな俺の心を読んだのか、ディメイションは“任せろ”と言うかのように親指を立て、ウインクした。
心強い限りだと。俺は頷いて笑顔で返す。しかし、ちょうどその瞬間、ヤツは現れた。
「何だろあれ?」
リョウスケが指差す先には上空を飛び回る巨大な黒い影。次第にその正体はハッキリとする。
「あれは、レッドドラゴン!」
赤黒いウロコを輝かせるドラゴンが、俺達の前に急降下、そして地響きを鳴らし、土煙を巻き上げ降り立つ。
「うわわわ――」
慌てて後ずさるリョウスケ。
「おっほぉ〜。でっけぇなぁ!」
全く緊張感の無いことを言うディメイション。
「くっ」
そして目に砂が入らないよう、俺は腕で顔を覆う。
そんな中、力強い咆哮をあげるレッドドラゴン。山脈中に鳴り響きそうなくらい煩い鳴き声を発し、俺達は耳を塞ぐ。だが、ディメイションは平然と腕を組んで、子供のような純粋な視線をドラゴンに向けている。
「耳が痛い!」
「耳たぶが痛い」
「イヤイヤイヤ! おかしいだろそれ! 何で鼓膜じゃなくて耳たぶに痛みがくるの!」
「二人共、ふざけている場合じゃないぞ!」
レッドドラゴンは正直マズい。彼らは知らないだろうが、レッドドラゴンはクランパイアで最も戦闘能力が高く獰猛な怪物だからだ。しかも、このレッドドラゴンは他のヤツと比べてサイズが明らかに大きい。二十メートル近くはある。場所がちょうど広く見晴らしが良いから大丈夫なものの、もし狭い道で遭遇していたら道を塞がれていただろう。
何にせよ、せっかく広い道なのだから、ここは無駄な戦闘を行うより、上手くヤツを撹乱させて突破するべきだが――あろうことか、ディメンションは俄然やる気満々の笑みを浮かべて、ドラゴンの前に大胆不敵に立つ。
「へへへ。感じるぜ、コイツ次元の悪魔に取り憑かれてやがる」
「えっ!」
リョウスケは驚くが、言われてみれば確かにそうだ。魔剣の力を通し、奴から
燃え盛ったどす黒い邪気を感じる。なるほど、外見からして違和感があると思えば、次元の悪魔が取り憑いてるからなのか。
「ま、どちらにせよだぜ。避けられない戦いってわけだな!」
「気をつけてディメイションさん。何か火を吐いて来そうだよ」
身構えるディメイションを睨みつけ、僅かに鋭くトゲトゲしぃ牙から見える口から、炎の吐息を出して呼吸するレッドドラゴン。ヤツは外見を表すかのように灼熱の炎を吹く。あれを食らったらひとたまりもない。
「なるほどなぁ」
俺の心を読んでくれたのか定かではないが、察したようにニヤリと、ディメイションは不敵に笑う。
「よっしゃ! ならこれだ!」
そして力強く言い放つや、ディメイションは何もない正面の空を腕で切り裂く素振りをする。
そうすると、頭上からχの形状をした紅い刃が落ちて来て、それを手にしたディメイションは見せびらかすように天に翳した。
『ディメイション・ブーメラン!』
ディメイション・ブーメラン?
俺が疑問に思い眺めていると、ディメイションがドラゴンに武器を向け、不敵な笑みを浮かべ語りだした。
『説明しよう! ディメイション・ブーメランとは、敵に投げて切り裂く武器であり。しかも投げたブーメランは自転しながら大きな円軌道を描いて持ち主に戻るという超! 特殊能力付きなのだぁ!』
何! それは凄い!
「イヤイヤイヤ! 超特殊能力って何! ちょっと知的な説明してるけど、普通のブーメランとなんら変わらないじゃん! しかも説明の所々がおかしいよ!」
そうなのか、俺には説明上かなり凄い武器に見えたのだが……。などと思っていると、ディメイションはドラゴンに目掛けブーメランを投げた。
「うぉりゃあ!」
「なんで下手投げ! しかも全然ハズレてるよ!」
本当だ。下手投げで何故かドラゴンの頭上を越えて、空高くブーメランは回転して飛んで行き星になった。
「くっ、避けるとはやるな!」
「違うだろ! あんたがノーコンなだけだあぁ! ドラゴン全く避ける気なかっただろが!」
「しかし甘いぜ! ディメイションブーメランの特性を忘れるなよ!」
特性――確か戻って来るんだったな。
そう戻って来ると思われる空に視点を凝らすが、一向に帰って来ない。
二度目の気まずい沈黙が漂った。
「も、戻って来ないよ?」
「いや! 戻って来る! ディメイションブーメランの力を信じ――ハゥあッ!」
ディメイションの尻にブーメランが!
