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【神無都 其の四】
 時間にして半刻も経っていない頃。
 ――聖都大聖堂地下墓地。
「……どうやら、叛徒(はんと)の方がアンタらに勝ったようじゃの」
 老人――墓守が三人の神官に話しかけていた。
「……貴方も人が悪い。何故、侵入を許し、仕留めなかったのですか? ――四天聖徒(してんせいと)万身教典(ばんしんきょうてん)烏有(うゆう)郭真(かくざね)
 神月(こうづき)の言葉に対し、墓守――郭真は(かす)かな笑みを表面に刷き、それから陰鬱な笑い声を漏らした。
「ワシが出てしまっては、そこで彼奴(きゃつ)らの人生に終止符を打たねばなるまい? まだ先は長いのだ、そう死に急ぐ事も在るまい。……それとも、奴らに勝てなかった事を、ワシの所為(せい)にするつもりか?」
「そんな事は在りませんが……しかし、貴方程の実力者が手出ししない事実は、何れ『神教会』に波紋を浮上させますよ」
 墓守は墓石の上で身を(かが)めて笑うと、起き上がり、――その時には年若い男に姿が変わっていた。
「なに、そう大それた事でも在るまい。私が此処に居たと言う事実は()して意味は無いさ。要は、私達に叛旗(はんき)(ひるがえ)す者が居て、それを取り逃がした、それだけの事だろう?」
「ですから、四天聖徒の一人である貴方が取り逃がしたとなれば……!」
「神月、烏有を責めるな。我らに落ち度が在るのは自明の理だろう? 烏有を責めた所で、因果律に変化は皆無だ」
 (そら)にまで言われると、神月は言い返そうにも言葉が見当たらない。
 それを見ていた神官長がため息を(こぼ)す。
「……烏有様、この後始末をどうなさるおつもりで?」
「逆に問うが、何を後始末すればいいと思うのだね、神官長殿?」
 郭真はあくまで軽口を叩くように返し、神官長はコッソリと顔を(しか)める。
「……例の少年、鈴堂(すずどう)家の長女、『神教会』の最高幹部、更生村の幼女……訳の分からない取り合わせだが、奴らを(ほうむ)ればそれで事無きを得ます」
「では、奴らを葬るだけの力が、神官長、アンタには在ると、そう断じれるのか?」
 告げる郭真の言葉には、疑問の色よりも、確認を迫る()(がい)が込められていた。
 神官長は口ごもり、視線を彷徨(さまよ)わせ、二人のお付きの神官に向く。
 神月と天は顔を見合わせ、
「――我と神月ならば、その任、仰せつかればこなしてみせましょうぞ」
「……天。それにはちゃんとした根拠と確実な勝算が在っての事ですよね?」
「無論。今から考えようではないか、神月」
「……」
 やっぱりな、と言う顔をする神月に、郭真が笑いかける。
「何はともあれ、――大叛逆に関しては神に伝えておこうかの。私も(いささ)か、奴らに興味を覚えたしな」
 郭真は墓石を持ち上げ、――地下道への階段を現出させた。三人は、何の迷いも無くその中へと足を踏み入れる。
「……裏御三家(うらごさんけ)の長女が就いた少年、幟焉(しえん)、と言ったか……はてさて、何者なのやら」

 聖都――大聖堂近辺。
「……それで、行き先は結局分からない訳ね」
 四人の居る場所は、――茶屋。表に出ている茣蓙(ござ)の敷いてあるベンチに腰掛けている鮮音(あざね)の横には、(うずたか)く積み上げられた団子が置いてあったが、今は空になった皿が何百枚と重ねられていた。もう、運ばれて来る皿は無い。店主が感極まってか、中で泣いていた。それが嬉し泣きなのか悔し泣きなのか、判断し難いが。
「神がどこに居るか分からねえんじゃ、決めようがねえだろ」
 血色の良くなった石動(いするぎ)が、渋い茶を(すす)りながら応じる。腹には包帯が巻かれ、本来ならば重傷患者なのだが、何食わぬ顔で茶屋のベンチで茶を啜っている辺り、頑丈なのだろうと見える。
 結局、二人の言うように神の居所は?めずじまいだった。
 神官を全員伸()した後に、全員に神の居所を尋ねて回ったのだが……(かんば)しい結果は得られなかった。
 と言うわけで、鮮音風に言うならば「仕方なく」茶屋で団子を完食すると言う事態に陥ったのだ。
「……ま、何とかなる……やも」
 言いながら逃げようとする幟焉の首根っこを摘み上げ、鮮音が凶悪に笑う。
「お代は、もちろんアンタよ」
「……鮮音、オレお金は全部鮮音に預けたはずなんだけど」
「はず、でしょ? そんな曖昧(あいまい)な事は信じないの。アンタが払いなさいよね」
「…………」
 無視し、幟焉が歩き出す。
「ちょっ、こらっ、待ちなさいよっ!」
 慌てて追いかける鮮音に、
「……もう移動か。……(せわ)しねぇ奴らだ、まっこと」
 まだ傷も完治していない石動が続き、
「――しんたく」
 不意に、幼女の声が響き、
「――かみは、……はるかかなたに」
 声は、三人の旅人には届かず、
 幼女はいつもの調子で駆けていき、鮮音の袖を掴んで、寄りそうように歩き出す。
 振り返る事無い幟焉の瞳は(うつ)ろで、――でも確かに何かを見定めていて、
 それを追う鮮音は団子の串を(くわ)えたまま、同じく遠くに在る何かを見据えているようで、
 交差する事の無い視線が、何故か同じモノを見ているようで…… 
 ――そして今日も、何気無く一日は始まり、
 いつ終わるとも知れない旅は、こうして続いていく…… 

【つづく】
 ここまでお読み頂き誠にありがとうございました_(._.)_
 幟焉と鮮音の旅は一旦ここで幕を下ろします。
 しかし、彼らの旅はここで終わりでは在りません。
 現在2巻目を執筆中ですので、しばらくお待ち頂けたらと思います。
 ご意見・ご感想、随時お待ちしております!!
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