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001*ガーネット〔002〕
 たおやかな薔薇のつぼみの如き奥方。
 歴戦の勇者は途方にくれる。

 屈強な体躯。
 そこに刻み込まれた無数の傷痕。
 傷は顔にもある。
 額に一筋、右頬には縫痕。

 荒野の風雪にさらされ続けた岩盤のような、自分。

 数々の武勲、名誉の負傷、腕力、智略。
 外の世界で彼が誇りとしてきた、そのことごとくが。
 奥方の足元では、たちどころに色あせ、
 粉々に砕け散ってしまう。

 彼女はおれを、どう思っているだろう。

 気の利いた科白ひとつ吐けず、
 洒落た趣味もなく、流行には無頓着。
 十二も年上、険しい顔立ち、鋭い眼光。

 戦しか能のない凶暴な獣?

 数限りない修羅場を潜り抜けて来た、彼なのに。
 奥方を前にしては、無力感に打ちのめされる。

 結局、いたたまれなくなって。
 結婚式から間を置かず、彼は戦場へ。

「行ってらっしゃいませ。ご武運をお祈りいたします」
 奥方は慎ましやかに目を伏せ、彼を見送る。
 優雅な辞儀。

 彼は最愛の女性に背を向け、逃避する。
 楽に呼吸できる場所へ。
 船乗りが海へ漕ぎ出すように。

 そして外海へ出た船乗りが、
 やがて陸に焦がれるように。
 奥方の待つ屋敷へと戻る。

 すると、またほどなく息苦しくなって、
 慌しく戦の準備をし始める。

 二年も繰り返す内に、彼は。
 この暮らしも悪くないと思うようになっていた。

 船乗りのように。
 妻が恋しくなれば家に戻り。
 存在価値を確かめたくなれば戦場へ。
 彼の中で、この周期を見計らい。

 妻も、戦場も。
 彼のすべてを満たしてはくれないけれども。
 どちらも、受け入れてはくれる。
 そこに居ても良い人間として。

 ただ、世の戦士たちは、戦で力を磨耗し、
 家で活力を得るのに対し。
 彼の場合は逆に、家で気力を失い、
 戦場で取り戻すのが、皮肉ではあった。

 が、そんな裏事情を知る者はいない。
 彼以外は、誰も。

 さて戦場と家との往復生活の合間には、
 国王に召喚され城に上がることもあり。
 その折、宝石商人が彼を呼び止めた。

 平素は取り合わない彼だったが。
 その時は二粒の赤い石に、目を引かれた。

 宝石商人が捧げ持つ盆の上。
 きらきらと光をはじく宝石群に混じって。
 涙の形をした二粒の赤い小さな石、それは。
 奥方を見初めて以来の、衝撃。

 ガーネット。
 宝石商人はその宝石の名を、そう告げた。
 貞節、信頼、変らぬ愛の象徴だとも。

 衝動買いなど滅多にしない彼だったが。
 そのガーネットは彼の妻に贈るため、即決で購入。

「ありがとうございます、大切にしますわ、あなた」
 奥方は恭順に礼を述べ、受け取る。

 彼女の返答は、いつもそう。
 礼儀正しく、丁寧で、模範的、そして。
 本心かどうか、わからない。


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