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短編

やさしいおおかみボロロ

作者:空伏空人
「昔々あるところに、人語が理解できる不思議な狼がいました。
 名前は『ボロロ』。
 人語のボロボロ、に語感が似てるのがちょっと不満でしたが、それ以外は気に入っている名前です。

 そんなボロロの趣味は山のふもとにある人里に降りては、時折開かれている本の読み聞かせを茂みに隠れながら聞くことです。
 読み聞かせで読まれる本は、ボロロが知らない世界を教えてくれて、開かれているのを見つけるとすぐにふもとに降りるほど、ボロロは読み聞かせが大好きでした。

 しかし、いつもボロロは不思議に思っていることがありました。
 それは人たちが話すお話ではいつも狼が『悪役』になっていることです。
 赤色の頭巾を被った女の子の話では、お婆ちゃんと女の子を丸呑みにしたり。
 七匹の子山羊の話では、その子供たちを丸飲みにしたり。
 三匹の豚の話では、一生懸命作った家を一息で破壊して見せたり。
 しかもどの話でも最後には殺されてしまいます。

 赤色の頭巾を被った女の子の話では、通りすがりの猟師に撃ち殺されて。
 七匹の子山羊の話では、帰ってきたお母さん山羊に石をお腹に詰められて。
 三匹の豚の話では、末の弟に丸焼きにされて。

 ボロロは童話が好きですが、決して同族がひどい目にあって嬉しいわけではありません。そんな話を聞くたびに、肝が冷える気分です。
 どうしていつも、狼はひどい目にあうのでしょう。

 確かに狼は食べることに困ったときとかは、人たちが飼っている豚や牛を襲うこともあります。
 けど、それは人だって同じです。
 自分たちの領地に勝手に侵入して動物を狩っているのに、こちらだけ一方的に悪者にされるのは不平等だと、ボロロは常日頃思っていました。
 童話は好きだけど、それだけが残念極まりなくてボロロの気分はいつも少し落ち込んでいました。
 仲間の狼にその疑問をぶつけてみると、そんなの、人が自分たちを恐れてるからに決まってるじゃねえか。と返されました。
 悪役に選ばれるほど、恐がられている。
 そういうことだ。と、仲間は笑いました。

 そんなある日のことでした。
 いつものように人里に降りて読み聞かせを聞き終えたボロロが、山の頂上にある洞穴の家に帰る所でした。

 今日の読み聞かせは太陽と北風がどちらがスゴいのかを自慢しあうお話でした。
 それに巻き込まれた旅人はいい迷惑でしたね。

 北風がぴゅーぴゅー吹いて、太陽が弱々しくも明るく照らしてくれるこの季節。ボロロ自慢の白い毛がさわさわと揺れ、少し肌寒い空気にボロロは体を震わせます。
 様々な色に彩られた落ち葉に紛れて、人間が仕掛けた罠が仕掛けられていたりするので、歩くのにも注意が必要です。

 ぴゅーぴゅー吹く北風に、自慢のこの白色の毛皮は脱ぎ捨てたりしないぞ。という意思表示代わりに、うわん! と吠えて、ボロロが再び家に帰ろうと足を動かした時でした。
 ふと、近くから小さな悲鳴が聞こえました。

 人の声です。
 しかも恐らく小さな子供。
 こんな山の中に、だいの大人ならともかく小さな子供がいるのは少し珍しく、興味半分にボロロは、その声がした方向に向かうことにしました。

 すぐ近くの木の根元に子供はいました。
 その足には踏むと脚に噛みついてくる丸い罠が噛みついていて、どうやら罠に引っ掛かってしまい、動くことが出来なくなっているようでした。
 子供はボロロを見ると、というよりは狼を見ると、涙を流して大声で泣きわめきました。

 うるさいなーと思いながらも、ボロロは子供の足に噛みついている罠を外してあげました。
 昔、同じような罠に引っ掛かったとき、外し方は覚えていたのです。

 子供は恐い恐い狼が自分を助けてくれたのが信じられないのか、涙がひっこんだ目で、呆然とボロロを見ていました。
 ボロロはそんな子供を一度見てから鼻を鳴らし、帰路につこうとして、ふと、足を止めました。

