005*メノウ〔007〕
サファイアを愛している、などと。
誰にも言えない秘密だったはずなのに。
自分の秘密と引換えに、
サファイアの秘密を知れるとなれば。
決心は、もろくも、崩れ去った。
クリスタルは、こくりと、うなずいた。
ただ、うなだれたようにも見えた。
罪か、あるいは敗北を、
認めた者のように。
どうかしている。
誰にも言えないはずだった秘密を、
告白した相手は。
よりにもよって、サファイアの父。
「……でも、サファイアは、男の子です」
「うん」
うつむいたまま、苦悩をしぼり出すクリスタル。
さりげなく受け止める、サファイアの父。
サファイアは、男の子。
口にすると、改めて、
その現実が、胸に突き刺さる。
先刻、茶をこぼした膝に、涙がしたたり落ちる。
「彼が女の子だったら、と、
何度夢想したでしょう。
もう、それは、数え切れやしません」
「サファイアがもし女の子だったら、
きみは、どうする?」
クリスタルの頬に血が昇り、
その直後、自嘲の笑みが浮かぶ。
「そんな仮定は、無意味です。
サファイアは女の子じゃない。
男色家でもない。
ぼくの邪恋は、行き場がないんです」
「きみの想いは、邪悪なのかね。
わたしには、そうは見えないが」
「だって、彼は男の子なんですよ?」
「サファイアの性別が、それほど重要かね」
「当然です」
「その一線は、
どうしても越えられない、というわけだね」
「あたりまえじゃないですか」
あたりまえ、か。
若さゆえの純粋、かたくな、潔癖。
サファイアの父も目を閉じ、下を向く。
「おじさま、
あなたは一体なにが仰りたいんですか」
サファイアの父が目を上げると、
クリスタルが正面から見つめ返していた。
「もしかしてぼくに、衆道を勧めているんですか?」
怒りと混乱を抑えきれない瞳。
喉元までせり上がってきた罵倒を、
呑み込むのに、必死。
しかも相手は、あなたの息子なんですよ。
そんなことをぼくに吹き込んで、いいんですか?
サファイアの父は、
クリスタルの視線を真摯に受け止め、頭を下げる。
「……いや、悪かった。
きみの気持は、よくわかったよ。
辛い告白をさせて、申し訳なかったね」
「……言わないで下さい、誰にも。
もちろん、サファイアにも」
溢れてくる涙を手の甲で、ぐい、と拭いながら。
「言わないよ、誰にも。
この秘密が漏れるとしたら、きみの口から、
サファイアか、あるいは他の誰かに知れる時だ」
「それは、ありえません」
クリスタルは、苦笑する。
「では、秘密は全部、イリスアゲートの縞の中へ、
閉じ込めてしまおうね」
少し舌足らずな、幼い口調。
目の前の老人は、また少年の姿に。
今度はクリスタルは、
頭を振って追い払おうとはせず、
少年に向かって、微笑みかける。
少年は首をかしげて、問いかける。
「後悔してる?
秘密を打ち明けてしまったことを」
「まだわからない。でも、
なんだか少し、楽になったような気がするよ」
それはよかった、とつぶやいたのは、
少年から老人に戻った、サファイアの父。
クリスタルは老人の姿の彼にも、
少年に向けたのと同じ笑みを返す。
けだるさと安らぎが満ちる。
だけど忘れてはいない。
ぼくの秘密と、ひきかえに。
サファイアの秘密を、聞かなければ。
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