001*ガーネット〔005〕
光の当たる背後には、闇がつきもの。
光がまばゆいほどに、背負う影は暗く、濃く。
栄光に包まれるほどに、受ける嫉妬も羨望も、
計り知れず。
神聖なものほど、一旦引きずりおろされれば、
惨めに、残酷に、汚されるもの。
闇はいつも光の背後で、顎を開け。
爪を研ぎ、牙を磨いて、待ち構えているもの。
庭師と、名将の奥方。
口さがない悪評が、巷を駆け巡る。
当の奥方は、
世間から遠のいた生活を送っているため、
みずからの評判を知らずにいたけれども。
夫の耳には、届いた。
たちの悪い疫病さながら、噂は噂を呼び。
人々を毒し、彼をもついに巻き込んだ。
庭師は怪我をすることが多くなった。
身体のどこかしらに、包帯や絆創膏。
痣も、あちこちに出来ては消え、また浮かぶ。
奥方が心配して、たずねても。
「あ、あんでお、あいんれふ」
なんでもないんです、そう言い張る。
ちょっと転んで、ちょっとぶつけて、
ほら、なにせ、耳が不自由なものですから。
照れ笑いし、頭を掻いてはにかむ庭師から、
悲壮感は微塵も漂わず。
そう、でも、気をおつけなさいね。
あなたこの頃あんまり怪我をするから、
傷によく効く軟膏を取り寄せてみたわ。
主人のお墨付きよ。
戦場でも愛用しているのですって。
使ってご覧なさいな。
奥方は、小壜を庭師に手渡す。
庭師はもう感激やら恐縮やらで、有頂天。
それを見て、奥方も。
ころころと楽しげに笑う。
そんなふたりの様子を、
遠くの木陰から見守る男。
彼女の夫。
戦場より密かに舞い戻り、自宅に侵入。
天下の猛将が、まるでコソ泥。
しかもそこでしている行為はと言えば。
愛妻と間男の逢瀬を覗き見。
飛び出して行って、二人を問い詰めようか。
いっそ二人とも、斬り殺してやろうか。
激しい怒りに、目がくらむ。
心臓が、きりきりと痛む。
胃が、痙攣を起こす。
結局、彼の取った行動は。
ただ、静かに、その場を立ち去る、というもの。
この期に及んでも、なお彼は。
妻の前で醜態をさらしたくないと、
考えてしまうのだった。
馬鹿らしい。
今更なにを格好つけても。
妻の、あの笑顔。
あんなに自然な、くつろいだ笑顔は、
見たことがなかった。
あれほどまでに、満ち足りた表情。
妻を満足させられない、
幸福にできない、男。
これ以上の醜態が、あるだろうか。
「ハハハッ!」
自嘲が口から、ほとばしり出る。
早足で街中を歩き廻った。
頭からマントをすっぽり被っているから、
誰も彼が国民的英雄だとは気づかない。
むしろ群集は、彼を避けた。
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