親に売られた年若い高級娼婦と、老齢の豪商との純愛。
002*アメジスト〔001〕
彼女の出自は、極貧農家。
むこう二十日分の飯代と引換えに、
置屋に売り飛ばされたのがいくつの頃だったか、
覚えていない。
生来の器量と利発と勝気とによって、
消耗品の安女郎となり果てる運命からは免れた。
格高い「姐」のもとに置かれ、
きつく作法を教え込まれ、厳しく芸を仕込まれた。
「姐」たちの愛の鞭にも、
憂さ晴らしのシゴキにもイビリにも耐え抜いたし、
同輩たちの蹴落とし合いにも、
目下の突き上げにも負けなかった。
ちくしょう、今に見てろ。
こんなところから抜け出してやる、と。
それが祈りの言葉でもあるかの如く、
何万回も、つぶやいて。
えげつない罠をすり抜け、
泥沼に頭の天辺まで浸かりながら、
熾烈な生存競争に明け暮れて、育った。
十四になろうとする頃には。
置屋の中で一目おかれる、稼ぎ頭。
豪奢な一部屋を与えられる、高級娼婦。
彼女の部屋には、庭があり、池もある。
池のある庭を所有するのは、置屋でただひとり。
池には、紫色の蓮の花が、一面に咲き誇る。
代々、最上級の女にのみ、与えられる部屋。
その部屋に住まう女は「紫水晶の君」
最上級の女の、称号。
彼女は史上最年少で、そう呼ばれるようになった。
羨望と、称賛を一身に浴びながら、それでも。
彼女は、あのつぶやきを、祈りの言葉を繰り返す。
ちくしょう、今に見てろ。
こんなところから抜け出してやる。
頂点に君臨しようとも、所詮、地獄は地獄。
彼女の野望は、あくまでも、地獄からの脱出。
ちくしょう、今に見てろ。
こんなところから抜け出してやる、と。
そう願い続けた、ある日。
それは、唐突にやって来た。
あまりにも、さりげない顔を装っていたので。
ずいぶんと後になってからでないと、気づかなかった。
あれが、まさに、
待ち望んでいた瞬間だったということに。
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