「えぇ! 何故後ろから!」
驚く俺達を後ろに、への字に崩れたディメイションは語る。
『せ、説明しよう……ディメイションブーメランは、何と世界を一周して戻って来る特性を持っているのだ、ぐふぅ……』
「無駄にすげぇ! てゆーか、ディメイションさん嘘でしょう! こんなで力尽きないでよ!」
『シーン……ディメイションは気絶してる』
「起きてるじゃんかよ!」
『スイッチ・オフ!』
「オイイ!」
頭からカチッと音がしたかと思えば、白目向いて脱力するディメイション。まるで糸が切れた人形みたいになった。
体勢はへの字のまま、尻にはブーメランが刺さっている。
俺達があたふたと戸惑っていると、正面のドラゴンが『無視すんな』と言いたげに怒号のように鳴く声を荒げる。
「ど、どどどどうしよう!」
「くっ、リョウスケ。君はディメイションを連れて近くの岩に隠れるんだ」
付近の灰色の岩を見やりながら呟き、俺はドラゴンを睨み付け剣を構える。
「リスクさん! でも、リスクさん一人じゃ」
「こんな言い方は失礼だが、君がいても足手まといだ」
「あ……」
リョウスケの俯いた表情が強張る。気持ちは解る、バッサリ言われたら傷付くのは。俺が君の立場でも、同じ気持ちになるだろうから。
でも……。
「だから、君には君しか出来ないことをしてくれ!」
そうだ。だからと言って、君に何も出来ない訳じゃない。君にはディメイションを連れて非難すると言う、重大な役割がある。だから今は、それだけに集中してくれ。
「僕にしか出来ないこと……解りました。リスクさん、死なないで下さい」
意を決した返事をして、リョウスケは重そうに、そして顔にシワを寄せて、鼻毛が見えそうなくらい鼻の穴を広げ、ディメイションを頑張って引きずる。
「その約束は無しだ」
俺は笑いを堪えながら呟いた。
「いくぞ、次元の悪魔!」
俺はドラゴンに目を戻し、すぐに駆け出す。対してドラゴンは火球を吐き出し牽制するも、俺はヤツの頭上まで跳躍して、剣に魔力を溜めた後、素早く五回振るう。すると五つの波動斬が放たれ、ドラゴンの頭部に連続して直撃する。
奥義、波動連牙斬。この技は岩をも両断し、そして砕く。流石に諸に食らった以上、無事では済むまい。
などという考えは甘かった。
「何だと!」
全くの無傷、それどころか、ヤツは既に炎を吐こうと口を開いていた。
「うわああああ!」
熱い! 何て炎だ!
吐き出された灼熱の炎は、俺の体を焼き付ける。どうにか魔法で炎の耐性を上げたので、衣服などは軽く焦げる程度で済んだが、それでもかなりこたえた。
「ぐぅ――」
着地後、苦痛ですぐに地面に膝を付いてしまい。剣で支えてドラゴンを見据えると、ヤツは余裕の表情で鼻を鳴らしていた。
正直言って悔しい。俺の力が全く通用しないなんて。こんなところで改めて自分の無力を痛感させられるとは。
歯軋りを立てずにはいられなかった。
しかし、そんな俺の気持ちなどお構いなしに、再度ヤツは炎を吹こうと息を吸う。
「リスクさん逃げて!」
「うぅ……」
避けられない。このままでは当たって焼け死ぬ。
俺がそう思って顔を逸らしたその瞬間。
『待てぇえい!』
いきなり聞き覚えのある甲高い声が響いた。
俺達やドラゴンが声の方に視線を向けるとそこには。
『ハーハッハハハ! ディメイション参上!』
崖の上で、何故か腕を斜め反らすように傾け変わった構えを取っているディメイションがいた。
俺は眼を疑った。岩に隠れてたリョウスケも「あれぇ!」と言いたげに唖然としている。
「ディメイション、無事だったのか! だが、お前は確かリョウスケと一緒に岩場に隠れてたはずじゃ――」
「ふっ、あれはダミーさ!」
ダミー!
「アァ! 何だこれぇ!」
リョウスケの叫び声に何事かと振り向くと、岩場に尻にブーメランが刺さっていたはずのディメイションではなく、何故かブーメランが刺さっている丸太があった。
「あはっはっは! まんまと騙されたなドラゴン。これぞ忍法! ディメイション身代わりの術だ!」
忍法! 一体何だそれは?
ドラゴンに指差して威張っているディメイションと忍法に関して疑問を抱いたが、説明は返って来なかった。
けっこう期待してたんだが。
「イヤイヤイヤイヤ! 自分のブーメランで自滅して、変わり身の術って意味不明だよ! だいたいドラゴン騙す以前に、撹乱すら出来てないし! 登場シーンからして無意味じゃないか!」
もっともな意見だ。俺も同意する。
「ふふん、敵を欺くにはまず味方から!」
「だから意味不明だってば!」
「よし、よく頑張ったリスク! 後は俺に任せろい!」
「聞けよお前! 無視すんな!」
かなり怒った様子でリョウスケは喚き散らすが、ディメイションは全く気にしてない。そのまま崖から飛び降りて頭から落ちた。当然、野菜が砕けるようなぐしゃぐしゃと生々しい音を立てるが、何事も無かったかのように立ち上がってドラゴンに歩み寄る。
どこまでふざけてるんだこの神は。
「一撃で葬ってやるぜドラゴン!」
相変わらずの不敵な笑みでドラゴンを指差し、ディメイションは言い張る。
言葉を理解してるのか、ドラゴンは不快な気持ちを露わにして突進して来た。
ディメイションは何故か腰に両手を付け、胸を張って仁王立つ。このまま動かなかったら、踏み潰されそう何だが。
ここで誰も予想だにしなかったことをディメイションは仕出かした。
「あー! 可愛いメスドラゴンだ!」
俺は支えていた剣からずり落ち、リョウスケは滑るように転ける。
「アホおおお! んなもんで引っかかるかああああ!」
しかしドラゴンは「え? マジで!」と言わんばかりに期待に溢れた表情で右を向く。
ドラゴンはディメイションよりアホだった。
『チャーンス! ダブルブリット・フィスト!』
両指を交錯するように絡ませると、漆黒の鉄のグローブは、眼にも止まらぬ速さで飛んで行き、ドラゴンの胸部をえぐるように貫いた。
「ぎゃおおおお!(女の子何ていないじゃないかぁ!byドラゴン)」
そして哀れな悲鳴を上げてドラゴンは爆散した。
「決まったぜ!」
爆発するドラゴンをバックに、ディメイションが勝利のガッツポーズをとっていた。
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