006*ダブレット〔005〕
とにかく、
もしも困ったことや迷うようなことがあったら、
いつでも相談しておくれ、可能な限り力になろう、
と父は申し出てくれたので。
「では早速、いいですか」
私は父の言葉に、甘えた。
だって「いつでも可能な限り」とはいえ、
父は、多忙な人。
ゆっくり話し込める機会が、
次にいつ持てるかわからないから。
「いいとも。何だね?」
「お兄様のことです。
お兄様の秘密は、このまま、
触れないでおく方が良いのでしょうか?」
鷹揚に構えていた父が、
私の問いに表情を曇らせる。
「それなんだがね、ダブレット、
実はわたしも考えあぐねているのだよ。
サファイアの選んだ生き方は、とても険しい。
せめて我々家族の間だけでも、
秘密を共有したなら、少しはあの子も、
楽になれるのだろうか?」
「でもお兄様は、私たちに知られるのを、
とても危惧しているわ。
秘密を守るためなら、自分の肌に傷をつけてもいいと、
思いつめています」
「うん。
胴体に熱湯を浴びる覚悟を固めているね。
問い詰められたら本気でそこまでやるつもりだ。
わたしは決して、あの子にそんな真似を、
させたくない」
「私もですわ、でも」
「そう。
このまま嘘を抱えて生き続けることが、
果たしてサファイアのために良いのかどうか、
それもまた疑問なのだよね」
父と私は同じ気鬱に沈み、黙り込む。
先に沈黙を破ったのは、今度も、父。
「今はサファイアに触れない。
この先どうなるかわからないが、
今は様子を見守っていよう、というのが、
わたしの意見だが……きみは、どう思う?」
「わかりました。では私も、そうします。
今までのように、
秘密には気づいてないふりを通します。
本当は私、どちらでもいいの。と言うか、
どちらがお兄様にとって幸福なのか、わからないの。
ただ、この先なにがどうなっても、
私はずっと、お兄様を好きだし、味方でいるわ。
それだけはなにがあっても、変わりません」
「うん、それは、わたしもだよ。
秘密が暴かれても、このままでも、
男でも、女でも、関係ない。
サファイアの味方であることに、変わりはない。
そして、わたしは常に、
きみの味方でもあるんだよ、ダブレット」
「私たちは今まで通り、お兄様にもお母様にも内緒で、
お兄様の秘密を守り続けていくのね。
そして、万一のときには私たちも盾になって、
お兄様を守り、支える。
私たちというのは」
「きみと、わたしのことだ」
私たちは、微笑を交わす。
戦友同士の、微笑。
同盟を結んだ、証。
私は深い安堵に、満たされる。
今まで、一人ぼっちで暗い道を歩いていたのに、
行く手に、灯火を持った大人が現れたのだ。
しかも、それが父だった。
それは、とても、幸運なこと。
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