『悪役ライバルキャラ』になっています。
……最近、よくあるじゃないですか、悪役転生って。
私、少女まんがの『悪役ライバルキャラ』なんですよ。
メインキャラですよ。人物紹介では、イラストがつくレベルの重要なキャラなんです!すごくないですか?
……わかったから保健室利用簿に名前を書け?……はいはい、1A四十番『山田梅花』っと。……いいじゃないですか、ダサくても。私は気に入ってます!……なんで笑ってるんですか。失礼しちゃう!
……え?彼女を池に突き落とした理由ですか。
だって桜さんったら、……あ、主人公ちゃんのことですよ。『山野桜子』っていうのがフルネームです。
……私の名前と似てますよね。でもあっちのほうがかわいいって、みんな言います。
え、梅のほうが匂いもいいし、実用性もあるって……。もしかして、誉めてくれてますか?……嬉しいです。
痛っ、先生ぇ……消毒がしみる。
自業自得だ、我慢しろ?……転んだのはわざとじゃないもん。
あ、理由ですよね。……だって初対面でいきなり、「服を脱げ」って言えないでしょう。
桜さんったら、せっかく可愛いのに!
だっさい眼鏡して、もっさい髪型で、体に合わない制服を着て着ぶくれしてて。
だから正しいサイズの制服を着てもらうために、不自然にならないよう制服を汚して、弁償するつもりだったんですよ。
そしたら、つまずいて転んで、スライディング足払いで彼女を池に落としちゃったんです。わざとじゃないんですよ。
いろいろあったけど作戦成功です。
ちゃんとしたサイズの制服で、眼鏡をしていない桜さんは、やっぱりすごくかわいかったです。
さすが主人公!
え、彼女のあの格好、わざとだったんですか?
……相手役の小川くんと恋愛するのが嫌だったからなんですか!
だって、彼はモテモテの爽やかイケメン王子キャラですよ!学校のアイドルですよ!?スポーツ万能で頭もよくてお金持ちですよ!なんで!?
……ああ、彼女も『転生者』なんですね。で、他に好きな人がいるから、彼に見つからないようにしてたんですか。
それが、私のせいで台無しだ、とそう言いたいんですね?
……ごめんなさい、そんなことだとは知らなくて……。
私、さっき小川くんにあの子は誰だ、と聞かれたので、クラスとフルネームを教えちゃいました。どうしよう……。
……私、桜さんと仲良くしたかったんです。だって、悪役ライバルキャラなんて嫌じゃないですか。
だから、二人の恋を応援しようって思ってたのに。……どうしよう、桜さんに申し訳ないことしちゃった。
……でも、そんなに彼に好かれたくないなら、百キロくらい太るとか、いっそ丸刈りにしちゃうとかすればよかったのに……。
あ、そうすると好きな人にも嫌われちゃうのか。……難しいですね。
……私、本当は悪役なんて、嫌なんです。だって自分の人生は自分が主人公なんだから、人を陥れたりせずに、堂々と胸を張って生きていきたいじゃないですか。
……どこ見てるんですか、セクハラとパワハラで訴えますよ。
え?これからどうするのかって?……私の失敗で桜さんは大変なことになってるようなので、なんとかして桜さんをサポートできれば、と思っています。
やはり、好きな人と結ばれるのが女の子の幸せですからね。
……私、ですか?
えーと、好きな人はいないです。悪役回避のことしか頭になかったので。
原作のまんがでは、なんか小川くんを取り合ってたような、なかったような?
あ、はい……まんがのラストですね?
たしか、桜さんは、最終的には誰ともくっつかなかったんですよ。
それはおかしいって?
いえいえ、本当なんです。
桜さんの恋に決着が着く前に、まんがが打ち切りになっちゃって。
……ええ、仕方がないですよね。それが資本主義社会の合理化ですから。
……打ち切り……悲しいけれど、売れないものはコミックスにすらならないのです。
私もどれだけ悲しかったか……。
……だから、この世界では私は桜さんに恋を成就して欲しかったんです。
そういう訳で、私は『悪役ライバルキャラ』だけれど、いじめとかはしてないんですよ。
……先生、信じてくれますか?
頭、撫でないでください。子どもじゃありません!……信じてくれたのなら、もういいですってば!
……でも、桜さんの好きな人って誰なんですか?先生は知ってます?困ったなあ、応援したいのに。
……先生、顔が近いです。まだどこかに傷がありますか?
ん、誰か来ましたよ。勢いよく開いた扉の向こうに……あ、桜さんだ。やっほー。
なんか泣いてます。え、なんで?どうしたの?
あ、保健室に来たんだもんね、怪我かな、どこか痛いのかな。
……どうして私の邪魔ばかりするのよ、と言われても、邪魔してるつもりはないんです。
本当です。勘違いとか偶然が重なってて……。
え、先生なんですか!?桜さんの好きな人って!
……えと、誤解です。何にもないですよ。
この泥棒猫って、たしかに猫みたいにひざには乗せられていますが……ちょ、先生!なでないでください!今、大事な話をしてるんです!
ああ、桜さんが泣きながら出ていかれました。
……私、もしかして彼女の恋を邪魔しまくってます!?
もしや、これって有名な『シナリオ補正』ってやつですか?
……先生、微笑んで頭を撫でていないで、なにか言ってくれませんか?
え、お菓子?いいのかな。
明日?
明日も話をするんですか。……もう、隠してることはないですよ?
『悪役』の観察?……わかりました、明日も来ます。
……私、『悪役ライバルキャラ』だけど、そんな『役割』をまっとうするつもりはないんです。『主人公の恋』を応援したいんです。
……ねえ先生、なんで笑ってるの?