チャプター1『目指すは帝国!』
「次元の神?」
「はい、信じられないでしょうけど、実際に僕は、隣で踊ってる神様によく誘われて、と言うか無理やり連れられて異世界を行き来してますね」
「そうか、次元の神に異世界か……にわかに信じがたい話だが。実物を目の前にした以上。信じるしかないのだろうな」
俺は良ちゃんと呼ばれる少年から、ある程度の事情を聞いた。彼らは次元の悪魔と呼ばれる、形を持たない破壊衝動の思念体的な存在を追い掛けて、俺達の世界に来たと言う。
次元の悪魔は、世界に存在する個体なら何であろうと取り憑き、意のままに操る事が可能。更には、その破壊衝動を具現化させたような、凶悪な姿へと変貌を遂げるらしい。奴らは下手をすれば異世界一つを消滅させる力を持っていて、放置していれば大変な事になる。
しかし、そんな次元の悪魔を退治する対極の存在が次元の神様。
俺と良ちゃんの目の前で、体を地面に寝かせて転がるようにグルグル回る意味不明な踊りをしている、ディメイションと言う男がそうだと言うではないか。
本当に疑わしいではあるが、あの究極魔法並みの力と言い、腕の立つ戦士以上の身体能力といい。全てが並外れているのは確かだ。神と言うのはあながち嘘ではないだろう。次元を駆け巡っていると言うのも、空間転移の魔法が発達している世界で生きてる俺からしたら、信じられる要素は十分にある。
実際、昔の学者達が、異世界は沢山あると説いていた。だから、現物を目の当たりした今、嫌でも信じるしかない。
「あの、そういえばリスクさん」
「ん、何だ良ちゃん?」
「そ、その呼び方止めてほしいんですけど……はは」
何やら苦笑気味に言う彼だが、どうしたのか?
もしや、初対面に気安く名前を呼ばれるのは嫌なのだろうか?
「あの、もしかしたらディメイションさんが言ってたからそう言う呼び方何でしょうけど、良ちゃんってのは……ディメイションさんが勝手に呼んでる略称というか愛称何です」
気まずい沈黙が漂った。
確かに苦笑いする訳だ。会ったばかりの他人から気安く愛称で呼ばれて、不快な気持ちを隠せるはずがない。
知らなかったとはいえ、何てミスをしたんだと、心底後悔した。
「す、すまない! ちゃんと、ちゃんと君の名前を訊ねるべきだった!」
跪いて俺は頭を何度も下げた。許されないだろうと覚悟しながらも。
ちなみに、隣で次元神は笑っていた。今の俺が滑稽で楽しそうな。そんな顔をしていた。
「い、いえ! そ、そんな大袈裟に謝らなくても。それに自己紹介しなかった僕が悪いんですし」
「ゆ、許してくれるのか?」
「え、ええ。と言うか、許すも何も、リスクさんは何も悪くないですし」
俺がしっかり彼を見据えると、戸惑いの様子ながらも頷き許してくれた。
何とも心の広い少年だ。俺は彼の名を侮辱すると言う貴族では死刑沙汰の事をしてしまったのに。それを笑顔で許すとは。何と寛大なことか。
「――ってよ! 良かったな良ちゃん。すげえ誉められてるぜい!」
俺が思っていた事を全て代弁された!
この神は心を読めるのか?