 そうだ。この子供に童話の話を聞いてみよう。
 そもそも童話は人がつくったお話です。だったら、分からないことがあれば、人に尋ねるのが一番手っ取り早いんじゃないか。

 ボロロはそう思い立ち、子供に聞いてみる事にしました。
 子供はボロロが話しかけてきた事に、少し驚いたようでしたが、ボロロに襲う気がない事が分かると、ボロロの話を真剣に聞き入ってから、うん。と頷きました。
 子供の回答はこわいから。でした。

 だって、おおかみはこわいんだもの。そりゃあ悪者にされたってしかたないよ。

 どうしてそこまで怖がるんだ?

 おおかみって、いつもうしさんやぶたさんをころしちゃうでしょ? ときどき、ひとをおそったりもする。まえ、おとうさんがおそわれたっていってたよ。

 人だって俺らの領地に勝手にはいって狩りをするだろ。俺たちは、領地に入ってこない限り、襲ったりしないよ。

 だとしてもおそってくることがあるんだから、こわいよ。

 そうか。

 だから、ほんのなかではいつもわるものになるんじゃない?

 だろうな。けど、悪者にするなら他にも動物がいるのに、なぜいつも俺たちなんだ。しかも最後には絶対、痛い目にあう。

 ボロロはおおかみがわるものなのがなっとくできないの?

 悪者にされて、殺されるのが納得できない。

 ふうん。
 子供はボロロの意見を聞いて、少し考え込むようなしぐさを見せてから、こんなことを提案しました。

 じゃあ、ぼくがおはなしをかくよ。ボロロのおはなし。

 ボロロはえ、と声をあげました。
 子供は自信満々な表情で、鼻息荒く言います。

 ボロロはぼくのいのちのおんじんだからね。このはなしをみんなにおしえるんだ。そうしたらきっと、みんな、おおかみがいいどうぶつだってわかってくれるよ。

 そう上手くいくものか? と、ボロロは思ったものの、狼が悪者じゃないお話を聞きたい、というのは本心でしたし、なにより大好きな本の主人公になれるのですから、喜んで賛成しました。

 こうしてボロロと子供は狼からみた人、人から見た狼を教えあって、読み聞かせ作りに励んだのでした。
 優しい狼と優しい子供は山の中で二人、仲良くお話を語り合って、ひとつの話を形にしていきます。

 そうして数日後、二人が考えたお話は完成しました。
 白毛の優しい狼のお話。
 名前は『やさしいおおかみボロロ』
 きっと、いいお話になるでしょう。
 おしまい。」
 数年後。
 あの山のふもとの人里で、いつも読み聞かせが開かれている広場。
 子供がたくさん集まっていて、本の読み聞かせをしていた少年を爛々とした目で見つめていました

 子供から少年に。
 数年の時が経て、立派な少年に成長したあの時の子供は、自分で作った童話の本を閉じました。

 本の読み聞かせに集まっていた子供は、悪者だと思ってた狼が思いのほか優しかったのが、ちょっと納得してないようにも見えましたが、それでも、一人の女の子が拍手をするとそれにつられるように皆少年に向けて、称賛の拍手をしました。
 少年は少し照れたように「へへへ……」と頬を赤くして頭を掻くと。
「また来てくださいね」
 と、言いました。
 読み聞かせに満足した子供たちは蜘蛛の子を散らすように広場から出ていき、自分の家へと帰っていきました。
 少年は自分で作った本をバックの中にいれると、何かに気づいたように近くの茂みの方を見ました。
 誇らしげな、それでいて優しげな笑みを浮かべます。

「どうだった、ボロロ? 面白かっただろ?」

 茂みの向こうから「うわん」と、あの時と比べると若々しさが無くなったものの、まだまだ元気そうな鳴き声が返ってきました。

 老いて毛の色が銀色になった狼は、今も時折、人里に降りては大好きな童話に耳を傾けています。

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