008*黒真珠〔003〕
黒真珠の、一団は。
弱者など、歯牙にもかけない。
興味を、持たない。
虐待はしないが、助けもしない。
自分達にだって、救いの手など、
どこからも、
差し伸べられは、しなかった。
使えるなら。仕えるなら。
仲間にしてやっても、いい。
黒真珠たちが、挑むのは。
常に、自分達よりひとつ格上の、連中。
黒真珠は作戦を練り、
命令を下し、
消耗品のように敵の命も手下の命も、
使い捨て。
自分を守るため、男達は、必死。
そして、
戦い抜き、勝ち残った者には、
褒美が、待っている。
「よくやったな、こっちへ来な」
褒美とは、
黒真珠との、一夜。
この一夜を、得るために。
男達は、命を賭ける。
黒真珠の、一団は。
ひとつ、またひとつと、
格上の組織を呑み込んで行き続け、
ついに、頂点へ。
魔窟を治める帝王、黒真珠。
漆黒の長髪、切れ長の瞳。
極彩色の夜着を気だるげに羽織り。
しどけなくはだけた襟元からは、
滑らかなうなじや肩が、こぼれ出て。
姿はいまだ、男娼のまま。
屈伏した敵と、服従する味方をも、
そのかかとの下に、踏みつけて。
魔窟に君臨する、
残酷で美しい、異国の魔王。
あえて苦言を呈する者は、一人もおらず。
魔王の機嫌を取るために、
血と暴力の宴は、刺激の度を、
増すばかり。
こんなことが、本当に好きかどうか、
わからない。
魔窟を丸ごと呑み込んだ魔王は、
次に何をしたらいいか、わからない。
闘争の相手は、もう、いない。
目的を失った、組織。
狂った、歯車。
狂ったまま、転がり続けて、
行き着く先は、どこだ。
無秩序な組織を野放しにして、
共食いのような内部抗争を見過ごして、
崩壊させるか。
それとも。
魔窟から、溢れ出して、やろうか?
陽の当たる場所で、
のうのうと暮らしてる奴らの喉元へ、
触手を伸ばして、脅かして、やろうか。
もう、いい。
生きるのに、飽きた。
と、言うよりも。
悪逆非道の限りを尽くすことに、飽きた。
どうせなら。
より多くの人間どもを、
道連れに、してやろう。
より多くの人間どもを、手土産に、
地獄へ、凱旋してやろう。
そうとも、おれはきっと、
そこから、来た。
故郷はおれを、喜んで迎えるだろう。
なにも、惜しくない。
敵も、味方も。
自分の命も。
守るべきものなんか、なにも、ない。
勝っても負けても、どうでもいい。
勝ち続ければ、それだけ規模もでかくなり、
犠牲者も、増える。
舌なめずり。
負けるまで。終わるまで。
戦い続けてやろう。
ついてこい、人間ども。
おれの、後を。
踊れ。
おれの吹く笛の音に合わせて。
ひとり残らず、溺れさせて、やるから。
内乱だ。
この街と、戦争だ。
もし勝ったら、隣りの街が、標的だ。
そこでも勝ったら、その隣りも。
革命だ。
この国の軍隊と、戦争だ。
もしも勝ったら、隣りの国と、戦争だ。
今ならば。
両親をなぶり殺したあいつの気持も、
よくわかる。
暴力に、理由なんか、ない。
止まらないんだ。
止められないんだ。
止まったら、やられるから。
やられるまで、止まれないんだ。
おれに、殺されたとき。
あいつは、不思議に、安らかだった。
おれも、安らげるのか。
いつか、やられたら。
誰が、おれを、やるんだろう。
一国の王だったりしたら、痛快かもな。
手始めに、街の奴らと、戦争だ。
そう布告する直前に、
街のほうから、仕掛けてきた。
黒真珠の前に、立ちはだかったのは。
一国の王でなく、一介の、商人。
大富豪の新当主、サファイア。
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