「他人の心を勝手に代弁しないでよディメイションさん! てゆーか、凄い背中が痒いよ。リスクさん大袈裟過ぎるって」
そう恥ずかしそうに背中を掻いた後、彼は自己紹介する。
「山田良助と言います。さっきも話した通り別の異世界から来ました。あ、良助と呼んで下さい」
「リョウスケか。ああ、ありがたくそう呼ばせてもらう」
俺は立ち上がって、リョウスケの差し伸べた手を握り、握手を交わした。
「ところで、君達の探している次元の悪魔だが、心辺りがある」
「本当ですか」
俺が頷き、語ろうとした瞬間、ディメイションが口を挟むように喋り出す。
「そいつは、マダンってやつかい?」
「え?」
最初は何で解るのかと、俺とリョウスケは疑問に思ったが、すぐに俺の心から読み取ったと理解した。
その後、ディメイションが俺の代わりにマダンと帝国のことをあっさりと説明した。お陰様で語る手間が省けたが、俺の見せ場を奪われどこか虚しいと感じるのは、気のせいだと思いたい。
「そうですか――つまり、マダンって奴が、実は次元の悪魔に取り憑かれて、この世界を支配しようとしてるって事ですね?」
「あぁ、君達の次元の悪魔の話から照らし合わせ推測すると、この考えは不自然じゃない」
「確かに、マダンが居るって思われる方向から、次元の悪魔の気配を感じるぜ」
好奇心旺盛な笑みを浮かべ、腕を組みながら南の方角を見やるディメイション。今は肉眼では確認出来ないが、荒野を越え山を乗り越えたその遥か先には、帝国がある。やはり、感じることから可能性はより高いと見た。
「ま、どちらしてもだ。確かめに行くとすっか!」
「そうだね、それじゃあリスクさん。僕達は行きます」
「待ってくれ、俺も行く」
「え、でも」
「少なくとも、俺は無関係じゃない」
そうだ、相手が次元の悪魔と言うこの世界とは別の存在だからといって、黙って傍観する訳にはいかない。
何より、俺は世界を救う為に戦う戦士だ。
国や家族を無くして、大切なものを失いたくない、守りたいと決心した日から、俺は王子としての地位や誇りは捨てた。
今あるのは、この世界を護る剣になろうと言う志だけだ。
だから戦う。彼らには彼らの戦いがあるように。俺には、俺の戦いがある。行かなければいかない。
「……へへっ! お前クールに見えて、意外とヒートだな!」
俺の心を読んでいたのか、ディメイションは明るく楽しそうにこちらの肩へ左手を回す。
「お前のようなカッコイイやつは好きだぜ! よし行くか! もう俺達は友達だし、一緒に行った方が楽しいもんな!」
そして、右手の親指を立て、俺に満面の笑顔でウインクした。
友達――懐かしい響きだ。昔は城下町の少年達とよく遊んでいたが、俺を友達と口にしたのは、彼らくらいだった。
仲間よりも深い絆を感じさせる言葉。
それを神から言われるとは、光栄だな。
「へっへへ! 友達に上も下も関係ないのさ!」
全く常軌を逸する神だ。だが、こういう神がいるのは悪くないと思う。彼を見ていると、こっちまで自信と活気に満ち溢れてくる。やはり、そう言った不思議な雰囲気、風格を持ってるのは神故からか。
「でも、ディメイションさん。急がなくて大丈夫なの? 流石に、いつものように僕だけ背負って走るわけには」
背負って走る?
俺が疑問に思いながらも、二人の成り行きを窺っていると。
「へへへ。俺に任せろい!」
自分を自信満々に指指すと、ディメイションは腕を広げて俺達に言った。
「俺の腕にしがみつきな!」
言われるながらも俺達はディメイションの腕にしがみつく。凄い事に水平に広げた腕は、どれだけ体重を掛けようとビクともしない。まるで、鉄の棒を掴んでる感覚だ。
『えーこちらディメイション駅、ディメイション駅〜。間もなく電車が出発しま〜す!』
「喋り方気色悪いし意味わかんないよ! てゆーか、何で声にエコー掛かってるの!」
確かに……。それに電車とは何だろうか?
そう思った瞬間、体が異様な力に引っ張られた。
「うおおおおお!」
「うぎゃあああああ! やっぱり手荒いいいい!」
何という俊敏で強靭な脚力だ。あまりの速さに俺とリョウスケの体が浮いている。
視界も速すぎて、目を凝らしてやっと見えるくらいで。言われた通りしっかりしがみつかないと引き剥がされそうだ!
『え〜あちらに見えますのが、クランパイア一の山脈。ノッペケプー山脈でぇす!』
「嘘つけえ! あんた適当に言っただけだろ!」
「いや、当たってる!」
「マジで!」
『あっはっは! “嘘から出たまこと”たぁ、このことだな!』
「騙す気だったんかい!」
などとお気楽な歓談(?)をしながら、俺達はノッペケプー山脈へと向かう。この山脈を越えれば、帝国はすぐそこだ。
山脈に入り、しばらく走り続けていたディメイションだが、途中リョウスケが力尽きて腕から引き剥がされてしまった。危うく地面に落ちて転がると言う大怪我を負いそうになったが、ディメイションが瞬時に身を翻して、地面すれすれでリョウスケを摘んで救出した。
「ハァ――ハアアァ――し、死ぬかと思った!」
「あっはっは! 途中で力尽きるなんてだらしねぇな良ちゃん。帰ったら筋トレだな」
「筋トレで間に合うかぁ! だいたい、ディメイションさん配慮無さ過ぎ! 死んだらどうすんの!」
「へっへっへ! 初めて会った時に言ったろ。俺がいる限り、絶対に死なないってな!」
そう天に右手を力強く翳し、活の入ったポーズを見せてディメンションは言い切る。
そう言い切れる根拠はどこにあるのだろうか?
涙目で叫ぶリョウスケ同様、俺も疑った。
その後、俺達は岩場に腰掛け休憩することにした。
俺の傷とリョウスケの疲労を癒やす為、今日はこの辺で休むことにしたのだった。
「ふう、毎回毎回ディメンションさんといると疲れるよ」
「へへ! エキサイティングな運動が出来ていいじゃねぇか。痩せるぜい」
「エキサイトし過ぎなんだよ! だいたい僕ひょろいんだから痩せる必要ないじゃない! 全く……ん? リスクさん、何してるの?」
回復を行っている俺に、リョウスケは訊ねてきた。
「ああ、魔剣の力で魔力を増加させ、回復魔法で傷を治癒してるんだ」
俺は魔剣を地に突き刺したまま柄を握り締め、彼の問いに答えた。
「ホントだ! 傷が徐々に癒えてる」
リョウスケが驚きの様子で俺の腕の傷が塞がっていくのを見据える。俺達の世界では、魔法を使用出来る者には当たり前のことなのだが。どうやら彼らの世界では、こういう治癒は出来ないらしい。
「傷は治癒出来るんだが、疲れは取れなかったりするんだ。体力から消費する訳だからな」
「それでも傷を治癒出来るなんて凄いですよ」
「へっへっへ! 俺なんか唾で治癒できるぜ」
「魔法って凄いですね。僕も使えたらなぁ」
「俺も使えるんだぜぃ!」
「リスクさんの世界では、薬とかで傷や病気とか治さないんですか?」
「ああ、傷は今のように魔法で治すことが主だが、風邪や熱などの病気は、薬で治したりする時があるな」
「子供は風の子さ!」
「へぇ、そうなんだ」
「遭難だ!」
「あぁ、病気の中には、魔法で治癒しようとしたら移るタイプもあったから、そういうのには薬を使って日を掛けて治すんだ」
「俺だったら優しさで一気に治すぜ!」
「そっか、魔法も便利ばかりじゃないんだ」
「俺は万能だぜ!」
「そういうことだ。ところで……」
さっきからディメンションが訳の解らない発言をしているのだが、無視して大丈夫なのだろうか?
何だか一人だけ仲間外れにしているようで、気が引けるのだが。俺が話し掛けようとしたらリョウスケが制止させ、耳打ちで俺に伝えた。
「いちいちあの人の言葉にツッコミ入れると朝まで引きずられますから、休息中はあまりつっこまないようにしてるんです」
そうなのか。神の話相手をするのは至難の技と言うわけか。しかし、いつも相手している彼も凄い精神力だと俺は思う。
聞けば、彼は日本という国では普通の一般人だとか。王族でもない少年が、ここまで礼儀正しいとは。きっとその国の民はみんな彼のようであり、統べる者は、彼以上に威厳のある寛大な心の持ち主だろう。
治安もきっと良いはずだ。
「あ、けっこう犯罪とストレスが溜まること多いです、総理大臣とか最近は不甲斐ないですね」
……真実とは残酷だ。夢や期待を平気で裏切る。とりあえず聞かなかったことにして、今日はもう寝よう。
しかしこの時、マダンの魔の手が忍び寄って来てたのを、俺達は知らなかった。
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